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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―データ争奪内乱編 後編―
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第十一話 禁忌を覗く者

「――へへっ、どうやら向こうは終わったみてぇだな」


 通信機からの伝言を読み取った騎西は、改めて目の前に立つ男と相対する。


「っ、ふざけるな! 俺がお前から鉄分を奪おうとしたってのに、どうしてこっちが死にかけなくちゃいけないんだ!!」

「知るかよそんなもん。それよりまだやるんだろ? 向こうの決着とこっちの決着は関係ねぇもんなァ!?」


 騎西はそうして再び周りに武装を纏うが、今度は金属の中でも鉄を除いた別の物質で肉体の構成を始める。


「セラミックやら合金をうまく組み合わせれば、もう鉄は引き抜けねぇぞ!」


 自分の身を守る為にも、鉄が剥き出しになっている部分は全て上から別の物質の装甲で覆う徹底ぶり。そうして騎西は仕切り直しとしてジャスティンと向き合ったが――


「はっ、そんな化け物に付き合ってられっかよ!」

「んだと!? フザケんじゃねぇ!! 出てこいコラァ!!」


 その場に散らかしていた鉄の針を回収して、ジャスティンは巨大な鉄の壁を一枚作って目くらましをする。


「吹き飛べ!!」


 それをよしとしなかった騎西は当然の行動として右腕を大砲へと変形させて壁を吹き飛ばすが、そこには既にジャスティンの姿はない。


「どこ行きやがった!? ブッ殺してやる!!」

「ヒートアップするのは良いけど、もう仕事は終わったわよ」


 気づいた騎西が後ろを振り返ると、そこには汗一つかいていないSランクの姿がある。


「鉄を引き抜かれそうになったんですって?」

「なんだよ、見てたのか?」

「いえ、数藤から急いで加勢に来るようにって連絡があったから来たんだけど……その調子だと、なんとかしたみたいね」


 確かにこの状況に際して、騎西もなんとかしたとしか言い様がなかった。

 ひたすら自分の力を奪われることを拒み、逆に奪い回そうという強い意志を抱いた結果が今のこの現状を、ジャスティンを恐怖で追い返すという現実を生み出している。


「…………」


 興奮状態から一転、アクアが現れたことにより冷静さを取り戻した騎西は、改めて自分の奪われるはずだった右腕を見つめ、無くなっていたはずの右手を握ったり開いたりしている。


「あら? どうしたの? 機械の不調?」

「……いや、なんでもねぇ。それより仕事が終わったってことは――」

「ええ。オズワルド=ツィートリヒの捕縛に成功したわ」

「それってつまり――」

「“後顧の憂いなく、あのAランクの関門の少年と戦えるって事よ”」


 復活した通信で割り込んできたのは、声色的にいつもより機嫌のいい数藤の声だった。


「“これで私もあの子に日時の連絡ができるわ”」

「本当か!?」


 それまでにない強い力が、機械の右手に込められる。騎西はようやく決着がつけられることに喜びを隠せずにいる。


「これで全ての決着をつけられる……!」

「“それはそうとして、早々に引き上げて調整をするわよ。貴方が体験した奪われる感覚ってのも気になるし”」


 ジャスティンの攻撃による後遺症も気にしつつ、数藤はその場からの撤退の連絡を告げる。


「……帰るわよ」

「……おう」


 片や今の戦いに満足し、片やまだ冷めやらぬ闘志をたぎらせながら、この日一日を終えていく――筈だった。


――数藤の自殺未遂という、事件が起こるまでは。



          ◆◆◆



 その日の夜、数多のゴキブリの群れの中からたった一匹――オズワルド=ツィートリヒというオリジナルの個体を見つけ出した数藤は、血走った眼でその一匹をケースに入れて精密機械に付属しているテーブルの上に乗せた。


「……麻酔開始」


 残りの虫全ての駆除を他の研究員に任せて、数藤はたった一匹の虫に全神経を集中させる。


「……顕微鏡とピンセットを用意して」


 この二つの道具、名前は誰しもが聞き覚えのあるものだが精度がどちらも段違いの性能を持っている。

 そうして羽の隙間から体内へとピンセットと呼ばれる一対の細かい針を差し込み、そして次に抜き取った時にはピンセットの先に視認が難しい程の小さなチップが挟まれている。


「チップの摘出完了。オズワルドはそのままケースにて保管を」


 近くで作業の補助をしていた人間にオズワルドの保管を任せる形でその場を去らせると、数藤はピンセットでつまんでいるチップをそのまま解析機の方へと運んでいく。


「……これで全てが分かる。普通の人間に如何にして能力を植え付けたのか、そしてこの世界に突如はびこることになった変異種スポアの、その起源が……!」


 解析機から得たデータを自身のノートパソコンに移し替え終えると、数藤はそのままデータの閲覧に取りかかった。


「人間の脳の使用率は10%しかないという都市伝説……外の世界の現代医学ではこれは否定されているみたいだけれど、実は少し意味合いが違ってこれは成り立つのよね」


 火事場の馬鹿力、死に際の走馬灯――それら極限の状態において、変異種というものは別の作用を起こす。


「……一度リミッターを外すことさえできれば、変異種としての力を振るえる可能性がある……」


 極限のストレス状態。力帝都市内でも基本的にはあらゆる負荷テストを行うことで、無能力者の中から能力者を見いだす試験を行っている。

 穂村正太郎のように自然と極端なストレス条件が揃うことで発動することもあるようだが、やはりこれはレアケースとして収まっているに過ぎない。


「変異種の人間に極端なストレスをかけ続けることで、能力の覚醒を図る実験……これだわ」


 『最初期の能力者プロトタイプナンバーズ』という名の下に集められた、生まれながらの変異種スポアに対する集団実験。


 検体番号一番、死亡。高温によるストレスを与え続けた結果、自ら細胞を変異させて鉱物へと成り果て、その後戻ることは無かった。

 検体番号二番、死亡。極低温による体温低下により人体発火を起こすも、自分の身体ごと全て燃え尽き、灰となった。

 検体番号三番、行方不明。幼少期から性的ストレスを与え続けた結果、ある日からタカが外れたかのように精神を崩壊。部屋に蜘蛛の巣状に糸を張り巡らせて検査官の入場を拒否。その後施設の停電の際に研究所を脱走。


「――この番号は名稗かしら? そしてこの並びからして、最初に成功したのがエドガー=ジーン……でもこれは、あくまで最初から変異種だった人間の研究でしかない」


 興味深いデータであったが、それも数藤の本命ではない。

 こうして幾つものデータを閲覧していくが、どれもこれもオズワルド=ツィートリヒが研究者として立ち会ったものだけで、彼本人がこうしたゴキブリに成り果てた原因といえるものではなかった。

 そんな中で、ある一つの動画データに数藤の手が止まる。


「……これは、私が助手をしていた時期の……!」


 そのタイトルはそのまま、『私の一番の助手へ』というものだった。

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