第八話 三つ巴+1
――戦いの火蓋は切って落とされた。その場の全員が望もうが、望むまいが関係などない。
たった一人が発砲するだけで、全てが動き出す――
「ヒャッハァ!! いくら糸を張り巡らせようが、建物の方を破壊すればたわんじまうだろォ!?」
「ったく、勘が良すぎじゃなぁーい?」
いくら蜘蛛の巣を作り上げようが、肝心の支えを破壊されてしまえば機能しなくなる。ギリギリまで糸を強く張ることで切断力を上げていたものが、たわんでしまえばただの細い糸。
右腕をグレネードランチャーに変形させ、辺り一面をナパーム弾で破壊していく。けたたましい警報器もろとも全てが破壊され、辺り一面が火の海に沈んでいく。
「それとォ!!」
「うっ!? お前まさか俺も狙ってんのかよ!?」
『鋼鉄の男』ジャスティン・ジェイソン。騎西はその異名に強く興味を引かれていた。
「真っ向から鋼鉄をぶっ壊せれたらスゲェと思わねぇか!?」
「俺からすれば勘弁して欲しいもんだがなッ!」
自身の肉体を鋼鉄に変化させて、機械化した右腕を迎え撃つ。ジャスティンの右の拳と、騎西の右の拳が真っ向からぶつかり合う。
「っ、堅ってぇなオイ!!」
しかし能力としての鋼鉄の右腕に対して、あくまで取り込んだ機械類で立ち向かう騎西の右腕は硬度では劣っているのであろうか、拳と拳の鍔競り合いの末に騎西の方が弾き飛ばされるような形で距離をとる羽目となる。
「へっ、硬度はこっちの方が上か。だったらまだまだやり口はあるわな。それにこの瓦礫の山……俺にとっては都合が良い」
ジャスティンが地面を強く踏みつけることで、瓦礫の山から鉄だけが蠢きだし、地面を一瞬にして針の山へと変えていく。
「串刺しになりやがれ!!」
「残念だが俺は空も飛べるんだよォ!!」
針山地獄と化した地面を拒絶するように、背中から鋼鉄の翼を生やして、騎西善人は宙を舞う。
「ったく、全員が全員あんたみたいに飛べる訳じゃないってのぉ……!」
ぼやきながらも針の先端に糸をはり巡らせ、網目状にした糸の上に名稗は降り立つ。
「中々やるじゃねぇの二人とも。でもまあ、ついこの前ナンパしたカワイコちゃんに比べたらまだまだ温い温い」
ジャスティンはジャスティンで、この戦いには少しばかり楽しみを見いだすことができていた。
強すぎず弱すぎず、自分の手で仕留めようと思えばいくらでも手立てを立てることができる存在。自分のくじけかけの心を立ち直らせるには丁度いい存在を、ジャスティン・ジェイソンは求めていた。
「鉄は打てば打つ程強くなるって、日本のことわざにあるんだっけか?」
「だったら俺が徹底的に打ちのめし――ッ!? 何だと!?」
変形しようとしていた右腕に、突如たかり出す黒い集合体。
「ウゲッ!? ゴキブリ野郎!!」
中途半端にちょっかいを出されては放置となれば、虫の集合体であるオズワルドですらその侮蔑の意味を理解できない訳ではない。
「シィァッ!!」
執拗なまでに騎西に虫をなすりつけては攻撃を仕掛けるが、機械の部分に電気ショックを纏われることで簡単に対処されてしまう。
「無駄なんだよ!! つーか今邪魔してんじゃねぇ!! てめぇの相手はまた後でやってやるよぉ!」
騎西の目に映っているのは名稗の姿だが、名稗の目に映っているのは騎西の後ろにいるオズワルドただ一人。
「あぁー、そうだったそうだった、あんたのことを忘れてたわ。ていうか、その為の糸も準備してきた訳だしぃ」
――一説によると、蜘蛛の糸の強度は鉄鉱の数倍以上の強さを持っているのだという。
「スパイダーロック」
それまでの糸とは違う、粘着性のある細い糸。名稗はそれを前方へと放ち、文字通りの蜘蛛の巣状の網を作り上げる。
「くっ、面倒くせぇ!!」
「イッ!?」
直前で回避を行った記載に対し、何の考えもなく突っ込んできたのであろうオズワルドは、名稗によって巧妙に貼られた罠に絡め取られてしまう。
「はーい、お疲れさん」
その後はまさに、蜘蛛の狩りと同じ。一瞬にして糸で絡め取り、全身を糸でがんじがらめにすることで、名稗はオズワルドの捕縛に成功した。
「なっ!?」
「それじゃ、あたしはこの辺で退散――ッ!?」
その直後のことだった。
アスファルトの地面を突き破って、巨大な水の柱が打ち上がる。そしてそれらはやがて人の形を模り始め、騎西も名稗も知っている姿へと変貌していく。
「アクア! よくやった!」
「なんで私が貴方の尻拭いみたいな真似をしなければならないのか、甚だ疑問でしかないのだけど……まあいいわ。丁度向こうがわざわざラッピングまでしてくれたのだから、そのまま持って帰りましょう」
「やっべぇーなこりゃ。エルモアに内緒で来るんじゃなかったわぁ」
この場における、パワーバランスの崩壊。Sランクであるアクア=ローゼズの襲来により、形成は一気に騎西側に傾く結果に。
「あの糸女の相手は私がしてあげる。貴方はそこの鉄屑男とじゃれ合ってなさい」
「ケッ! よくやったってのは撤回だ。自分だけいいとこ取りのつもりかよ」
「はいはい、後でいくらでも聞いてあげるから、まずは目の前の仕事を済ませましょう」
強者としての余裕は、決して崩れることはない。アクアは目の前で糸を展開する名稗を格下として見下し、手早く済ませることを宣言する。
「さて、『液』を相手に物理攻撃重視の貴方がどこまでくらいつけるか見せてもらいましょう」
「……ッ! ……上等じゃねぇか」
――アクアの言葉に何か糸口を見つけたのか、名稗はニヤリと笑って応じた。




