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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
―データ争奪内乱編 後編―
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第七話 三つ巴

 ――嵐の前の静けさ、とはよくいったものだ。

 虫の知らせ、あるいは大きな異変が起こる際の動物たちの大移動。そしてそれはそのまま人間の直感にも当てはまるのかもしれない。そう思える程にその場所は普段よりも静かで、人通りも少なかった。

 第五区画。娯楽の規模としては第三区画には劣るものの、それでも他の区画よりも施設の揃った区画で、休日にはそれなりの人が行き交っている。

 しかし今やポツポツと人影が見える程度で、それ以上のものはない。


「本当にここに来るんだろうな?」

「“GPSの行動記録から、次はここに来るはずよ”」

「今更文句言ってないで、早く終わらせるわよ」


 通信機器も無く虚空に喋りかける騎西をよそにして、アクアは準備を進めるべくゴスロリ服のどこから取り出したのか金色とも橙色とも見て取れる液体の入った瓶を取り出す。


「なんだそれ?」

「これ? 知りたい? 知りたくても教えてあげないけど」

「別に興味ねぇし」

「ちょっとは興味を持ったらどうなの?」


 むしろ教えたそうにうずうずとしているアクアを前にしてわざとそっぽを向く騎西だったが、その向いた先で今回のターゲットを発見する。


「っ、いやがった!!」


 人通りのない日陰となった裏通りに見えた、フラフラと歩く人影。よく見れば影は布のようなものを引きずって歩いている。

 ほぼ脊髄反射で背中から戦闘機のような鋼鉄の羽を生やして、騎西は遠目に見える黒包帯の男の元へと飛んでいく。


「ちょっと待ちなさい! ……まったく、下準備がまだだってのに!」


 そうしてアクアは溜息をつきながら、小瓶の蓋を開けて中の液体をゆっくりと体内へと吸収していく。


「んぐっ……ごくっ……っ、うえぇ……やっぱり慣れないわね、この味は」


 飲み干した小瓶を適当に投げ捨て、アクアは試しに自分の身体の一部を液体化させてその効能を確認する。


「……ふぅ、上手くいったみたいね」


 普段であれば透明な水と化す筈の身体が、小瓶の液体を希釈したような色合いの水で構成される。


「今の状態だと結構希釈しないと、私の身体にも結構影響があるものね……さあ、ポンコツが戯れている間にこっちはこっちで準備を進めましょう」


 そうしてアクアは全身を水へと変化させていくと、そのまま近くのマンホールへと姿を消していった。



          ◆◆◆



「――見つけたぜぇ!!」

「ッ!? シィアァッ!!」


 呻き声ともとれる鳴き声を発しながら、オズワルドは飛びかかる騎西から身を翻して逃走を開始する。


「逃がすかよ!!」


 騎西は早速右腕を変形させて殺虫剤を発射する機構を形成し始める。


「なんかよく分かんねぇが麻痺させるガスだ! まともに吸えばてめぇもひっくり返るだろうよ!!」


 そうして自分はガスマスクを装着した状態で、騎西は早速逃げ回ろうとするオズワルドの道を塞ぐように神経ガスをジェット噴射で吹き付け始める。


「ッ、シァッ!」


 身体から漏れ出るゴキブリが皆、そのガスに触れるなり身体をひっくり返して動かなくなる。

 傍目に見れば死んでしまっているのではないかと勘違いしそうであるが、あくまでこれは動けなくなるだけで、一時間も経てば元の運動が可能な程度に復活できる。


「効き目は抜群なようだな! だったらこいつで周りを囲っちまえばそれで終いだ! アクアの出番は必要なかったみてぇだな!」


 その場にいないSランクの少女の名前を口にしながら、騎西は周囲一周をガスで覆おうとしたが――


「シィアァッ!!」

「なッ!? 上に跳びやがった!」


 オズワルドは黒い包帯を少しだけほどくと、近くにあった街灯に巻き付けて反動をつけ、パチンコ玉のようにその場を跳んで逃げていく。


「糞が! 逃がすかよ――」

「なぁーにやってんだよド三流がぁ」


 一瞬の燦めき。光に反射して見えた極細の糸を張ったトラップを前にして、騎西は飛び出そうとしていた身体に急ブレーキをかける。


「糸だと!? ってことは――」

「あぁーん? 確か約束はオズワルドを無傷で確保することじゃなかったのかぁー?」


 騎西が足元を見やると、蜘蛛の巣のごとく至る所に糸を張り巡らせる一人の能力者が立っていた。


「てめっ、何しやがる!?」

「そっちの方こそ何考えてんだぁ? 数藤とあたしとの約束を聞いていたんじゃ無かったのかぁー?」


 風に髪をなびかせて、名稗なびえ閖威科ゆりいかは確かにそこに立っていた。

 そして――


「おっと、火事場泥棒としゃれ込もうと思ったが、まさか鉄まで切る糸とは俺も予想外だぜ」


 ガランガラン、と鉄棒が大きな音を立てて騎西と名稗の前に落ちてくる。続けて褐色肌の一人の男が、二人の間に降り立つ。


「てめぇは……!」

「俺か? 俺の名はジャスティン・ジェイソン。ちまたで有名な強盗ってところだ」


 その名前を騎西は知っている。ちまたで有名だからという訳では無く、ましてやファンだという訳でもない。


「Aランク……俺の実力を測るいい相手じゃねぇか」


 周りにいるのはSランク。その相手に本気でやられては手も足もでなかった。

 しかし今回は一つ下がってAランク。しかも遠慮の必要は無い。


「おいアクア! オズワルドはそっちに任せる! 俺は邪魔なこいつらを叩き潰してやるからよぉ!!」


 どこかに向けて話しかけている様子でもない。ただ確実にこの場にいることを信じて騎西は大声で叫び、そして宣戦布告する。


「二人纏めてかかって来いよ! どのみちあのクソ野郎に勝つ為には、これくらいできなきゃいけねぇだろうからなぁ!!」

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