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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二章:出来ればおじさんは目立ちたくない

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91:極上の目覚め


 んぎもぢいいいいいい朝だ。とても気持ちのいい朝だ。生まれ変わった気分だと言い切って良い。


 昨日は帰った後、すぐにダーククロウの羽根を無香料洗剤で洗うと、適当な布に羽根を全部詰め込んでくるんで枕代わりとして眠った。


 正直、いつの間に眠ったのかすら解らない。スゥ……という感じで眠りに入ったような気がするが、全く記憶にない。


 間違いないのは、今日の目覚めはここ二十年で最も気持ちのいい目覚めだったという事だ。


 すげえぜ、ダーククロウ。君の実力は本物だったよ……


 これはまた潜って一キロぐらい取ってきて、布団カバーに放り込んで簡易布団を作るのも十分にありだ。布団業界がこぞって買い求めるのも解るぞ。


 ついつい今のテンションで「すっっっっっげええ眠れた!! 」って文月さんにレイン送ったら怒られた。


 どうやらまだ寝ていたらしい。ごめんよ。


 さぁ、気持ちいい朝に気持ちいい朝食を作ろう。いつものトーストといつもの目玉焼きとお野菜だが、目覚めが良かったせいかいつもよりうまく感じるな。これもダーククロウのおかげか。


 この枕は持ち歩こう。ちょっと休憩する時に使えば疲れも取れやすいはずだ。


 ありがとうダーククロウ、また皆殺しに行くよ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 検証スレッドは昨日のうちに結局十八スレッドを消費し、十九スレッドに突入している。


 各ダンジョン各階層での検証結果、一層だけではなくどこの階層のスライムでも同じ効果があるという事が新たな検証として挙げられていた。


 ほぼすべてのダンジョンで、十層までに存在するスライムには効果があることが検証された。また、十二層で検証をした結果効果があったという報告もあった。つまり、一日で十二層まで行って帰ってくるフットワークの軽さがあったって事だ。


 検証班怖ぁ……


 小西ダンジョンでは四層以降の報告は無かった。小西ダンジョンで検証してる人は居なかったって事だな。さすが過疎だ。ただ、スレの伸びは中々の物だった。これを機に人口が増えてくれると嬉しいな。


 俺はいつになったら十一層に潜れるようになるんだろうか。七層のセーフエリアで一泊するとして、その後はどうやって潜っていくのか。また調べ物をしなければいけないな。


 どうやら、各地のスーパーではカロリーバーの在庫が売り切れ続出らしい。俺が検証に挙げた三種類以外の風味もついでに買われているようで、いつ入荷するかも未定らしい。頑張ってくれ三勢食品。


 スライムの狩り速度は君らの働きに掛かっているぞ。


 しかし、ちょっと前まで俺も似たような仕事だったなと思い直す。もうはるか昔のことのようだ。


 三勢食品がどれほどの利益を上げられるかは解らないが、一時的バブルで終わるのか、それとも気長に定番商品として全国展開するほど会社の規模を拡大させるかは解らない。


 どちらにせよ、俺の在庫はまだ十分にある。しばらくは困らないだろう。


 さて、今日はどうするかな。鬼ころしへ行って弾を補充することも頭に入れておこう。


 一つに考えがまとまらないが、やらなければいけないことは大体わかっている。補充と金稼ぎだ。最近金遣いが荒くなっている気がしないでもないが、七層のセーフエリアで一泊する用意はある。


 しかし、小西のダンジョンで一泊するのはちょっと抵抗がある。人が少なすぎて不安になりそうだ。ここは清州当たりでキャンプ体験をしておくのもいいかもしれないな。


 また清州へ行くか。今ならスライム狩りで人がいっぱいいるだろうし、移動するにも楽に移動できるだろう。四層、五層でもうまく狩りが出来るようになってきたし、そのまま七層まで行ってみてセーフエリアがどんなものなのか体験してみるのが良いだろう。


 最悪、二十四時間営業なので出ようと思えばいつでも出られるしな。


 しかし……ダーククロウの寝心地は良かったな。もう一回寝ようか。きっとまたぐっすり寝られるはずだ。最近ダンジョンに通い詰めで気づかないうちに疲労がたまっているかもしれない。


 ここは休日にしておくか。まずはもう一度ゆっくり眠ろう。疲労抜きに一日を費やすことも大事だ。疲労を抜くには豚肉が一番いい。確か保管庫にはまだボア肉が残っていたはずだ。


 豚肉……チャーシュー……気晴らしに作ってみるのもたまにはいいな。


 俺は料理に精を出すことを決めた。


 もっとも、レシピが手元にあるわけではないので、スマホで簡単レシピを調べよう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 簡単レシピでお手軽ボア肉チャーシューを作る。タコ糸で縛って全体的に強めに焼く。


 ネギとニンニクと生姜を加えて軽くヤキを入れると、調味料を合わせたたれを用意してそこにボア肉放り込み、弱火で二十分ほど煮立たせる。


 出来上がったボア肉を薄切りにすると、残ったタレをかけて完成だ。


 本当はもっと本格的に作ってより上の味を楽しむべきではあるんだろうが、そこまで手の込んだ料理を作るのは手間より料理疲れのほうが先に来そうだったのであえて手軽に作れるほうを選んだ。


 これを昼食用にしよう。後は米さえあればチャーシュー丼の完成である。米は前に買ったパックのレンジで温めるだけのものがまだ残っているはずだ。はずだった。


 急いでコンビニに米を求めに走る。やはりチャーシューには米だろう。パックライスでもないよりはましである。一応家に炊飯器は常備されているのだが、米を炊くところから始めるのは料理にのめりこみたいときだけだ。


 米の美味しさよりチャーシューの美味しさのほうが勝つのは明らかなので、ここはパックライスで納得しておく。あとは袋詰めの簡易野菜を添えれば立派な昼食になる。今から味が楽しみだな。アイス片手に帰宅する。


 帰宅するところで、久しぶりのお隣さんと出会った。


「今日は私服なんですね」

「えぇ今日は一日ゆっくり休もうと思いまして」

「ダンジョンは順調ですか? 」

「順調ですね。おかげさまでちょっといい食事を楽しめる程度には儲かってますよ」

「それは何よりですね。でも、気を付けてくださいね」

「お気遣いありがとうございます」


 普段会わない人と何の気も無く会話できるようになってきているという事は、俺の人見知りも少しは改善されているのだろうか。


 まぁ、それはさておき昼食の準備だ。ボア肉のお手製チャーシューが俺を待っている。


 そして腹が膨れたら鬼ころしへ行こう。バードショット弾とパチンコ玉の補充を終わらせて、帰りに夕食を見積もろう。時間が余ったらおねむの時間にしよう。さすれば疲労もスッキリ取れるだろう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 控えめに言って最高だった。何点かと問われたら五万点だろう。


 プルプルとした脂部分も奥歯のさらに奥に存在するという、ラードを美味しく感じ取れる味覚を存分に楽しませ、そして口の中でほろほろとほぐれていくお肉。


 しっかりと煮込んだためいくらでも胃に入っていく米。もはや肉と米だけで良かった。付け合わせにと用意した緑野菜は用意するだけ無用な存在だった。全部食べたけど。


 さて、腹一杯まで満たしたところで清州ダンジョン近くの探索者専門店「鬼ころし」へ出かけようと思う。腹が一杯で運転に支障がありそうなので電車で行くことにする。


 ますます運転しないようになってきたな……ん、そういえばやっすい自動車を探すとかいう計画もしてたっけ。乗って帰れる格安自動車を探すか。


 腹が満ちていたおかげで名古屋駅で乗り換えるまで爆睡し、眠い頭を抱えて清州方面行へ乗り換える。さすがにもう一回寝ると乗り過ごすな、起きているようにしよう。


 無事清州駅で降りることに成功し、腹ごなし&眠気覚ましの運動がてら鬼ころしまで歩く。ここに来るのも三回目か。


 前に来た時よりも探索者が増えている。初心者用のグッズが軒並み品薄になっているようだ。急に探索者が増える理由なんてあるのかねぇ。展示されていた鏡を見ながら一人ぼやく。


 バードショット弾を千発、パチンコ玉を五百発補充して、ワイルドボアに効果があった中玉を合計で五十発になるように購入する。遠距離分はこれで十分だな。


 後は適当に店内を見渡す。この時間は人も多いな。二階に上がって食料品コーナーを見てみると、大きめのPOPで「三勢食品製カロリーバーは現状取り扱っておりません」という張り紙がされている。


 おそらく、探索者連中から多大な問い合わせがあったのだろう。そのPOPに書かれている若干曲がった力強い文字に苦労がしのばれる。もしここに在庫があるならば大盛況だったろうに。


 しかし、「現状」の文字が気になる。きっと、製造元に問い合わせて購入できないかどうか問い合わせをしているのだろう。うまくいけば都合してもらえるかもしれない、というあたりだろうか。


 うまくいくのかなぁ……自分の経験と普段のカロリーバーの売り上げと、会社の規模からどのくらいの生産量を確保できるか、というのは、前職の経験からある程度予想できる。


 おそらく、現時点で十倍ぐらいの注文が殺到しているはずだ。きっと製造ラインは不夜城となるだろう。二十四時間ラインを常に動かし続ける人材と原料の確保、それから常時取引をしている企業に優先して回すとして、他の味のラインは停止するはずだ。


 他の味も三箱買い込んでおいたのはそういう理由からでもある。しばらくバニラの香りが取れないほどに製造をし続け、ギリギリ間に合わないぐらいじゃないだろうか。


 そこに更に、儲けを見込んだ他の企業からのオファーも舞い込んでいるはずである。三勢食品にどれだけの資産があるかは解らないが、ラインの増設まで見込んで一年後どうなるかまで見込んで生産を始めているはずだ。


 他人事に聞こえるかもしれないが、俺の仕事はレポートを上げるまでで終わっている。後のことはなるようになるしかない。


 OEM品として他社工場に生産を委託する可能性もあるが、はたしてそのやり方で同じ商品として認められるかどうかは人間側の都合であってダンジョン側の都合ではない。


 ダンジョン側の判定でOKとなるかNGとなるか、そこが見どころだな。


 買い物を終えると、すぐ近くにある車の中古屋へ寄り軽自動車で一番安い値段の車をスマホの価格と見比べながら確かめる。


 一応保管庫のテストとして買うだけなのだが、自動車と言うのはナンバー付けなおしたり車検通したり自賠責に入ったり、購入するにはいろいろと手間がかかる。


 手間と値段のつり合いが取れるところでいくらぐらいが相場なのかな、と相見積もりをとっている最中である。条件は「走ればいい」これに尽きる。


 と、通り道の陰に一台の車を見つけた。「ここは駐車場ではありません。即刻移動してください」という張り紙のされた廃車のような自動車だ。おそらく放置自動車だろう。日付から、一か月程度放置されたままであることが確認できる。


 辺りを見回して、誰の目線も通ってないことを確認する。そして「収納」。


 車はその場から消えてなくなった。そして保管庫には……


 自動車 x 一


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