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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二章:出来ればおじさんは目立ちたくない

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89:小西ダンジョン大盛況

 



 急ぎ足で帰り道を戻る。


 五層から四層までの見果てる限り青空のサバンナを全力で駆け抜ける。おかげで六匹ぐらいにしか出会わなかった。四層へたどり着いたら後はもう安心できる道だ。完全にポーターとなり果てた俺にできることは少ない。


 文月さんが居てよかった。おかげで大量に物を持って帰れる。周りに人が居なければ支援もできるし文月さん個人の戦闘能力も高くなった。ソードゴブリンにも後れを取らない。


「文月さんもお強くなり申した」

「安村さんに言われてもあんまり実感が」

「そんな事はないと思うけどなぁ」


 最初あった時はグレイウルフに囲まれて擦り傷まで出来ていた。ほんの少し前の話だが、急成長したと言っても良い。


「だって安村さん、保管庫使えば遠近両用ですよ? 眼鏡だったら二本目半額ですよ? 」

「眼鏡と一緒にされても……眼鏡と言えば遠眼鏡が欲しいな。倍率二十ぐらいの奴」

「あー、サバンナでは欲しいですね」

「遠眼鏡越しに射出したら狙撃できるかな」

「また自分の火力を上げようとしてますね」

「これ以上火力を上げようとしたら初速が音速超えると思うんだよね、そうなると」

「そうなると? 」


 拳銃の発射音は音速を超えた時のソニックブームだという話は前にもした気がする。


「とてもうるさいよ? 拳銃の発砲音とか音速を超えた時の音だし」

「なるほど。つまり誰もいない所なら撃てると」

「それにあまり賢くないから弾道計算なんかはできないからね」


 短距離で初速が早ければ早いほど無視できるが、長距離になればなるほど、重量が増えれば増えるほど射出する物体は重力によって落下する。それがどのくらいずれるかを計算するのが弾道学だ。暗算で計算できるほど俺は賢くないので、長距離の射撃には向かないと思う。


「まぁ、精々二百メートルが限界かな。それ以上は当たる気がしないね」

「二百メートル当てられれば十分だと思いますよ」

「なら、そういうことにしとこう」


 帰り道すがら物騒な話をしつつ、時計を見る。もう十七時か。ゴブリンがちらほら近づいてくるが、片っ端から文月さんが魔結晶とヒールポーションに変えていく。歩くだけってのも割と暇だな。


「で、結局この羽根どうするの」

「枕にするかって話ですか? とりあえず安村さんで人体実験しません? 」

「五百グラムあれば足りるかな」

「十分だと思いますよ」

「じゃぁ査定の時に五百グラムだけこっちに寄越してもらおうかな……」

「……なにしてるんです? 」

「今のうちに羽根だけ全部表に出しておこうと思って」


 保管庫から羽根を取り出してはエコバッグに詰め替えていた。周りに誰も居ないことは確認済みだ。


「これ容積あるから、バッグの中身にも羽根以外の物をいれとかないと怪しまれると思うんだよね」

「短時間で数狩れるのはいいですけど、持ち帰りに難ありですね」

「これ百グラム九百五十円らしいよ」

「苦労のわりに安くありません? 」


 文月さんは不満そうだ。まぁ、確かに苦労のわりに安いな。


「まぁ、日帰りで持ち帰れる素材としてはそこそこの物だとは思うけど」

「需要に供給が追い付いてない感じですかね」

「ならもうちょっと高く買い取ってくれてもいいんだけどなぁ」


 二層まで戻ってきた。グレイウルフとスライムが見当たらない。


「なにも居ませんね」

「これはあれか、思ったより早く広まったみたいだな、スライムの話」

「じゃぁ、一層へ行っても何もいない可能性があると? 」

「かもしれない。スライムのついでにグレイウルフ狩るほうがはるかに効率は良いはずだからね」

「早く帰れて助かりますね」

「今日に限れば全くだね」


 二層を若干駆け足で戻る。帰り道にモンスターの姿は居ない。おっと、前で戦闘をしてるパーティーを発見した。邪魔しないように見守りつつ横を通る。


 どうやら、スライムに餌を与えているらしかった。見覚えある食品のパッケージを破ってはスライムに食わせている。


「順調に広まってるね」

「そうみたいですね」

「これは有史以来初めて何もいない一層を見られるかもしれないな」

「大げさですね」


 ダンジョンが出来た当初からずっと通い詰めていたわけでもないので、本当に何もいない時期というのがあったかどうかは解らない。


 しかし両手にエコバッグに詰めた羽根を持って何もない道を行くというのは、まるでアトラクション施設で買い物した帰りのお父さんみたいな印象があるな。急いで帰るあたり閉園が近いんだろう。


 そのまま一層へ駆けあがるが、やはり上がった先にも何もいない。モンスターの気配もなく静まり返っている。と、探索者の姿がちらほら見える。


 他の探索者がちらほら居る時点でもう小西ダンジョンの異常性が見え隠れしている。

 普段なら、一層歩く間に出会って二人かそこらだ。いくら閉園時間が近いからといって、人が少ない事には違いないのだ。


 それが、一層へ上がった瞬間に探索者の姿が見える。ということは、今頃査定カウンターは人でごった返しているだろう。


「大丈夫かなぁギルド、潰れてたりしないよなぁ」

「中の人はスライム素材に押し潰されてそうですが」

「これは今日中に素材査定が終わるかどうかも解らんね」


 査定の列を見て諦めたような感じで言ってみる。


「今日の分は今日の間に終わらせたいところが本音ですけど」

「スライム素材今日そんなにないからなぁ。羽根と肉と魔結晶だけ出すとか? 」

「とりあえず羽根五百グラムはお持ち帰りで……残りどうします? 」

「出すものは出すさ。きっと明日はそれどころじゃないだろうから」

「明日は、とは」


 文月さんは規模の大きさをまだ解ってないらしい。


「今日清州は大混雑してるはずだ。あまりに多すぎた人のせいで、午後から清州から小西へ移住してきた人たちが今ここにいる、と俺は睨んでいる」

「なるほど、明日は朝から小西ダンジョンに潜る人がもっと来る、と」

「あぁ、明日が本番かもしれないね」

「いつまで続くんでしょう? 」

「カロリーバーが売り切れるまでじゃないかなぁ」


 というか、すでに売り切れている予感しかしない。三勢食品の人たちの苦労がしのばれる。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 退ダン手続きを済ませ、戻ってきた俺たちは査定カウンターに「並んだ」。


 小西ダンジョンの査定カウンターに並ぶのは極めて珍しい行為だ。俺たち以外になんと人が二桁も居る。こんなにたくさんの探索者を見るのは清州ダンジョンに行った時ぐらいだ。


 暫く待ち、俺の番がくる


「はい、次のかt……ヒッ」


 今悲鳴上げたよな?


「スライム素材はごく一部ですから御心配なく」

「そ、そうでしたか……安村さんまでスライムだと今日中に帰れない所でしたから安心しました」

「あ、ダーククロウの羽根なんですけど、五百グラムだけこちらに戻してもらっていいですか? 自分で枕にしようと思いまして」

「えぇ、それぐらいなら構いませんよ。では、全部お出しください」


 先に羽根を全部出して、五百グラム分計ってもらって返してもらった。五百グラムって結構な量だな。これなら枕二個ぐらいは作れるかもしれん。取った分全部詰めたら布団にすらできたのでは?


 後はいつも通りざらざらとドロップ品を出しながら、査定してもらう。


「……ふぅ、数が少なくて助かりました。まだ帰ってきてない人も居るもんですから」

「頑張ってください。多分明日はもっと多いですよ」

「なんでそんなこと解るんです? 」

「えっ、もしかして把握されてない……? 」


 俺は情報の伝達速度を甘く見ていた。ギルド間で共有されていてもおかしくない情報だが、規模の小さい小西ダンジョンでは調べる時間の余裕も無かったようだ。


「ちょっと、ギルマスと相談してきてもらっていいですか? ギルマスもなぜ人が増えたか解ってないようでして困惑してましたよ」

「解りました、そうしましょう」

「あ、あとパーティーだったんで二分割でお願いします」


 レシートを二人分受け取った。金額は七万六千五百八十一円だった。中々の収入だったな。


「今日も一杯だぞ~」

「わ~い」


 ふたりでハイタッチする。バッグの中は羽根でいっぱいだ。帰ってネットに入れて洗濯してみよう。

 その後枕の中に詰めて眠れるかどうか実験だ。


「あ、でもその前にちょっとギルマスに話付けてくるわ」

「なんか話すことありましたっけ」

「スライムの買い取りが増えている理由が解ってないらしい」

「あ~、それは教えておかないとマズイんじゃ」

「だと思う。探索者として、あくまで探索者として報告義務があると思うんだ」


 まず支払いを済ませ、スマホでスレッドの報告を検索してみる。どうやら潜っている間に検証スレッドが十ほど消化されているようだ。全国的な騒ぎになってるらしいな。俺は元凶の自分の書き込みを見つけ出すと画面に表示させ、そのまま二階にあるギルマスの部屋に向かった。


「安村です。今よろしいですか」

「あぁ、どうしました。何か問題でも? こっちはいきなり人口が増えてあたふたしているところですが」

「その原因についてお話しておこうかと」

「それは緊急の案件ですね、伺いましょう」

「まず、こちらのスレッドを見て頂きたい」


 スマホの画面を見せる。


「おそらく、これが原因だと思います」

「なるほど……スライムのドロップを確定させる方法なんて存在したんですね」

「これが昨日の夜の書き込みで、現在結果報告だけで一万近くの報告がされています」

「ってことは、全国のダンジョンで同じ現象が起きている可能性が非常に高いと」

「お話が早くて助かります。おそらくですが、清州ダンジョンは大混乱中でしょうね」

「それはそれは。今暇? って煽りの電話かけてみましょうかね」


 良い根性してるなこの人。


「で、清州ダンジョンでスライムが完全に枯渇した状態になってるので、それなら近くの小西ダンジョンでも同じことが出来るんじゃないか? と移動してきたと予想します。おそらくですが、探索者が増え始めたのは午後からでは? 」

「正確な時間までは解りませんが、受付に聞けば確実にわかるでしょうね」

「精算作業、手伝ってあげてくださいね。今査定嬢が死にそうな顔してましたよ」

「普段暇ですから大丈夫でしょう。残業代は出ますし」


 この人は仕事をする気があるのかないのか。


「手伝ってあげてくださいよ。今下でそうしてあげてくださいって頼まれたんですから」

「しょうがないなぁ。落ち着くまでは私も残業しますか」

「そうしてあげてください」

「これはあくまで参考意見として聞くんだが、いつまで続くと思うかい? この騒ぎは」

「まず、これを製造している会社「三勢食品」がカロリーバー製造を停止した時です」

「ほうほう」


 俺は話を続ける。考えうるケースを想定しながら順番に説明していく。


「それから、市場から商品在庫が捌けきって供給が止まった時ですが、これは一時的なものにすぎないでしょう。真似をする企業も出てくるでしょうし」

「確かに」

「それからスライムの魔結晶とスライムゼリーの需要がダブついてギルドが買い取りを停止した時です」

「それはあり得ないな。今でも足りないぐらいなんだ」

「で、一番ありそうなのが最後の選択肢ですが、スライムゼリーとスライムの魔結晶の買い取りが重さで決まるようになった時ですね」

「……参考にしよう。教えてくれてどうもありがとう」


 俺は話が終わって席を立とうとする。が、その前にギルマスが俺を止める。


「ところで、この検証をして公開した人は何を考えてると思う? 」

「さぁ……私が見つけた訳じゃないので何とも。しいて言うなら効率化じゃないですか? 」

「効率化とは? 」

「一匹見つけて確定ドロップを繰り返すほうが、複数のスライム倒してドロップを期待するより楽ですから。少なくとも私にとっては違いますが」

「……そうかね」


 何かを感じ取ったようなそぶりをすると、ギルマスはそれ以上何も言わなかった。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 伝えるものは全部伝えた。後はどうにかなれー、だ。あのギルマスの事だから、この後どう話を持っていくか考えているんだろう。


 一階に降りると文月さんは待っていてくれたようだ。


「お話終わったんですね。どうでした? 」

「う~ん……なんとも。ただ、明日から全ダンジョン大変そうだなって」

「全ダンジョンとは? 」

「ギルマス、スライムの件知らなかったらしいんよ。だとすると、明日には全ダンジョンに通達が行くんじゃないかなって。そうなったら多分、各ダンジョンの代表者かき集めてオンライン会議の始まりよ」

「うわ~、大事ですね~」

「大変だよね~」

「ね~」


 お互いこれ以上は深く考えないことにした。


 帰ったらゴブ臭いタオルとかツナギとかまとめて洗ってしまおう。そうしてすべてを水に流すのだ。




作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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スライムの魔晶石だっけ?これって全て同じ大きさや重さじゃないんですかね? そうなら重さなら一括で量ればいいだけだし全て同じ大きさなら50個や100個以上ぴっちり入る箱とか作れば楽勝で計算できるのでは?…
[良い点] 全国的、いやもしかしたら全世界的な騒動になりそうですね。 さらに例のスライム増殖法まで確立できた暁には、スライムゼリーと魔結晶はスライム養殖場で無限に採取できるようになりそうですw [気に…
[一言] 遂にスライムだけ個数縛りだったのが他と同じグラムによる換金になるのか?
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