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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二章:出来ればおじさんは目立ちたくない

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84:一夜明けて小西へ




 朝だ。今日の朝食はお惣菜にカレー付きの少しだけ優雅で豪華な朝食だ。トースト二枚に目玉焼きに、なんと複数種類の総菜にカレーまでついている。これで午前中の血糖値はばっちりだな。


 そう、昨日結局カレーを食い忘れたせいである。だが、朝がちょっと豪華なのもカレーのおかげだな。


 昨日書き込んだスレをそのまま眺めてみる。どうやら夜遅くから朝早くまで検証スレに張り付いている人や実際に試しに行った人の報告が上がっていた。他のダンジョンでも効果があったらしい。


 これは全国に波及するかもしれんな。昨日のうちにカロリーバー買いだめておいてよかった。


 スライムに分け与えてやるかどうかは気分次第だが、少なくとも俺のダンジョンのQOLはしばらく下がらなくて済みそうだ。


 しかし、三勢食品の人たちは大変だろうな。突然受注量が増えて従業員一同にっこり大忙しで毎日残業&残業の日々が始まるかもしれない。いや、始まるだろう。


「もしモーツァルトが存在しなければ彼の音楽は誕生しなかったが、アインシュタインが存在しなくても一般相対性理論はいつか他の誰かが発表していただろう」


 こんな文面を思い出した。芸術はその人が居なければ生まれることは無いが、法則はいつか他の誰かが解き明かすことが出来る。


 本件も同じ事だろう、俺が発見しなくても誰かが発見していたに違いない。要は遅いか早いかだけの違いである。なら行きつく先のごたごたもいつか起こった物だろう。対応する必要のある人たちには頑張ってもらいたいものだ。


 作るほうも、買うほうも。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 今日はダンジョンへ行く。なんだかんだで昨日も半日ダンジョンに居た。もうダンジョン無しではいられないのだろう。我ながらなんともせわしない事だ。


 文月さんに連絡を入れておく。もしかしたら合流するかもしれないからな。


「今日小西行く」


 返事は待たないでおく。お互いの生活に無理のない範囲でパーティーを組もうという話だったはずだ。もし来るとしたら後から追いかけてくるはずだし、こちらの性格をある程度読んでくれている。


 お互い小西ダンジョンに顔を覚えられているので、パーティーと認識されているだろう。受付に確認して入っているかどうかを確認するぐらいはするはずだ。


 つまり先に着こうが後で着こうが合流は出来る。ダンジョン内でスマホが使えれば問題ないんだg……あ、そういえばトランシーバー買ったのに渡すの忘れてたな。次の機会に渡そう。この出力なら同階層同士での連絡は取れるはずだ。


 お出かけの前にいつもの確認をする。


 万能熊手二つ、ヨシ!

 マチェット、ヨシ!

 グラディウス、ヨシ!

 新しいヘルメット、ヨシ!

 防刃ツナギ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 新しい手袋、ヨシ!

 食料水、色々種類あって、ヨシ!

 保管庫の中身……ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 電車とバスの定期券を買う事にした。金に余裕があるのと、明らかに月に二十回以上利用するからだ。大体の定期券は、月二十回分を一か月分として販売されている。往復にすれば四十回分だ。週五以上で通うならばこのほうがお得だ。


 どうせ、小西ダンジョンの駐車場は整備されない。俺はもうあきらめていた。そういえば自動車を入れられるかどうか確かめるんだったな。どっかに廃車はないものか。


 それとも、五万円ぐらいで売られている格安自動車を購入してそれで試してみるか。


 選択肢は金銭的余裕のおかげで増えつつある。そういえば通勤用の自動車は経費に含まれるんだろうか。今度調べておこう。


 あっ、なら定期を購入する必要も無かったんじゃ……まぁいいや、自動車のテストをするまでは公共交通機関を使うんだし無駄ではないだろう。どうせ一日分の収入で補いうる金額だ。


 もっと肩の力を抜いていこう。無駄な力を入れていてはスライムを狩るにもそれは邪魔なものだ。


 ひっひっふー。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 小西ダンジョンはいつも通り人が少ない。まだスレの内容が周知されていないって事かな。念のためスマホを確認して返答があったかどうかを確認する。無かった。


 どうやら文月さんが後から合流するという事は今のところなさそうだな。


 いつも通り入ダンを終えてつぷっという感触とともに第一層へ突入する。


 スライムは……おぉ、居る居る。今日もいつも通りの量だ。今日もみんなに会えてうれしいなぁ。早速狩りに入る。ざっくりざっくりざっくざく~っと。


 一層から二層にかけて一通りのスライムを狩っていく。


 早速カロリーバーで試してみればいいじゃないか? と思わんでもないが、カロリーバーに反応して食べているのを待つ間にもっと数を狩れる。


 小西ダンジョンのスライムはどちらかと言えば過密だ。人口に対して明らかに過剰と行ってもいい。


 気にせずにスライムとの対話を楽しめばいい。


 俺はただ、清州であれだけ過密な人口の中でスライムを狩って何も出なかったときの悲しみを、誰かに味わってほしくなかっただけだ。たとえそれが三十円の利益だったとしても。


 そういえば、スライムの効率的倒し方が議論されていたが、潮干狩りも全国に広がったりするのだろうか。俺みたいに熊手片手にダンジョンを徘徊する人が増えるのかな。同業者が増えるのか。


 それはとても面白そうだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 二層に入るまでに百五十匹ほど駆除した。ドロップ量からいつもの調子だという事が伝わる。いつも通りの数だ。いい、とてもいい。やはりこうでなければいけない。


 一々餌付けしてスライムのドロップに目を¥にして戦うよりも、餌やりする間それ以上の数を狩れればそれで収支は合うのだ。


 一分かけて一匹倒して確実なドロップを得ようとするよりも、その間に十三匹倒して乱数の神様にすべてをゆだねるほうが俺らしさとしてとてもいい。


 やはり小西ダンジョンは良いなぁ。スライムの全てがおかずとして立ち上がってくる。


 そして一層を後にする。今日は三層の気分なんだ。悪いが一層の君達とは帰り道までお預けだ。俺はより深くを目指すよ。


 そして二層へ達する。二層にももちろんスライムは居る。二層のスライムも一層のスライムも生存量に違いこそあれど、同じスライムだ。平等に扱おう。


 三層への道すがらグレイウルフと出会うが、スライムにかける時間とほぼ同じ速さで処理されて行く。俺も手慣れたものだなぁ。


 スライム一匹期待値十円、グレイウルフ一匹期待値七十五円。これが俺のドロップテーブルにおける一匹当たりの命の相場だ。


 グレイウルフのほうがスライムより数が多いならば、俺の狩場は二層に移っていた事だろう。だが、三層のゴブリンの期待値はもっと高い五百円。


 スライムにこだわる理由が無ければ三層でゴブリン相手にしているほうがお金になる。


 ただし、全てにおいて移動とエンカウントまでの時間は無視されるものとする。


 一層のスライムは小西ダンジョン標準で言えば、気が付けば隣にいる幼馴染のような存在だ。とても大事にしてあげなければならない。スライムに愛着があると言えばある。俺にスキルを授けてくれた大事な相手だ。終生の友として長い付き合いをしたいぐらいだ。一分間にスライム十匹とグレイウルフ二匹ならどっちがいい?と言われると、金額の上ではグレイウルフだが愛おしさはスライムのほうが上だ。そのぐらいスライムを愛していると言っても過言ではない。


 が、今日は三層でゴブリン狩りをしゃれ込もうと決めている。


 そのまま三層への道を切り開いていく。出てくるグレイウルフは残らず殲滅し、傍に居るスライムはみんなまとめて天国へ行ってもらう。


 三層までに大体グレイウルフ五十匹とスライム五十匹と戦った。


 さて、文月さんが居ればこの辺で待ってるはずだがその様子はない。どうやら今日は来ない日なのかもしれない。


 もしかしたら三層から四層への道を掃除してるかもしれないな。一応同じルートを通ってみるか。


 三層にもスライムは居る。ゴブリンやグレイウルフの数が少ないなら、スライムに精を出すことにしよう。俺は三層への階段を降りる前に軽くカロリーバーと水分を補給する。休憩するならいつもここだ。


 三層手前の階段は敵が寄り付きにくい。三層に限らないが、階段の手前ではエンカウント率が低いらしい。理由は解らないが、ここで休憩していけというダンジョンの思し召しかもしれない。




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― 新着の感想 ―
そういえばバニラ味でスライムのドロップが確定されると 逆にほかのオーブやポーションとかのレアドロップが出なくなってるのだろうか
[気になる点] あれ…バスの代わりになるはずの自転車… ついでに確定ドロップとはいえおじさんならスライムは数狩った方が速いような気も
[一言] ところてんの筒型の金槌でも作ったら速そうw
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