80:ソロキャン用具をそろえよう
本日二回目の投稿です。
気晴らしに買い物にでも出かける事にした。買い物と言えば、キャンプ用品を見に行って……また俺仕事のこと考えてるな。いかんいかん、気分転換に買い物に来たはずなのにな。
地元スーパーへ着いて一通り食材を買いそろえる。朝食用の緑野菜はある程度買いそろえた。肉はウルフ肉が……あぁ、朝食えばよかったな。まぁいい昼にでも摘まもう。
それから、そろそろ箱でミネラルウォーターを補充して保管庫に入れておかなければな。飲料水として入れてあるから、他の用途に使えるように水道水で満たしたペットボトルも放り込んでおくべきか。帰ったら水道水とミネラルウォーターが分別されるか試してみよう。
ふと、ダンジョン製食品コーナーが目に入った。ボア肉を煮込んだシチューとか、ウルフ肉のジャーキーとか、まぁいろいろある。手に取り値段を見て少し驚く。一人前千円。
えーと、ギルドでの買い取り価格は……そうか、流通整備してそこに更に人件費や製造費をプラスするとこのぐらいの金額になるのか。さすがに千円超えるようなら自分で取りに行ってレシピ見ながら作ったほうがお得だぞ。レシピ集とか探してみるか、俺の食卓が少し豪華になるかもしれん。
俺はダンジョン製食品を手にするのをやめ、保管庫にある肉で何を作ろうかを考え始めた。昨夜作ったウルフ肉のカルビ焼き風は普通に美味かった。手軽で簡単だし、コンロを掃除するのが若干手間だったが、手間分の満足は得られたと自負している。
スーパーで買い物を終えた俺は隣にあるホームセンターへ来た。キャンプ用品を見るためだ。
もしかしたらダンジョン内で一晩明かす事だってあるだろう。そういえばダンジョンに夜って概念あるのかな。ダンジョン内で一晩過ごすなら交代で見張りとして起きてないと何かがあった際に大変だから、何かが起きないための最低限の持ち物を用意しないといけない。
視線を切るため、パーソナルスペースを主張するためのテントや最低限湯を沸かせるための携帯コンロや簡単な料理をするためのスキレット、床に敷くための断熱マットなどだ。寝袋は購入しない。
寝袋に入って寝たほうが寝た気にはなるだろうが、そもそも寝袋が必要なほどダンジョンの環境は悪くない。まるで空調が効いているかのように層全体が同じ温度に保たれている。
もちろん風が吹いてテントが飛ばされるような心配もない。というか、床が非破壊オブジェクトの為ペグが打てない。なのでテントは簡素なもので良い。
何か不測の事態が起きて飛び起きる際に寝袋があればその分時間がかかる。
その点床敷きマットなら飛び起きて武器を持てさえすれば最低限の準備にはなるってことだ。二人同時に寝ることはまずありえないので、一人中で身支度を整える程度のスペースがあればそれで十分だろう。
手の空いてそうな店員に声をかけてみる。
「ダンジョン内でキャンプをしてみたいんですが」
「でしたらみなさんこちらの物を買っていかれますね」
と、お薦めされたのは放り投げたらすぐテントになるホイ〇イカプセル式のテントだった。一応目をつけてはいたものだ。お値段は一万円ほどだ。
「寝るだけならこれで十分ですね。もう少し手間がかかってもいいなら、もうちょっと居住性のあるこちらはどうでしょう」
同じようなテントがもう一つ提示された。お値段はさっきのより五千円ほど高い。高さ、密閉性共にある。これなら中で着替えることも難しくないだろう。
「なるほど。設置撤去に手間がかからない割に安いですね」
「それがコンセプトで作られてるんです。ダンジョン内なら自然の猛威にさらされることも無いですから。モンスターは出ますが」
ふむ。つまりモンスターの出ない所ならこれで十分すぎるという事か。
「後は……エアマットで嵩張らないものがあれば一つ欲しいですね」
「なら、こちらがお薦めですね」
聞いたことのないメーカーのエアマットが出てきた。お値段は一万円ちょっと。体のラインに合わせてマットが湾曲しているので、快眠できるという話。
展示品があったので試しに寝そべってみるが、若干まとわりつくようなイメージがあるが、床の硬さからは解放されている。
「寝心地がどうしても気になる場合もう一つお薦めはありますが、お値段のほうがテントより高くなってしまいますね」
と、一段階分厚いエアマットを出してきてくれた。他の物より軽い。ただしお値段はテントの倍ぐらいするようだ。
しばし悩んだ末、高いほうのテントと体にまとわりつくほうのエアマットを選ぶことにした。何のことはない、気に入らなかったらまた新しいのを買おう。そうやって学んでいけばいい。
キャンプ用品をカートへ放り込んでいく。火種も必要だな。キャンプ用の小型バーナーがあればそれを選ぼう。あと湯沸かし用のケトル。大きさのあった物を選べば外しはしないはずだ。
後はそうだな、テントの外で休憩できるように椅子があったほうが良いだろう。軽くてある程度のクッション性が担保できそうなものを選ぶ。
店員のおすすめを素直に二人分買い上げ、合計十四万円ほどの買い物を終える。サクッと出費できるようになったあたり、ダンジョン様様だな。もっとも、その投資もダンジョンで使うのだから元返しみたいなものだが。
やはり今後に備えて【火魔法】を覚えておくべきだったか? 若干の後悔は残る。
何せスキルオーブなんてそうポロポロ落ちるものでもない。ライターでタバコに火をつける代わりに魔法で火をつける。高い燃料費だ。キャバクラやホストクラブの一芸としては面白いだろうが、そっち方面に行ける年齢でも容姿でもない。それに話術も巧みではない。まだ怪しいマジシャンのほうがマシである。
◇◆◇◆◇◆◇
結局何か考えるたびに俺はまたダンジョンの事を考えている。ダンジョン病と言ってもいいだろう。そのぐらい、ここ二週間は密度の高い日々だった。
初めてスライムと戦って、筋肉痛になって、熊手でスライムを狩り始めて、それから……文月さんに初めて会って、スキルオーブを手に入れて、あまり深く考えずに使用して。
それから……装備を一新し二層や三層を巡り、スライムが大繁殖して、四層でちょっと挫けて。それから持ち直して、五層にも行った。気が付けばFランク探索者はDランクになってて。
これから六層から十層までは行けるようになった。この先、ソロでは三層か五層をメインに、文月さんが居るならもっと深くまで潜ってもいい。
もしもそれよりもっと長い時間潜る必要があるなら、パーティーメンバーを探す必要だってあるだろう。オッサンと大学生の二人組が相手でも問題ないような人が居れば、だが。
そう考えると、俺と文月さんは奇跡的な出会いだったんだな。あの時だけのパーティーだったらおれはまだ三層を一人で黙々とクリアするどころか、ずっと一層でスライムを狩り続けるだけの男になっていたかもしれない。
二層のグレイウルフと戦うぐらいはやっていたかもしれないが、ゴブリンとは戦わなかっただろう。一層と二層だけを掃除する潮干狩りおじさんだったはずだ。
仮にスライム大繁殖に立ち会っていたとしても、文月さんにスキルの事がばれることは無かっただろうし、ならば余計に一層と二層の住人として体が動かなくなるまで働き続けた未来もあったかもしれない。
スキルと言えば、ワイルドボアから何故【火魔法】が出たのだろう? ドロップの肉をその場で焼いて食え、とでも言うのか。焚火に向かって自らの身体を投げ出すウサギのようだ。
ダンジョンはまだまだ解らない、知らないことだらけだ。持ち歩くメモ帳も二冊目に入った。大事な部分だけは一冊目から二冊目に書き写し、継ぎ足して使っているような形になる。
その内このメモ帳も完成されていって、マニュアルとして応用が効くようになるかもしれない。これも俺の潮干狩りの方法のように他人に知られて行くようになるのだろうか。それは自分を高値で売りすぎているか。
保管庫スキルについては今のところ極秘だ。はっきり持っていると知っているのも文月さんだけであるし、もしバレているならギルマスからチクリと釘を刺されているだろう。
前に異次元収納・四次元ポケット・空間収納・保管庫・収納庫などいろんなワードでダンジョン情報を検索したことがあったが、欲しいという意見ばかりで実際に持っていると主張するものは居なかった。
仮にいたとしたら既に誰かのパーティーに入っていてパーティー内の秘密として共有されているだろうし、良くてポーター扱い、最悪後ろ暗い仕事の運び屋として重宝されている事だろう。
それに保管庫から取り出すときの速度、向きを設定できることで武器として応用できてしまっている。秒速三百メートルでほぼ無音でいきなり人の頭がい骨を砕くことも可能だ。
大玉を使えば頭ごと吹き飛ばすこともできるだろう。頭の中で強く念じればそれが可能だ。バレたら俺は国家権力の監視対象となるだろう。
少なくとも一部屋分の荷物が丸ごと保管できて、しかも時間が自由にいじれるのだ。色々考えるだけでも面白い。試しに、時間経過を百倍にすることで出来ることを考える。
核物質を入れたら、たとえばセシウム一三七なら半減期が三十年だ。一年間保管庫の肥やしにするだけで半減期を超えて十分の一まで下げることが可能になる。しかもその間被爆の心配は無い。が、少なくとも俺のような一般人が核物質を大量に仕入れることは不可能なのでそんな実験をすることはない。
保管庫スキルは便利だが同時に不便も作り出してくれた。保管庫に慣れすぎると生活がどんどん堕落してしまいそうな気がする。なんせ今購入した生鮮食品やアイスクリーム、冷凍食品なんかも、車に積み込んでるふりをして保管庫に入れてしまっている。溶け始めるまで今までの百倍の時間持ってくれる。
うっかり一時間ぐらい寄り道しても、中ではほんの三十秒ちょいしか経過していない。その間に放出される冷気は何処へ行ったんだろう。
熱力学の法則に反しているのか、その分の吸収されたエネルギーで保管庫スキルが稼働しているのか。物理的な法則を考え出すと一つの研究テーマとなるんだろうが俺にはそっちにあまり興味がない。
なんせ、興味を持って仕組みを解明したところで保管庫スキルを持っていないとその意味を理解されても世の中に普及することは出来ないのだ。知的好奇心は満たされるが、お腹が満たされる研究ではないだろう。
探索しない期間を暫く設けて、そこでテストするしかないだろうがそんな暇があればダンジョンに潜りたいのが俺の心の内だ。
しかしこの間清州ダンジョンに潜ったように保管庫を使わないダンジョンの潜り方にも慣れる必要はある。当然人前では使用できないので常に監視の前に置かれるような状態でもパフォーマンスを保てるようにそっちの意味での経験値を稼いでおくのも課題か。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





