74:はじめてのこうがくとりひき
三百五十万PVありがとうございます。ここまで見て頂いていることに感謝です。
出入り口に戻り退ダン手続きを取る。
何か出る直前にイベントでも発生するかと思ったが、残念ながら(?)そんなことは無かった。
ただ、二人とも心臓バックバクであることはこの際伝えておく。
査定カウンターにすべての物品を渡すと、まず折半であることを伝えて査定を待つ。
その間に文月さんが【火魔法】の相場を調べている模様。表情がころころ変わって見てて面白い。
ボーっと眺めている間に一人当たり五万二千八百三十五円という結果がでてきた。逆算すると、ボア肉は一パック千円、ボア革は一枚四千円ダーククロウの羽根は百グラム当たり九百五十円といったところだろうか。
革は面積分だけの価値はあるらしい。単価を計算すると、ワイルドボアはゴブリンより美味しいらしい。ただ、密度がな。かといって常時体当たりされるような環境も御免被るが。
計算結果を出してもらったところで、査定カウンターに爆弾を投下する。
「実は、これら以外にドロップしたものがありまして」
ドン!! という感じでスキルオーブを出す。
「【火魔法】を習得しますか? Y/N 残り二千七百三十八」
丁度百四十分で帰ってきてたらしい。最速記録かな。
「……オーブですか? 触っても? 」
「オーブです。多分YESって念じちゃうと使ったことになるので気を付けてください」
査定カウンター嬢は恐る恐る手に取る。
「……確認しました。【火魔法】のスキルオーブですね。これをギルドに販売するんですか? 」
「たしか、ギルドには各スキルオーブの購入待ちリストが存在したはずですが」
「えぇと……ちょっと確認しますのでお待ちください。だれかギルマス呼んできて!! 」
後ろに声がかかる。これは初めての経験で戸惑ってる感じか。ということは公式上、初めて小西ダンジョンでドロップした、もしくは取引に出されたスキルオーブになるのかな。
「呼んだかい?」
気さくな感じにギルマスが登場する。
「ギルマス、これ、オーブ、これ、安村さんが、これ」
「落ち着きたまえ。ちょっと失礼するよ」
ギルマスが手慣れた感じでオーブを手にする。
「なるほど【火魔法】のオーブだね。これをギルド間販売に回すという事でいいのかな? 」
「そうしてもらうために持ってきたつもりです」
「自分で使う予定は無いと? 」
「相場によりけり……ですかね。あんまり安いならこの場で使ってしまおうかと」
「なるほどね……こっち側で確認を取るよ。相場の一番高い人が時間切れまでにこっちへ来れるかどうかが解らないが、うまく合致すればいい値段にはなりそうだ」
「お任せします。自分で売りさばくにも伝手が無いもので。それに、税金周りが面倒くさいと思って」
税金申告が面倒くさそうというのは実際の所こっちのほうが理由が大きい。ダンジョン税一本に絞ってくれたほうが後の計算が楽そうだからだ。
「正直ですね。ちなみにこれは一人で? 」
「いえ、あそこで顔芸の練習してる彼女と折半の予定です」
「販売の場合折半で良いんだね? 」
「構いません。手続きのほうを進めていってください」
「解った。しばし会議室で休憩でも取っててください」
ギルマスのお仕事が始まるらしい。颯爽と部屋を後にすると自分の部屋へ籠るようだ。多分ネットと電話でリストの上位から片っ端から当たっていくんだろう。
査定が終わったレシートをもって文月さんのところへ行く。
「物まねの練習は終わった? 」
「どうしましょう、一千万行くかもしれないですよ。そしたら奨学金全額叩きつけて返せますよ。これでもう毎食もやし生活に豆腐が付けられますよ」
「そんな生活してたの? 一千万で買い取る人がみんなダンジョンにこもってたら連絡付かないから、その時は次の順番か次の金額を指定してる人に渡ることになる」
「はへー」
聞いてないな。
「あと、仮に一千万としてダンジョン税が引かれるから手元に来るのは四百五十万でそれに所得税と市民税県民税健康保険税に年金がつくぞ」
「……あぁ、花の命は短いのね」
「現実に戻ってきたか。これ、今日のオーブ以外の取り分。とりあえず受け取っておいで」
「はい……」
ふわふわとした足取りで支払いカウンターへ向かう。本当に大丈夫かなあれ。
そのままふわふわと戻ってきた。大丈夫じゃなさそうだなあれ。
「ギルマスが会議室で待っててほしいってさ。とりあえず俺も換金するからそれから向かおう」
「はい……」
若干フラフラしながら文月さんが近寄ってくる。
「大丈夫? おっぱい揉む? 」
「男のおっぱい揉む趣味は無いです」
「しっかりしてるみたいで何よりだ」
とりあえず無料の天然水を二人分もって会議室に向かう。
隣のギルドマスター室から会話が少し漏れてきている。
「あ~私小西ダンジョンの坂野と申します……えぇ、そうです。【火魔法】スキルが出まして……距離的に無理? 石垣島? ……では、次の人は回しても構わないと? ……解りました……失礼します」
どうやら、一人順番が飛ばされたらしい。石垣島からここなら、最短で……厳しいか? 直行便とか無いのかな。清州で待ち合わせるにしても、航空機使って名古屋までなら三時間ぐらいあれば来れるはずだ。多分他にいけない理由があるんだろう。
「えぇ……清州を借りようかと……そうですか、解りました。では成立という事で……」
どうやら、決まったらしい。それからまたどこかへ電話をかけたようだ。おそらく場所の融通をきかせているんだろう。一通り作業が終わったらしく、ギルドマスターが部屋からでてくる。
「お待たせしました。相手が見つかりましたよ。千百万円で、清州ダンジョンで待ち合わせという事になりました。時間は明日の午後でいかがでしょう? 」
「私は構いませんが、文月さんは? 」
「ひゃ、ひゃい、私もそれで構いません」
金額を聞いて更にびっくりしたんだろう。目が泳ぎっぱなしだ。
「大分緊張してらっしゃいますね」
「まぁ、金額が金額ですからねえ」
「その点安村さんは妙に落ち着いてるというか、高額取引に慣れてるような感じに見えますが」
不審に思われたか?まぁ、何億の価値が付くか解らないスキル持ってるからな。今更一千万で……実弾で持ってると考えるとやはりちょっとビビるか。
「一応四十年生きてますから、それなりの金額には慣れています。とはいえ、税引きで一人四百九十五万円ですか」
「えぇ、私の年収より多く稼がれてますな」
「その具体的な金額言うのやめましょう」
この人相変わらずフランクだな。
「明日、振込先の銀行を教えてもらっても良いですか」
「解りました、準備しておきます」
「準備しておきます! 」
ビシッと敬礼する。
「これは私からのご忠告ですが、スキルオーブをドロップしたことはあまり大っぴらに話さないほうがよろしいですよ。金持ってると判断されてダンジョン内でカツアゲに会う方も居ますから」
「……」
「まぁ、カツアゲするような輩もうろつかないのがこの小西ダンジョンですけどね、あっはっは」
「笑ってていいんですかそこ」
やっぱ軽いなこの人。まぁその分どこか安心できるんだが。
「それと、文月……芽生さんでよろしかったかな」
「はい、文月芽生です」
「文月芽生さん、あなたを現時刻をもってDランク探索者に認定します。おめでとうございます。一階で手続きを行ってください」
「え、急にですか?」
「よかったね、文月さん」
「えぇ、ありがとうございます……でもいいんですか急に」
「部外秘ですが、スキルオーブドロップするような運のいい人はどんどん深く潜らせてやってもいいという方針がありまして。スキルオーブ拾った時点でDランクが決まってるようなもんなんですよ」
俺は耳を閉じるふりをした。
「部外者ですけど聞かなかったことにします」
「えぇ、ですのでこれは私の独り言です」
「同じく部外者ですけど有り難くDランク到達をお受けします」
素直に受け取るようだ。これで十層まで二人で潜れるな。
「それは良かった。これからも頑張ってください。では、【火魔法】のオーブはこちらで間違いなく受領いたします。明日当日、清州ダンジョンの二階会議室を借りる予定ですので、清州ダンジョンギルドの一階の支払いカウンターの前で待ち合わせしましょう。時刻は……十三時ぐらいがいいでしょうかね」
「「じゃぁそれで」」
「本日はありがとうございました。これで今月のノルマも無事達成できましたよははは」
ギルドマスターは終始嬉しそうだった。おそらくだが初めての黒字なんだろう。貢献できて何よりだ。
二人で一階に戻ってくる。文月さんは探索者証の更新をして、無事Dランクになった。
「夕飯何食べようかな~どっか食べに行く? 」
「そうですね……やっぱりあの中華屋行きます?この辺そこしかありませんし」
「ちなみに交換しなかった分としてこれがある」
と、あえて交換しなかったボア肉とウルフ肉を出す。
「中華屋の親父に預けたらうまい飯になって帰ってくると思わない?」
「思う! 思う! 」
「んじゃ夕飯は中華に決定! ちょっと早いけど行っちゃいますか! 」
「おー」
完全に元に戻ったようだ。足の震えも顔芸も元に戻っている。これなら心配ないかな?
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