65:小西ダンジョンに戻る。やはり収入は大事
朝だ。昨日は色々と学ぶことが多かった。
何より一番勉強になったのは、前日に多目に夕食を買い込んでおけば、次の日の朝食がちょっと豪華になるという事だ。
いつも通りパンを二枚焼くが、バターは塗らないでおく。
昨日のうちにスーパーで購入しておいた量り売りの総菜を焼いたパンにはさむだけだ。
アメリカが発明した最高の食べ物の内の一つと言われる、トーストしたパンがさらにもう一ランク上がってゴージャスになり味わいも深くなる。
いつもの目玉焼きにマヨネーズ和えしたごぼうが乗ってるだけでなんだか今日の朝食が豪華になったような気がするぜ。あとはトマジューでも飲んでおけば栄養バランスは多分OKだろう。
今日は小西ダンジョンへ行く。できれば四層へ行ってみる。その前に三層でちょっと稼ぐ。
この三本立てで行こうと思う。
いきなり四層に行ってボコボコにされて泣いて帰ってくるのはごめんだ。泣いて帰ってくることすらできないかもしれないが。なので保険兼準備運動として三層で少し稼ぐのだ。ポーションが出るまで狩れば保険としてもう一本持っておけるしな。
出かける前にネットニュースを見る。どうやらスライム騒ぎを起こしたあの御仁、ついに見つかったらしい。ただ、スライムの増殖法については黙秘してるんだとか。多分論文書き終わるまでは話さないんだろうが、問題は何の罪でしょっぴかれたんだろうか。営業妨害かな。
スライム増やしたらむしろ営業活動が捗るんじゃないか派と、スライム増やして道ふさぐのは立派な営業妨害だろう派が言い合っているが、俺としてはどっちでもいい。増えてれば潮干狩りするだけだ。
ただ、深く潜りたい人にとっては確かに邪魔だろう。あの光景は一種のホラーでもあるし。なんといったか、ブツブツが一杯見えてるのに恐怖感を覚える奴、集合体恐怖症だったか。そういうものが苦手な人にとってはただの苦痛だろう。
◇◆◇◆◇◆◇
今日は小西ダンジョンなので保管庫スキルもフル稼働させていく。真のフル稼働はできないが。
と、中身を入れたり出したりしているときにようやく気付いたことがある。
リストの中身をまとめて出せるようになっているのだ。これはあれか、スキルの成長か何かか?
試しにこち亀でやってみるが、一巻から二十巻まで、と念じることでまとめてリストから現実に出現させることが出来た。前は一個ずつしかできなかったはずなので、スキルの使いこなし具合が上がっている。
ということは、パチンコ玉を一気に複数個出してまるでショットガンのようにぶっ放せるようになったという事だ。これからの探索ライフが一つ便利になったという事か。
……ちょっと試してから出かけることにしよう。
トースターの電源を抜いて食パンを差し込む。そしてトースターを収納する。
トースター(食パン二枚) x一
そのままトースターを出現させる。トースターには食パンが挟まったまま出てきた。
これは以前、小麦粉をラップで包んで入れたり出したりした現象と同じことだな。これだと参考にならないな。他の手を考えよう。
もう一度トースターを収納する。そして、トースターの中の食パンだけを取り出すイメージをして取り出した。俺の手の中にはまだ焼いてない食パンがあった。
そして、保管庫の中には
トースター(食パン一枚) x一
ちゃんと食パンが減っていた。つまり、中身だけ取り出せるようになった、もしくは以前からなっていた事になる。これは新しい気付きだ。
この辺は検証してなかったな。今思い付く範囲でやれることは……生卵の黄身だけを取り出すとか。
急には思い付かないな。思いついたらメモっておこう。生卵を試すなら明日の朝だな。
◇◆◇◆◇◆◇
気を取り直して家を出た。通勤中はできるだけスキルの事を考えないようにしている。
迂闊に頭の中で収納とかイメージして目の前の物が消えたりしないようにという配慮からだ。
なので考え事をするのはダンジョンの中か自宅と決めている。
じゃぁその間何をするかと言えば、二度寝だ。
うっかりバスで一停留所を乗り越してしまった。おかげでいつもより二十分ほど余分に歩いてダンジョンへ着いた。そのおかげで、道中に在ったコンビニで暖かい昼飯を手に入れることが出来たわけだが。
小西ダンジョンは相変わらず閑散としている。昨日の清州ダンジョンと比べてはいけないと思うが、それにしても人いなさすぎである。おかげで稼げるけどな。
入ダン手続きを済ませてダンジョンに入る。
「今日はスライムですか?ゴブリンですか?」
「ゴブリンの予定です。少し早めに帰ってくる可能性がありますが」
「四層へ行かれるんですか?」
「その予定……いや行きます」
「十分注意してくださいね」
「行ってきます」
行ってまいります。一層を普通に歩いて抜けていく。スライムの数はいつも通りの数だな。道中で会う分だけ狩っていこう。溜まってたらその時は潮干狩りだ。
溜まってたわ。ふと横道を覗いてしまったのがスライムの運の尽きだ。俺は笑顔で横道に突撃する。
この熊手を真面目に使うのも久しぶりの気がする。
「ざっくりざっくりざっくざく~ざっくざく~」
スライムがあっという間に溶けてなくなっていく。期待値は十円にしかならないが、この速度で殲滅できるのは気持ちがいい。ざっくりと百匹ぐらい潰したかな。さぁドロップを拾ってから本道に戻って二層へ行こう。
二層への階段に着いた。清州ダンジョンではここで休憩している人がかなりの数がいたが、今は人間よりうろついてるスライムの数のほうが多い。日課のようにスライムを掃除し終わると熊手をしまいグラディウスと盾を出して二層への階段を降りることにした。
二層にも人の姿は見当たらない。やはりこうでなくては小西ダンジョンではない。そのまま三層へ向かう。道すがらにモンスターがポップしているという事は、しばらく人が通っていない証拠である。
グレイウルフがこちらへ駆け寄ってくる。会いたかったぜと言わんばかりである。俺も笑顔でグラディウスを振りぬき、愛情表現に応える。グレイウルフの顎を下から上にかけて真っ直ぐ斬り上げる。そのまま黒い粒子になって消え去ってしまった。さようなら友よ。
そのまま三層までの道を進む。時々グレイウルフがじゃれついてくるが、一刀のもとに消滅してもらう。
俺の目的は三層以降だ。道中出てくるワンコたちには犠牲になってもらう。気が変わってちょっと横道にもそれてみると、大体そこに一~二匹連れで出て来てくれるので、ウルフ肉をドロップするのを期待して順番に処理していく。
ウルフ肉が二パック出るぐらいに横道での作業を終えると、今度こそ三層へ向かう。真っ直ぐ行くと言いながらついつい横道に逸れてしまうのはクセみたいなものだ。このウルフ肉は夕飯にしてしまおう。
シンプルに焼くだけでも美味しいらしいので、焼肉のたれをつけてウルフ肉のカルビ焼き、みたいな感じにするかな。
三層までの道すがらグレイウルフを討伐し、スライムが溜まって居そうなところはスライムを屠り去る。なんだかんだでそこそこの戦果になったぞ。三層までにどれだけドロップが出るかな。
三層の階段にようやくたどり着いた。なんだかんだ寄り道をしているから予定よりは時間がかかっているが、その分のドロップは確保できた。数を数えるのは後にしよう。今は三層に向かうのを優先だ。
珍しく休憩している人がいる。あの顔は見覚えがある。
「たしか小寺さんでしたよね」
「あぁ、安村さんじゃないですか。スライム狩りですか?」
「いえ、今日は四層にチャレンジしようかと思いまして」
「装備一新されたんですね」
「ええ、一度四層に挑んでみたんですが、装備が心もとないことが解りましたんで、装備を換えてリベンジですよ」
「その装備ならきっと大丈夫でしょう。一応そのツナギ、防刃ですよね?」
「ええ、ソードゴブリンに斬られるとまずいと思いまして。ついでに武器も換えましたよ」
「油断するとあちこちダメージを受けますから気を付けてくださいね」
やはりソードゴブリンは初心者脱出の壁らしい。だから三層で足踏みしてる人も多いらしい。
「ご健闘を祈ります」
「ありがとうございます。そちらは休憩ですか?」
「えぇ、休憩した後三層に潜る予定です」
「ならそこまでは一緒に行きますか?」
「それもいいかもしれませんね。ご一緒しても?」
「構いませんよ。三層はゴブリンも多く出ますからね」
「ポーション狙いで?」
「一個は確保したいと思います。戦闘中にうっかり怪我することもありますから」
「気を付けていきましょう。ドロップ分配はどうします?」
「お互い倒したものを取得とするのでいかがでしょう」
「じゃあそれで行きましょうか」
他人の狩り方を参考にさせてもらうチャンスだ。ぜひ同行させてもらおう。
「もうちょい休憩したら出かけますか」
「では、ここらで私も休憩ですね」
適切な休憩は大事。古事記にもそう書かれている。
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