60:明日の予定
家に帰る前コンビニで預金をしておく。さすがに十万近い金を持ち歩く度胸を俺は持ち合わせていない。
財布には三万ほど残しておけばいいだろう。バスを経由して電車を降りて徒歩五分ほどのコンビニで無事に預け入れる。幾ら探索者とは言え、カツアゲに遭遇しないとも限らないからな。
現実にステータスが反映されるならカツアゲする側も探索者くずれになるんだろうが、そんなとこでカツアゲするぐらいならダンジョン潜ったほうが利益になるだろう。俺より強い探索者なんてわんさか居るんだろうし、その気になればパンチ一発で銀行の金庫だって破壊できそうなものだ。
金持ち喧嘩せず、と言ったところかな。探索者による犯罪って話をあまり聞かないのは所謂ステータスというものが反映されるのは今のところダンジョンの中だけという事の証明なのかもしれない。
バッグの重みを確かに感じながら手数料を取られるギリギリの時間に預金は無事終わった。
その足で近くのスーパーへ寄る。ここには期限ぎりぎりの回らないお寿司も半額の札が張られた中華丼もあるが、今日は豪勢に赤野菜を焼いて食うのだ。帰って早めに眠りたいのが本当のところだが、夕食はきちんと摂りたい。
何喰うかな。総菜も数多く売られているから悩む方向性が増える。やはり肉物は外せないが、最近あまり野菜を摂ってない。赤野菜と緑野菜のバランスは大切にしたいが赤野菜の魔力には勝てないからな。
結局、緑野菜は赤野菜にバランスで敗北し、シャキシャキ緑サラダのパックだけとなった。赤野菜こと肉はローストビーフに決まる。となればほしいのは米だな。
普段家で米を食わないので在庫はゼロだ。レンジで温めるタイプの奴を買い足す。もし余ったらその分は翌日の朝食に回そう。後はネットを見ながら食べるポテトチップスを数点、それと炭酸飲料を少し。
全部で二千円ちょいの会計になった。夕食だけにしてはちょっと豪勢になったが、まぁいいだろう。
意気揚々と自宅へ帰り、手早く夕食を並べてしまう。一応冷蔵庫に少量の野菜が残っているので、それも刻んで食べてしまおう。いただきます。
さっそくローストビーフをいただこう。赤野菜で緑野菜を巻いて、口の中に入れる。これで栄養バランスは十分だな。すりおろされた玉葱の入ったタレがアクセントとなり、いくらでも入っていく感じだ。
食はどんどん進む。米を二パック買っておいてよかった。肉に対して米が足りなくなってしまうところだった。途中で肉が無くなってしまったので、余ったタレを米にかけて食う。これもまた美味し。
結構買ったつもりだったがあっという間になくなってしまった。もう一つ大きいサイズのローストビーフでも良かったか?
◇◆◇◆◇◆◇
風呂に入りながらボーっと考え事をする。一日精を出して九万の利益を得た。一日おきにダンジョンへ行くとしても、月間で百三十万円ほど稼いでしまえる事になる。一年間続けたとして年収千五百万だ。
税金でいくら持っていかれるかは解らないが、明らかに以前までに比べて段違いに増えた。生活に掛かる金額が今までと変わらないとすれば、四倍以上の収入だ。命の懸け金として千五百万円が多いのか少ないのかは判断できないが、大木君みたいに怪我した時には収入は一時的に落ちるだろうし、体を欠損したという事態になれば欠損を克服するまでの間の収入はゼロになる。
今日までにいくら稼いだか……多分二十五万ほどかな。約二週間で二十五万円。月にすると五十万円。失業手当より多いじゃないか。最初の三日ぐらいは毎日スライムとだけ格闘してれば最低時給分よりちょっと多いぐらいだから十分じゃないか?と思っていたのが嘘のようだ。
正味八時間、通勤時間も含めれば十時間で十万円。時給一万円か。なんでも時給換算してしまうのはあまりよくないが、指標としては解りやすい。時給一万円で命を張る仕事、と言えば聞こえがよくなるのか。
多分世の中ではまだ、所詮探索者といった具合であろうが、今後はもっと人が増えるだろう。そうすればダンジョンはより混雑し、モンスターと遭遇する割合は減るだろう。
今は過疎ダンジョンの代名詞となっている小西ダンジョンだが、もっと人が増える理由が発生するかもしれない。たとえば近隣ダンジョンが混み過ぎでまともに稼げないとか。そうなった時は俺の収入も当然減ることになる。過疎ダンジョン故の先行者利益みたいなものに与っている部分が大きいのかもしれない。
やはり、今度清州ダンジョンに潜ってみるか。違いや新しい知見に遭遇しておくことは悪い事じゃないし、もし清州ダンジョンにこの間のスライム騒ぎみたいなことが発生すれば、小西ダンジョンからの援軍として助力できる可能性だってある。そういう保険もかけておくべきだな。ただ、清州ダンジョンは人が多すぎて保管庫スキルを隠すには向かない。あまり大手を振って稼ぎに行くことはできないだろう。
そういえば、大量ドロップの持ち帰りも移動の楽さも、スキル頼みなんだよな。ある程度は「普通の探索者」としてのスキルを身につけなきゃいけないな。そのために清州ダンジョンへ行くか。
思ったら行動だ。明日にでも早速向かってみよう。そのためには荷物の厳選から始めなきゃいけないな。
マチェットはこの際使わずにグラディウスと盾を表に出したまま行動だ。バッグの中身はカロリーバー二パックと水二リットル、それにコップと粉ジュース。それと排泄用品。熊手はカラビナにつけて腰にぶら下げておこう。これは俺のアイデンティティーだから外すことは許されざる。
これが最低限の装備になる。後は保険としてヒールポーションをバッグに入れておく。割れないように注意しないとな。バッグの中身はグラディウスと盾を取り出せば全体の二割位しか使わないので、ドロップをある程度以上持ち帰ることはできるぞ。
遠距離攻撃手段であるパチンコ玉も使わない。というか使えない。ばらまいて相手を転ばせるなんて事も出来なくはないが、そんな為だけに数十個腰にぶら下げていくのは只のハンデにしかならない。
帰りの荷物の重さがどうなるかを考えつつ、風呂から上がった。
◇◆◇◆◇◆◇
ネットで清州ダンジョンについて調べる。
東海道新幹線とJR東海道線のすぐ脇にある清州城公園にできたのが清州ダンジョンだ。最寄駅から徒歩十分ほどである。ダンジョンを完全攻略したという情報はないが、少なくとも十五層までは判明している。利便の良さから探索は非常に速いペースで進んでおり、出現するモンスターなどの情報は十五層までは公開されている。
十五層にはいわゆるボス部屋が存在していることまで判明している。全階層が一般に開放されており、もっぱら利用者も民間探索者となっている。七層にはモンスターが出現しないセーフエリアが存在し、そこで一泊しながら奥を目指すというのが八層以降攻略の基本戦術らしい。
ちなみにホームタウンの小西ダンジョンだが、十層まで潜ったところで探索が打ち切られていた。理由はよく解らないが、近くに宿泊が出来るところも無ければ交通の便も悪いので異常事態が無い限り放置しても問題ないダンジョンだと判断されたようだ。詳しく紹介されているサイトも一件しかなく、そこでも絶望的に交通の便が悪いと最低評価をもらっている。
清州に向かうなら車で行けるな。たまには乗らないと運転技術が鈍ってしまう。
文月さんに一応連絡を入れておく。
「明日清州車で行く。小西にはいない」レインでメッセージを伝えた。
しばらくして「講義だからごゆっくり」と返事が来た。
これで、お互い探し回ることも無いだろう。さぁ、忘れそうだから清州の事を考えながら寝よう。
明日は清州明日は清州明日は清州明日は清州明日は清州……
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