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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第一章:四十代から入れるダンジョン

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45:激闘と身バレ

 

 side:入ダン受付嬢


 潮干狩りおじさんこと、安村さんのスライム駆除が始まった。


 彼の前に幾人か同じようにスライムを駆除して奥へ入ろうとした人がいたが、駆除しても駆除しても遅々として進まず、どこまでスライムが詰まってしまっているのか解らないほどだった。


 やがて十分もするとあきらめたのか、退ダン手続きをして帰って行ってしまった。


 このままスライムが詰まったままだとギルドの運営を疑われるのと同時に、他のダンジョンの探索者に対して救援を出さなければいけない状態であると考えられる。


 小西ダンジョンギルド長でもある上司の課長は起こっていることを理解すると、すぐに近隣のダンジョンに人員の手配をかけているようだが、最も近い清州のダンジョンですら一時間半はかかる。その間にこれが爆発するとそれこそ一大事だ。


 彼のスライム対策にすべてが懸かっている。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 まず一匹、胸の高さに詰まっているスライムに熊手を突き刺して核を取り出す。ポロっと出た核を踏みつぶして確実に一匹目を消す。すると、奥から待ってましたというように新しいスライムがミチッと現れた。


 この密度ならしばらく足曲げたり腰を下ろしたりせずに駆除できそうだな。


 早速ペースを上げて対処し始める。いつも通りグッと押さえつける必要は無い。スライムが自ら他のスライムに押さえつけられているため、こっちがやる作業は核をポロっとだしてグッと踏むだけだ。


 プツッ、コロン、パン。プツッ、コロン、パン。プツッ、コロン、パン。

 プツッ、コロン、パン。プツッ、コロン、パン。プツッ、コロン、パン。


 いつもの三倍以上のペースでスライムを潰していく。時々ドロップが出るが、それを拾う時間が惜しい。

 とりあえず核を踏むための足元だけスペースを開けると、ドロップ品とスライムの間に俺は陣取り只管スライムを駆除し続ける。移動しなくてもいいのはとても楽でいい。


 二百匹ほど処理したところで、一呼吸。スライムの密度は相変わらずだ。これは思ったよりもいけるかもしれない。

 まだまだ頭の上までスライムに覆われている。今にも倒れてきそうなスライムの壁に対して、俺はただひたすらに熊手をふるい続ける。


「安村さんやっほー」

「あれ、文月さん来たんだ」


 手足を一切止めずに作業をしていく。


「ちょっと頼みたいことあんだけどさ」

「ドロップなら回収するけど、いくらくれる?」

「うーん、へとへとになるまでやってどれだけやれたか金額を見てからってのはダメ?」

「何なら私も潮干狩りやろうか?」

「せっかくだし己の限界にチャレンジしてみたいんだよね」


 確かにダンジョン的にも他のみんなとしても、早くスライムを駆除してほしいとは思っているだろうが、これは俺の能力を最大限まで試すチャンスでもあるから一人でやらせてほしいという我儘が入り混じっている。


 だがドロップがそろそろ邪魔になってきている。俺の膝ぐらいまでスライムゼリーに覆われそうだ。ここは彼女の意見に乗ろう。


「とりあえず、数えて職員さんに渡す役やってもらっていいかな?」

「報酬は後回しかー。まぁいいや、それだけ信頼してくれてるってことでしょ?」


 上目遣いにこちらを見るが、俺はそちらを見る余裕がない。この会話の間も手足は止まることなくスライムから核をはぎ取り核を踏みつぶしているのだ。ガン見したいところが本音である。


「そう、そう。信頼してる信頼してる。君にしか頼めないからさ」

「解った、後でよろしく」


 そうすると文月さんは邪魔にならないところからドロップのスライムゼリーと魔結晶をせこせこ俺のバッグに入れ始めた。


「入りきらなくなったら一旦査定カウンターに持っていくからね」

「それでよろしく。査定カウンターのほうどうせ暇だろうし、ゆっくり数でも数えてもらおう」


 そのうちにゴロンとでかいドロップが出た。おそらくヒールポーションランク1だろう。


「おー、スライムってヒールポーション出すんだ。初めて知った」

「俺は二回目かな。最初出した時は信じてもらえなくてさ」

「これで一万か。稼いでるねー」

「全くだよ。今日は大漁だぞー」

「おー」


 話す相手が居るというのは気分を楽にしてくれるもので、目と手足さえ動いてくれれば心は自由に飛び立てる翼を手に入れた俺にはその間に会話を楽しむ余裕もある。

 おかげでスライム何匹倒したかサッパリ数が解らなくなってしまった。後でドロップ量から逆算することにしよう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 side:文月


 ツナギを着たおじさんがタップダンスをしながら汗やらゼリーやら魔結晶を垂れ流している。


 一言で目の前の状況を語るとそうなる。どうやら昨日からスライムの大繁殖が発生したらしく、昨日の夕方も安村さんは巻き込まれてスライムを大量に虐殺したらしい。本人にはいつもの事なんだろうが、私から見てもこの速さは異常としか言い様がない。


 十秒に一個ぐらいのペースで何かしらのアイテムドロップが発生するので、私はそれを拾う係に任命された。正直なところを言えばとっても楽だ。安村さんと軽口を叩きあいながらバッグに出たドロップ品を詰め込んでいく。


 最初は空っぽだったこの大きなバッグも段々と物が積みあがっていき、30分も経てばカバン一杯のアイテムがそこを埋め尽くす。離れるときに一声かけて私は一度査定カウンターに持っていくことにした。


「すいませーん、そこで戦ってる安村の身内のものですが」

「あぁ、アイテム代わりに集めてくださってるんですね。お手伝いご苦労様です」

「いえいえ、頑張って駆除してもらわないと私たちも入れませんから……というわけで、ちょくちょくこっちへ買い取り品持ってくるんで、その度に査定のほうお願いします」

「助かります。全部終わった後まとめて持ってこられると今日中に帰れるかどうか不安な量でしたので」

「じゃあまとめてドバっと出していくんで、査定のほうお願いしますね。料金は全部安村さんにツケといてください」

「解りました」


 一旦中身を空にする。そして空っぽになったバッグを背負って私は再び安村さんのところへ……


 ……空っぽのバッグ?

 あれ、安村さん、マチェットとかご飯とかどこに入れてるんだろう。それに小盾も持ってたはず……


 あの人レンタルロッカーも使わない人だったよね……


 ……どういうこと?



 ◇◆◇◆◇◆◇




 スライムの壁からの圧力が少しずつ薄れていく。どうやらみつしりからミッチリぐらいまでは量を減らす事に成功したようだ。さすがに疲れてきた。首を振って一呼吸し、休憩する。


 二時間ぐらいぶっ続けだったかな。時計を見ると丁度二時間ぐらい狩りつづけたらしい。

 周りを見ると、ひたすら見守ってくれていた入退ダン担当の職員さんと、もう一人動画撮影してる人を見かけた。後で出演料請求しないとな。俺の技の値段はソコソコだぜ。


 体力は……うん、まだ続くな。とりあえず昼まではもつだろう。もう一度集中する。


「ねぇ、安村さん」


 文月さんが査定カウンターにドロップ品を出してきてくれたのか、空っぽのバッグ片手に訊ねてくる。


「どしたの?」

「バッグ空っぽになるまで査定カウンターに出してきたよ」

「うん。ありがとう。もう少し、二時間ぐらい引き続きよろしく」

「それは良いんだけど……聞いていい?」

「何?足なら痛いよ」

「……バッグの中身どこ?」

「バッグの中身?」

「うん、いつも持ってる、マチェットとか、お水とか、ご飯とか」


 ……あっ……


 バレ、た?


 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ集中しすぎてうっかりしてた。これは如何にかしてごまかすかそれとも正直に話してしまうかでも正直に話してそれが広まったときの俺の命の価値は一体いくらになってしまうのかそれこそスライム十五円とか考えてる場合じゃなく俺の命どころか人生がデンジャーでゾーンなことになってしまう。どうするどうするどうする……


 今更になってロッカーに預けてたとか言い出しても他のみんなはロッカーに立ち寄ってない事を知ってるし、話を詰め寄られたら面倒くさいことになるな。他に何かいい方法は……無いな。思いつかない。バレたことは仕方ない。


「……」

「後でもいい……教えてくれる?」


 首をかしげながら文月さんが訊ねてくる。よし、覚悟を決めたぞ。


「……スライム駆除が先、話は後、それでいい?」

「約束ね」

「約束する」

「わかった。じゃあもう聞かない。スライム駆除続けよ」

「うん」


 保管庫の秘密を話すことにした。こうなったら彼女にもこのクソ重たい可能性が非常に高い可燃性の爆弾の処理班として黄泉路へ一緒にわたってもらう事にしよう。苦情は後で聞こう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 その後しばらく無言の時間が流れるかと思ったが、彼女は頭の切り替えが早いらしい。すぐにいつもの調子に戻るとアイテムドロップを拾い始めた。傍から見れば餅つきしてるように見えるかもしれない。


 俺が足でついて、彼女が出たドロップを拾う。

 ぺったんぺったんぺったんたん。


 さらにしばらく経過すると、スライムの圧力が弱まってきたのか、天井が見え始めた。


「天井見えてきた!」

「という事はそろそろ壁が見えるかな」

「どうだろう。これが奥まで続いてるかどうかまでは解らないし」

「もうしばらく潮干狩りしないとね。あ、四回目行ってくるね」


 文月さんは四回目の査定カウンターへ行った。


 あのバッグに四往復ってことは四万は堅いな。半分文月さんに渡すことになったとしてもここまでで二万か。このまま丸一日やらせてもらえればしばらくダンジョン来なくても生活できるな?


 ◇◆◇◆◇◆◇


 胸の高さまで詰まってたスライムも段々高さが下がっていき、足の踏み場もない、という表現に近い程度に数が減り始めた。


 こうなると一匹当たりの時間が余分にかかり始める。リアルタイムアタックもここまでかな?そう思うと途端に疲れが俺を襲い始めた。さすがに休憩が欲しい。


「すいません清州から来ました!スライムがあふれてるって話は本当ですか?」


 後ろで声が聞こえる。どうやら援軍が来てくれたらしい。


「来ましたか!数は減らしたんですがまだまだ多すぎて人手が欲しかったんです!」


 職員がそう答える。四人ほどの援軍は俺のほうへ来た。


「あなた一人でやってたんですか?って熊手?」

「一人のほうが早かったんで。ちょうど一休みしたかったので代わってもらっていいですか」

「それは構いませんが……え、熊手?」


 みんなそんなに熊手が好きなのか?俺にとってはマストアイテムなんだが。


「要ります?熊手」

「いや、自分たちの武器があるんで大丈夫っす」

「じゃあ、お願いしますね」


 そう断ると俺は出入り口を離れた。とりあえずここまでだな。


 文月さんが帰ってくるのを見ると、自分のドロップ分を全部回収して二人で再び査定カウンターへ戻った。


 援軍も来たし、俺はゆっくり休ませてもらおう。もっとも、文月さんがゆっくりさせてくれない爆弾を抱えたままなのだが。


作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
いつでも冷静な判断くだせる方が多いんだね! いっぱいいっぱいやとそうも、、、
[気になる点] 他の人にも散々言われてるけどこの話の流れは不自然だし萎えますね
[一言] どう考えても両手に短めのマチェットをもって核gと真っ二つにした方が早いと思った。 それができるだけの実力は既にあるでしょうから。
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