41:たまにやる宴会は楽しいけど、酒入ると何やってたか結局覚えてないことが多い
本日は二回更新する予定です
なんとか出口にたどり着けた。
さすがの俺も疲れたぞ。一体何匹のスライムを処理したことになったんだろう。ドロップの数から判断するか。手元にあるだけで……ゼリーが二百はかたいな。
他のみんなもそれぞれ回収しながらの戦いだったので全員分だともっとあるだろう。
時間効率はかなり良かったはずだ、報酬は期待できそうだな。
出口で受付嬢に異常事態を報告する。
「二層への階段付近にスライムが大繁殖してました。多分四桁ぐらいいたと思います。五人がかりでなんとか突破してきました。注意したほうがいいと思います」
「解りました。詳しい話を聞きますので中まで来てもらっていいですか?」
「構いません。それで、ドロップの量も異常な数になっているんですが、査定カウンターに提出してからでいいですか?」
「そのほうがスムーズに済むと思いますのでそうしてください」
参加者全員がプレハブギルドのほうに移動すると、最初に遭遇したという理由で俺は会議室に通された。あったんだなそんな部屋。
暫く待つと、今まであったことがないギルド職員が姿を見せる。
「お待たせしました。一層でスライムの異常繁殖が発生したとの報告を受けましたが、真実ですか?」
「はい。先ほど査定カウンターに提出したドロップの量を確認して頂ければわかると思いますが。昼頃までは特に変化はなかったので、その後に大発生したのだと思います」
「では、直接大繁殖の瞬間を見た訳ではないと」
「そうですね、二層と一層をちょっとした理由で往復した後で増えてたので、時間的にはそのぐらいだったと思います」
俺は知ってることをありのまま報告する。
「原因は何なんでしょうね」
「確定ではありませんが、原因らしい事象を見かけたとは思います」
「それはどんな事象でしょう」
「一層と二層の階段あたりで、スライムに色々と検証をしてた人が居ました。研究者を名乗っていて、スライムに対して物を食わせたりスライムの増殖法を確立してみようとしているとか、そんな説明を受けました。可能性があるならおそらくその人かと」
「名前などは……まぁ普通は解らないでしょうね」
ダンジョンは出入りする際に探索者証を提示する義務があったはず。そこから個人を割り出せるんじゃないかと思い、それを尋ねてみる。
「ダンジョンの出入り記録から照会することはできないんですか?」
「そこは調べてみる必要はありそうですね。あなた方より先に入退出した人を洗ってみましょう」
「その辺はお任せします。もしかしたら明日にかけてもまだ増えている可能性があるかもしれないですが、二層からの道はあらかた綺麗にしてきたのでとりあえず今は何とかなると思います」
「……ご報告ありがとうございました。情報提供料としてギルドからいくらかの褒賞が出るので、支払いカウンターでお受け取りください」
「解りました、では失礼します」
会議室を出ると、先ほど共闘した仲間たちが俺を待ってくれていた。
査定を待つ間にお互い自己紹介をした。それぞれ大木、中橋、小寺、野村というらしい。
熊手を貸したのが野村君だ。一番腰にダメージを受けている。
「話し合いは終わったみたいですね」
「えぇ、情報提供料として皆さんにも金一封が多少出るそうですから受け取って帰ってくださいとのことです」
「やった、苦労した甲斐があったぜ」
「あんなにスライム狩ったの初めてだな」
「あ、おじさん熊手返しますね」
「量が量だから査定は時間かかりそうだねえ。まぁ話でもしながらのんびり待ちましょう」
三十分ほどたって査定は終わったようだ。どうやら支払いカウンター嬢を巻き込んで一生懸命数えていたらしい。涙ぐましい職員の努力に頭が下がる。
◇◆◇◆◇◆◇
大発生したスライムだけをとりあえず査定してもらった。成果は等分することでお互いの了承を得た。
一番スライムを退治してたのは明らかに俺だったが、一人ではここまで脱出できなかったことを考えると、他の人たちの努力の成果も同量に認めるべきだ、という俺の一言で納得してくれた。
情報提供料も含めて一人頭九千円弱になった。短時間でかなり稼げたとみんなほくほく顔だ。
ややこしいから俺個人の分は後日提出することにしよう。
そして俺たちは戦友としてともに夕食を食べに出かけた。あの中華屋だ。
時刻はまだ十七時だが、店は開いていた。五人で思い思いの物を注文し、皆で食べる。
そういえば多人数で食事するのも久しぶりか。前職時代も一人飯が基本だったからなんだか新鮮だ。
この間納品したウルフ肉は好評ですぐ売り切れたため、今日は扱ってないらしい。俺は天津飯定食にした。自分で作るのはちょっと手間だから普段食べない物を食べることにする。
「兄ちゃん今日は多人数で来たな。パーティーでも組んだのかい」
「いや、まぁそんなようなもんだよ。今日は稼いだから優雅に外食にしようと思って」
バッグの中にウルフ肉がまだ入っているが、これは俺が一人で楽しみたいので買い取りの話は出さないことにした。爺さんが調理したほうが美味いのは間違いないはずだが、たまには自分の料理の腕を信じたいこともある。
しこたま食べて飲んではしゃいだ。そして当たり前のように今日のスライムの話になり、潮干狩りおじさんと呼ばれている理由なんかも聞くことが出来た。このダンジョンで二つ名を持っている人は珍しいらしく、特別扱いされるわけではないがちょっとだけ英雄視されるらしい。
「そうか、俺は人様の役に立ってるのか」
「そうだとも、おじさんのおかげでスムーズに下層に潜れるんだから俺たちは感謝でいっぱいさ」
「おじさんはなんでそんなにスライムを狩り続けてるんだ?スライムに兄弟を殺されたりしたのか?」
「なんで熊手でスライムという事を思いついたのか」
「おじさんレインやってる?どこ住み?彼氏いる?」
様々な質問を受ける。一人変な質問が混じってるがレインはやってないと答えると少し残念そうだった。一体俺から何の情報を得ようとしているのか。
「なんでスライムを……か。性にあってるからかもしれない。探索者になる前はライン工やっててさ、ひたすらラインに流れてくるものを決まった手順で決まった形に加工して次へ回すって仕事だったんだ。スライムの倒し方ってそれに似てるんだって思ってさ。もしかしたら前職に未練があったのかもしれないけど、今はスライム倒す事が仕事の代わりになってるのかもしれない」
「スライム以外を倒したことはあるんだろう?もっと深く潜ろうとかは思わないのか?」
「三層までは一人じゃないが潜ったことがある。段々出てくるモンスターが増えてくるからちょっとワクワクしてる。五層までは地図があるけど、六層以降は俺にとっては完全に未知の領域だからな」
「五層になると空があるんだぜ。不思議だろ?ダンジョンに空だ」
空があるのか、そりゃ見てみたいな。というかダンジョンの中で空ってどういう現象なんだ?
「鳥も飛んでるんだぜ?しかも近づいてフンを落としてくるんだ」
「ありゃ面倒くさい相手だよな。滅多に地上に足を下さないし、他のモンスターと戦ってる間でも気にせず近寄ってきやがる」
「中々落ちねえんだよなあのフン。新品の防具に落とされた時はイラっとしたぜ」
「何とか撃ち落とす方法はないのか?」
「ショットガンでもあれば多分落ちるんじゃないか?見た目はあんまり強そうじゃないぜ」
「あれのドロップは割と高値で買ってくれるらしいぞ。枕にするとよく眠れるらしい」
酒が入ってきているのか、他の連中は自由に喋っている。俺は酒が飲めないのでひたすら食うほうに精力的になっている。が、有用な情報はしっかり聞かせてもらうぜ。
「四層以降はやっぱりソロじゃ厳しいのか?」
「そうだな。五層からは全方位気を配っていなきゃいけないからな。三人居れば安心ってとこだろうな」
「四層でもパーティのほうがいいぞ。五、六匹まとめてゴブリンがきやがるし、数が少ないと思ったら剣持ちがでてきやがるからな」
剣持ちか。切られたら痛いじゃ済まされないだろうな。
「そいつは棍棒持ってるやつより強いのか」
「強いってか危ない、だな。普通のゴブリンならすごく痛いで済むが、剣でまともに切られちゃ腕なり足なり無くすことになっちまう。それじゃ割に合わねえ」
「ポーションで治るんか?」
「ポーションのランクにもよる。半分切られたぐらいならランク2でいけるだろう。完全に落とされちゃ、ランク4が要るな」
「俺の装備じゃ相手になりそうにないな。なんせツナギにヘルメットだ」
「ちげえねえ、頭搗ち割られて終わりになりそうだ。四層行くならもっといい装備で行くべきだ」
「マチェットに熊手では、剣相手じゃちょっと重さ不足だと思います。もっと肉厚のものを使うべきだと思います」
飯食いながら思い思いの事を言いながら色々情報を教えてくれる。酒が入っているからか口も軽いし足取りも軽い。良い人たちだなぁ。
◇◆◇◆◇◆◇
宴会は二時間続き、割り勘で店を出た。結局今日の報酬分食っちまった気がする。
が、有意義な情報は色々と手に入れることが出来たし、アドバイスもいくつかもらえた。これは飯代より貴重だ。次回に生かそう。
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