389:予定外でも実入りは多く
十七層から十六層へ戻った。いつもの骨グループと出会ったが、ほんの二時間ぐらいの探索のはずなのに懐かしさすら感じる。わーいみんなただいまーと心で唱えつつ全力でぶん殴る。歩き続けてからたまにモンスターを殴るのと違って、近くにいていつでも殴れるモンスター。やはりダンジョンはこっちのほうがいい。
「宿泊の準備をしておいて悪いんだが、今日は日帰りにしないか? 思ったよりもバッテリーを使ってしまったので次回に向けて準備をしなきゃいけないし買い足しも必要だ。十四層で休憩して適度に十五層を回って帰ろうと思うんだけど」
「えっと……まだ午後一時ですよ。十四層でお昼ご飯にするのは良いとして、その後三時間ぐらい余りますよ」
「宿泊で申請しておいてあれだが、たまにはこういうこともあるさ。もうちょい十七層で粘ればよかったかなぁ」
「戻ってきちゃった以上仕方ないですし、お腹も空いてきましたし、どちらにせよ一旦十四層で休憩ですね」
「まあ、早めに帰って悪い事は無いし、稼ぎは……時間分の稼ぎはあるな。探索スケジュールを甘く見積もりすぎた俺の落ち度だ、ごめん」
骨グループと骨達から出汁を取りながら十五層へまっすぐ進む。正しくは地図の通りに曲がりくねり、曲がり角に居る骨達を一刀のもとに切り捨てながらだが、十三層よりちょっと広いだけで四体セットの骨グループもそのうち一体は居るだけの存在になってしまっている。十六層はもう攻略したも同然だな。
「そういえば十六層の残りの地図、どうします? いつ埋めます? 」
「何時やろうかな。これも埋めきらないと少々気になるっちゃなる所だ」
「さすがに無休憩で十六層を回るのは……無しですね。疲れますし油断したくないですし」
「この何とも言えない憤りを骨弓にぶつけて行けば多少は霧散するだろう」
そういいつつ、何も攻撃できていない骨弓をイジメ始める。両腕を落として頭を飛ばし、弓を破壊してから核を潰す。関係ないだろうが骨もくれた。良い奴だったよお前は……
ポキポキと骨を折りつつ十五層へ向かう。骨も溜まれば魔結晶はそれ以上に溜まる。今日の収入は……まぁ二人で百万ちょっとぐらいあれば十分だろう。肉は査定に出さずにとっておいて、後日使いどころか食べどころを探そうと思う。
牛肉を食う一番うまい方法って何だろう? やはり薄切りにしてしゃぶしゃぶかすき焼きにするのが良いんだろうか。どっちにしろ鍋を持ち込んでダンジョンですき焼き……はないな。さすがにない。食うならちゃんとしたところで食いたい。
二パックしかない貴重な牛肉、如何にして消費するか。思案のしどころだが、ここはやはりプロの腕を信用するのが一番だろうな。
「芽生さん、牛肉なんだが」
「なんでしょう。どこかで持ち込みのしゃぶしゃぶやすき焼きが出来る店でも探しますか? 」
「さすがにそんな店は無いと思うが、中華屋のお爺さんに任せるってのでどうだろう? 」
「案としてはありましたが、完全にお任せって事ですか」
「そう、完全にお任せ。それを踏まえて今後どう食べていくか、それともどう供出していくかを考えてみるのも有りかと思って」
「じゃぁそうしましょう。ちょうど早く帰りますし、ちょっと十五層で動き回ってからお腹を空かせて中華屋へ行く、それでどうです」
「悪くない。その流れで行こう」
はたしてサシの入った上等な牛肉が中華屋に求められている食材なのかどうかは解らないが、それを見極めるのも爺さんに任せることにした。町の中華屋のプロの見解を聞きたいところだ。
価格が価格、見た目が見た目なのでやっぱりしゃぶしゃぶやすき焼きにした方がいいという話ならそうするし、美味く作れる方法が有るというならそれを試してみてもらう事にしよう。
飯の話をしながら骨をしばく。このまま真っ直ぐ帰るならやはり豚骨ラーメンでも食べて帰ろうかという話になるだろう。だが今日の昼食は既に作って保管庫の中だ。せっかくなので食べてから帰ろうという事になったのでわざわざ十四層へ向かっている。
なんか申し訳ない気分になりながらもスケルトンを骨折させ今日の稼ぎを積み上げていく。十六層を抜け十五層へ。ここから更に十四層へ。スケルトンは四体来ても問題なく倒せるようになったし、骨ネクロダッシュも慣れた。お腹も空いてきた。十四層まではあと少しだ、飯も気も抜かないためにもうひと頑張りするとしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
十四層に着いた。道中は短かったのでさすがに何かが起こるというでもなく、ただ骨を折って折って折りまくった。それなりの稼ぎは出たので良し。時刻は午後二時半。お昼にはずいぶん遅い時間になってしまった。
「さて、お昼の準備を始めるか……三品中一品はすぐに出せるけどまずそれから行きますか。その後腹具合を考えて次を料理するという事で」
「一品目は何ですか、すぐ出せるって事はほぼ完成品を持って来たって事ですよね」
「という訳で一品目、ローストボア肉になります。タレはこれを適当にかけて食して」
「パックライスと生野菜が欲しいところですね」
「そう思ってそれも準備してある。ご自由にどうぞ」
「いただきまーす」
今の腹具合を考えると二品目も用意しておいて損は無いな。俺の分も残しておいてねと芽生さんに伝えつつ、ボア肉とキノコとチーズのアヒージョを温めだす。キノコは今思い付いて追加した。
チーズがとろけるまでじっくり加熱して、良い感じにとろけたところで火からおろし、深皿にそのまま投入する。
「アヒージョお待ち。熱いうちにおあがりよ」
「これが二品目ですか。チーズがまた良い感じに溶けて……あーこれいい、これいいわー」
どうやらお気に召したようだ。考えてみれば酒のつまみに良い物ばかりだな。酒が飲めたらさぞ進んだことだろう。
ダンジョン内でも酒は嗜好品であり貴重品だ。特に冷えたビールなど贅沢税がかかりそうなほどの代物だ。それに合う一品が今目の前にある。もし芽生さんが飲兵衛ならば間違いなく俺にビールを要求していただろう。
しかし、この後中華屋に行くのに腹を膨らませていいのだろか? という疑問がよぎる。これ以上の追加はしないほうがいいな。ここでほどほどに満足して置いて、中華屋で更に美味い一品を喰える可能性に期待しよう。
芽生さんはローストポークとアヒージョを交互に摘まみながらライスをはぐはぐと胃に詰め込んでいく。これぐらい食べっぷりが良いと作った甲斐がある。カオマンガイはまた別の日にしよう。既に茹でてある鶏肉とか色々手を加えた野菜類も今日の夕食にして豪華に食べよう。
満足する分の食事を食べ終わり、食後のコーヒーを飲みながら読書。三十分ぐらいは休憩したいところだ。
キャンプ飯の雑誌を読みながら芽生さんと次作るならどんなのが食べたいか、どっち系が好みか、ダンジョン肉でチャレンジするとしたらどうするか、そしてどこまで調理品を十四層に持ち込むかなどを話し合っていたら三十分はすぐに過ぎた。
「さて、帰りますか」
「随分お早い帰りですねと受付で言われそうです」
「まぁ、予期しない事態というものはあるものだ。帰ってこない事に比べればマシだろう」
「それもそうですね。今の内に荷物も整理しちゃいましょう」
赤い魔結晶と他の魔結晶を分けて……骨で一袋……魔結晶で合計三袋……真珠……毛……ポーションはそんなに数が無いからバッグに直接で良いな。こう広げてみると結構な量にはなったな。日帰り十五層、悪くないぞ。いやむしろ美味しいと言える。これで十七層で無駄に歩き回る時間が短ければより美味しかったかもしれない。
肉をどけてあるとはいえこれだけの量は……さすがにリヤカーが必要か。上に行ったら手配してもらおう。荷物の仕分けが終わったところでもう一度保管庫に入れなおして出発。今日は短い一日だったが得るものも多かった。バッテリー予備は二つじゃ足りない。念には念を入れて後五個ぐらい買い足しておこう。
十五層に戻り、エレベーターまで食後の運動。サラッと流して階段まで来る。うん、だって何事もなかったもの。エレベーターをいつもの手順で起動し、一層へ。今度来る時は七層へ直接来ることになるかな。っていうか明日もダンジョンで一日茂君で良いのではないか。明日の予定が立ったな。
エレベーターに揺られながら十五層で入手した品物を再び仕分け、エコバッグに出すと両手で持ち抱える。うん、今日はいつもより楽だな。何よりも魔結晶が前より小粒になったのが軽さに拍車をかけている。こんな小さい粒で真珠と同じぐらいの買い取り価格というのは面白い。サンプルとして一つ貰っとくか。スライムの魔結晶ともども家に飾っておけば何かインスピレーションが生まれるかもしれない。
長いようで短い十分が終わり一層にたどり着き、スライム達の出迎えを受ける。今日は早く帰るとはいえ全く相手をしないのもかわいそうなので見える範囲のスライムを弱い雷撃で次々に仕留めていく。
「相変わらずスライムにはご執心ですが、今日は雷撃なんですね」
「なんとなくそういう気分? 今日はスライムと語らう事があまり無いなって。でも相手はしてあげないと可哀想だから」
「なるほど、全然わかりません」
午後三時半。非常に中途半端な時間だが出入口までたどり着いた。リヤカーを用意してもらって退ダン手続きに行くと受付嬢が驚きの顔で出迎えてくれた。
「宿泊の予定だったのでは? 」
「ちょっと前準備に不備がありまして途中帰還になりました……なんか問題あったりします? 」
「いえ、何もありませんよ。帰ってこない事に比べれば早く帰ってくるぐらいは何ともないです」
「それは何よりでした」
「しかし……早さのわりに一杯ですね」
「まぁ色々とありまして」
エレベーターの件は全ギルド職員には通達されてないのだな、という事を知る。ただ、お互い深く立ち入ってはいけないという空気を醸し出しながら処理を済ませ、査定カウンターに並ぶ。
「お早いお帰りでー」
こっちでも言われた。
「みんな同じことを言う」
「まぁしょうがないんじゃないですかねー。安村さん大体朝一帰還ですからー。で、お早いお帰りでこの量ですかー? 」
「途中までは頑張って来たって事ですよ」
「そういう事にしておきますねー。少々おまちくださいー」
仕分けしてある分査定も早く、五分ちょっとで査定が終わる。六十一万千四百六十円。本来ならここから七時間程度の休憩と九時間ほどの戦闘時間を挟むので……今日丸一日探索に費やしてたら二倍ぐらいは稼ぐことになったのか。それはそれで残念だが、半端なことをして帰り道が解らないよりはマシだ。
「半日で帰ってきたわりには稼げたよ。後、例の燃料費の分はとりあえず残しておいた」
「りょーかい。……良いんですかこんなに」
「ギルドが良いって言うんだから良いんじゃないかな。このお金を元手にちょっとドローンのバッテリーを買い足して、今度こそ不備が無いようにしてくるよ」
「お任せします。では、早速向かいますかお爺さんのところへ……しまった」
「食べるのを控えておくべきだったと今更言うまいな」
「……控えておくべきでした」
支払いカウンターで振り込みを依頼。さて中華屋へ行くか。
「あ、お二人ともちょっとお待ちください」
支払い嬢に行動を止められる。なんだろう、支払いミスでも起きたか?
「ギルマスから伝言です。三日後……エレベーター? の件で探索者のグループが来るそうなので対応をお願いしたいとの事です。予定は午前十時からということだそうですが……エレベーターって? 」
あー、あー、エレベーターの件ね。忘れそうになっていたが思い出した。余所のダンジョンからドロップしたゴブリンキングの角でも使えるかどうか調査するって話な。
「三日後ですね、了解しました。こちらで調整しておきます」
「助かります。ではお疲れ様でした」
三日後、覚えておこう。
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