366:何事もなく
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十五層の階段を上がりその場にいたスケルトンをオッスさっきぶりとばかりに蹴散らすと、そのまま帰らず十四層方面へ向かう。仮眠やら荷物の整理やらインナーシュラフの回収やらをしたい。二度手間になるように見えるが、現在時刻は午前四時半。帰るには早すぎるのである。
「十四層で少しお腹満たして仮眠して帰るぐらいでちょうどいい時間になる。それを考えて一時帰還しよう。今から開場まで戦い続けるのは体がもたんしな」
「朝食? のレパートリーが気になりますね」
シーズニング連発というのも楽で美味しくて腹が膨れるがなんだか料理としてはあれだしな……帰るだけだし適当にウルフ肉塩胡椒で焼いて食うか。そこまでガッツリ腹を満たせなくても良いだろう。あぁ、トーストと卵もあるし寝て起きてからウルフ肉のサンドイッチにしようか。
十五層を十四層に向かいながら朝食のメニューについて考える。その間も手足はスケルトンに向いている。骨か……スケルトンの骨から出汁は出ないだろうが、グレイウルフが好むような何かは成分として備わっているんだろうな。もしかしたら黒い粒子の塊で出来ていて、それをグレイウルフが本能的に摂取しようとしているとか。
だとすると骨を満足するまでかじりついたグレイウルフは何か体に変化が起きたりするんだろうか。巨大化とか狂暴化とか、単純に能力の強化とか。そこまで実験するのは探索者としての規定に引っかかりそうな気がする。興味の段階で止めておくほうが身のためだろう。
骨ネクロダッシュをしながら、ウルフ肉には塩胡椒か、それとも卵があるしソースかケチャップか、何が良いだろうかと思案する。カルシウム、最近取ってたかな。冷蔵庫の牛乳まだ賞味期限切れてないよな。段々関係ない事を考え始めるが、ちゃんと戦闘には参加している。
フレンチトースト。こんな所でフレンチトーストを味わう。そういう違和感は楽しいかもしれない。一晩かけてじっくり吸わせたトーストを容器ごと持ってきてここで調理。うん、有りだな。
スケルトンを狩るのも慣れた。後は戦う回数だろう。もうちょっとな気がする。もうちょっとで俺ももう一段階ステータスブーストが上がる。そんな気がする。上がれば十七層のバトルゴートの突進も無理なく躱したり受け止めたり、戦闘にもバリエーションが増える事だろう。
ボス部屋前の通路の、さっきスキルオーブをくれたスケルトンの前に来る。さっきはここで美味しい思いをさせてもらったので二度目は無いだろう。スケルトンの相変わらず大ぶりな攻撃をかわし、空いた懐に潜り込んで潮干狩って核を割る。この動作もスムーズになってきた。
小部屋に居る骨ネクロ二体を倒し、真珠を回収。今回は骨もくれた。うまうまである。この二体で二万。スライム換算すると二千体分だ。俺も稼げる男になってきたな。自信が付いた。ついでに体にフワッとした感覚が訪れる。この感覚は前にも体感したことがある。
「俺も一段階上がったらしいぞ」
「そうですか、おめでとうございます。早速次のスケルトンで試してみましょう」
早速闘志が湧いてきた。ここまでモンスターに対してやる気が満ち溢れることはそうそうない。次のスケルトンが楽しみだ。この後曲がり角の先に居るはずだ……居た。
パチンコ玉を使う訳でもなく、全力ダッシュでスケルトンに駆け寄り、頭から核まで一気に切り通す。上手く刃が通ったらしく、そのままスケルトンは真っ二つになった。これは中々のレベルアップだ。この先どんどん使って行くぞ。体を動かす速度も臂力も上がった気がする。後は動体視力とそれに伴った動きが出来るかどうか、十四層に向かったら試運転と行こう。
最後の小部屋に溜まっているスケルトン三体のうち、二体を順番に撃破。これで芽生さんと同じぐらいの速力は得られていると思う。
「どんな感じ? 傍から見て」
芽生さんに一歩引いた立場からの感想を求める。
「スピードで追いつかれた感じはしますねえ。腕力……というか力についてはもともとこちらより強いみたいなので、強くなったのは間違いないかと」
「これ、昔やった前借りより明らかに強くなったよね」
「そうですね、つまり今前借りしたら私でも目に留まらないかもしれません」
「なら、今後は前借りを使わなくても良さそうだな。使う気は更々ないが……緊急時でもない限り」
秘中の秘みたいな扱いをされているが、実際の所は前借りを使うよりも保管庫から射出したほうが遥かに破壊力は高いと思う。だが保管庫を使わずに戦う最大火力はこいつになってしまうな。だがあれは肉体にかなり来る。切り札として隠し持っておこう。
そして十四層に戻った。いつもの自分たちのテントに戻ると、いつものコーヒーを淹れて休憩。その後ここまで狩ってきたドロップ品の整理をし始める。結構な量になったな。
「どうですか、おいくらぐらい稼げましたか」
「十七層の買い取り価格がさっぱりわからないが、まぁ少量のドロップだったので金額に入れるのは止めよう。えっと……やっぱり四回トライしただけの儲けはあったと感じる。今日も荷物は多いぞ」
「それは楽しみですね。儲けもあったし地図もほぼ出来上がったし、今日は百点じゃないですか? 」
「いや、九十点だな。食事にバリエーションがあまり取れなかった……と、そういえば食べてから寝る? それとも起きてから朝食にする? 」
飯と仮眠の順番を確認しておく。食事と仮眠は大事だからな。お腹空いて眠れないぐらいなら今作るし、明日の朝までお腹を空かせて楽しみにしておく方法もある。
「そうですねえ、それほどお腹は空いてないのでカロリーバーでお茶を濁して朝食べるのでいかがですか」
「じゃ、そうするか。コーヒー飲んだら寝よう」
「よくコーヒー飲んだ後眠れますね」
「コーヒー飲んですぐ寝るなら、寝てる間に覚醒作用が働くから寝起きが良くなるらしいぞ」
「じゃぁ試しに私も飲んでみますか。眠れなかったら洋一さんのせいという事で」
カロリーバー片手にコーヒーを啜って胃をとりあえず落ち着かせておく。料理は明日の朝という事になったので、明日の料理はウルフ肉のサンドイッチに決めた。トーストでスキレットを綺麗にできるので一石二鳥だ。
「じゃ、お休み~」
「今度は服着ろよ~」
「解ってますよぅ。同じミスは犯さないタイプなんです」
本当かなぁ……念のためにタオルを先に芽生さんのテントに放り込んでおく。これでタオルを求めて寝ぼけて出てくることはないだろう。脱ぎ癖については……もう一回ぐらい失敗すればさすがに覚えるだろう。しかし、肌寒い中よくテントから出てこれたな。感心する。
コーヒーを飲み終わり一通りの調理品を片付け、メモ帳に朝食はウルフ肉サンドイッチとメモしておく。やはりソースをかけたほうがそれっぽいだろうか。そこも含めて試しに作ってみよう。
今日は濃密な一日だった。四回もダンジョンにトライして地図を作る。あともう一回か二回トライすれば十六層の全容は解明できるだろうが、急ぎではないのでまた今度だ。今日のところは充分な収入も得られたしここで帰ろう。これ以上荷物を背負って帰るのは辛い。
荷物整理の時に気づいたのだが、この四回のトライで七百五十個ほどのスケルトンの魔結晶を確保している。保管庫に入れているので重さは無いが、これを袋に詰めるとなると相当な重さになる。スケルトンの魔結晶だけで四袋ほどになりそうだ。真珠は重さはほぼ無いのでいつもの皮袋に詰めていく。
骨も五十本近く手に入れているし、キュアポーションランク2も少ないながら査定品に花を彩らせている。それに骨弓という特殊存在だ。十六層にしか生息しない事で、骨弓のスキルオーブドロップ率は結構高いのではないかと思っている。しばらく十六層で資金稼ぎをすると言うのも悪くないかもしれないな。
まぁ、次回来た時にどうするか考えればいいか。十七層を調査するか、それとも十六層の地図を完成させるか。あまり急ぎではないので十六層の地図を埋めるほうを優先して、時間が余ったら十七層も回る。そんな感じで良いだろうな。
もしかしたら一層から潜る事になるかもしれないし、その辺は周りに合わせて怪しまれないように……だな。残りの事は後で考えよう。とりあえず今は寝る、そして起きて朝食だ。
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