294:記録更新、そしてまたやらかす?
おはようございます、安村です。四時間仮眠取って午前十時。目覚めもバッチリ、今回もありがとうダーククロウ。まだまだこの寝具は効果が薄まる所を知らないらしい。いつまで持つかが楽しみだ。
素材持ち込みで十三万。半年間かけて効果が弱まっていくとして、一日七百二十円。七百二十円でこの快眠が得られるなら元はゼロ円みたいなもんだ。その間にそれ以上、むしろ一日でそれ以上稼ぐのだから半年ごとに打ち直しに行ったって何の問題も無いな。初期費用は高いがそのぐらいコスパが良い。
使い終わったダーククロウの羽根はどう再利用されて行くんだろう? SDGsに貢献するために使い終わったダーククロウの羽根を……例えばアクセサリにするとか、クッションの中身に混ぜ込むとか、そういう選択肢はあると思う。寝具としてもとめられる質とそれ以外とでは違ってくるだろう。
ともかく仮眠は終わりだ。軽く汗を拭くと外に出て隣のテントをガサガサと揺らし、中にタオルを放り込むと、後は放っておけば自然と起きてくるだろう。コーヒーを二杯分淹れる準備をするといつものストレッチを始める。
まだまだ体は元気だ。これも快眠のおかげか、十分な働きを見せてくれている。現役……とまではいかないが、三十代中盤ぐらいまで肉体年齢が若返った気がする。特に腰だ。ちょっと前は腰をいわすギリギリのラインが感じ取れたほど注意深くなっていた。
あ、これあとちょっと力入れたら腰逝くな? というラインが見えていたのが無くなった気がする。つまり腰も強靭になったという事だろう。若い時はこんな事も気にせずに、物を持ち上げるときでも足から行かず腰から行って問題なかった。三十代を過ぎてアラフォーに足を踏み入れ始めたころ、そのラインが見え始めた。
みんな、物を持ち上げるときは物を体に引き寄せて、屈んでしっかり抱えた後膝を使って物を持ち上げないと悲惨な目に合うから注意するんだぞ。
湯が沸いたところでコーヒーを淹れ、ストレッチの続きをする。熱くて飲めないからな、もう少し冷めてからだ。腰を左右にウニッとまげて、腹斜筋を伸びる所まで伸ばし、縮めるときは全力で縮める。ミリミリミリ……と内部で血液が循環しているような音が聞こえる。良い感じに伸びているな。
腹を触る。とりあえず探索を一時中断して増えた分は減ったと思う。もうちょっとここから絞っていけば腹が六つに割れてくるようになるに違いない。胃袋との壮絶な戦いが始まるだろうが、それを優しく見守っておこう。
文月さんが出てきた。寝起きって感じの顔だ。まだ少し眠り足りないのか、伸びをすると顔をパンパンと叩いている。
「もう少し仮眠取る? 戻るの遅くなっちゃうけど」
「んーん、ただちょっと疲れが残ってるかなーって感じなだけ。帰って寝たら……そういえば鬼ころしいくんでしたね。そのぐらいはまぁ保つと思いますよ」
「そっか、無理はしないでね。慣れた帰り道でもうっかりすると怪我とかフンがあるから」
「怪我はまだしもフンはやだなー。いつもより注意深く動くから大丈夫よ、多分」
文月さんはコーヒーを飲むと頭を振って眠気を飛ばしている。もう枕の効果が切れて来た……という訳ではないらしい。仮眠をとってるとは言え二十四時間ダンジョンに居るんだから多少の眠気は残っても仕方ないか。
お互いコーヒーを飲み終わるとテントの周りの片づけに入る。文月さんはテントの前の椅子やら机やらを俺のテントに入れ始め、俺はテントの中で今日の収穫の仕分けを始める。ドサッと全部出すと、肉類は文月さんが手伝ってくれた。
オーク肉が三十八個、ボア肉が五十五個、これでバッグ二つ。魔結晶が全部で三百三十八個。これで更にバッグ三つ。さらにボア革が二十二枚。これはポーションと一緒に文月さんに背負ってもらおう。それから骨と剣と真珠……骨一本と真珠二個は別にしておこう。ちょっとしたコレクション品だ。それと剣もだ。
時間はとうに開場時間を過ぎているのでいつ誰とすれ違ってもおかしくない。両手と背中に荷物を背負って三時間歩くのを選ぼう。重たいが、嬉しい重さだ。これが今から大金に変わるのだから探索者はまだまだ辞められないな。
魔結晶がバッグ二つに入りきらなかったので入りきらない分は俺が背負う。真珠を入れておく用の小袋があると査定の際に手間がかからなくて良いかもしれないな。メモっておこう。なんかそれっぽい皮袋が……鬼ころしで探すか。
アクセサリーコーナーでも行けば、ボア革でできたファンタジー探索者が金貨を入れてるようなイメージの財布めいたものが手に入るかもしれない。
出立準備が終わったのを確認するといつもの「外出中 安村」の紙皿を貼って準備完了だ、六層へ戻ろう。シェルターにはまだ自転車は無い。寝てる間に誰かが来た可能性は低いので、全部六層側にあるんだろうな。
歩いて六層側に行くと、予想通り自転車は三台ともここにあった。自転車について悩む。
「そういえばオフロード仕様の自転車が欲しいという意見があったが」
「タイヤだけそれに置き換えるって手もあるのでは」
「インチ数は解ってるからそれと同じタイヤを……この際持ってくるだけでいいか。俺自転車分解した事ないし誰かやるだろ」
「それが良いと思います。タイヤだけ持ってきた、ならいくらでも言い訳ききますし」
メモ帳にオフロードタイヤ と記入しておく。モンキースパナと一緒に三本並べておけば多分誰かがはめ替えるんじゃないかな。それに期待しよう。
もう一つ買い物の予定を立てたところで六層へ上る。開場待ちの探索者は今は早くても二層だろう。フルメンバーでリポップしたワイルドボアと茂君が俺を待ち構えているだろう。両手がふさがっているので露払いは文月さんに任せ、俺はダーククロウに専念する。
茂らない君を通り越してそのまま茂君へ到達するとサンダーウェブ一閃。ちょっと可哀想になりつつもあるが、ダーククロウを羽根に変換した後保管庫の中へ。これでまた一回布団屋へ持っていく分が溜まった。
「ダーククロウで思い出した。これ文月さんの前回の取り分」
布団の山本で仕分けしたダーククロウの羽根の取り分だ。渡すのを忘れていた。
「思わぬ臨時収入ですが、これが新しい武器にすぐ変わっちゃうわけですか……」
収入で喜んだあとしんみりする。忙しそうだ。
「新しい武器でまた稼ぐんだからそのぐらいすぐ返って来るさ」
「そうですね。どんなのにしましょう。この際ちょっと金属を多目に使ってる奴を買って打撃力を増すのも良いかもしれません」
ワイルドボアを足元で狩りながらどんなものを買おうかと考えるほうに夢中なようだ。手が動いてる間はどんな妄想をしててもヨシ。
軽々と六層を突破し、五層もダーククロウごと全て綺麗に掃除しながら四層へ。四層へ上がる階段の所で田中君とすれ違う。お互い手であいさつする。こちらは両手が荷物でふさがっているため軽く持ち上げるだけだ。荷物の量に驚いている田中君だったが、それだけ頑張ってきたんだなと察してくれた。
「昨日はお楽しみでしたね? 」
「その挨拶流行ってるのかな。受付で毎回言われるんだが」
「大儲けでようございますね、って意味じゃないんですか? 」
「元ネタからして絶対違う。流行らさないで欲しい」
田中君は元ネタを知らずに使っているようだ。これ、受付嬢も元ネタ知らずに使ってる可能性あるな。ダンジョンでお楽しみは狩りしかないってか。たしかにダンジョンで他に楽しむ事なんてキャンプ料理ぐらいしかないからな。
挨拶はほどほどにしてお互いやる事はあるから、とそのまますれ違い、四層へ上がる。十層を若干の余裕を持って突破できるようになった我々探索班には通用するはずもなく、出てくるそばから文月さんの【水魔法】の練習台になっている。文月さんも楽しみながらなのか、ウォーターカッターで切ったり首から上だけ水を張り付けて窒息させたり色々と試しながらやっている。
「ゴブリンは窒息するんだなぁ」
「でも、首に水を纏わり続けさせるよりスッパリ首を切りに行くほうが単純で楽ですね」
「何かこう、攻撃手段が追い付かないような敵に向けての予行演習だと思おう。たとえばボスとか」
「もう十五層へ行く算段を進めてるわけですか。十四層にたどり着いても居ないのに」
「十四層の地図埋めがあるとはいえ、セーフエリアだから十四層にたどり着くのと十五層にたどり着くのはほぼ同じ意味だと思うよ。十五層下りてすぐボス戦とか、そういう強制戦闘じゃなければいくらでも考える時間はありそうだけど」
「十五層のマップがどうなってるかもついでに調べておくべきでしたね」
「一回の探索で二層も三層も更新するとは思ってないしな。帰ったら情報を集めておくよ。解ってるのはボス部屋の中に階段が無いことぐらいか。素通りしようと思えば素通りできる、と」
何のために用意されてるボス部屋なんだろう。気になるっちゃ気になる。倒しても倒さなくてもいいボス。果たしてそのボスの価値やいかに。ただの力試しがしたいなら九層から十二層の森の中央部に向かっていけばいいので、多分それ以外に何かしらのダンジョンに関わりあるフックがあるんだろうな。
四層を抜けて三層へ。三層から二層へ。三層では出てこなかったグレイウルフが目の前に現れる。噛みつかれるが、そもそも防刃ツナギだしステータスのおかげで服も破れはしない。
「はいはい、お前は骨でもかじってろ」
スケルトンの骨を口元に与えてみる。するとグレイウルフは骨のほうがお好みなのか、俺から口を外して骨にむしゃぶりつき始めた。本能がそうさせるのか? そもそもダンジョンモンスターの本能とは……スライムが異物を溶かしゴブリンが女性から襲い始めるような、そういうものだろうか。
骨にむしゃぶりついてる間に雷魔法で仕留めるとウルフ肉が落ちた。……偶然か? 文月さんと顔を見合わす。
「これは……偶然かな」
「解りません。回数をこなしてみますか」
グレイウルフはスケルトンの骨にじゃれついてる間に倒すと肉がドロップするのか否か。両手が空いてる文月さんが試すことになった。女性が犬の相手をして骨に食らいつかせているのはなんだか絵になる。オッサンがやるより九百八十パーセントぐらい美化される。
次のグレイウルフを探し、見つけたらまず一匹にし、その後スケルトンの骨を目の前にちらつかせると、グレイウルフの目から敵対心らしき雰囲気が消えた。そのまま骨を放り投げるとグレイウルフは嬉しそうに骨に飛び着いていく。骨を噛んでいる間に文月さんが首を刎ね飛ばす。ウルフ肉が落ちた。
もう一度試す。ウルフ肉が落ちた。
「……」
「……」
「まだ三分の三だ。それも含めてだが、スケルトンの骨を査定にかけるのは早計かもしれない」
「とりあえず全部残しておきましょう。骨以外は査定にかける感じで」
「そうしよう。しかし、今更ウルフ肉のドロップが確定したところで……まぁ誰かのためにはなるな。十三層で狩り出来る人が今更ウルフ肉を大量に仕入れても……田中君は喜びそうだな」
「少なくとも売り付け先はできましたね。腰を落ち着けてウルフ肉祭りを開くのは今度って事で。しかし、こういう変な仕組み良く見つけ出しますね」
「犬と言えば骨だろ。そう思ってな。他にこれを思いついた人は世界に百人ぐらいは居そうなもんだが」
「その百人が全員口裏合わせて黙ってるわけでもないでしょうに。でも、ソロ活動でも確定して肉を手に入れられるのは誰にとっても美味しいですね」
「これはスライムバニラバーと違って骨は砕かれるまで使いまわしがきくって点がスライムよりいい」
「今日の十三層ドロップ品は魔結晶と真珠十個。それ以外は出さない。これでいいかな」
真面目な検証は後日という事になった。とりあえず今日は帰ろう。帰って予定をこなすのが先だし、なんなら俺一人で作業も出来る。予定が詰まってる日に無理に検証作業をやる必要は無い。もっと時間の空いたときにやるべきだ。
そのままグレイウルフを普通に始末しながら一層に戻り、今日はスライムも狩らずに出入口を出た。
「……重い」
「あと少し、ファイト」
俺の指もステータス効果で強靭になったりはしないのか。最終的にエコバッグを無理やり肩にかけて査定カウンターまで持っていく事で今日も指を失わずに済んだ。さぁ、今日の苦労の成果はいかほどか。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





