290:迷う宮とかいて迷宮
十三層の全体の構造はまだ解ってない。ダンジョンによっては素直なマップだったりもするのだろうけど、小西ダンジョンはどうやらそうでもないらしいというのが今の俺の感想だ。
小西ダンジョンのいつもの狭さなら一辺が一キロメートルもあれば広さとして十分だろう……そう考えていた時期が俺にもありました。
曲がり角が……多いのである。そして曲がり角が多いという事はその分モンスターがその先に居る確率が高いということだ。まあ狩りの回数が増えればそれだけ収入も増えるので悪い事ではない。
主に問題になるのはスケルトンネクロマンサーを見つけた瞬間ダッシュを始めなければいけない事だ。全力なので結構足に来る。ステータスブーストをかけていれば必ず間に合うという訳ではないのも一つだ。
三連続でスケルトンネクロマンサー……もう骨ネクロでいいか。骨ネクロに出会った時はシャトルランをさせられている気分になった。
一回全力で走るたびに五千円というと非常に儲かるお仕事といえるかもしれないが、六層でワイルドボアのハグ会一回行うのと同じだけの金額を稼ぐことになる。走って五千円か走らずに五千円かなら、走らないで五千円のほうが何かと楽でいい。なにより、ワイルドボアの五千円は食える。
本真珠は胃に入れると胃酸で溶けてしまうので問題は無いが、これが本真珠ではなく真珠の様な何かだった場合、体に不具合を起こしてしまうだろう。トイレで不安がる事にもなるし、そもそも真珠は食べ物ではない。
「これ、本当に装飾にしか使用用途無いのかな」
真珠を取り出して見せて文月さんに問う。骨ネクロの百パーセントドロップ品だ。
「さぁ。もしかしたらものすごい魔結晶だったりはするかもしれないですね」
「真珠は薬にもなるらしいからな。本当に真珠なら凄い薬効があったりしないんだろうか」
「それなら医薬品メーカーがこぞって集めてると思いますよ。その辺戻ったら調べてみますか」
「一応へそくりにしておくか。十三層に潜った証ならこれが有れば十分だしな」
次にスケルトンの骨を取り出してみる。立派な大腿骨だ。生前……いや、成仏前はさぞ立派なスケルトンだったのだろう。
「砕いて細かくしてしまえば混ぜてもバレないだろうし、ラーメン屋にでも卸してみるか? 」
「それバレたら保健所飛んできますよ」
「食人扱いになる……のかなぁ? まだ法整備が整っていない気がするが。人骨ラーメンか……まぁどうせラーメン屋に並ぶのは好きじゃないしな。どこかの奇特な美食家がもうやってるだろうし、味のほうが評判良いならもう広がってるだろうし」
「つまり、現状それも建材や素材方面の価値に限定されそうだという所でしょうかね」
おっと、スケルトンだ。出合い頭に三体。文月さんが反射的にぶん殴ってくれたおかげで一体は瞬時に消えることになった。まさかトーストではなく槍をくわえた女子大生とぶつかるとはスケルトンも思っていなかっただろう。
こちらも一体、スケルトンを力任せにぶん殴る。直刀の切れ味は健在なようで、スケルトンの盾ごと斬れた。剣はさすがに折ることは出来ないらしい。これと同等の素材という事か。もしかしてスケルトンの剣もスケルトンで出来て……いやそれなら折れるはずだな。まぁいいや、とにかく力押しで勝てることが解ったので、スケルトンの剣にだけ注意していればいいだろう。
三体とも魔結晶を落として消えていった。骨ネクロが出してその辺で遊び惚けているというわけではなかったらしい。
「今回も本物か。偽物の召喚スケルトンには運が良いことにまだお目にかかってないな」
「力いっぱい叩きのめして何もなしはちょっと張り合いが無いですからね」
今のところ、骨ネクロが召喚するだけ召喚してそのまま放置されたスケルトン、というものに出会ったことが無い。可能性としては骨ネクロとエンカウントして召喚したものの、スケルトンを倒さずに撤退した探索者が居る、という状況だろう。
が、多分ここにいるのは我々だけなので骨ネクロが召喚しているスケルトン、というものがこの十三層に存在する可能性は極めて低い。
その分安心して探索を進めていけるわけで懸念事項が少ないのはとても良い。安心して地図の更新に脳みそを割ける。
さて地図のほうだが……抜けが多い。虱潰しに歩き回っている訳ではないのでそこそこの面積を踏破してはいる。が、行き止まりに階段がある可能性も否定できないので、もしかしたら階段を見過ごしているかもしれない。一旦戻って地図埋めに走る……か? 悩みどころだ。
もしかしたら最初の曲がり角の時点で既に方向を違えている可能性だってあるのだ。一旦戻ってしまうのも手だろう。さてどうするか……
「ぐぬぬ……迷ってはいないが彷徨ってはいるな」
「階段らしきもの見つかりませんね。一度十二層への階段へ戻ってみます? 」
「悩みどころだ。この一歩先が階段という可能性だってある。一回の踏破で迷宮を完全に理解しようとするのがそも無理な話なのかもしれない」
「ちなみに十三層に入って一時間ほど経過してます。小西ダンジョンの他のマップならとうに階段下りてる頃ですね」
「そうだな……明らかに袋小路なところは踏んでしまって、残りは後日に回すという手がある」
二人してう~んと考え込む。こういう時は悩んでも結論はたいして良い方向には向かないものだ。なら他人が迷わないようにせめて怪しいところだけ踏んでしまうほうが良いな。
「よし、戦略的撤退だ。地図を逆にたどりつつ、明らかに袋小路なところを潰す作業にしよう」
「そのほうが精神的に健康そうですしそうしますか。帰ればまた来られますし」
そういうことになった。となれば移動は簡単だ。ここまでの地図を逆に見て進めばいい。そして怪しい行き止まりは潰す。チェックポイントが少ない分帰りは楽なものだった。モンスターリポップがそれほど激しくないのもあったが、既にわかっている迷路ほど辿りやすいものは無い。一時間かかって探索した道を三十分かけて戻ることになるかな。
「そういえば落とさなかったな……剣。レアドロップなのかな」
「じゃないですかね。その新武器と同等の強さがあるみたいですし」
「武器コレクターとしてはコレクションに是非加えたい一本なんだが……と、来るぞ」
また曲がり角でスケルトンとこんにちは、死ね。いやもう死んでいるのか。黒い粒子に還れ。
力ずくで黒い粒子に還すと、カランという音と共に剣が落ちる。物欲センサーが逆反応したのだろうか。こういう時は願っている時にこそ落ちない物だと思うが。若干反りのあるおかげで切っ先が膨らんでいるように見えるデザインだ。これもスケルトンが持ってた奴と少し形が違うな。やはりドロップ品は一味違うものなのだろうか。柄の装飾も違う。
「とりあえず実践試験するか。次スケルトンが出たら使ってみよう。重心も今使ってる剣と大差ないようだし」
「そういえばゴブリンソードでソードゴブリンは切れるんですか? 」
「試したことなかったような気がする。覚えてたら帰りにでもやってみるか」
直刀を保管庫にしまい込むとスケルトンの剣……スケ剣でいいや、あっちもゴブ剣でいいだろう。名前が正式名称ならとにかく良いという事ではないというのは高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンで身に染みている。ゴブ剣とスケ剣。心に強く刻んだ。
とりあえず手に持ってみる。握りが違うから多少の違和感があるものの、重さは問題ない。後は出会って二秒で粉砕だ。
帰り道を急がず戻る。急いで地図を見誤れば更に迷うからな。曲がり角に来るたびに毎回確認しているから今のところ問題なく戻れているんだろう。敵が湧いていない事からもそれは確認できる。さすがに十二層への階段付近にはモンスターがリポップしているだろう。
あと六回ぐらいは戦闘になるかなーぐらいの感覚で歩いていると、やはりまた曲がり角でスケルトンと出会った。だがマズイ、後ろに骨ネクロがいる。スケルトン二体と骨ネクロが一体の団体さんだ。骨ネクロを殴る前に一戦してそれからダッシュでは間に合わない。召喚されるのを覚悟しなければいけないな。
ひとまず召喚されるのは許容するしかない。その間にスケルトンを確実に対処してしまおう。スケルトンに自分の持っていたスケ剣で殴りかかる。盾で防がれたが、盾ごとスケルトンの手首までスッパリと斬れた。中々の切れ味だ。返す刀でそのままスケルトンの肋骨に二撃。一体目はこれで倒せた。
文月さんはこっちがスケルトンを二匹とも倒せそうなことを確認すると骨ネクロに向かって駆けだした。良い判断だ。試しにそのままスケ剣に【雷魔法】を流してみる。そのままスケルトンを切ると、【雷魔法】で切れ味が増したのか、更に力を入れずにスケルトンを処理できた。
流石に一体は間に合わなかったらしく、スケルトンが召喚された。召喚されたスケルトンは顎をカタカタと鳴らしながら文月さんに近寄ろうとするが、そのままぶん殴られて黒い粒子に還った。生後数秒の命、かわいそう。命は無いか。そしてついでに倒されている骨ネクロ。こいつには戦闘力は無いから全力でぶっ叩くことにした文月さんにはいい的でしかないだろう。
しかしこのスケ剣、直刀に流した時よりもすんなりとスキルを受け入れてくれているような感覚がある。低コストで使えている感じだ。スケルトン相手に【雷魔法】はほとんど効果はないが、ここより下のモンスターになら十分使える相性のいい武器という事になるだろう。
もしかしたらこれもモンスター素材としての特性なのか? だとするとゴブ剣でも同じ現象が確認できるかもしれない。そのうち試そう。
……あれ、これ直刀買わなくてもこれが有ればよかったのでは? まぁいい、グラディウスではスケルトン相手に上手く立ち回れてなかったかもしれない。そう考えることにしよう、経費だし。
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