288:肉ゾーン23
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十一層へ下りたがいきなり行動を始めるではなく、まずは休憩だ。十層でそこそこ消耗していると考えての事だ。時間のわりに作業量をこなしたので見えない疲れがたまっているかもしれない。それなら見えない内に回復してしまうのがいい。というより一呼吸つきたいのが本当のところだ。
毎回十層を通るたびにこれをやるのも慣れ始めた。その慣れはじめが一番危ないと思う。うっかり一つで怪我するのは御免だからな。この後もオークの肉をはぎ取りながらさらに深く潜る予定なのだからここでの休憩は大事だ。
カロリーバーを……いや、今は良いか。お腹が空きはじめた頃に取ろう。とりあえず水分だ。しっかり身体を動かしたからな。久しぶりの粉ジュースでのどを潤すと、体をあちこち動かし不調の種が無いかどうか探す。
ここからはさっきまでと比べてゆっくりとした狩りになる。十一層ならオークも特殊な行動をしてこないだろうし、なにより試し斬りをしたい。どのくらい気持ちよく斬り込みを入れていけるか楽しみだ。
「前回よりは楽……な気がします。これも成長ですかね」
「次回は更に楽になるかもしれないし、今回は前よりモンスター数が少なかった。戦闘回数だと四回分ぐらいかな。だから余計に楽に感じたかもしれない」
「じゃあまだ誤差の範囲内ってとこですかね。とりあえず行きは難なくいけたということで」
「お楽しみはこれからだからな。十三層に足を延ばして探索して、無事に帰ってこれるかだ。迷って帰れない事が無いようにしないと」
「十三層、そんなに難しい迷路なんですかね。小西ダンジョンの狭さからしてそう迷うほどの広さになるとは思えないんですけど」
「確かになー、そこはなー。でも迷う可能性があるという予想を事前に立てられるだけ楽だと考える事にしよう」
その先は俺のマッピングにかかっているのか。しっかりやらないとな。
十分ほど休憩し、その間にたまたま襲ってきたジャイアントアントを難なく撃退。疲れは取れた……と思う。そろそろ行き時だろう。
「さ、まずは肉拾いからだな。せっかく十一層十二層に来たのに肉が無いんじゃちょっと寂しい」
「ヒールポーションもですかね。予備があれば何かに使うかもしれません」
十二層の階段に向けて歩き出す。早速オークがエントリーしてきた。こんばんは、待ってたよ。ちょうど君に試してみて欲しい事があったんだ。早速だが斬られてみて欲しい。こいつの斬れ味を確かめるのには君がちょうどいい実験体だと思うんだ。だからよろしく。
オーク三体なのでまず一体目の攻撃を誘って棍棒を振らせたところで接近し、いつも通り棍棒を持ってるほうの腕を斬り飛ばす。良い感触だ。前にあった硬い感触が小さくなっている。それだけ切れ味が良いという事だろう。骨……があるかまでは解らないが、今まで骨が斬れなかったのが斬れたような、そんな味わい深さだ。
「これはいける。綺麗にいける、スパッといける」
「それは良かったですね……と。じゃあ残りの一体もどうぞ」
「それじゃ遠慮なく」
どっちが二体倒すか決めてなかったのでこっちで受け持つ事に。オークに素早く三歩で接近するとそのままオークごと縦に断ち切ろうとする。上半身の途中で止まってしまった。しかし、それで死なない生物はアンデッドぐらいのものだろう。切れた先から黒い粒子がキラキラとあふれはじめそのまま消滅する。肉をくれた。
「よし、ファースト肉ドロップは確認できた。この調子でバシバシ十二層まで潜ろう」
「おー」
無理に内側に行かずに外側をゆっくり歩く。稼ぎたければ帰りに稼げるのだから行きに焦る必要は無い。なにより肉はとりあえず一つ手に入れた。十一層に来たという実感はこれで得られた。
三分に一度ぐらいのペースで訪れるモンスターを相手に難なくこなし、オークも痺れさせて放置などという面倒くさいことはせずに済むようになった。全力で浴びせてそのまま昇天させるかぶった切るかの二択に絞ることが出来るようになったのは大きい収穫だ。
「私もやっぱり新しい武器にしようかなぁ」
「古い武器下取りしてくれるところがあれば良いんだけどね、RPGみたいに」
「費用はともかく私たちには半無限の倉庫がありますしそこまで邪魔になる事は無いかと」
「家に飾ったりしないの? こう、床の間とかに」
「私の部屋に床の間とかありませんし、何よりそんなもん飾ってる女子大生居ないと思います」
また倉庫の肥やしが増えることになるのか。まぁいいけど。いざという時は射出の手段として残させてもらおう。
また階段に向かって歩き始める。オーク、ジャイアントアント、ジャイアントアント、オーク。十層より数が少ないので落ち着いて対処できる。数が多いと相手との距離をいかに早く詰めるかが勝負の決め手になるが、数が少ない以上どっしりとして構えて近いほうから順番に刎ね飛ばしていくだけだ。
「中々でないですね、次の肉」
「魔結晶ばっかりだな。肉が落ちないオークにあまりうま味は無いんだが……せめてヒールポーションの一本でも出てくれれば……あ、出た」
ヒールポーションランク2だ。これで肉八つ分の収入が得られる。うん、美味しい。
「とりあえずゆっくり回ってる事も有りますし、収入の件は後回しにしますか」
「そうだな、十二層に入ればオークも少し多くなるし、そこで数を稼げるように祈ろう」
十二層への階段に着いた。ここからはうっかりすると棍棒も飛んでくるし少し警戒したほうが良いエリアだ。やる事は同じだが確実に息の根を止めて行かないとまた怪我するかもしれないからな。慎重に行こう。
ちょっと水分を摂って軽く肩慣らしをし、階段を降りる。マップの角スタートで角ゴールなのでどっちへ行っても問題は無い。さて今日はどっちから行くか。
「こっち行きましょう。どうせ同じ道なら逆側から回るのもいいかもしれません」
前回と逆の方向を指し文月さんが先へ行こうとする。まぁいっか。右から出てくるか左から出てくるかの違いだ。そこ以外になんの違いもありゃしねえ。
「じゃあそうしよう。片道四十分でお肉がどれだけ集まるかなっと」
「油断せずに行きましょう。二回続けて青あざ作って帰るのは嫌ですからね」
十三層への階段目指して歩きだす。すると早速オーク四体のお出ましだ。戦訓は得ている。オークを見たら確実に仕留めて次へ行く。二体同時に来た場合は……どうしようかな。その時になったら考えよう。
ともかく対戦だ。今回のオークは二体同時にかかってくることは無く、わずかな時間差がある。その間に倒せれば常に一対一で戦える。十秒、そう十秒あればいい。その間に攻撃をさせて避けて近寄って倒せる。こっちから仕掛けると見せかけて相手に振らせて躱す、場合によっては受け止める。
ステータスブーストのおかげで直で殴られない限りは痛恨打にはならない。まだ現役の二代目小盾できっちり受け止め、そのまま棍棒を滑らせるように弾いて前へ出る。そして一撃。オークは右肩から腰まで斬れていく。相変わらずいい切れ味だ、念のため雷撃で焼いておくのも忘れない。これでまず一体目。続いて集中を切らないまま二体目へ走り込む。
一体目がやられたことでこちらに意識が向いたオークだが、そのわずかな間に肉薄できた。これは先手を取れる。まず棍棒を持っているほうの腕を斬り上げるとそのまま回転しながら首を刎ねる。直刀の切れ味と俺の体重が乗った一撃でオークは首と胴体がさようならしていく。
十二層初戦としては上出来だろう。文月さんも十秒ほど遅れてオークの対処をし終わり、ドロップを確認、肉は出なかったが魔結晶は出た。四体セットで何も落とさないのは悲しいからな、魔結晶がでただけ良しとしよう。
「この調子でいこう」
「お肉一杯落としてくれると助かるんですが」
「ヒールポーションもな。小瓶一つで四万円は非常にでかいし邪魔にならない」
「保管庫に入っていれば同じなのでは? 」
「ダンジョン出てから査定に持っていくまでの間、俺の指が毎回死にそうになるのを軽減してくれるからな。何なら魔結晶の代わりに全部ヒールポーションでもいいぐらいだ」
その後はオークとジャイアントアントが交互に出てくるような形になった。パターン化してるわけではないだろうがそういう事も有るだろう。ジャイアントアントには落ち着きを持って、オークは確実に一体ずつ仕留め、危なげなく歩きぬけていく。
ドロップはまぁそこそこ、といった所だ。良くは無い。どっちかというと悪いほうだ。オーク肉と魔結晶が同時に落ちるという美味しいパターンを一度も拝めなかった。一グループ倒して何も出ない、という事も有った。先行きに影を落とすようなドロップ率だが、十三層に潜ったときに美味しい思いが出来るように今の内から祈っておこう。
何事も無く無事に十三層への階段へたどり着いた。ここからは未踏破ゾーンだ。前回もここは未踏破ゾーンだったが、今度は階層の構造そのものが変わる。
「やはり清州ダンジョンでウォーミングアップしてきたほうが良かったかな? ここに来てなんか不安になってきたんだけど」
「今更何言ってるんですか。怖くなったら帰ればいいんですよ。覗くだけでも来た価値はありますし、またスケルトンに装備壊されて泣いて帰っても許しますから」
「中々良い感じにトラウマを抉ってくるなぁ……よし、行くか」
さようなら森ゾーン。住み心地も収入も悪いところじゃなかったよ。
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