269:田舎の駅前にネカフェは無い。無い。
気合で乗り切った結果なんとか耐え抜いて退ダン手続きをするが、そこで指が限界に達してしまった。田中君と共闘した分のエコバッグの中身を分け合うと、田中君を先に行かせてゆっくりとこちらも向かう。
「大丈夫? 指が青くなってきてるけど」
「お願い、ちょっと持って……指がちぎれるかもしれない」
やっぱり一人でこれだけの量を地上で持つのは無理があったらしい。文月さんに半分持ってもらってギルドの建物へ入る。俺の指は無事に千切れることなく査定カウンターにたどり着く。荷物を下ろすと指先に暖かい感覚が戻ってくる。査定担当嬢と雑談をしつつ査定を待つ。
「こんなに多くの荷物良く持って帰ってこれましたね。多分過去最高だと思いますよ」
「ダンジョン内はそんなに重さを感じないんですよ。問題はダンジョンを出てからここまで来る間でして」
「それもダンジョンの不思議という奴ですか」
「ですです」
十分ほど待って査定の結果が出た。一人当たり六十六万四千四百二円。税込みだとほぼ百五十万円を二人で稼いだことになるのか。大分頑張ったな。
待合室とは名ばかりの椅子が並べられただけの場所で待っている文月さんにレシートをひらひらさせながら戻る。
「どうでした? 良いお金になりましたか? 」
結果を待ちきれない文月さんが鼻息荒く金額のほうを確かめに来る。少し落ち着け。
「こんなもん。朝入り朝帰りとしては過去最高ペースだな」
「……」
「どうしたの、急に黙りこくって。感動しすぎて言葉が出ないとか? 」
「最近、お金の価値について少し麻痺してきたような気がします。この金額が多いのか少ないのかわからなくなってきました」
なるほど、気持ちはわかる。俺も二か月前まではこの金額を稼ぐのに三か月とちょっとの時間をかけて稼いでいたんだから、多少麻痺してる感はある。なにより三十万円もする布団と枕を購入してる時点で既に麻痺していると言っても良い。
他にも自転車を無意味に三台買ったり自分用でもないテントを買ったり……かなり無駄遣いしてる気がするな。財布のひもはそろそろきつめに縛り上げるべきだろう。
「三十代男性の平均月収の二か月分を二十四時間で稼いで帰ってきた、と解説しておこう。これでどうだ? 」
「良いんでしょうか、こんなに稼いでしまって。今更と言えば今更なんですが」
「働いた分お金をもらう事は悪い事じゃないぞ。別にやましい事をしている訳じゃないんだ。その金額は自分が汗水たらして命を削って得た収入なんだから誇っていい」
「そうですか……そうですね、やったー! お給金だー! 」
どうやら腑に落ちたらしい。いつもの文月さんに戻った。言われてみれば一日に六十万稼ぐのは相当な努力の賜物だと言っていい。忘れないようにしておこう。その分の努力はしていると。
支払いカウンターで振り込みを済ませて……帰る前にやることあるんだった。
「地図更新申請するの忘れてた。ちょっとカウンター行ってくる」
「待ってる。早くね」
支払いカウンターに再度近寄り、支払い担当嬢に声をかける。
「実は今日十二階層に潜ってきたんですが、地図の申請をしておこうと思いまして。ちょっと大きめの紙ありますか? 手元のメモ帳渡すだけだと小さくて」
「解りました……と、少々お待ちください」
しばらくしてA4用紙を持ってくる。そこにメモ帳の内容と階段の位置、森と崖との幅、出てくるモンスターの種類、数などを記載して返す。
「このぐらいの情報は載せておこうと思います。いずれCランク探索者も増えるでしょうし」
「解りました。この地図はお二人でお作りに? 」
「です。とりあえず地図が有るという事だけは伝えておきましたので」
「解りました。ギルドで精査した後で許可が下りれば地図として更新されると思います。お疲れ様でした」
地図の件を託し、今度こそ帰りのバスを待つ。その間にスマホで近くのネカフェを調べる。……田舎にネカフェ、しかもバスや電車の沿線上にあるという考えは甘すぎた。何処に行くにも車を要求されるらしい。
「ないね、近くにネカフェ」
「一番近くて……家と逆方向ですか。いまいちいい場所が無いですね」
「名古屋まで行けばあるが……う~ん、これじゃ自分の家で調べるのと違いは無いな」
「清州に用事が有ったりは? 鬼ころしの近くにネカフェ一軒あったと記憶してます」
「確かに鬼ころしには用事がある。そこまで付き合ってもらっていいかい? 」
「もちろんですとも。そのほうが私も色々都合がいいですし」
羽根を売り付けに行くのは明日でも良いし、ここは文月さんの希望に従うほうが都合が色々と片付く。バスをしばらく待ち、その間に調べることをメモと頭の中から絞り出してまとめておく。出来るだけ時間をかけないほうが文月さんの講義の時間もある。急いで調べられるよう努力しよう。
やがて来たバスに乗り電車で清州まで乗り繋ぐ。清州駅に降り立つと、早速鬼ころし近くのネカフェのカップルシートを取る。
「カップルですって、きゃー」
「はいはい、パパ活パパ活」
店員のえ、マジで? という表情と明らかに探索者である格好を見てパーティーなのかな? という視線とを交互に受けつつ、飲み放題のドリンクを片手に指定されたカップルシートに座る。
文月さんとは同じテントで寝たり車で共に熟睡したりと密接してる機会はそれなりにあるが、過去一距離が近いかもしれない。
一晩風呂に入ってないにもかかわらず、いや朝身支度は整えてるからそれなりに綺麗ではあるのか。とにかく女性らしい香りが鼻に届く。ちょっとムクッとしてしまうのは仕方ないだろう。ごちそうさまです。
早速保管庫から例のCランク説明書を取り出すと、書き込んである自分のIDとPASSを入力してアクセスする。ここからでもアクセスできてよかった。
「保管庫に放り込んでおくって最強のセキュリティですね」
「だろ? おかげでIDもPASSも記憶してない」
「それは記憶力的にどうかと思うんですが」
「で、これがCランク以上じゃないと閲覧できない探索者ネットワークなんだが」
「ふむふむ……市井で集まる情報と大差ないのもありますねぇ。あ、でも十一層以降の情報がまとめられてるのはいいですね。後ドロップ情報もおおよそですが色々と……ふんふんなるほど、これはじっくり研究する必要がありそうですねぇ」
まだアクセスしたことが無かったらしい文月さんはしきりに興奮しては感心し、そしてあ~やっぱりあれはそう言う事だったのか、みたいな反応を色々している。横から見ていて割と楽しい。
「さて、調べておくことはオークの行動パターンについてだ。十二層での行動パターンについて何処かに書いてあれば、十三層でスケルトンが特殊な行動をしてきたとしても対応できる。そういう情報がないかな」
「モンスター辞典的な部分があればそこにあるかもしれないですねぇ」
「早速探してみよう」
モンスターについてまとめられている情報を探る。各モンスターの行動パターンや戦闘においての心構え、例えばゴブリンは女性と男性どちらをターゲットにしやすい傾向があるか、等……これはもっと早く教えておくべきではないのだろうか?
順番にモンスター情報を検索して行き、オークの項目にたどり着いた。どうやらオークが十二階層で棍棒を投げつけてくるという攻撃パターンはちゃんと存在するらしい。身動きが取れなくなった時にヘイトを取っているものに向かって棍棒を投げつけてくるので、ちゃんと攻撃能力を完全に失わせるか、確実に倒しましょうとある。
事前に調べていれば四万円……じゃない、文月さんに怪我させることも無かったか。これは俺の落ち度だろうな。
「ちゃんとそういう行動パターンがあって棍棒投げてきてたんですね。なら納得ですし、知らなかった以上それは知らなかった側の落ち度ですね」
「そうだな……ごめん、もうちょっとちゃんと調べていれば確実に腕を斬り落としてって言えたんだけど」
「過ぎたことは仕方がないですし、この乙女のきらびやかな腕も完治したのでもう無しにしましょう。それよりも今後のために他のモンスターの動きも学んでおきましょう」
「そうしよう。せっかくだし、十三層のスケルトン・スケルトンネクロマンサーについても調べておくべきだな」
「スケルトンですか。イメージされる物は骨格標本が剣と盾持ってる姿が思い浮かびますが」
スケルトンについて調べる。以前調べた通りの情報が載っていた。スケルトンは百パーセント魔結晶を落とすが、落とさない場合スケルトンネクロマンサーが近くに居てそいつが召喚した可能性が高い。スケルトンネクロマンサーは最大三体のスケルトンを召喚するが、本人に攻撃能力は無い。
時々スケルトンが骨そのものを落とし、かなり硬く頑丈な大腿骨がドロップするらしい。これは粉末化して混ぜ込むことで建材を製造する際にその強度を上げることが出来るらしい。おかげで需要はそこそこあるのだとか。ただ大腿骨を背中に背負って帰ってくる探索者が少ないため、現状は大手のメーカーがモデルハウス建設のために使っているか、研究施設で耐震化構造の材料技術研究の向上に役立っているらしい。
また、スケルトンの骨はジャイアントアントの牙と共に武器や防具の素材としても研究されていて、試作品において軽さと切れ味に向上をもたらすものだと解っていて、既存の製品にも応用されてるそうだ。
只の骨に見えるが実際は骨じゃない……? またダンジョン二十四不思議を増やすべきなのかな。ちなみに剣は落とすが盾は落とさないらしい。盾はおまけなのかな。後ジャイアントアントの牙、お前ちゃんと使いどころあったんだな。ただの換金アイテムとだけ思ってたぞ。
「骨で建材が強くなる……なんか人柱みたいだな」
「気持ち悪いこと言わないでください……人骨が壁に埋められている家と考えると新しい住宅に住みたくなくなるかもしれません」
「これは一般開放されない内容だからな。他の人もモンスターが壁に使われている家と言われたらいかに頑丈でも住みたくなくなりそうだ」
モンスター建材を使った最先端の建築技術や武器というものも見て見たくはある。きっとデザイナーがデザインしたとおりの一見アレな物件が強化された建築素材によってまともな耐震技術を持った家として脚光を浴びてしまったりする未来があるんだろう。
「これによると、わりと人間臭い動きをしてくるらしいぞ。避けたり弾いたり……さすがに人型だけあって動きのパターンが多いようだ。後倒すためには肋骨の奥にある核……心臓を模しているのか。それを破壊しないとだめらしい」
「ネクロマンサーがスケルトンを召喚すると何もくれないんでしたね。召喚スピードはどのくらいなんでしょうか? 」
「十秒ほどで召喚を行って、クールタイムが三十秒あるらしい。つまり出会って十秒で倒さないと何もくれない疲れだけが残るスケルトンが一匹増えるのか」
「面倒な相手ですね。なんかこう、その分落として嬉しいものとか無いんでしょうか」
「真珠みたいなものをくれるらしい。今のところブランド化されて売りに出されているほどではないが、密かに人気を集めている……ほんとかぁ? 」
「骨からドロップした真珠って……スケルトンネクロマンサーはアコヤ貝かなんかですか」
「これが大きさの割に結構なお値段みたいだぞ。ネクロマンサーを素早く倒して真珠回収して回るのも結構な利益になりそうだ」
「嵩張らないのは大事ですからね。軽くて小さくて高価なものが良いです。ポーションみたいに」
「ポーションが次のランクで出るのは多分十六層以降だろうな。スケルトンは落とさないみたいだし」
スケルトンの肋骨にいかにして刃を通すかがネックになるだろうな。いっその事、熊手で肋骨をガリっと剥ぎ取って露出させたりできないものか。手段として一考しておこう。そうすれば最近出番のあまりないこいつももう一度脚光を浴びるかもしれない。
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