258:通り魔みたいな狩り
八層へ向かう。シェルターには自転車が三台。ということは八層へ行っていた探索者チームが帰ってきたという事になるのか。思い浮かぶのはパーティーは小寺さん達か。でも小寺パーティーのテントを見るに人の気配はしない。多分知らない人達だ。前に紙皿に書いてあった鈴木という人が該当するのかもしれない。
丁度いいので二台自転車を使い八層へ手早く到着。八層の様子を見る限り、仮眠を始めてすぐぐらいで戻ってきた可能性が高いな。ワイルドボアが綺麗に湧ききっている。
「これは九層は独り占めっぽいな。少なくともここ三十分ぐらいで行き来したパーティーは居ないらしい」
「自転車が戻ってきてましたから、七層に誰かいたかもしれませんね」
「おそらくそうだな。寝てたかもしれないしそっとしておくのが正解だろ」
「たしかに。仮眠途中に起こされるとイライラしますしね」
ワイルドボアが最大速度で近づいてくる。足元ギリギリに来たところで雷撃えい。バツッという音と共に黒い粒子に還りながら消えて行くワイルドボア。足元へ滑り込みながらドロップしていく肉。すぐさま回収。
「今の一撃は無駄が無くていいですね」
そういいつつも文月さんも適度な距離で【水魔法】でワイルドボアを左右に真っ二つにしながら駆けよっている。ワイルドボアを左右に切り分けた場合、左右どちらにドロップするかは決まっているんだろうか、等と考える余裕があるゆったりとした狩りだ。
これが一階層下に行くだけで集中力を要するデンジャラス一歩手前な戦闘になるのだからダンジョンはまだまだ面白い。更に一階層下がって十層に行けばデンジャラスそのもの。余計なことを考える余裕すらなくなる。
ワイルドボアを都合六匹倒した後ダーククロウの止まっている木の散髪をして、またワイルドボアを倒し九層への階段へ向かい、そのまま階段を下りる。
「さーてデンジャラススポーツの時間ですよー」
「張り切ってるなぁ。テンション上げ過ぎてさっきみたいにならないようにね」
「集中するから多分大丈夫です。まずは九層で体を慣らして、それから十層で密度の高い探索をしましょう。短時間ですけど」
階段を降りると早速三匹寄ってきた。親指、三、二。反応を確認すると早速手前の一匹へ寄りかかっていく。ジャイアントアントはこちらに向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。素直でよろしい。そのまま兜割の格好でジャイアントアントを頭から切り裂くと同時に横に移動する。
俺が居た地点に酸が飛んできていた。ついでに保管庫で酸を回収。これで便利な武器が一つ増えた。それと同時に酸を飛ばしてきたジャイアントアントに接近、横に並ぶと頭を刎ね飛ばして戦闘終了だ。
文月さんはジャイアントアントに寄らずに【水魔法】でジャイアントアントを切り刻む。一発で綺麗に頭を切り飛ばした。お互いに無事。そして鈍ってない事も確認。
九層をゆっくり体を慣らすように、動きを確かめるように倒しながら、ちょっとずつ内周部に寄っていく。一~三匹だったジャイアントアントとワイルドボアの群れが二~四匹へ、そして三~六匹へと徐々に増えて行く。
ジャイアントアントの肝はいかに酸を避けるか。今のところこれに尽きる。ただ近接して噛みついてくるだけならワイルドボアよりちょっと痛い程度で済むようになった。六層で十二匹一気にまとめてワイルドボアが来ることに比べれば、ジャイアントアントは物の数ではない。
今の戦闘スタイルからして、六匹同時に来るぐらいまでは余裕を持って対処できる。これも濃密な探索を繰り返してきた結果だ。酸が飛んできても問題ない範囲が六匹、ということだ。
九層の森際ではそのぐらいの多さのモンスターと接敵するため、十層の慣らし運転にはちょうどいい数になっている。
じゃあもしそれ以上の数で襲われたらどうするかだが、同時に来られなければそれほど問題にはならない。なので接触される前にあらかじめ倒してしまえばいい。
実に幸運なことに二人ともスキルによる攻撃が可能になっているおかげで仮に十匹来たとしてもまず四匹距離のあるうちに攻撃して倒してしまう。その後で六匹を相手にするという二段構えで今のところ対処する事になっている。
十層トライアルは四回目だ。一回目はあまりの多さに撤退を余儀なくされたが二回目のCランク試験の時には清州ダンジョンのモンスター密度の薄さのおかげで難なく突破することが出来た。
先日の三回目十層突破はかなり焦りつつもなんとか突破することが出来た。同じぐらいの密度なら、きっと次も突破できるだろう。突破できるんじゃないかな。まちょっと覚悟はしてある。
「この辺までならまだまだ余裕が出るようになってきましたね」
「散々タイムアタックしたからな。もう一歩内側へ、森に入り込んでみても良いかもしれないが、戦闘が立体的になるのはちょっとな」
「空を自由に飛べるなら話は別でしょうが今のところは厳しそうですね」
空を飛ぶスキルか。空を飛ぶこと自体には理屈とか論理が通用するものではないんだろう。だが存在するなら是非使用感を楽しんでみたいところではある。
「空を飛べなくても、三次元的に空間を把握できるようにはなりたいな。【生命探知】とか【索敵】のスキルならその辺はなんとかなる気がする」
「どっちも何から落ちるのかがサッパリですね。十三層以降なんでしょうか」
「オークが落とすなら十一層以降という可能性もある。オークは何をくれるのかな」
まだ会話を挟みながら進む余地がある。もう一匹ぐらい増えても大丈夫かな。ジャイアントアントを一撃で倒せる以上、酸以外は食らってもOKみたいな所はある。
久しぶりの耐久力試験代わりにあえて噛ませてみようか。今ならヒールポーションランク2もあるし、千切れたりしない限り大丈夫だとは思うが。試しに小盾を噛ませて様子を見る。どうやら噛み千切るほどの顎の力は無いようで、金属の部分に歯を立てたまま左右に首を振って外そうとしてくる。
この小盾を俺が縦に引きちぎることが出来るとして、自分で自分をつねって肉が抉れない限りは大丈夫と考えることはできるか。後でやってみよう。
「オークの先はスケルトンでしたっけ……【不死】とかくれるかもしれませんね」
「その代わりに人間を辞めそうだな。痛覚無さそうだから【物理耐性】とかもってそうだが……知ってるドロップとモンスターを見る限り、モンスターとドロップするスキルの関連性はない可能性のほうが高そうだ」
ワイルドボアから【火魔法】、ダーククロウ・ソードゴブリンから【水魔法】、ジャイアントアントから【雷魔法】、そしてスライムから【保管庫】。
うん、関連性が全く分からない。ここは深く考えないことにしよう。きっとあれだ、スキルオーブの何が当たるかもガチャなんだよきっと、そういう事にしておこう。そう言う事にしておいたほうがほら、物欲センサーが働かなくてよりドロップしやすくなると思うんだよね。
「うん、解らん。考えるのやめ。世の中で検証している人たちに丸投げだ」
「出てから考えても良さそうですよねー今のところだと」
「それに今のところ誰も行ったことが無いはずの小西十三層だ、そうそう簡単に出るとはおもえない」
「当たりくじは意外と最初のほうに詰まってるかもしれませんよ? 」
「その前に十二層の地図を作る所からかな。どっちにしろ今考えてもあまり実りは無いよ」
「まずはもう一回十層を抜けられるかどうかからですね」
徐々に十層の階段が近づきつつある。体も温まってきたところだが十層に入る前には休憩を入れよう。
「そろそろ十層だぞ、心の準備はできた? 」
「いざとなったら大盤振る舞いですからね。休憩とってまた濃密な三十分を切り抜けるとしましょう」
やる気は十分のようだ。疲れもそれほど感じない。麻痺しているという訳でも無さそうだから休憩してみてその後体を動かしチェックをしよう。
森の内周部から外周部へ移動し十層の階段の前で休憩を取る。水分も、念のためカロリーも。いざ囲まれた時に空腹で力が出ないでは意味がないからな。
「私カロリーはちょっと……ってわかった、わかったから無理やり詰め込もうとしないで」
若干カロリーを気にしている文月さんがカロリーの摂取をためらっているが、カロリーバーを剥いてにじり寄っていったところで諦めたらしい。
「そこまで気にするなら四層をひたすらグルグル回ると良いよ。練習にもなるしひたすら歩けるしドロップも悪くないし」
「そうしますか……」
諦めてさくさくとカロリーバーを食べ始める。納得いかない表情だが、ここは納得してもらおう。小休止中に忍び寄ってきたジャイアントアントを雷撃で黒い粒子に還した後、もう五分ほど休憩する。
全身を伸び縮みさせ、関節等肉体の関係各所との連携の確認する。問題は無さそうだな。さぁ、三十分間がんばりますか。
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