255:いつもの目覚め
大航海時代Originは地味に時間が吸われて行きますね。
今日も気持ちいい目覚めとともに一日が始まる。まだまだ効果は続くようだな、ありがとうダーククロウ。出来ればもう二ヶ月ぐらいは続いてくれると助かる。
今日の朝食もカレー……と行きたいところだが、昼か夜の為にカレーを残しておいて余韻を味わいたい。朝はいつも通りのメニューを作る事にする。
何より、今食べてしまっていざ現地で物足りないとなるよりも、現地で作って余って持ち帰るなり提供するなりしたほうが精神的にも食欲的にも満たされる気がするからだ。
早速目玉焼きとサラダを盛り付けると、食パンに……ちょっとだけカレーを盛ろうかな。そう、ちょっとだけだ。やっぱり一晩寝かせたカレーは賞味しておきたい。スプーン二さじ分ぐらいだけカレーをパンに乗せると粉チーズをのせてオーブンでブン。
程よく温まったカレーに少量のチーズがアクセントとなり朝から幸せな気分になれる、やはりカレーはいいものだ。うむ、美味い美味い。
食事を済ませるとカレーを本格的に温めちんちこちんにすると、昨日買った二人用の小鍋に分け入れてそのまま保管庫にパス。パックライスも温めるとそのまま保管庫にパス。これで六時間から八時間ぐらいはアツアツのカレーを楽しめる。
念のためチーズも袋に入れて持ち込もう。これでもう一つ食のアクセントが楽しめるようになったな。ちなみにカレーは甘口にしてある。辛口でも全然いける口だが、ダンジョンで辛い物を食べて汗をかいて喉が渇いて水分が足りなくなるという環境を作らないためだ。
文月さんが居るから【水魔法】で半分無限に生み出すことは出来るのだが、そんなしょーもないことでスキルを使いたくないというのが本音である。
食事の用意が出来たことだし、早速ダンジョンへ潜る準備をしよう。刻み野菜も忘れずに用意しておく。詰めるものを保管庫に詰め、枕もきちんと保管庫へ。そうだ、カレーをよそうためのお玉も必要だな。後キッチンペーパーの在庫をきっちり確認しておく。
油モノを調理した後は後の手入れが大事だからな。
万能熊手二つ、ヨシ!
マチェット、ヨシ!
グラディウス、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
防刃ツナギ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
枕、ヨシ!
カレー、皿、お玉、ヨシ!
冷えた水、コーラ、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。そろそろ武器も新しいものを見繕わないといけないかな。確か前に行った時は「次に研ぎに来たら変え時ですかね」と言われた覚えがある。その時がそろそろ来たかもしれない。若干のへこみや刃こぼれが感じられつつあるグラディウスを見つめて思う。
お前にはずいぶん長い間世話になってるな。長い間……というほどでもないが、世話になってると言えば熊手もそうだな。もし途中で折れたらその時はゴブリンソードを代替品にする事になるんだろうな。鬼ころしで新しいのを見繕う事にしよう。
色々準備が終わったので早速小西ダンジョンへ出かける。いつもの電車とバスを乗り継ぎ小西ダンジョンに着いたのは午前九時ちょっと前。開場待ちの列に文月さんを見かけた。
「おはよう、早いね。なんかあった? 」
「おはよう、こっちはいつも通り。そっちは? 」
「昼食食べに行ったら新浜さん達と会ったので意見交換会を少しやったぐらいかな」
「というと、四層の件で? 結局何が出てたんですか」
文月さんは何を落としたかのほうに興味があるらしい。期待感が見て取れる。
「【水魔法】だったみたい。ダンジョン内じゃないから実演まではしてもらわなかったけど」
「新浜さんが覚えたんですかねえ」
「いや、他のパーティーメンバーが覚えたそうだよ。ポーターの荷物がこれで軽くなるって喜んでた」
「確かに水分は大事ですもんね。二日も三日も潜り続けるなら猶更だと思います」
入ダン受付を済ませると早速ダンジョンだ。さぁ今日は何処へ行こうかな。
「さて、入ったはいいけどどうする、九層回るか十層突破して十一層へ行くか、選択肢は色々あるぞ」
「そうですね、個人的には良く体を動かしたいので十層を突破して十一層を回りたいですね」
「十層でもかなりの密度で狩りは出来ると思うけど? 」
「十層のほうがよく動いて痩せ……良い働きができそうではあるんですが、精神的な負荷を考えると十一層のほうが安定できる気がします。なので十一層で出来るだけ長時間狩りをしたいと思うのですがいかがでしょうか」
「素晴らしいと思います。ではお嬢様向かいましょうか」
「そうしましょう素敵なおじさま」
まず四層までまっすぐ突破する事を優先して動くことになった。一層二層三層と向かう道はいつも通り綺麗に清掃されていて、わざわざ横道に逸れない限りはリポップに出会うことも無いだろう。朝も早くからご苦労さんだ。
中での時間を多く作るために速足で移動しながらぼちぼちと近況報告をする。
「新浜さん達がスキルオーブ出したって事は、九層まででドロップする可能性の高い場所は二層三層八層ってことになるんでしょうか」
「スキルオーブが出た後は一定期間出ない、もしくは……たとえば一万枚の宝くじのうち一枚が当たりくじだったとして、全部中身が無くなるまで更新されない仕組みだったらそうなる」
「五、六、九層は私たちが出してまだ日が浅いからそんなにドロップテーブルが回ってない、と」
「これが階層ごとに宝くじの枚数が別個で決まってたらよりややこしい話になってしまうが……ただ、一層二層三層ははずれくじの個数が多いんじゃないかなーとは思う。清州みたいに混んでるダンジョンでポコポコスキルオーブが落ちるという話は聞いたことが無い」
「そんなに個数が出ないからこそ、テーブルが別である。あたりが連続で出るようなものではないからテーブルは外れくじを打ち切るまで更新されない。なんか推測だらけですね……あれ? 」
文月さんが違和感を覚えたらしい。なんだろう?
「これって結局のところ、やることに変わりはないですよね? 」
「スキルをわざわざ狙って拾いに行かないなら何も変わらないね」
「そんな説ぶち上げて何がしたいんです? 」
「何がしたい……何がしたいんだろう? 過疎ダンジョンにも光を? なんか違うな。もっとスキル持ちが溢れてほしい……かな」
う~ん、自分にとってどうなるのが理想なのか。それは考えたことは無かったな。確かに実際にスキルを持っている他人と出会う機会は無いからな。
「実際のところ小西ダンジョンでスキル持ってるの私たち以外見てませんもんね」
「実はこの話を新浜さん達としてるとき、たまたま隣が探索者が座ってたらしくて話が漏れてるのよね」
「それは大事……いや、手間が省けた? 」
「話が漏れたところで特に困る事は無いんだよな。むしろ広まって探索者の動きが変わるのを眺めているほうが楽しそうではある」
「実際のところどうなんですかね。動きなんてあるんですかね」
「ドロップ検証してる人たちが本当にそうなのかどうか走り始めているんじゃないかなぁ。だとすれば今日は七層へのお客さんが増えそうではあるよね」
「一応小西も過疎ダンジョンでしたね。最近は一層二層三層とまとめてセットでお客さんがそこそこ居るのであまりイメージできませんが」
なんか俺が何かしらやるたびに小西ダンジョンに人が増えている気がするな。悪い事ではないし、スライムと戯れたかったら夜にコッソリとやるので何も問題は無いんだが。
「九層十層ならどうよ。小寺さん達と新浜さん達と、もう一パーティーいるらしいよ、会った事ないけど」
「狭い小西でも顔を知らない人はいるもんですね」
「どういうめぐりあわせの悪さなんだろうな。毎日潜るほどじゃないのか、休日はしっかり休んで平日に潜るのか、それとも他の理由があるのか……なんにせよ、自分達だけじゃないというのは少し安心感があるな」
誰も来ない事が確定している場所よりも、誰か通りかかる可能性がある場所のほうが戦いやすいと言えば戦いやすい。さすがに隣同士で狩りに興じるのは論外だが、もしもの時に助けを得やすいかどうかは割と大事だ。
話している間に三層に到着し、少しだけ気をダンジョンに巡らせつつ会話は続く。
「しかし、小西に通うという事はスキルオーブを獲得するのはしばらく諦めたほうが良さそうですね」
「まあ、現状困っている訳でも、より有用なものが欲しいかと言われると欲しいがこれといって思い浮かばないんだよね」
「ガスバーナーの火の代わりに【火魔法】を使いたいとか」
「肉の炙り焼きでもしたいならそうなるが、それならそれでカセットボンベバーナーを持ってくればいいだけじゃない? 」
しばらく考えた後、文月さんはそれで納得したらしい。
「……今の私たちにスキルオーブドロップの価値はそれほど高いところにあるものなのでしょうか? 」
「お気づきになりましたか」
「それぞれスキル持ってて、戦闘もできて、中距離ぐらいまでなら対応できて、いざという時の飲食もできる」
「つまり、足りない物は人手と厚生年金ぐらいだ」
「あ、やっぱりあるほうが嬉しいんですか。老後の心配ですか」
「今まで生きてきた期間よりも老後のほうが近いからな。気が付けばあっという間よ。それに探索者に年齢制限はないとはいえ、何歳まで続けられるのか……そもそも、六十五歳まで探索者を続けると仮定してもそのころまでダンジョンはあるのか? 消えたりしない? 」
「それも含めて今のうちに稼いでおかないといけませんね」
文月さんもまだ若い。贅沢できるところは贅沢をしたいところだろうし、やりたいことも沢山あるだろう。時間がある内にやっておきたいことはやっておくべきだと俺個人としては思う。
「稼ぐのも大事だが使うのも大事だぞ。金を使って、体験してみて、その結果がどうであれその経験自体が大事だ」
「急にオッサン臭くなりましたね」
「オッサン言うなし。実際の所、金があっても体力が足りなくて出来なくなることってのはそれなりに出来てくるものだからな。やりたいことを優先して、今のうちに楽しめるものは楽しんでおくべきだ」
「歳取ってからでも楽しめることはありますよね? そういうものは後にしても良いのでは? 」
「若いころに体験したことを歳を重ねてから再体験すると視点がずれるんだよ。若いころ受ける感覚と歳を重ねた後で受ける感覚は多分別のものだ。味わい深くなるとかカドが取れるとか表現は色々あるが、一言で言うとあぁ、年取ったなぁという奴」
そういうもんですかねぇといった反応をされる。多分そういうもんだろうと思うし、二十年後も同じことを言ってそうな気がする。多分二千年前も誰かが言っていただろう。
「ま、なにはともあれ先立つものは金だ。しっかり稼いで帰ろうなのだ」
「お~」
元気に三層を歩きぬけて四層の階段へたどり着いた。この会話の間に十五匹ほどのゴブリンが処理されていたがスルーして会話を続けていたあたり確かに成長しているな、といった感想が漏れる。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





