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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第四章:中年三日通わざれば腹肉も増える

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251:答え合わせ



 時間が来てしまった。食べ放題終了の時間だ。一名を除いて行儀よく机の上に乗った料理は食べ終えていた所なのでちょうど良かったと言えば良かったか。除かれた一名は「もう一皿行けたんやけどなぁ」と愚痴をこぼしつつも満足な量は食べ終えていたらしい。


 お会計の段階になって金を出そうとすると新浜さんに制止される。


「情報料には安すぎるかもしれませんが、ここはウチで出すことにさせてください。その代わり期待してますよ」


 情報料をもらってしまった。【水魔法】の情報料としては安すぎるかもしれませんが、と付け加えられての事だが、元々無償でお世話になってる御礼として情報を出したのだから、今更それが二千円帰ってきてもラッキーぐらいの事と思っておこう。


 食べ放題の店を離れ、三軒隣にあるチェーン店の落ち着いたカフェに入る。四人席を用意してもらうとコーヒーを四杯……と食べ足りなかった約一名がケーキを注文。まだ喰う気か。


 しばらくしてコーヒーが届いたところで懇談会となった。


「さて、では裏側を話してもらいましょうか。何故、小西ダンジョンの四層のソードゴブリンからスキルオーブが出るという事を予測できたのか」


 新浜さんが詰め寄る様に問いかけをしてくる。一口コーヒーを飲んでクールに答え……ようとしたがコーヒーが熱すぎてうまくいかなかった。慣れない事はしないように。


「まず最初に、無事入手おめでとうございます。これで私の仮説が一つ定説に近づきました。そこが解っただけでも私にとっては収入です。順番に説明しますが……モンスターのドロップテーブルについての論文が出ているのはご存じですか? 」

「確かモンスターごとにドロップテーブルが設定されていて、どの階層であっても誰でもその割合でドロップするという奴ですよね」

「そうです。で、そのドロップテーブルに疑問を抱いたのがこの間のCランク試験でして」

「と、言いますと? なんかありましたん? 」


 平田さんがケーキを頬張りながらコーヒーを啜り口の中を甘苦くしながら疑問を投げかける。


「新浜さんが教えてくれたんですよ。ここ半年で一回しかスキルオーブを目撃してないって」

「確かに……そうですわ。ここ半年だと一回だけ、しかもウチのパーティーじゃないところがドロップしてますわ」

「私が探索者を始めて二ヶ月ほど経つんですが、目撃した回数は合計で四回です」

「四回!? なぜそんなに」


 ガタっと椅子を揺らしてまで驚く平田さん。


「そのうち一回は清州ダンジョンで精算している時に他人が出していたのを目撃した、というものですから、自力でドロップを出したのは三回ということになります」

「ほー、運がええですなぁ」


 しきりに感心している平田さん。そこだけどそこじゃないんだ大事なのは。


「そこです。運がいい悪いの問題ではなくもっと他の要因があるのではないか? という疑問を持ちました。そこで、自分たちがドロップした階層とドロップしたモンスターを考えて、もしかしたら階層毎やモンスターごとにスキルオーブのドロップテーブルがあるのではないか、そして小西四層のソードゴブリンのドロップテーブルはそんなに回ってないのではないか、と思いまして」

「結果的に私たちの手元にドロップされたという訳ですか。でもそれだと、小西ダンジョンに限定する理由にならな……もしかして、スキルオーブはダンジョン毎にドロップテーブルが存在する? 」


 横田さんは気づいたようだ。残りの二人はなるほど、その可能性があったかという感じで頷いている。


「えぇ、しかも外れくじがだんだん減っていく形でのいわゆるボックス型ドロップテーブルが配置されてる可能性が高いです」

「なるほど、それをご自分でドロップさせようとは思わなかったので? 」

「自分で出したら出したと報告はしますが、手は多いほうが結果が出るのは早いと思いましてね。ってなわけで、そういう仮説を立ててみた以上、もしそれが正しいなら出るはずだと思いました。それが伝えた内容の中身です」

「では、あの時言ってた探索者が各地に散らばるかもしれないという一言は、もしかして」

「えぇ、スキルオーブを探しにフットワークの軽い探索者が各地の過疎ダンジョンを探訪しに行くんじゃないかなーって思いまして」


 三人はしばらく考えるように言葉を止める。一呼吸の間、全員が無言でコーヒーを啜って一息つく。その後横田さんが会話を再開した。


「……たしかに、同じダンジョンの同じ階層でスキルオーブが出るまで粘るよりは遥かに可能性は高いかもしれませんね」

「このネタ、他には誰が知ってますのん? 」

「文月さんには詳細に話しましたよ。それ以外だと新浜さん達だけですね」

「例えばですが、私たちがこの情報を頼りに全国行脚しても構わないという事ですか」

「むしろ、そちらのネットワークを使って広めて貰っても構わないと思っています」

「どうして、こんな重たい情報を気軽にパスできるんです? 」


 新浜さんが苦情を言いたそうな顔で問いかけてくる。


「う~ん、あんまり興味がないからじゃないですかね? 二人組でいろんなダンジョン巡って拾い集めるのはさすがに手に余りますし、欲しい人のところに行くのが一番でしょう? 」

「スキルオーブが大量確保できるかもしれないのにですか? 【火魔法】にしても一個で一千万はしますよ、手に余るってほど収入を多く得ているという訳でもないと思いますが」

「いろんなダンジョンを巡るのは楽しそうではあるんですが、少なくとも文月さんには学生という身分がありますし、私はまぁこの通り探索者専門、言い方が悪いですが無職ですから思えば思った時に何処のダンジョンでも潜れる立場ではあります。ただ、パーティーをこうやって組んでる以上、向こうの予定には合わせてあげたいんですよね」

「でも……勿体なくないですか」

「それに、今回はたまたま早く見つけられたのかもしれません。もしかしたらこれが一か月以上先の話だったかもしれません。モンスターのドロップテーブルが定説なら、スキルオーブが出るドロップテーブルもある程度の確率であるはずだと思います。出やすくはなっているけど行けば出ると確定してるわけではないんです。その為に遠征を組んで探索をしたいかと言われるとそこまでは思わないんですよね」


 再び沈黙が流れる。コーヒーを啜った後、ケーキにのっかっていたイチゴを名残惜しそうに食べ終わった後平田さんが口を開く。


「ちなみに、そちらのドロップは何から出ましたん? 」

「【火魔法】を五層のワイルドボアから、これは売り払ってお金に変えました。後は六層のダーククロウから【水魔法】を、そして九層のおそらくジャイアントアントから【雷魔法】を拾いました。すべて小西ダンジョン産です」

「清州ダンジョンでは誰から出たんでしょうなぁ」

「当時はそこまで興味が持てなかったですし、ドロップするにしてもこんな所では拾えないだろうと思ってよく聞いてなかったんです。今思えばどこで拾ったか確認しておくべきでしたね」

「しかし、六層のダーククロウから出たという事はあの物凄い数のダーククロウを相手したって事ですよね? よくできましたね」

「……あぁ、それは数の少ないほうを狙って散らしてから倒してたらポコッと出たので」


 危ない、もうちょっとで【保管庫】でまとめて射出と言いそうになった。この時はまだ【雷魔法】を手に入れていないときだったからな。迂闊に情報は漏らさないようにしないと。


「この情報、好き放題に公開して良い話なんですかね」

「良いと思いますよ。そのほうが過疎ダンジョンにも日があたりますし、過密ダンジョンは人が減って良い具合に探索が出来るようになると思います。全国的に広まればこれ以上……そう、これ以上面白い事は無いと思いませんか? 」

「面白い……ですか。たしかにポッと出た与太話としても少なくとも四つについては立証出来てますし、後は検証する人がどのくらいいるかになると思いますが」

「意外と居ると思いますよ? 私も市井の掲示板にネタを流したことありますけど検証するためにオフ会開いたりしてるそうですから」

「どんなネタ流したんです? 」

「ゴブリンの棍棒だけ持ち出そうとしても三層から二層へは移動させられなかった話」

「あれ安村さんだったんですか……」


 どうやら横田さんはあのネタを知っていたようだ。情報に聡いな。


「そのオフ会、ゴブリンだけじゃなくソードゴブリンの剣でも同じことが出来るかどうか検証してみたらしいです。結果としてはやはり、剣もモンスターそのものとして認識されているらしくて階層移動は出来なかったそうです」

「なるほど。じゃあオークの棍棒なんかでも同じ結果になりそうですね」

「後、ゴブリンが三層から四層へ移動できるかどうかも検証したらしいのですが、階層ごとにモンスターが固定されてるようで、同じリポップが設定されているモンスターでも移動することは出来なかったそうですよ」

「そうですか……だとしたら、二層のグレイウルフと三層のグレイウルフでもそれぞれスキルオーブのドロップテーブルが存在する可能性も出てきましたね」


 また課題が増えてしまったな。とりあえず今は横にぶん投げておこう。話が進まなくなる。


「ダンジョン毎、階層毎、モンスター毎にドロップテーブルがある可能性ですか」

「だとすると六層のワイルドボアから出ることもあるって事ですね」

「ますます探索者が散らばりそうですね」

「そんなわけで、この情報は好きにばら撒いてくれて結構ですよ。検証はやりたい人がやるでしょうし、その結果は集まる所に集まるでしょうからその過程と結果を見るのを楽しみにしようと思います」


 コーヒーを飲み終わった。全員が全員それぞれ思考モードに入ったのか、静かになった席に店内BGMが良く響く。この曲なんて言うんだったかな、有名なJAZZナンバーだった気がするが。帰ったら調べてみよう。


「……予想以上の爆弾でしたね」

「これはちょっとウチらにも手に余る話ですわ」

「あくまでまだ仮説です。検証するには各地のダンジョンで各階層で各モンスターでそれぞれ調べる必要があるでしょうし、それにかかる人的コストは膨大なものになるでしょう。ただ、これが定説になったら……きっと世の中の探索事情は大きく変わるでしょうね」

「スキルオーブのドロップは運が良いか、ダンジョンに選ばれた人だけがドロップできるというのが今までの考え方でしたから。ただ、回転率の非常にいい、例えば清州一層のスライムなんかだとどういう事になるんでしょう? 」

「その分ドロップが渋くなっている可能性はあります。ただ回転が速ければ速いほど出る可能性も高くなると思いますよ。しかし人数が多すぎるとその分モンスターリポップが遅くなりますから、やはり適度に散らばったところで、つまり過疎ダンジョンで試してみるのが一番確実でしょうね」


 さて、全部話したかな。結構喋ったなぁ。オフ会の話が無事に終わったらしいことを確認できただけでも収穫か。


「私の頭の中にある話せることはこれで全部です。他に何かあったりしますか? 」

「そういえば文月さんはどういうイメージで水魔法を制御……というか運用しているんでしょう? 」


 横田さんはそこが気になるらしい。上手く制御しきれてないんだろうか。


「今のところゴブリンぐらいなら【水魔法】で倒せるようになりましたが、我々の主戦場はもっと奥でしょう? それではあまり覚えた意味が薄すぎるので何か解決法があったらいいと思ってるんですが」

「そうですね、彼女が主に使っている水刃……便宜上ウォーターカッターと呼びますが、風呂に溜まっている水をバスケットボール位に圧縮して、それを刃の形に変えて一気に打ち出す……みたいな伝え方をしました。それ以後は自分で試行錯誤をしてるみたいですが」

「なるほど、水自体の圧縮ですか……水って圧力かけても体積が変わるものではないですよね? 」

「えぇ、だからあくまでイメージです。そういうイメージを自分の中に持つことが大事なんじゃないか? というアドバイスはしました。実践はそれこそ本人がやらないと効果ないですからね」

「なるほど……参考になります。それと一つ気になる事があります。ゴブリンソード、何に使うんですか? 」


 おっと、ここで伏兵の登場だ。さて、どう答えようかな。


「……今はまだ何とも言えません。ただ試してみたいことがあるのと、スキルオーブのドロップがもっと出るようになったらお答えできると思います」

「全部じゃないじゃないですか」

「はは、私にも言える事と言えない事があるだけですよ。それじゃ、また。本日はごちそうさまでした」

「お、もうお帰りですか。この後用事でも? 」

「特には無いんですが、夕食の用意とか集めたい情報とかまた色々できまして。家で情報集めするほうが慣れてますから」

「そうですか、お気をつけて。またお話ししましょう」

「あ、一応ネタ元が私だってことは伏せておいてくれると嬉しいです。そのほうが動きやすいので。では」


 三人に別れを告げてカフェを去る。食料品エリアを回って今日の夕食を決めるかな。さて何を食おうか……


 ◇◆◇◆◇◆◇


 安村が離れた後、三人は頭を抱えたままうずくまっていた。これを残りの二人にどう説明するか。いやパーティー内はまだいい、他のパーティーに伝えて信じてもらえるかどうか。実際に確認するためにはどういうプロセスが必要になるのか。それを考えると頭が痛いという以外に無かった。


 なお、安村達の隣の席で聞き耳を立てている探索者が居たことは安村含め四人とも気づいていなかった。



作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
何で個室で防音のある所で話さないのだろうと思ったけど聞かれてたか… 安村さん会社クビになったけど…探索やイタズラ、スキル、ステータスでその都度色々やらかしたらのを見ると真面目な熟練工で技術を持ってるけ…
一回目は保管庫オーブで、それを隠してるから公称は4回ですよ。
[気になる点] オーブを目撃したのは5回だと少し前の回で言ってますよ。 清州に初めて来たときに他のパーティーが持ってきたのを見たと。
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