225:Cランク試験 9/11 オーク肉のステーキ
九層から八層へと帰り道を慎重に急ぐ。急ぎ過ぎて複数パーティーをトレインする結果になるぐらいなら落ち着いて歩いたほうが良いのは解りきっているが、時間制限付きの帰り道。どうしても急ぎ足になることは仕方なくといった所。
モンスター自体は完全に体が慣れきっている上に小西ダンジョンよりよほど少ない数が遅いペースで出てくるだけなので苦戦をするわけでもなく、護衛対象である新浜さんに近づこうものなら【雷魔法】でこんがり焼かれるか【水魔法】でスッパリ切り刻まれるかの二択を選ぶ権利が進呈されるだけだ。
あっという間に九層を半周してしまい、八層への階段が現れた。
「楽でしたね。やっぱり十層や十一層と比べると」
「プレッシャーみたいなものは完全になくなったと言える」
「これは帰りの査定も楽しみですね」
「う~ん……多分いつもの半分ぐらいだな。移動時間が長すぎて狩りにならなかった部分があるし」
メモっておいた倒した数と、へそくりにする予定のドロップを引き算して大体の儲けを割り出す。オーク肉とヒールポーションランク2だけで十万近く稼がない選択肢を選ぶことになったからな。まぁ、その分楽しめたから良しとしよう。
「家に帰るまでが探索ですよ。それにまだ試験中です。一応お忘れなく」
新浜さんに釘を刺される。はーいわかってまーす。
「さて、このまま八層へ上がってその分七層でゆっくりしますか。今午後九時半。さすがにお眠に近い時間帯だ。四時間ぐらいは休憩を挟みたいところだが……? あれ、意外と時間的な余裕が無いな」
「二十四時間はちょっと短すぎたかもしれませんね。でもまぁ、時間内に頑張って私を上まで連れて行ってください。時間を守るのも探索者の仕事の内ですから」
「だ、そうなので仮眠は取れても三時間ぐらいになる。今まででは体験したことない密なスケジュールだけど頑張っていこう」
「おー」
そんなわけで九層から八層へと昇る。
「ここですか潮干狩り現場は」
「さすがに今日は誰もトレインなんて迷惑かける人は居なかったらしい」
「ここが現場ですか……見たかったなぁ」
三者三様の感想である。一人はまたやらかして……という顔。一人は懐かしいなぁという顔。そしてもう一人は是非目の前で見たかったという顔。
八層に戻るとワイルドボア数匹と上空を飛んでいるダーククロウがいくつか居た。上空を飛ぶダーククロウにちょっかいをかけてドロップを拾ったり羽根を拾ったりしつつ、ワイルドボアは文月さんに任せて対空監視に注力する。
途中何度かフンを落とされそうになったが回避に成功。回避中にダーククロウを始末したがフンは消滅しなかった。つまりダーククロウのフンもジャイアントアントの酸と同じで、本体から離れた段階でモンスターオブジェクトとは認識されなくなるらしい。
つまり、保管庫に入れようと思ったら入れられる。すごく要らない。
そのまま木に止まっているダーククロウを刺激しないよう無視し、何事もなく七層にたどり着いた。七層は相変わらず賑やかだ。帰ってきたという感じがする、ほっとする空間がそこにあった。
時刻は現在午後十時。三時間は休憩を取りたいな。
「三時間休憩します。日付が変わる辺りでまた声を掛けに行きますのでよろしくお願いします」
「解りました。自分のテントに居ますので寝てるかどうかは解りませんが寝てたら起こしてください」
「では、ここで一時解散という事で」
新浜さんと別れると、空いた土地を探して早速テントを建ててエアマットを膨らませる。ここで疲れがどっと出たのか、急にやる気がしなくなった。早速手に入れたオーク肉を食べようか……と思ってた矢先である。これだけ疲れが出ると、作る食事にも影響しそうだ。今やるのは止めておこう。
「オーク肉食べないの? あれだけ楽しみにしてたのに」
「疲れが出てきてそれどころじゃない。そんな疲れた時に作っても多分美味しくない。どうせ美味しいのを食べたいのなら一番美味しく調理してくれそうなところに……あるな、一軒だけすぐ近くに手軽に食事できそうなところが」
「もしかして、六層側の」
「「串焼き屋」」
声が重なって、そして一時的に疲れが飛んだ。エンドルフィンが分泌される音がした。そこまでならたどり着けるか。
「一パックだけ持って行って頼んでみようか。店が開いてればだけど」
「そうしましょう、活きのいいうちに味わうのも大事です」
早速二人してテントから離れる。外出中と札を張り付けておく。六層側の屋台に近づくと……まだやっているようだ。
「こんばんは、やってますか? 」
「いらっしゃい、おお兄ちゃんもう帰りか? 今なら仕入れたてのボア肉が有るが」
「持ち込みで、オーク肉一丁。二分割でお願いします」
「お、その顔はオーク肉の初戦果ってとこだな。任せときな、一番美味くステーキにしてやる」
オーク肉のパックを受け取ると早速鉄板で焼き始める。余熱がしてあったようで、すぐに肉の焼けるいい匂いと振りかけられたスパイスの香りが胃袋を刺激する。脂肪分が割と多めなのか、ちょっとずつ縮んでいく肉をよそ眼に、文月さんも胃袋を押さえている。考えることは同じか。
五分ほどして二人の目の前には良く焼かれているが柔らかさを感じさせるふんわりとしたステーキが並べられる。
「持ち込みだから半額だ、四千円な」
「はい、また機会があったらよろしくお願いします」
「おう、また来てくれよな」
オーク肉に早速かぶりつく文月さん。俺もテントまで戻ってなんて言わずに歩きながら食べ始める。
「おいひいふぇすふぇねふぉれ」
「口に入れたら溶けるな。でもちゃんと肉だ。スパイスもちょうど良い感じに効いてて……これは自分でもなんとかやれそうな感じがするな」
あっという間に食べ終えた文月さんがこちらの肉を狙っている。とられる前に自分の分を食い終わらないと俺の胃袋も危険になってしまいそうだ。
これはわざわざ往復して睡眠時間を三十分削るだけの価値はあったな。辛すぎずそれでいて胡椒の香りがしっかりと効いていて、豪勢なサイコロステーキといった感じだ。この味は是非盗みたい。
あっという間になくなってしまい、二パック注文するべきだったか? という問いは残るが、ともかく初戦果を早速胃袋に詰めた俺たちは仮眠に入る。食べ終わったところで胃袋が満足し、疲労が再び体を襲い始める。
文月さんは俺が立てたテントに入ってもう眠る準備万端という感じだ。テント二つ建てろという事すら面倒になってきた。ちょっと狭いがここは我慢しよう。アラームを二時間半後にセットして仮眠を取る。
「二人だと狭いですね」
「なら自分のテント立てなさいよ」
「面倒くさくて……別にいいですよね」
「仮眠して起きてなんで居るの? とか言い出さないなら」
「今なら枕出してもバレないんじゃ? 」
「ポプリで我慢しなさい」
ダーククロウの羽根の袋を鼻先に押し付ける。布団屋の布団を参考に羽根の芯部分をカットして羽毛に当たる部分だけを詰め込んだお手製だ。
「あーいい香り……」
それ以上何も発しなくなった。どうやら疲れて早速眠りについたらしい。効果強いなぁこれ。俺も鼻先にポプリを乗せるとその香りを十分に嗅ぐ。確かに疲れてる時にこれは効くな……
◇◆◇◆◇◆◇
アラームが鳴る。きっちり二時間半眠れたようだ。疲れは……三割ぐらいは残っているという感じか。だが、ここから上へ戻る分の体力は十分にある。時刻はちょうど日付が変わったところだ。まだ少し眠い。タオルを保管庫からコッソリ取り出して水をかけ顔を拭く。
文月さんはぐっすりと眠ったままだ。タオルをもう一枚だし、同じように水を含ませると文月さんの頬っぺたに乗せる。
「ひゃっ!? 」
跳ね起きる文月さん。新鮮な反応が見れた。
「おはよう、時間だぞ」
「びっくりした~。もうちょっとこう起こし方をですね」
「なら、アラームで目覚めるようにすることだ。完全に熟睡してたな。そんなに疲れてたなら言ってくれればいいのに」
「いや~、試験中で緊張してたみたいで、七層帰ってきたら急に疲れが」
言い訳を並べ立てつつ、タオルで色々と拭き始めたので外へ出る。女性はいろんなところを拭きたくなるはずだからな。俺が目の前に居てはやりづらい事も有るだろう。
体の柔軟体操を始める。すると、新浜さんの姿が見えた。どうやらあっちも無事に起きられたらしい。手を振ると振り返してくる。
「おはようございます。文月さんは? 」
「中で身支度してますよ。少ししたら出てくるはずです」
「じゃあ、一緒に柔軟運動でもしますか」
二人そろってラジオ体操もどきをする。学校の授業でこんなことやったなぁ。背中に背負って伸ばしたり、二人で引っ張り合ったり。オッサンと若者のコンビでは異様に映るかもしれないな。
しかし若さのせいか、新浜さんは可動域が広い。俺より更にしなやかに体を伸ばしている。寝汗はしっかり拭いてきたのだろう、デオドラント系のいい香りがする。
「若いっていいなぁ。俺もあと二十年……いや十年若ければそのぐらいの体の柔らかさを保持出来たろうに」
「安村さんもそういう割には結構体柔らかいほうだと思いますよ」
「そうかなぁ。前屈しても手のひらがギリギリ付かないぐらいだけど」
そう言って前屈をしてみる。手のひらが付く前に足がプルプル言い始めた。やっぱり柔らかさでは若者には勝てない。余裕の表情で前屈して手のひらを付ける新浜さんが横に居た。
悔しい。もっとダーククロウの布団で寝て体をほぐし続けるしかないな。文月さんが支度を終えるまで五分ほど、ふたりでいろんなところを伸ばしたり縮めたりした。
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