224:Cランク試験 8/11 帰り道と仮説
休憩を終えて十層に戻る。すると、他のパーティーと丁度鉢合わせする形になった。平田さんだ。彼の担当する四人組のパーティーがちょうどこれから十一層へ潜ろうとしているらしい。
「おっ、これはリーダーと安村さんと……どうも初めまして平田です。新浜のパーティーメンバーですわ」
「あっ、初めまして文月です。安村の相棒をしてます」
「パーティーメンバーが居るとは聞いてましたが女性とは思いませんでしたわ。安村さんも隅には置けませんなぁ。両手に華ですなぁ」
「別に安村さんとはそういう仲ではないですよ。ビジネスパートナーです」
平田さんの茶化しに真っ当に返事をする文月さん。対応としては満点だ。
「平田さん達はこれから十一層へ? 」
「そうですわ。そちらはもうお帰りですか? 」
「目的は達成したのでさっさと帰ろうかと。多分また来られるので」
お互い試験の最中なのであまり長話も出来ないし、試験を受けている他のパーティーが疎外感を受けたり、俺達だけが優遇されているという感覚を覚えられても困る。挨拶はほどほどにしておこう。
「では、私たちは真っ直ぐ帰るのでお気をつけて」
「そちらさんも気ぃ付けてお帰りください」
平田さんたちと別れ、さっきとは逆方向、森を見て右方向へ進路を取る。パーティーとすれ違ったという事はこれから行く先の密度は少ないと考えても良いのだろうか。それともわざと大回りをしてここまでやってきたのか。どっちか解らない以上気を抜かないほうが良いだろうな。
暫く崖側を歩くと五分ほどしてジャイアントアントの群れがやってきた。親指、六、三。何の問題も無く無傷で戦闘を終える。ドロップも出てくれている。安定してジャイアントアントを狩れるようになったのはスキルのおかげで間違いはない。良いタイミングで【雷魔法】が出てくれたものだ。
そのまま進む。さっきより湧きが甘い。やはりさっきのパーティーは最短ルートを通ってきたのかな?
「湧きが少ないですね。こっちのルートを通ってきたのでしょうか」
「その可能性が高いと思う。ほら、休憩一時間しか取らなかったから他の試験パーティーと時間差が出来たんだと思うよ」
「なるほど。ではもうちょっと長く休憩取ってたら同時に十層攻略になった可能性もあったって事ですか」
「そうならなくてよかった。おかげで十一層で狩場が被ることも無かったし、手早く目的を達成できた」
「オーク肉どうします? 査定に出します? 私はいつものところに持って行って食べてみたいものがあるんですが」
「同感。その分は取っておこう。それ以外は……ヒールポーションランク2どうする? 」
「念のため取っておきましょう。一本ずつ保険という事で残しておいて、売却するのはそれ以降ということで」
そういうことになった。次回からはヒールポーションも査定にかけられるな。金のことを考える余裕があるというのは良い事だ。ペースを崩さずにそのまま崖側を歩いていく。やはりさっきの半分ぐらいのペース、二分に一回程度だろうか。ジャイアントアントとワイルドボアが襲ってくるが難なく撃退できている。
途中新浜さんに一回襲い掛かりそうになったワイルドボアが居たが、遠距離からの雷撃で蒸発。新浜さんを少し驚かせる形になってしまったが、結果オーライとしておこう。
湧きが少ない分戦闘回数も減り、その分更に行程が短くなるという形で、三十分弱で九層への階段へたどり着くことが出来た。
「思ったより早く着いたな。ここを抜ければ行程八割完了だ。最後に怪我しないように気を引き締めないとな。九層へ行く前に五分休憩」
「了解。水はまだありますか? なければ出しますが」
「ちょっと足しておいてくれると嬉しい。ペットボトルに入れといて」
文月さんに水の供給をお願いする。思ったよりも汗もかいているし蒸し暑い。実質二時間狩りっぱなしだったからな。水分補給は必要だ。
「すいませんが私の分もお願いして良いですか? おもったより喉が渇いてしまって」
新浜さんもお願いしている。文月さんは快諾してペットボトルに水を詰める。
「ありがとうございます。しかし便利ですね【水魔法】。私たちも持つべきなんでしょうが中々狙って出るようなものでもないですし」
「オーブのドロップ自体の経験はどのくらいあるんですか? 」
「そうですね……私たちが活動を始めて半年とちょっと経ちますが、一回ドロップしただけですね」
半年に一回……?俺たちは二か月ちょいで都合四つドロップしているぞ。いくらなんでも確率が偏り過ぎてないか。スキルオーブのドロップテーブルはどうなっているんだ?
「どうしました? 考え事ですか? 」
新浜さんがこちらの顔を覗き込んでくる。
「いえ、ちょっと気になる事がありましてね。結論を出すのはまだ難しいのですが……」
もしかして、スキルオーブのドロップテーブルはダンジョンと階層それぞれに、通常のドロップテーブルとは別で存在するんじゃないだろうか。そうでなければ小西ダンジョンでのドロップの多さ、具体的には自分たちが拾った回数とつじつまが合わない。
新浜さん達も大物ばかり狩っているはずは無いので、半年も戦っていればもっとドロップがあってもいいはずだ。それでも出回っていないという事は、ドロップテーブルがダンジョン全体に対して設定されている訳ではない可能性が高いのではないか。例えば各階層ごとに分かれて。自分たちが拾ったのは一、五、六、九層だ。階層もバラバラである。
この偏りは単なる幸運で片づけられるものではないとおもう。階層ごとに別のテーブルが存在する可能性は高いとみていい。が、それを立証する手段が無いな。全てのスキルオーブのドロップ階層とドロップモンスターを把握することは不可能だ。
「……こればかりは考えても仕方ないし途方もないか。諦めよう」
「なにやらまた怪しい事を考えてるみたいですが、諦めたようなら何よりです」
文月さんは違う方面で俺が何か考えていると思っているらしい。こっちには帰りにでも内容を話そう。多少思う所があるかもしれない。ただ、これを新浜さんに聞かせるのはちょっと想像の幅を広げ過ぎている気がする。迂闊に聞かせて小西にひたすら籠らせてしまうのも悪いからな。
「ハッキリしたら……いや、ハッキリできるのかな。いずれにせよ今ここで悩む問題じゃないな。忘れてくれ」
「なんかもにょりますね……もしかしたらこれはまた大波乱の予感かもしれません」
「安村さんそんなに大波乱起こすような事ばっかりして……あぁ、してますね。ステータスブーストの扱いとか」
なんだろう、文月さんと新浜さんが二人して諦めたような眼をしてこちらを見つめてくる。ちょっと照れるじゃないかやめてくれ。
「さて、休憩も取ったし行きますか。まだ仮説なので立証する手段が無いです、下手すれば探索者の大移動が起きるだけですのでご心配なく」
「今のセリフのどこに心配しなくて済む理屈があったんですか。ねえちょっと」
「さぁ、お家に帰るぞ。まずは八層への階段までまっすぐ帰ろう。そこで小休止してそれから七層で軽く仮眠だ」
二人の疑問をその場にベチャッと捨てて先を急ぐ。九層では油断をしなければ十分戦えるから一安心だな。十層の階段を上がり、九層へ戻った。さっきは時計回りに来たので、今回も時計回りに帰ろう。そのままぐるっと九層周遊コースだ。
「ねえ、さっきの仮説とか疑問とか探索者の大移動とかなんなんですか? 」
「今はまだ考えが上手くまとまってないから言葉にしづらい。清州を抜けるまでに形にして話せるようにまとめるよ」
「解りました、今のところはそれで納得しておきます」
文月さんは納得したようだが、新浜さんはまた何か起こすとは? 一体? という顔をしながら後ろをついてくる。九層の湧き具合は行きと同じぐらいで三分に一回ぐらいのペースでモンスターと遭遇する。もうちょっと人が多くても良いような印象だが、大回りで回っているせいか他のパーティーともバッティングしにくいようだ。
バッグも重さを感じ始めている。さっさと九層を抜けて一旦荷物を整理したいところだ。考え事をしながら先へ進み、モンスターが来たら一蹴する。
さっきの考えに戻ろう。俺がスキルオーブを見たことがあるのは五回のはずだ。スライムから保管庫が出た時、清州へ初めて行った時、【火魔法】、【水魔法】、【雷魔法】の五回だ。
それぞれ一定の時間がたってからだが、その時間に対して相関関係は無いはずだ。ここは小西ダンジョン限定で考える。ざっくり計算して二週間に一回ぐらいのペースでオーブとご対面をしているな。
これは他人に比べて充分に多い回数だと、今の新浜さんの発言から確認できる。俺を中心にダンジョンが回っているならそれでいいだろうが、そんな都合のいい事は起きるはずが無いのでダンジョンを中心にして考えてみよう。
各階層ごとにスキルオーブや極レアが出る確率が決まっているとしたならば、【火魔法】以外についてはそれぞれの階層でかなりの数を狩っていることになるので抽選回数としては十分だろう。
とくに一階層についてはスライム大増殖の事も有る。極レアの中ではずれを引いたのがヒールポーションだったのだとしたら、それなりにつじつまは合う事になってしまう。
ということは、俺の観測できる範囲で次にドロップするならソードゴブリンから、という可能性が高いな。今度注視しながら戦ってみよう。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





