189:伸び伸びと狩り……の予定だった
清州の九層に入って三十分が経過した。拾ったドロップの一部は保管庫に格納されている。
最初の十分は二分で一匹、残りの二十分は一分に一匹のペースで狩りを続けている。つまりここまでに狩った頭数はざっくり計算して二十五匹だ。ここまでの稼ぎはざっと二万後半ぐらいか。ここから巻き返していくぞ。
一分に一匹のペースはまだ続いている。戦闘そのものは十秒もかかっていない。ジャイアントアントの噛みつきも目の前で回避するぐらいの身体能力は手に入れることが出来た。つまり大きく回避する必要は無く、ベタ足インファイトでのどつきあいだ。
すぐ近くに探索者が居るような気配は無いのでパチンコ玉も適宜使っていく。ジャイアントアントがいきなり尻を向けだしたら酸が飛び出る前にパチンコ玉をぶち当てて尻を破壊していく。狼狽える間に首を落としたり頭をかち割ったり、戦闘パターンも増やすことが出来た。
ソロで九層を回るようになれたらDランク探索者としてもいっぱしのものになったという感じがする。この調子でどんどん稼ぎを増やして行くぞ。余裕のある狩りをしながら頭を思考の果てに飛ばす。
しかし、本格的に報酬を期待して行くんだったらやはり誰かに付いてきてもらったほうが良かったか。新浜パーティーはどれだけ長い間一緒に活動しているかは解らないが、こっちが取りたい行動を先読みしてカバーしてくれるぐらいの実力はあった。実力を信頼するに値する人員がそろっている。
だとすれば、以前助言された「出来るだけ下層でのドロップ品を持ち帰る」というものも信頼がおけるというものだ。小西のギルマスみたいに「これは部外秘なんだがね? 」と情報の漏洩を受けている可能性もあった。
Cランクになれば一気に二十一層までの探索が可能になる。十層以降は俺にとって未知の場所だ。一体どんなボスが待ち構えているのか。清州最寄りの店の名が鬼ころしというぐらいなんだから、大鬼がいる可能性が高い。大鬼と言ってもオーガという巨大なモンスターも鬼と呼べるし、小鬼の大将という意味ではゴブリンキング的なものかもしれない。
他に鬼と言われて思いつくのはムキムキマッチョマンの変態だ。こちらの攻撃が通じない可能性もあるだろう。どういう手段で攻撃を行うことが出来るのか。閉鎖された環境なら保管庫からありったけの武器を射出して一気に火力で倒してしまうことが出来るかもしれない。それは出会った時まで取っておこう。
と、思考をダンジョンに戻す。ワイルドボアが二匹歩いてきた。ちょっとリポップが早くなってきたのかな? 喜び勇んでワイルドボアに切りかかる。ワイルドボアは対応が遅れたようでこちらを向いた瞬間俺に切られていた。また美味しいお肉を斬ってしまったぜ。お肉は落とさなかったけど。
二匹目に瞬時に近寄る。二匹目は真正面からぶつかることになったが、突進の為の距離が足りないせいでこちらに衝撃は来ない。俺のスピードだけでそのままワイルドボアの正面を貫いてしまう。革が落ちた。また嵩張るドロップだが、肉の四倍美味しいので贅沢は言わないでおく。
このぐらいのペースなら俺の体にも負担はほぼかからない。小西ダンジョンなら三匹四匹連れでエンカウントする事がほとんどだが、清州ではそうでもないらしい。どうやら人口の多さがかえって難易度を下げてくれているようだ。
つまり、自分らは小西ダンジョンで活動することで自らハードモードに挑んでいることになっている? これでうまく回っているのなら清州なら十層へ進む事も出来るかもしれないな。もし二人でCランクになることが出来たら、清州で十一層へ挑むことも選択肢に入ってきたぞ。
ジャイアントアントが二匹連れで現れる。一匹は後ろで酸を飛ばす準備をしているのが確認できたのでもう一匹に張り付いて酸を出させるタイミングを計る。目の前の一匹をサックリと処分したところで酸が飛んで出たので回避。一匹目からは魔結晶が出た。二匹目に素早く近寄ると首を落として終わりだ。魔結晶が出た。
ものの一分で千八百円。これが六十分続けば魔結晶だけで十万近くの収入になるのか。ソロにしては美味しいな。よし、このペースでいこう。二匹ずつなら何とかなる。
次の獲物はワイルドボア二匹だ。突進するだけの加速を得られる距離的余裕が無いので攻撃が弱まっている。一方的な虐殺者のエントリーだ。近寄って刺す。近寄って刺す。肉が落ちた。
どんどんテンションが上がり狩りに集中していく。ジャイアントアント二匹、魔結晶一、ワイルドボア二、肉一。ワイルドボア三、肉一、魔結晶一。
発見次第自ら近寄りモンスターが戦闘態勢に入る前に確実に仕留める。これでテンポがもう一つ上がる。幸いモンスターは枯れる気配を見せない。次から次へと進行方向と森のほうからやってくる。これは濃密な狩りが期待できそうだ。
よーしやるぞー。清州で一杯稼いで帰ってCランク目指して頑張るぞー。と考えているうちに敵が来る。これは余計なことを考える暇もちょっと少なそうだ。上の階層で考えていた無理しないレベルでモンスターが定期的に来てくれるという絶好の狩りポジションだ。ここで稼がずにいつ稼ぐというのか。更にテンションと集中力が上がる。
◇◆◇◆◇◆◇
九層を半周した。やはり、小西ダンジョンより清州ダンジョンのほうが一階層当たりの面積が広いようだ。一時間戦いながら進んでやっと地図の反対側に着いた。十層への階段の前で少し休憩する。
倒した数はジャイアントアントが六十、ワイルドボアが四十ぐらいだろうか。荷物も結構な重さになりつつある。特に肉は三十パック近くある。三十パックをまともに背負って戦うのは多分初めてだ。
十層に降りようかと少し悩んだが、ここと同じモンスター構成でこれ以上密度が増えても逆に手に余る。ならこのままこのペースで進むほうが良いのではないか。
そのまま一時間かけて元に戻って一旦七層に戻るぐらいでいいんじゃないか。それに重荷を背負って戦うのは若干のリスク増加になる。それに一時間で半周というのはキリがいい。
そうと決まれば早速さっきのお散歩コースに戻ろう。さぁ後半戦の開始だ。……と、後方から手を振りながら高速で迫ってくる人がいる。知っている人だ。
「やぁ安村さん、追いつきましたね」
新浜さんだった。仮眠中では?
「わざわざ追いかけて来たんですか? ご苦労様です」
「いやぁ、安村さんが戦ってるところを見たくて」
その為に仮眠を切り上げて抜け出してきたのか。凄い根性だ。さすがにここまで全力疾走してきたのか、汗をかきながらの御登場である。汗からふんわりと香水の香りも広がる。結構身だしなみに気を使う人なんだな。
「追いつかなかったらどうするおつもりだったんですか? 最悪私十層に降りてましたよ」
「う~ん、安村さんの性格からして、十層に降りると敵が多すぎて逆に狩りの効率が落ちるんじゃないかと考えると思いまして。なら九層で少しずつ出てくる敵を自分のキャパを超えない範囲で順番に倒していくと予測をして、なら九層を一周すれば追いつけるんじゃないかと」
大体あってる。この人凄いな、そこまで考えて追いかけてきたのか。
「ところで、さっきの走り方なんです? 若干ホラーっぽいですけど」
「ステータスブーストして足だけを高速で動かせば、上半身は戦いに集中できるじゃないですか。そういう動きを開発してみたんですか、どうです? 」
キモい、と言いそうになったのをぐっとこらえる。直で伝えると多分新浜さんは凹んでしまうだろう、婉曲的な表現をうまく思いつかないと。
「そうですね、合理的だとは思います。ただ傍から見ると少々人間離れしすぎてると言いますか、すげえなって感じになってると思います」
うん、すごい事は間違いない。同じ動きをしようと思えば出来るだろうが、腰をいわせそうで怖いな。
「そんなわけで半周ほどお付き合いしていいですか? 荷物の量から察するに、このまま七層へ戻られるんでしょう? いいですよね? ね? 」
にじり寄りながら新浜さんが同意を求めてくる。圧が、圧が凄い。わざわざ仮眠を切り上げてここまで来てくれたんだし断るのもあれだ。更に香水の香りが強くなる。苦手な香りじゃない、それにほんのりだが甘い香りもする。ステータスブーストの影響か、薄くつけていても割と濃いめに感じるんだろうか。
「わ、解りました。七層まで一緒に行きましょう」
「よし、かっこいいところを見せないと。さぁ行きましょうか」
新浜さんのテンションが見たこともないレベルで上がっている。せっかくのやる気を無駄にさせないためにもう少しモンスターの濃そうなところを歩いていくか。ここまでのドロップをメモっておくと、パーティー狩りの準備はできた。
崖側から更に離れる。森の奥からもう一匹ぐらい余分に出て来てくれると嬉しいな~と言った感じのポジション。小西なら普通に四匹五匹出てくる位置だ。清州はそこまでモンスター密度が高くないのでこれぐらいで十分そうだ。
早速最初のジャイアントアントが姿を見せる。新浜さんが早速察知し、こちらに合図を送る。
「二匹行けますか」
「余裕で」
新浜さんは確認を取るとあっという間にジャイアントアントに近接、そのまま槍でジャイアントアントの頭を全力で殴り陥没させ、黒い粒子に変えていった。強いな、この人。
それを見終えてからのこっちの戦闘だ。こちらも似た感じでジャイアントアントに肉薄し、頭にグラディウスを突き刺す。すぐに黒い粒子に還る。二匹目に狙いを定めると、二匹目は酸を飛ばしてくる。余裕を持って回避に当たると、避けたその次の足でもって肉薄、突き刺し、黒い粒子に還る。牙が出た。
「二匹相手にさすがですね。ビクともしない」
「新浜さんこそ、ステータスブーストを完全にモノにした感じですね」
「お陰様で十四層までは楽々と潜れるようになりましたよ」
「他の人たちはどうなんです? 順調に広まってますか」
ジャイアントアントが出てくるが、話しながらでも余裕を持って対応できることをお互い確認すると、どっちがどれを倒すかを指で指し示してしてそれに当たる、という流れを作った。
「テントが増えてたでしょう? 七層にテントを置いたまま十四層のセーフエリアまで降りて、十四層にも狩り拠点を築くパーティーが増えましたよ。大体私経由か、その次経由で身に付けて行った人がほとんどです」
徐々に広まっているらしい。そういえば率先して俺は広めてないな。たとえば田中君は使えるんだろうか。今度会ったら餌付けついでに聞いてみよう。
「広まる前はどうだったんですか? 清州に居ないので人の動きがちょっとわかりにくくて」
「そうですね。十四層までたどり着いたことのあるパーティーは二か三ぐらいだったと思います。ですが広まりだして以降は十ぐらいのパーティーが十四層までたどり着くことが出来たって話は耳にしてますね」
劇的な変化……とみるべきなんだろうな。七層のテントが倍ぐらいに増えていたのも、二層や三層を巡っていた人が七層までたどり着けるようになったと解釈する事も出来る。
「それまではどうやって探索を続けていたんでしょう? 」
「一応ブーストを掛けなくてもステータス自体は徐々に増加しているのも有って、その力でごり押ししてた感じでしょうかね。今なら十五層のボスを倒せてるパーティーも結構居るかもしれません」
なるほど、俺が最初の頃にグレイウルフにわざと噛みつかせたみたいなことでステータスがある仮説をある程度目に見える形で実証できていたが、ブーストという更に目に見える形で立証出来てしまった形になるのか。
「何にせよ安村さんには感謝ですね。おかげで我々も鬼殺しになれましたし」
「という事は十五層に居るボスというのはつまり」
「えぇ、鬼、ですね。詳細は楽しみを奪う事になるかもしれませんので今は伏せておきます。Cランクになってご自分の目で確かめられるのが良いかと」
ここで良い情報が手に入った。やっぱり十五層には鬼が居るらしい。
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