163:掃除と己との戦い
何事も無く無事家に着いた。何事かあったら困るわけだが、何事も無かった。しいて言えば途中でガソリンを補給した時に高くなったなぁと気づいたことぐらいだろうか。稼いでいるのでそれほど財布は痛まないんだが、それでもガソリンは安いに限る。
自宅に着くと忘れないうちに自転車の設定をする。今度もちゃんと走るかどうかチェックして、自宅の周りをグルグルと回っている。問題は無いようだ。問題の無いことを確認できたところで自転車を保管庫に仕舞う。
自転車 x 三
自転車 x 一
うん、同じものだと認識されているようだな。結構結構。さて、時刻は午後四時。夕食にはチョットハヤイ。部屋の大掃除でもするか。保管庫のおかげで部屋の掃除がとても楽にできるようになった。
なんと、家具をどけると家具に付いていた埃やチリは保管庫に収納されない。つまり、部屋の家具を全部仕舞った後掃除機をかければそれだけで大掃除が出来てしまうのだ。
これはとても大きい収穫だ。自室を綺麗にすると、キッチンとリビングも同様に掃除をする。とても部屋がきれいになった気がする。これでしばらくは掃除サボれるな。
一時間半ほどで他の部屋の掃除も終わり、俺の家は綺麗になった。壁の汚れなんかはさすがにどうしようもないが、床や本棚の上の埃が綺麗にできるようになっただけでも大収穫である。
空気の入れ替えを済ませると、いよいよ夕食の時間だ。購入してから三時間半。つまり、保管庫の中のカレーは二分しか経過していない。食べごろである。早速チーズナン一つとカレーを二種類取り出す。カレーもナンもまだホカホカと湯気を立てている。さぁ実食だ。
まず、チーズナンを何も付けずに一口食べる。やはり、甘いチーズとバターの香りが鼻腔をくすぐる。口の中はチーズにはちみつを少し足したような甘さがちょうどいい感じになっている。これだけでも美味い。
一切れチーズナンを食べ終えると、続いてカレーに入る。まずはマトンカレーからだ。俺はインドカレーの中ではマトンカレーに一目置いている。普段家庭用のカレーではマトンなんて食べる機会は少ない。
カレー専門店でビーフやポーク、チキンはあってもマトンはインド・ネパールカレー店でないとお目にかからないぐらいだ。そんなわけで、まずマトンの肉にかぶりつく。
プルプルとした羊肉の脂の感触が口に心地よい。奥歯でしっかりとかみしめ、その脂感を存分に楽しむ。カレーの辛さは普通と注文したが、ネパール人規格の普通は日本人にはチョットカライ。だがそこがいい。
ここで冷蔵庫からキャベツを取り出すと、ササっと千切りにして食卓に加える。カレーとキャベツの組み合わせは中々悪くない。トロトロのカレーを食べた後にシャキシャキのキャベツをつまんで食の寒暖差を味わうのだ。
続いてチキンカレーだ。チキンカレーはむね肉を使っているらしく、脂分は少なくさっぱりとしている。チキンはよく煮込まれているらしく、口の中でほろほろとほどけていく。これもまた美味しい。辛さもちょうどいい。
さて、ここからがメインディッシュだ。チーズナンをカレーに付けて上を向いて垂れないように口の中に頬張る。甘いチーズナンの香りと味と、カレーの辛さが混ざり合ってそれぞれを主張しつつも口の中で一つになっていく。あぁ、やっぱりあの店を選んで正解だった。
何ならもう一品頼んでも良かったな。タンドリーチキンとかサモサを加えても良かった。あれはあれで自己主張が強い食べ物だが、キャベツ以外すべての自己主張が強いこの食卓の上ではまた違う刺激を加えてくれていただろう。
チーズナンとカレー、チーズナンとカレー、チーズナンとカレー……あっという間にチーズナンが一枚なくなってしまった。これは癖になるな。
だが、俺には秘密兵器であるもう一枚のチーズナンがある。そしてカレーは単品で頼んだ分、量が多めだ。これはナンが二枚で正解だったな。
しかし、ここで問題が発生した。思ったより腹に溜まってきたのである。やはりチーズナン二枚は胃袋に少々入りきらなかったのか、カレーもチーズナンも中途半端に残った状態になってしまった。
これは……うん、朝食に回すか。腹がフル稼働している状態で横になると辛い年齢になりつつある。無理に詰め込むより明日の朝レンジで再度温めて食べよう。多少風味は落ちるだろうが、明日の朝の手間が省けると思えば十分だ。
◇◆◇◆◇◆◇
腹がしっかりと満ちたところで調べ物を始める。保管庫スキルに似たスキルが存在するかどうかだ。結果から言うとそんな便利なスキルは存在しなかった。新しいスキルという事になる。そんな架空のスキルが存在することが世間に知れたら、こぞってスキルを手に入れるために探索者活動は活発化するだろう。
何か他に言い訳のつきそうなスキルを検索してみるも、検索するスキルのワードが思いつかなかった。保管庫が付属していそうなスキル……【発射】とか【投擲】とかを入れてみるが該当なし。自分の発想の貧困さが見えてあまりいい気分じゃないな。
三十分ほどして気が付くと、ネットラジオでJAZZYな音楽を探して聞き入っていた。集中力が落ちているらしい。これは今日はダメだな。また今度やろう。
他の情報を集めよう。十層、十一層、十二層、十三層の情報だ。Cランクになってからでも遅くはないが、早くてもまた問題ない。耳に入れておくだけでも覚悟の違いができるってもんだ。
◇◆◇◆◇◆◇
十一層、十二層は九層、十層と同じ森エリアがずっと広がるらしい。やっぱり外側を歩く形になるようだ。出てくるモンスターはジャイアントアント・オーク。オークは身長百七十センチぐらいで中年太りを加速させたような形状をしているらしい。力士スタイルやムキムキという訳ではないようだ。
分厚い脂肪に覆われているので攻撃が通りづらいようだ。やはり頭を狙うか、刃物に十分な長さがあるなら心臓を狙っていくか、脂肪にダメージを蓄積させていくか。やり方は色々あるので対応できるものをどうぞ、という感じだ。
主なドロップはオーク肉・魔結晶・ヒールポーションランク2。オーク肉は現状聞いたことある中では最も美味い肉とされている。もしかしたらもっとうまい肉をくれるモンスターが居るかもしれないが、そんな肉を地上まで運んでくるのは難しいのだろうか。
ヒールポーションランク2の買い取り価格は四万円になるそうだ。これは美味しいな。Cランクになったら浴びるほど狩ってみたい。そして何より肉を食ってみたい。ボア肉であれだけの感動を得ることが出来たのだ。オーク肉では何処までの感情を提供してくれるのか。実に楽しみだ。
十二層ではオークの密度がさらに上がる。湿度も上がりそうだな。その分ジャイアントアントの密度が減るらしい。つまり十層が一番密度が高く、次いで九層、十一層、一番薄いのが十二層という事になる。
オークは十一層、十二層にしか生息しないせいでその分貴重さが上がるらしい。オーク肉が高価な理由はCランク探索者でないとたどり着けないのが一つの理由だ。
二つ目の理由は生息地域の狭さにある。十一層と十二層だけにしか生息しないなら、モンスターを狩るにしても数の限界がある。そのためにどうしても希少化してしまうらしい。
希少さで言えばゴブリンソードもそうとう希少な部類ではあるが、ゴブリンソードは食えないからな。
十三階層からはマップがガラッと変わってダンジョンというより石造りの地下室といった感じの想定になるらしい。出てくるモンスターもいわゆるスケルトン、骨だ。骨以外にその骨を召喚してくるスケルトンネクロマンサーというのが居るらしい。
スケルトンネクロマンサーが召喚するスケルトンはドロップを落とさない。通常リポップしている場合はドロップを必ず落とす。……必ず? 必ず落とすというのは初体験だな。逆に、ドロップが確認できなければ近くにスケルトンネクロマンサーが居るという事か。
十四層は例によってセーフエリアなんだろうな。十四層の地図埋めにはやりがいがありそうだ。小西には十一層以下の地図が無い。清州には多分十四層まではあるだろう。十五層にはボスがいるらしいが、ボスと言えばボス部屋だ。
ボス部屋だけがあるのか、それとも通路を突破した先に広めのボス部屋が存在するのか、それともボスがうろついているのか。そこは楽しみに取っておくか。Cランクになるのさえ何時なるのかわからないのだし、知識だけ先走ってしまっても面白くないだろう。
後は眠くなるまで適当にスレでも見て過ごすか。何か思いつきが得られるかもしれないし、刺激になることだってある。
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