149:【水魔法】を譲渡しよう 相談編
「は? 私が? なんで? 」
文月さんは狐につままれた様な有様で驚いている。まぁそうなるな。
「だってもう俺スキル持ってるし、遠距離攻撃手段もあるし」
「でも、【水魔法】自分で覚えたら大手を振ってスキルを使いまくれるわけですよ? 安村さんが使うのが一番メリット大きいじゃないですか。それに何より、自分で出したスキルですよ? どうして他人に譲れるんですか? 」
若干声を荒げながら文月さんが自分の意見を一気にいう。
「確かにそうなんだが、パーティーで考えると、文月さんにも遠距離攻撃手段というか、利便性があっても良いと思うんだよ。十層で一対多で戦うことを想定したら、後ろをまずけん制してから目の前の敵と戦うとか、戦術に幅が広がる事になる。お互いが一対多になった時に俺が必ずカバーに入れる保証は無いんだ。これは保険でもある」
「これが二人でパーティー狩りしてる間に出たならそれで納得できます。でもこれ、安村さんが一人で頑張って出してきた成果の結晶じゃないですか。それを私が……何が目的ですか? 」
沸騰した後、熱弁して不満を述べ、そして若干呆れ、何かに警戒している。喜怒哀楽がころころ変わっていく。見てて飽きないな。
「目的はパーティー戦力の増強。それだけだ」
「それだけのために何千万かするようなスキルをポンと使えと? 」
「今朝調べたら三千万ぐらいだったな」
「だったな……って、【火魔法】の三倍するじゃないですか」
金額だけの話をすればそうなる。ただ、この場合問題なのは金額よりも希少性だ。
「正直、この際金額はどうでもいいんだ」
「いや、どうでもよくないでしょ」
「まぁ聞け。三千万、パーティー割りしたと仮定して千五百万貯める事が可能だと思うか? 」
「そんな事……できますね。しかも割と遠くない未来で」
「だろ? つまり費用の面では当面の心配はしないで良いという事になる」
文月さんはそこは納得した。
「次に、【水魔法】は人気スキルだ。今回運よく取得できたとして、次回いつになるか解らない。ギルドを通して購入する際はより高くなっている可能性だってある」
文月さんはふんふんと顎を振りながら聞き入ってくれている。
「なので、これを手放して現金を手に入れる、という緊急性は今のところとても重要度が低い。つまり、使うほうがより有用性の高い結果が得られると考える」
「じゃぁ、次はだれが使うか? つまり俺と文月さんどっちが使うかという話になる。選択肢はいくつかあるが、まず俺が使うという真っ当な案だ。俺が個人で拾ったものであるし、ある意味俺が使うのが当然という事にもなる」
「そうです、そうです」
「しかし、問題点がある。スキルを二つ同時に覚える事が可能なのかどうかまだ解らない。これは今から調べれば答えが出るだろうが、前のスキルが消える可能性がある」
たった今思い付いた問題点だ。そもそもスキルは二つ以上同時に保持できる物なのか。
「【保管庫】消えちゃうんですか」
「【保管庫】と【水魔法】どちらが大事かと言われたら当然【保管庫】を選ぶだろ? 」
「そりゃそうですね」
「そのリスクは今から調べるが、もし予測が当たってしまう場合俺は【水魔法】を扱えない事になる。そうなると、文月さんに覚えてもらうという選択しかなくなるわけだ」
「じゃぁ早速調べませんか」
「そうしよう」
二人してスマホで思いつく限りの単語で持ってスキルを二つ以上持つ人物の検索を始める。
あぁ、スマホってなんでこう文字入力に癖が出るんだ。何故家を出る前に気づけなかったのか。そうすれば使い慣れたキーボードで検索ワードの検索する項目自体も含めて検索をかけることが出来たのに。
「あのー、安村さん何してるんですか? 」
ギルド職員が不審に思ってこちらに来た。どうやら相談しているのを見ていたらしい。
「パーティー会議です。今大事な案件が発生したので相談中です。なのでおかまいなく」
「はぁ、そうですか。怪しい事とかしてないなら問題ないです、はい」
ギルド職員が建物のほうへ戻っていく。ふぅ、こんなところで三千万の取引をしていると知ったら多分ギルド内に情報が流れるだろうし、面倒事が増えるところだった。
「あ、居ましたよ。動画で確認しました。ダブルスキル持ち、ちゃんと存在します」
「どれどれ」
動画を見ると、外国の探索者が【水魔法】で生み出した水を【火魔法】で沸騰させてカップラーメンを作ってサムズアップしながら食っている動画だった。多分価値的には世界有数の高額なカップラーメンだろう。
「もうちょっとなんか無かったのかなこの人」
「身近な感じがしていいんじゃないでしょうか」
「ともかく、一つの不安は解消されたか。俺でも【水魔法】は使える」
「これで私が覚えなくても良い理由が一つ増えましたね」
文月さんはなぜか安心している。
「そんなにスキル覚えるの嫌? 」
「嫌かどうかと言われると嫌ではないんですけど、なんかこう納得いかないというか誘導されてるというか、なんかパーティーメンバーとしてそれでいいのかって言うか、据わりが悪いんですよ」
「ほうほう」
素直に言い分を聞いてみる。
「ほら、ぶっちゃけ私、安村さんにお世話になりっぱなしじゃないですか。ドロップ品の運搬も七層での宿泊の時の細々とした事も、【火魔法】が出た時の対応だってそうですし、九層でも戦い方学ぶまでサポートしてもらってるし。それに対して私がパーティーメンバーとして何が出来てるのかって考えると、あまりお返しできてないような気がするんですよ」
彼女なりに色々考えていたんだろう。今まで言えなかったことや普段思ってる事をぶつけてくれている。
「そりゃ、お互い命張ってる間柄だし、どっちが欠けても困るし、万全な体制を出来るだけ整えたほうが良い結果は出るじゃない」
「それは解るんですけど、まだまだ安村さんと対等という関係には程遠いというか、私が納得できてないだけなのかもしれないですけど、借りを作りっぱなしって感じが……あぁ、私今思えば大分失礼な事一杯してますね」
コーラ要求したりタオル要求したり、割と色々やってるっちゃやってるな。ポーターが俺だからというのもあるだろうけど。
「俺はポーター兼ねてるからな。その辺はあまり気にしなくていい」
「でもでも、テント運んでもらったり道筋を確認してもらったり、それから」
普段の自分の行いを確認しながら文月さんの独白は続く。
「それから、それだけ私色々失礼なことしてるのに、安村さん文句ひとつ言わず自由にさせてくれて、最初は私、奨学金のために軽い気持ちでダンジョンに潜ってたはずなのに、気が付けば一泊してダンジョンの奥まで入り込んで、めいっぱいダンジョンを楽しんで、それでお金稼いで奨学金もなんとかなってきて」
俺は静かに彼女が言いたいことを言い切るまで待つ事にする。
「それだけのことを私にしてくれてるのに、安村さん私に何も求めないのはなんでだろうって……何で? 私そんなに魅力ない? それともたまたまそこにいるのが私だったから、みたいな簡単な理由だったりするんですか? 」
段々声が涙交じりになっていく。周りに誰も居なくて本当に良かった。誰がどう見てもこの光景は俺が無理やり泣かしてるようにしか見えない。通報ものだろう。
文月さんが俯いて言葉が止まるのを待つ。そして静かになった後、言葉を切り出した。
「まず、最初に言っておく。ゴメン」
「……え? 」
「元はと言えば俺の不注意と無神経さと思いつきの悪さが原因だ。最初に【保管庫】に気づかれた時、もっと気の利いた事が言えればそこまで思い詰めさせるような事も無かったと思う。本当にゴメン」
文月さんはポカンとしている。
「そうだな……今日はたまたまレンタルスペースを使った。一層しか巡れそうにないから荷物も全部そこに置いてきた……ぐらいの言い訳が出来ていればごまかせたかもしれないな。でもそうできなかった。だからそこから先はほとんど俺の落ち度だ」
「そんな、事は」
「後、荷物関連に関しては全く気にする必要はない。ポーターってのはパーティーの荷物や細々としたものを一手に引き受けるもんだ。コーラやタオルを要求するのだって、ポーターに対しては当然の行いだ。そこは気にしなくていい」
まだいじけているが、少し納得したのか頭の角度が少し上がってきた。
「それから色々と失礼な行為を働いたという話だが……若者笑うな来た道だって奴だ。今そう思うなら今後改めればいいし、そのままでも良いと思うならそのままでも良い。結果は最終的に自分に返ってくるもんだ。少なくともそこに関するヒントを自分で導き出せたのはえらいと思うぞ」
「う~」
「こちとらそっちより二倍ほど余分に生きてるんだ。あのぐらいは俺の許容範囲だ」
「さいですか……」
バツの悪そうな顔で俯く。また頭の角度が下がる。
「ついでに言えば、保管庫の秘密を守ってここまで付いてきてくれているんだから、俺としてはそれだけで十分だったりするぞ」
「え、まぁそりゃ私だって黙ってるほうが利益になるし、黙ってたほうが安全だし」
「秘密を守り続けているというのは大事だ。そんでもって、多分俺一人で探索者やってたら今頃まだソードゴブリンあたりに苦戦してたかもしれない。その辺は素直に感謝している」
「別に私じゃなくても他の人と組む事だってあったんじゃ? 」
「それはそうかもしれない。でも現実に今こうして二人でパーティーを組み続けてるほうが重要なのさ。そして当面、パーティーを解消する予定もない」
文月さんは少し考えるそぶりをすると、面と向かって言う。
「まぁ、宛ては無いわけではないですがわざわざ安村さんと離れる選択肢は無いですね」
そろそろ言いたいことも言っただろうし、要点だけを押さえていこうかな。
「腹を割ってざっくり言おう。俺としては、今後もお互いパーティ-を組み続けるための撒き餌が適度に必要だ。その為の【水魔法】だと言ったら納得できる? 」
「つまり、パーティーを今後も続けていきやすくするために三千万を私に託すと? 」
「そう。そしてその分の効果はあると踏んでいる」
「う~ん……ですが三千万ですよね。それをぽーんと私に渡して、その直後に私が他のパーティーにとられる可能性だってありますよ? 」
実際スキル保持者って解っただけでも勧誘するに余りある魅力だろう。需要のある【水魔法】でしかも若い女の子だ。男なら誰だって誘いたくなる。
「その時はその時、俺の考えが足りなかっただけだ。高い授業料だったな、と反省するだけだ」
「それでいいんですか? 私安く見積もっても三千万の女になるんですよ? モノにしたくありません? 」
文月さんが覚える前提で話を進めていこうとしている。もうちょいだな。
「そうだな、是非モノにしておきたいな。じゃぁ半分の千五百万貸しって事にしとくか? 」
「それならまだ納得できます。ただ……無担保無金利無期限でお願いします」
「よし、それで行こう。借用書は要らない、ここにメモっておこう」
俺はいつものメモ帳に 「文月さんに千五百万円貸し」とメモっておく。
「これで商談は成立だな。じゃぁ早速使ってみてくれ」
スキルオーブを改めて取り出すと文月さんに渡す。
「解りました……イエス!」
スキルオーブが光り輝き、文月さんの体内に吸い込まれて行く。すると文月さんが発光し始めた。
ちなみに過去一高いカップラーメンは2500円だそうです。
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