1323:買い物デート
バスから電車まで芽生さんと一緒。なんか久しぶりな気もするな。そのまま最寄り駅で下りて家に着くと、荷物の片付けと洗い物を済ませて着替えずにそのままスーツ姿で買い物に出かけることにする。洗う服が増えるだけだし、洗濯物は少ないほうがいい。
自家用車のセダンに乗ると、早速最寄りのショッピングモールまでお出かけする。この辺りはギリギリ交通の治安がいい。一時停止で一時停止しない車が著しく多い以外は交通ルールというものに従って運転を行っている車が多い。直線距離でほんの四十キロメートルほどなのに名古屋との差は一体どういうことなんだろうね。
「社用車は使わないんですか? 」
助手席できちんとシートベルトを着けてパイスラしてる芽生さんから声が上がる。
「羽根の納品や佐藤税理士のところへ行くときは社用車を使ってる。今は私物の買い物だから自家用車。そうして分けておけばガソリン代なんかの案分を気にしなくて済むからな」
「なるほど。その辺きっちり分けてるわけですか。良い傾向だと思いますよ」
ショッピングモールまで安全運転で小さめの音量でラジオをかけながら到着。さあ、日常の買い物を始めるか……とその前に、芽生さんを自由に散策させてみよう。もしかしたら服とか色々見たいものがあるかもしれない。買い物は閉店ギリギリの最後でも良いんだ、焦ることなくまずはのんびりデートと行こうじゃないか。
「洋一さん、あの店行きたいんですけどいいですか? 」
ほうらきた。
「もちろんいいぞ。自由に見まわろうじゃないか。閉店まではまだ時間があるし、ゆっくり回ろう」
早速服屋に気を取られる芽生さんを横目に俺もウィンドウショッピングといこうか。自分で買うものはないが……そうだな、冬も近いし、一着ぐらい仕入れてもいい気はするな。普段がスーツだから着るものに無頓着ではあるが、俺の身体のサイズに合った服で何かいいものがあれば都合していこう。
芽生さんは早速数着見つけたみたいで、自分の身体に合わせると、こっちを向いてどっち? と言わんばかりの視線でこちらの感想を聞きに来る。
「うーん……こっちかな」
「でもこっちのほうが可愛くないですか? 」
「そっちは胸が強調され気味になるからな。出来れば俺だけに見られる胸であってほしい」
「贅沢ですねえ。他の男の視線に入れたがらない辺りが特に」
そういいつつも、俺がこっちの方が似合ってると言った方の服をキープ。続いて他の服を選び始める。これはかなりかかりそうだな。その間に女性服というものについて見識を深めるべく色々見回ってみる。
見回ってみたが、色々種類があり色味があり、派手な衣装や冬用の服なのに肩だしルックがあったりと季節感を多少削ってでも良く見られるために色んなものを削って身につけてるんだな、という感想しか思い浮かばなかった。
肩だしルックにするならケープかフェイクファーあたりを着合わせたりするんだろうか……うん、わからん。そして芽生さんが俺を探して見つけると次のチェックが始まる。
「これとこれならどうですか? 」
「下半身を何で合わせるかにもよるんじゃないかなあ」
「スカートにタイツの予定ですが、そっちも選んだほうがいいですかね? 」
「うーん……今着てみた時の芽生さんの服装を妄想してるから一分頂戴」
腕組みをして目をつぶって、芽生さんがそれぞれの服を着ているときの姿やシチュエーションを考える。ただの通勤に使うだけにはもったいない服装ではあるが、どっちも悪くないな。特にタイツは黒であればより映えるような気がする。あるいは腰上で絞るタイプのロングパンツあたりか。
「ロングパンツを選ばないならこっちの方が似合うかな。ただ俺の美的感覚をあまり信用しないでおいてくれると助かる。本来なら芽生さんが自分で選ぶか店員に選択してもらうほうが効率的だとは思う」
「見せつける相手が洋一さんだからそれでいいんですよ。自分の選んだ服を着こなさせて悦に浸る趣味はないかもしれませんが、女としてはそうやって着飾らせられて悪い気はしませんからね。じゃあこれとこれくださーい」
芽生さんが自分で会計に行く。ここは奢る、と言った方がよかったのかもしれないが芽生さん自身も結構な富豪になっているからな。お金を使える時に使ってしまいたいという欲はあるんだろう。つつましやかだが、下手にブランドもので全身を飾ってそれを着てる私凄くない? となるよりは庶民的でいいと思う。
一件買い物を済ませて食品の買い出しに行こうかと思ったがその行動を制される。どうやら次に行く店が既に決まっているようだ。俺の右手にはさっき買った服が既に用意されている。あと何軒回るんだろうなあ。
◇◆◇◆◇◆◇
結局四軒回り、食品売り場が閉まるギリギリの時間になってしまった。急いで一旦車に荷物を置いてくると、早速カートで出陣してお互いの買うものをそれぞれ探し始める。
急いでパン屋に滑り込み、食パンがまだ残っていることにほっとし、早速店の残り全ての食パンを買い求める。いつものようにサンドイッチ用に十二枚切りで一本、六枚切りで残りを作ってもらい、ついでにあと一つで店の商品が無くなる、というような廃棄ギリギリのパンをいくつか買っておく。保管庫に入れておけば数十日は大丈夫だろうし、食べる時はレンチンして再加熱するので多分大丈夫だろう。
さて、食パンを買ったところで流石に腹が減ったぞ。残り物の弁当でもこの際仕方ない、人気がないのが美味しくない証拠とも言うが、半額になってもまだ売れ残っている焼きそばと五目飯を買い込んで、まず夕食の確保に努める。
その後で悠々とお菓子とコーラとミントタブレットを買い足し、そのままカロリーバーやシリアル製品を売っている場所までたどり着くと、店の在庫目一杯である三箱のバニラバーを補充。これでまたしばらく持つだろう。三箱も残っていたということは、新人探索者がスライムのドロップ確定作業を行うという儀式は段々廃れていったことにもなる。
寂しさは募るが、同時にスライムゼリーの市場在庫は充分にあるのだろうかという不安も一瞬よぎる。グレイウルフに骨を転がして肉を確定で手に入れたほうが経験値も金銭的にも上だから、一層のスライムには目もくれずいきなりグレイウルフに立ち向かう新人もいるんだろう。
新人探索者がバニラバーの儀式をしなくなったとすればいずれスライムゼリーの市場在庫も少なくなっていくに違いない。かといってスライムゼリーの値段が大幅に上がるかと言えばそうはならないだろう。在庫調整を探索者にやらせる……そんな未来もふと頭によぎった。
続いて米とキャベツと卵だ。卵もキャベツも在庫はあるが、保管庫に入れておけば長持ちするし大丈夫だろうの精神で行くが、先日のお高級なスーパーに比べるとキャベツもなんだか新鮮さに欠けるように見えてきた。これが生活水準の下方硬直性という奴なのだろうか。
あのキャベツの甘さと美味しさに比べると……と、頭の中でキャベツが喧嘩をしている。お高いキャベツに一方的にボコボコにされているキャベツの図が思い浮かんで仕方ないが、あそこまで今日中に足を伸ばしてもおそらくもう店は閉まっているだろう。まあ、キャベツ一つであれだけ味が変わるんだ。今後は出来ればあっちの店を使うこととして、今日のところはこっちのキャベツで満足しておく事にする。
卵はいつものお高い奴を買っておく。この卵は向こうの高級店にもあった。品質としては店の中で最上級だが上を目指せばいくらでもあるよ、というような話になるんだろう。何事もほどというものを意識しなければな。別に自分の朝食が最高級の物で囲まれていなければ満足しない訳ではないのだ。
いかに自分が稼ごうとも、自分の進むスピードを意識してそこに合わせるように環境をセッティングしていく。それが大事ではないだろうか。
とはいえ、今手持ちの金を税金分だけ別にして存分に使ったとしたら、多分小西ダンジョンの真横の一等地に豪邸を築くことも不可能ではないだろう。むしろ、ダンジョン探索者としては夢のような話かもしれないし、もしかしたらもう誰かが他のダンジョンで実現しているかもしれない。
しかし、今の生活ペースを乱したり、部屋割りを替えたり日々の食事や移動経路、バスに乗ると言ったこと細やかな何かが自分の探索に影響を与える可能性は捨てきれない。ただ、近くに一軒あっても困らないかもしれないな、ぐらいの気持ちでいればいいとも思っている。
今住んでる家は親から譲り受けた物件でもあるし、男である以上いずれは一国一城の主とし自宅を持つ、という理想論は俺のちょっと上世代までは通用した話ではある。が、就職氷河期の端っこを味わってきてそれが難しいということが解っている立場としては、今金があるのになぜ行動しないのか、と質問されるところだろう。
新居か……考えておいても良い話ではありそうだな。今度不動産検索でもして、小西ダンジョン近くに土地が空いてるかどうか探しておくのも悪くないかもしれない。小西ダンジョン付近も最近は便利になってきたことだし、駐車場三台分と庭は無くてもいいからそれなりの部屋数と広さを持った……いや、その時点で充分豪勢な一戸建てになるな。スキルオーブよりも大きな買い物をする可能性が高くなる。
いっそのこと、スキルオーブを買ったつもりになって家を買ってみる、というのも悪くはないんじゃないだろうか。どこか売りに出てればそれを検討するのも悪くない。家を充分広く作っておけばみんなの拠点にもできるし、今度こそ大きなベッドを買って三人で眠るなんてこともできる。
うーむ、悩みどころだな。ダンジョン御殿。響きは良いが、その後の維持にも気を回さなければいけないし、前の家は売り払うなり維持するなりそれなりに必要だ。一日潜ればそれだけの維持費は払えるとしても、新しい家か……悩みどころだな。
とりあえず近所の不動産情報を今度検索してどういう物件があるのか、広さはどのくらいか、等を調べておいて、それからでも悪くはない。利点は一つ、ダンジョンが近い。しかしこれも小西ダンジョンがいつか踏破されてダンジョンが移動させられるようなことになった場合、逆にダンジョンから遠くなる可能性もある。
いくら俺が最深層でステップを踊りながら新しい階層を待っているとはいえ、これが何十年も続く可能性は低い。いつかは追いつく探索者が現れ、その頃には俺も保管庫持ちであることを公表して堂々と潜っている未来もあるわけだ。
この先何か月かかるかまでは解らないが、そう遠い将来でもないはず。その為に色々と言い訳を考えておかないといけないだろうな。今のところ最有力候補は「ダンジョンマスターとダンジョン庁の懸け橋になったお礼」という流れで【鑑定】と【保管庫】を譲り受けて保管庫は自分で使った、と解釈してもらうのが一番安全かな。
さて、不動産はともかく買い物は後は思い当たるものはないな。さっさと会計を済ませてしまおう。芽生さんを探して買い物を済ませて会計に行くぞという連絡をしなきゃな。うろうろして芽生さんを探すと、もう買うものを選定し終わり向こうもこちらを探していた様子。
「買い物終わりましたよ。会計しましょうか……なんかいろいろ買いましたね」
「いつもの物しか買ってないはずなんだけどな。夕飯も買ったし、後はいつもの補充品と保管庫に放り込んでおくものがいくつか。後バニラバー」
「バニラバー好きですねえ。スライムに与えるわけでもないのに」
「これがあればお腹が空いても頑張れるからな。いざというときの食料にはちょうどいい」
お互い会計を済ませて荷物を車に運び込むと、買い物は終わり。芽生さんの家の近くまで送る。
「そういえば芽生さんの部屋にはお邪魔したことないな。ゴミ屋敷だったりしないよな」
「この服がゴミ屋敷から発掘された服に見えますか? どう見ても綺麗でしょう」
服をうりうりと見せびらかしつつアピールしている。確かに、ほこりっぽくはないしウォッシュで綺麗にした形跡みたいなものもない。自宅ではちゃんと整理整頓ができているんだろう。
前に芽生さんに指定されたあたりの住所まで近づくと、芽生さんが一つのマンションを提示してくる。
「私の部屋そこです。出入口まででいいですよ。部屋まで来ても問題ないとは思いますが、乙女の秘密の部屋を覗く度胸があるならどうぞ来てください」
「うーん、今日のところは遠慮しておくかな。とりあえず荷物を運んでしまいましょう」
意外と家賃安めっぽい部屋に住んでるな。これなら下手に引っ越しするよりも、家に引っ越ししてきた方が部屋も物品も広く扱えそうだな。いずれ一緒に住むことになるかもしれないので考えておこう。
「それではお疲れ様でした。また次に潜る時によろしくお願いします」
「わかった、じゃあゆっくりおやすみ。また後日」
さあ、かなり腹が減ってきた。とっとと家に帰って夕飯……もう夜食だな、とっとと食べて寝て、明日に備えよう。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





