1318:照り焼きで昼食を
エレベーターが七十層に着いたので書面を読み込むのは一旦止め、残りはミルコと相談しながら情報を共有していこうと思う。独り言をぶつぶつ呟きながら書類を見ていれば、昼の休憩のタイミングで暇なダンジョンマスター達が集結する可能性もあるが、独り言を言ってるおかしい人と思われかねないので考えは考えで留めておくことにした。
やはり用事があるなら正面から呼び出したほうがいいし、ミルコたちに伝えることは同時に他のダンジョンマスターにも伝わることになるだろうから悪い話ではないだろう。
とりあえず午前の作業が優先だ。まずは午前中精一杯の努力を続けて行って多めの魔力消費量で確実に倒していき、眩暈が来たらドライフルーツを噛みながら戦うことになるだろうが、いい感じのところを攻めていこう。
六十九層に下りて、早速第一モンスター発見。雷龍ではなく精一杯の努力のほうを撃ちこんで消滅させる。うむ、過剰火力だ。だがこれでいい。常にグリフォンと戦っているイメージでエイやサメを倒していく。
威力はちゃんとイメージ出来ている。後は何回使い続けるかと、本番でどのぐらい撃ちこむことができるか。それを意識しつつとりあえず午前中の二時間を贅沢に使っていこう。
◇◆◇◆◇◆◇
二時間きっちりと仕上げてきた。今のところ眩暈なんかの魔力の枯渇を感じることはなかった。午後はどうかな……午後からの作業で眩暈が起こるとすれば午後三時以降、というあたりか。とりあえず休憩して二時間は持つ。その後は解らないが、稼ぎを優先するか自己強化を優先するかは悩ましいところだが、どっちも、という贅沢を言いたいところだ。
さて、昼食がてらコーラとお菓子……先日分け合った土産の残りを並べると、書類を横に置いて、更に俺の飯を取り出してご飯の準備をする。今日は二拍せず、食事しながらミルコが来るのを静かに待つ。
どうやら無事に馬肉でも照り焼きは美味しいらしい。鶏を使わなくてもソースがうまく作れてちゃんと煮詰めておけばどの肉でもいけそうだ。脂が少ない分だけこっちのほうがヘルシーに仕上がる。馬肉の照り焼き、これもローテーションレシピの応用として無事に一品入れておこう。やはりタレが美味い具合に染み込んでいるところが特にイケるな。
美味しそうに食事を楽しんでいるところへミルコが静かに転移してくる。
「手を二拍叩かなかったということは、安村は僕に用事かい? 」
「まあ、用事と言えば用事だ。エレベーターの中で読み込んでいた奴についてだ。公式発表というわけでもないが、ギルドに届いた苦情と意見と参考認識、それから感想がまとめられたものだ」
「ふむ……【鑑定】を渡す前に受け取った内容と大きく違うものはあったかい? 」
ミルコが書類を上下にしたりパラパラとめくったりしているが、読めないのはこっちも解っているので好きに触らせている。
「で、なんて書いてあるんだいこれ。読めないから後で安村が読んでよ」
「そのつもりで置いてある、まずは食事を済まさせてくれ。後でゆっくり相談することにしよう」
まずは食事を食べさせてもらうことにするが、ミルコからの無言の圧が迫っている。どうやら一口食べてみたいらしい。フォークを取り出し一欠片刺すと、ミルコの口へ運んでやる。
ミルコはそのまま受け取り、パクッと食いついて口の中をモニュモニュさせると飲み込んだ。
「美味しいね。これは何の肉の料理なんだい? 」
「ケルピー肉の照り焼きだ。照り焼きというのはいくつかの調味料を混ぜ込んだソースをかけながら焼いてじっくりと煮詰めて汁気を飛ばした料理になる」
「やっぱり安村は料理が上手いね。ケルピー肉がこんなに上等な味になるとは思わなかったよ。その調味料が大事なのかな」
しばらく箸を止め、醤油とみりんと酒についてレクチャー。酒は省くが、醤油とみりんについては要するにチーズと同じく、人間に便利なように腐らせて美味しさを凝縮させたものを販売している商店があるという風に解説した。
「ということは、それだけを商売にしてても成り立つぐらい大事な調味料ってことなんだよね? 」
「そうだな、特に醤油と味噌……これも豆を腐らせて作るものだが、この二つはこの国のソウルフードと言えなくもないだろう」
「そこまでかける情熱が凄いね。それを一心不乱に作っている姿も含めてすばらしいことだと思うよ」
ミルコが手放しに誉める。俺が作っているわけじゃないんだが、世の中のもやし屋さんやしょうゆメーカーやみそメーカーの人たち、みんなの情熱はダンジョンマスターに伝わったぞ。声を大にして言えないのが悲しい部分ではあるが。
「さて、食事を終わらせさせてくれ。話をするにしても俺が空腹ではやる気が満ちない」
そう断ると、一気に食事を片付けにかかる。ご飯と照り焼き、キャベツと照り焼き、レタスと照り焼き、トマトと照り焼き。色んな組み合わせを口の中で楽しみながら、今日のご飯を真面目に終わらせる。
一通り食べ終えて食器にウォッシュ、綺麗にして保管庫へ仕舞い込んだところで、お菓子とコーラを挟んでミルコと向かい合う。
「では、話し始めるが……実際の内容のほとんどは前に反省会を開いた内容とそう大差はないんだ。ただ、ギルドに直接届いた苦情や感想、疑問点なんかをダンジョンマスターに伝えた、という建前を作るためのものだ。なので大きく気にする必要はないし、大幅な路線変更を見直されるものでもない。そこはいいか? 」
「いいとも。あくまで感想を聞くだけ、ということだね。どういう意見があったんだい? 」
「一番多いのは自分も参加したかったって奴だったな。探索者ランクでBランク以上……つまり三十層まで潜れる探索者がメインのイベントになったので、そこまで探索者ランクが進んでいない探索者にとっては頭の上の話のイベントで関われなかったのでそこが不満点だったらしい」
「そこは申し訳なかったとしかいうしかないね。ダンジョン全体でのテスト……ということもできなかったわけじゃないんだけど、混雑階層での混雑解消に努められるかどうかもテストの内容に含まれていたからね。今ではそれほど混雑していない十五層近辺や、Bランクになるために必要なんだっけ? 十九層二十層のドロップアイテムを邪魔しないようにという配慮の結果だったんだ」
そのあたりは開催のお知らせを受け取った時にも聞いた気がするな。
「まあ、大きな苦情はそれだけかな。後はまあかねがね予想通り反省会で話した内容通りだ。後は宝箱の出現率がどのぐらいになるか、というところだろうな。一品物については今のところ話題には上がってなかったが、掲示板のほうには言及があった。これについてはあまり種類を多くしなくても一品物扱いでいくつかの種類の装備品を用意しておけばいいかもしれないな」
「ふむ。安村として、例えばどんなものを想像するんだい? 」
「俺としてか……矢が要らない弓とかかな。【魔法矢】のスキルと同じ効果のある弓なんかは想像しやすいな。後は食パンが綺麗に切れるナイフとか。食パン綺麗に切るの難しいし」
「なんか生活じみた効果だね……でもたしかに、柔らかいパンは切りにくいからそれが綺麗に切れるナイフなんかがあれば便利かもしれないね、参考にだけはしておくよ」
つまり実装はしないのだろうな。食パンが綺麗に切れるナイフ、あればすごく便利なんだけどな。一々店で食パンを切ってもらう必要もないし、フレンチトーストを作る際も綺麗に切りわけることができる。
「後はダンジョン素材で出来た武器防具、小物のアイテムなんかが思い浮かぶが……正直どんな機能が好まれるかは人それぞれだからな。よく切れる、よく叩ける、軽くて丈夫なんかが思い当たるし、こっちの地上でどういう機能を持たせればいい……なんてのも思い浮かばないからな。実際に導入してみてその後使ってもらってるかを定点観測していくぐらいしかできないだろうな」
「武器防具についてはそうだろうね。ただそれに社会的にどれぐらいの評価がされる品物になるのかについては実際に出てみないとわからないってところか。もしかしたら誰かがひらめきで劇的効果をおもいつくかもしれないし」
そうだなあ……一品物は自分で作ってもらってしまったからあまり思い入れがない。それに近いものを出すというのなら、同じ商品が宝箱からドロップする、ということになるだろうから一日に一個出ればいいぐらいの物か。あまり数が出ることはないだろうから心配せずとも色々出るはずだ。その辺はダンジョンマスター達の集合知に期待しておこう。
「とりあえず今話した内容は仕事をしながら話を聞いてるはずだろうから、ここでの会話は無駄じゃないはずだよ。今のうちに色々案を出してくれると嬉しいね」
ふむ。だとするとここは真中長官のお知恵を拝借するとするか。早速真中長官に「一品物の装備やアイテムっていえば何が思い浮かびます? 」と送信。外付けのハードディスクに助けを求めることにした。
しばらく雑談をしている間に真中長官から長文の返事が返ってきた。
「属性の付与された装備、たとえば火魔法の属性付きの装備で追加効果があるような装備があると良いよね。後は矢の要らない弓とか、これは指輪と被るけど回数指定でブレスレットなんかになんらかの防御効果が付与されていてもいいよね。使用回数が限られてるけど魔法が撃てる指輪なんかがあっても面白いね。なんかそういう話をしているのかな? 是非とも会話に参加したいところだけどこの後会議が入ってるから長々と話せないのが残念だよ。でも、ダンジョン側が提供してくれるものについて色々と興味があるのは確かかな。私の意見はあくまでパッと思いついた範囲の話なので参考意見として聞いておいてくれたまえよ」
やはり向こうには色々と知識があるらしい。思い浮かぶ長官の流石の熱量に押されることになった。ミルコに翻訳して真中長官の送り付けてきた内容について伝える。
「なるほど、流石真中だね。そんな短い時間でこれだけのものをパッと思いつくのはなかなかできることじゃない。是非とも参考にさせてもらおう」
この点では俺よりも真中長官のほうが役に立つのは間違いない。悔しくはないが、もうちょっと俺にも色々思いつくだけのプランがなかったことに少し寂しさを覚える。もうちょっと役に立てる発想があるかとも思ったが、そのへんはうまくいかなかったようだ。
「まあ、こちらでも色々考えてはおくから出来るだけ役に立つようなものを……どう役に立つのか、というのはおいといて思いついたものを実装できるようにはしておくよ」
「そうだな、時間はあることだし、探索者の動向を気にして探索者が使いそうな装備や、これが欲しいなんて話が出てきた時にそれを用意する、ということもできるだろうし色々考えておくよ」
「そうしてくれ。こっちの言うものだけを出すってのなら宝箱でわざわざ用意する必要もないしな。是非とも後で知らせを聞いて面白いものがドロップすると良いな」
ここから先は俺の入り込む余地はないと見た。この辺でお暇しておくべきだろう。ミルコは自分のコンソールに話の内容をまとめているのか、空中でフニフニと何も見えない物を操作している。これで情報が共有されて各ダンジョンマスターに伝達されていくんだろう。ダンジョンマスター用掲示板みたいなものもあるのかもしれないな。
コーヒーを飲んで胃袋が落ち着いたことを確認すると、椅子から立ち上がってストレッチをはじめる。
「さて、午後からも頑張らないとな。【雷魔法】を六重化させるための気づき、みたいなものを会得できるまでもう少しのような気がするんだ。あのグリフォンを一撃で確実に倒せるようにもうちょっと努力してみるよ」
「努力譚は人気コンテンツだからね。また何かしら起こして皆を楽しませてくれれば僕はそれでいいかな。じゃあ、情報は共有しといたからね。それじゃあダンジョンの拡張のお仕事があるからここらで失礼させてもらうよ」
「おう、頑張ってくれよ。ミルコの頑張り様でこの先のやる気が変わってくるからな。焦らせるつもりはないが、まあグリフォン退治に飽きる前に出来てくれると嬉しいな」
ミルコは静かにおやつを手にすると転移していった。さて、俺も午後の作業に取り掛かるとするか。
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