1312:皆で昼食を
皆に一つずつ行き渡らせるように小袋わけの食べ物を配っていくと、俺と芽生さんとそれともう一人分、別にして割り振ってお土産を配り終える。
「それは誰の分? 」
質問を横に、コーラとミントタブレットを供え始めることで誰のものかを明確にさせる。
「ミルコ、ちゃんと鑑定はしかるべき人物に託してきたぞ」
手を二拍して報告する。すると、珍しくミルコが転移してきた。
「やあ、お疲れ様。今日は色々食べ物が小袋で用意されているね。渡しに行ったお土産というところかな」
「そうだ。高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンから比較的近い駅の売店やその周辺で買い集めた俺お薦め……というわけではないが人気のある品物を色々持って来た。食事のついでに食べようと思ってな。ミルコもどうだ」
「そうだね、せっかくだし一緒に味わうとするよ。それもそれとして、安村も今日は美味しそうなものを食べているね」
ミルコはシチューのほうも気になるらしい。スプーンと小鉢にそれぞれ出してミルコの分も用意してやることにする。
「じゃ、いただきます」
「今日はシンプルな味付けですね。でもコクがあって……お肉が特に美味しいですね」
「今日は簡単レシピに忠実に作ったグリフォンシチューだ。肉だけが特別って感じ。後は前のカレーの反省を生かして、煮込み過ぎない所を念頭に入れて必要な時間だけ煮込んだ」
「これは……うん、お肉が中々美味しいです。流石はまだ値段が付いてないファンタジー食材なだけあります。どうやって食べるのが一番おいしいかはまだ解らないとして、シチューに胸肉感覚で入れるのは充分ありですね」
ふと視線を感じるので向こうを見ると「グリフォンとは……」というオーラが漂ってきていた。
「これがグリフォン肉。皮はないけど胸肉っぽいお肉だ。大きさはワイバーン肉と同じぐらいかな。値段がいくらになるかはまだ不明」
とりあえず結衣さんに二パック託しておく。託された結衣さんは封を開けずにこっちのシチューから肉を一欠片奪い取ると一口食べて味のほうを確かめている。
「なるほど、たしかに上質の鶏肉って感じはするわね。安村さん得意のタンドリーチキンにしたら味がどうなるか楽しみね」
「まだ試してないんだよな、タンドリーグリフォン。きっと美味しいはずだ」
「さて、うちで使うならどう料理するかだけど……悩むわね」
「まあ、在庫はあるからまたほしくなったら言ってよ、気軽に出すから」
早くこっちも値段きまってくれないかな。結構な数を放出したわけではないが、追加が必要ならまた出すから消費してくれてさっさと値段のほうを決めてもらった方が、背中も軽くなってその後現金で懐が温かくなって万々歳なんだけどな。
「うーん、今日も料理は成功だな。やはりレシピ通りに忠実に作るというのは大事らしい。下手なアレンジ大惨事とも言うし、今後はレシピを見かけたら忠実に作っていくことにしよう」
「とろみ具合もちょうどいいですし、特に煮物関係はそうしたほうがいいかもしれませんね。今日のは野菜の味も感じられて中々に良い感じですよ」
二人で味見をしているシチューも食べたそうにしている一団が向こう側にいるが、見なかったことにしている。どうやらお土産だけでは満足できないらしい。ミルコはミルコで美味しそうに食べてはお代わりを所望したのでお代わりをやっている。
肉に合わせてレシピの内容を増やしたから五人分ぐらいの量が出来ている今回のシチューなので分けることは難しくないが、無言の圧力ではなく欲しいならちゃんと欲しいと言わないとな。
結局向こうから頭を下げられ、シチューは皆に振る舞われることになった。俺の夕飯は何か別のものを見繕わなければならないらしい。夕食何にするかな、中華屋はバスの予定にもよるが……まあ、その時間になったら考えよう。
皆食べ終わってお菓子も各自食べ終わったところで後片付けを始める。食べた後のゴミは一か所にまとめて生活魔法でゴミとして認識させることでお菓子の小袋ぐらいは消せた。流石に外箱は無理だったのでこれは持ち帰ることにする。
「生活魔法も多重化させると便利なものね」
「五千万でゴミ捨てが簡単になるって考えると高い出費だけどね。まあ拾ったスキルだから元値はタダだ。タダでゴミを綺麗にしてくれるなら良い拾い物だったと言える。おかげで食器なんかも綺麗に洗い流すこともできるし」
「生理的にもう一度水洗いはしてるけど、安村さんのウォッシュに任せると油汚れがほぼなくなってるから楽なのよね。やっぱり分子レベルで見ても分解されているのかしら? 」
「そこまでは確認してないから何とも。ただ間違いなく綺麗になっているから、その後の仕事が手早く出来ることを考えたらやはり有用なスキルではある」
「むぅ……私も覚えましょうかねえ。普段使いできるスキルとしては有用な気がしてきました」
生活魔法持ち同士の話にイマイチ入り込めない芽生さんが少し拗ねている。拗ねている芽生さんも中々かわいいのでそのままにしておこう。もうちょっと見て楽しむのだ。
「さて、そろそろ休憩も終わりだし、それぞれのところへ戻ろうかな。午後からはこっちは七十二層でまたグリフォン肉を仕入れておくよ」
「私たちはまた六十六層行きかな。明日からは少し休みを取ってスキルオーブの順番が回ってくるように待機の時間にするわ」
「せっかく五人居るんだし、一人休みで四人で回す……みたいなローテーションを組み合わせてみてもいいのでは? 」
「それもアリね。考えておくわ」
結衣さん達と別れて再び七十層へ戻る。ミルコは気が付けばいなくなっていたので、食事に満足して静かに帰っていったのだろう。そのまま居ついてくれているよりも、次の階層を作ってくれていることを祈っておこう。
七十層に到着し、いつも通り七十一層の階段まで車で移動し、車を収納した後七十一層へ下りていつものサメを倒す。空中でドロップをキャッチしたところでいつもの調子の良さを感じることが出来た。この調子なら何かいいドロップがあるかもしれない。
七十一層を七十二層に抜けて行く途中で、エイからスキルオーブをドロップ。このマップでは初のスキルオーブだ。何が出たんだろう。
「【生活魔法】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十九」
「芽生さん、お望みのスキルドロップだぞ」
「お、なんですかねえ……なるほど、イエス! 」
ノータイムでスキルを使う芽生さん。眩しさが辺りを包み込み、芽生さんもこれで生活魔法使いになった。今後色々なものを綺麗にしていくことだろう。自宅を綺麗にするにも便利のはずだ、色々使って眩暈がするまで使い倒してほしい。
「これで皆生活魔法使いになれましたね」
「このマップで生活魔法をドロップしたのが果たして美味しいドロップなのかは一考の余地はあるが、なにもドロップしないよりはマシだろう。美味しい拾い物として有り難く頂いておいたってことで」
「もしかしたらミルコ君がさっきの会話を聞いていてドロップを固定した、という可能性は? 」
「あるかもしれないな。前にドロップするスキルオーブ自体を弄ることは可能だと言っていたし、何度かそれに助けられている面もある。ミルコにお礼を言っておくべきかな」
しかし、その場合本来何がドロップするところだったのか、という点ではまだ疑問をぬぐえない。もっと特殊なスキルオーブがドロップする場合もあるのだ。例えばこのマップの場合、全てのモンスターが空を飛んでいるのだから空を飛ぶスキルがドロップしても不思議はない。
地上で使えるかはともかくとして、空中に足場を作るスキルとか浮遊そのものをつかさどるスキル……これはワイバーンの時に考えはしたものの結局ドロップ情報自体がまだ上がっていないあの件だ。ここでも出なくてワイバーンでも出ないなら、希少スキルとまではいかないもののレアなスキルとしてカテゴライズしてやってもいい所だろう。
そのまま七十一層を歩き抜け七十二層にたどり着く。そう言えば自力ドロップとしては久しぶりのスキルオーブだったな。最近は買い物や預かり物でそこそこの回数手にする機会はあったが、自力でドロップすることはそれほどではない。六十八層を突破するために体内マップをうろついてた以来かな。そう考えると随分甘やかされている気はする。リーンにももらったしな。
ダンジョンマスターに気に入られているお飾りの探索者、と呼ばれてしまうとその面はあるかもしれないので、自分で自分を叱咤するべく、ここでもスキルオーブがドロップするまで戦い抜くぐらいの覚悟は必要だな。
七十二層に着き、頭の上のグリフォンをスタンさせた後そのまま一緒にいるサメを雷龍で迎撃、サメが黒い粒子になるタイミングで芽生さんもグリフォンの首を跳ね飛ばし黒い粒子に還した。
「さて、七十二層も慣れてきましたし、そろそろ洋一さんのスキルも成長してくれると嬉しいんですが」
「そうは言うがな、言われてきた何か頭一つ抜けたような感覚、というのがいまだによく解らない。あ、俺強くなったかも! みたいな、身体強化のレベルアップのような現象が起こるならまだ解るんだがそこまでのものでもないんだよな」
口頭での伝えとはいえ、ヒントはもらっているんだ。そのヒントを十全に活かせていないのか今の俺、ということだろう。
「試しに、スキルの技とか何も考えなしに最大出力の雷撃を放ってみるというのはどうでしょう。もしかしたら新しい世界が開けるかもしれませんよ」
「次にグリフォンが出たら試してみることにする。エイやサメだと丁度死ぬぐらいで良いと手加減しそうだ」
というわけでグリフォン探しを兼ねていつものルートをぐるりと回ると早速出てきたグリフォン。こいつに向かって雷龍とイメージせずに、全力の雷撃をブチ当てるイメージで雷魔法を発生させる。イメージは……とにかくいっぱいの雷撃だ!
俺から飛び出した雷撃波は範囲が広く、一匹に対してはあまりにあたり範囲が広すぎたが、それでもグリフォンを焦がし、そして……グリフォンは黒い粒子になって消えた。
「今のイメージを形にする……いや、今のを単体攻撃用に改良してより密度を上げることでもっと威力が高くて効率的な形にすればなんとか行けるか」
「出来たじゃないですか、一撃撃破。この調子でいきましょう……あ、下手にネーミングとか付けるとイメージが固定化されかねないので精一杯の努力とかそんな感じで留めておいたほうがいいかもしれません」
「それだと精一杯の努力、が技名になりそうな気はするが……まあ、もうちょっとやり続けてみよう。まずは毎回グリフォンを一撃で倒せるかどうか、そこだけが大事だからな」
しばらくグリフォンを見つけ次第「精一杯の努力」をぶつけ続ける。今のところ成功率は三割と言ったところ。まだちょっと全力雷撃という前に使っていた技がある分、威力に対してイメージングが追いついていないか、出力自体が足りていないかで十割に持っていくには努力が必要な所ではある。
しかし、グリフォンを割と高い確率で一撃で倒せるようになったのは確かなのでここは素直に喜ぶところなんだろうな。後は訓練あるのみ。芽生さんがいる内に精々威力を高めるイメージを膨らませて「精一杯の努力」を確実な物へ高めていこう。そうすれば、六重化への道も開けていくはずだ。
エイとサメはもはや勝負にならず、同時に倒せるときは精一杯の努力でまとめて範囲攻撃として葬れるようになってしまったので、相対的に芽生さんの出番が減る。文句が出るかな……と思ってはいたが、どうやら本人としては、自分の仕事をせずにお給料が半分貰えるなら良いじゃないですか、というとても分かりやすい反応をしてくれた。
とりあえず俺の技が完成するまではその方針で進めていってくれるらしい。有り難いことだ、それに甘えて今日中にうまく完成させられるように調整していこう。
良い感じに体も温まってきたことだしそのままのペースで探索を続けさせてもらうことになった。グリフォンを見かけるたびに精一杯の努力、と考えながら打ち出すとほぼグリフォンの体力を削り切ることができる、ということまでは解っているので、その後の追加の雷撃を加えることで確殺できることも解ってきた。
グリフォンはもう敵ではなくなってきたな。というか、近接対処を考えなければここのモンスターはもう敵じゃない。後はひたすら鋭く【雷魔法】を極めていくことこそ大事だろう。
良い感じになっては来ている、あと一歩、このあと一歩を抜ければ何とかなりそうな気はする。この一歩を抜くというのが、ネアレスの言っていた気づき、というものが得られるのかもしれない。もうちょっとな気がする、ここで腹をくくり直して頑張ってみよう。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





