131:帰還
「それでは結果発表します」
「ゴクリ」
「合計四十三万五百五十円。一人あたり二十一万五千二百七十五円です」
「やったー最高記録! でもこんなにお金持って帰るの怖い! 」
「そうだなぁ、帰り道早めにコンビニで入金済ませてしまうといいよ」
「そうします。大金持ち歩くの慣れてなくて」
「じゃ、換金して帰るか」
支払いカウンターへ換金しに行く。すると、意外な答えが返ってきた。
「どうします? これだけ高額なら全額直接振り込みって手がありますが」
「そんな仕組みあったんですね」
「えぇ、あったんですよ。ただ、翌日振込になりますが」
「じゃあそれでお願いします」
「あ、私も振り込みでお願いします」
「銀行名と口座さえあってれば直接振り込みます。振込料金はギルド負担で行います」
「少額とはいえそれは有り難いですね」
キャッシュカード普段から持ち歩いててよかった。帰り道を襲われる心配はなさそうだ。文月さんもキャッシュカードは持ち歩く派らしい。その場で口座番号を伝えて振込処理は行われたらしい。
「後、地図の更新があるんですけどこれはどうすればいいですか」
「コピーを取らせていただいてもよろしいですか。後日の形になりますが、地図更新時に見本とさせていただきます。これはご自分で? 」
「いえ、小寺さんという方が今パーティーで潜ってるはずなんですが、その人たちと自分の地図を合わせて持ってきてます」
「少し確認を取りますね、少々お時間ください」
支払い担当嬢は入口へ行くと、どうやら潜っている探索者パーティーのメンバーを照らし合わせに行ったらしい。
「確認が取れました。では、地図をお見せいただいてもよろしいですか」
「はい、六・七・八・九層のマップ更新が主になると思います」
「えーと……なんですかこの七層のテントとポールは」
「目印として立てておきました」
「目印ですか」
不思議そうな顔をしている。多分七層の現状を解ってないのだろう。
「その通りに進めば階段まで真っ直ぐ行けますから」
「なるほど。七層にこれが今あるわけですね、解りました。では改めて、コピーを取らせていただきますね」
コピーを取りに行く。コピーを取るとすぐ戻ってきて地図を返してくれた。どうやら地図の確認は後でするようだ。
「地図の更新についてはギルドの評価基準に基づいて、それなりの査定が行われると思います。詳しくは言えませんが、そういうものがあると思ってください」
「まぁ、何かしらあるって認識でいいんですかね」
「それで良いと思います」
忘れそうだった地図の更新申請を終わらせた。もうギルドでやる事は何もないだろう。晴れて二人身軽になるとエコバッグをバッグに仕舞いなおし、バッグの重量バランスを直すと後は二人とも帰り道でバスを待つだけになった。
「これからどうします? 暫く九層通いですか」
「それもあるけど、もう一回スキルを手に入れたいね。求めるようなスキルが出る保証は全くないけど」
「夢がありますねぇ」
「そういえば、俺はスキルを持ってる人に会ったことが無い」
「それだけ出回ってないってことですかね。だとしたらスキル持ってるだけでも自慢になりそうですが」
【火魔法】を購入して満足そうに、さっそく試したそうにしていた購入者を思い出していた。今にも「俺はスキルが使えるぞぉ! 」と叫びそうな感じだった。
「どうかなぁ。金出せる人はサクッと買っちゃうようだし、それでも需要に対して供給が追い付いてないのは解る。スキル売った時も、順番待ちの人が何人もいたようだから」
「もし出たとして、また高額で売っぱらいますか?高額納税者になっちゃいますよ私たち」
「それは……一時の金を握るか、今後の探索に活かすかにもよると思う。有用そうなスキルなら自分たちで使って、使い道が思いつかないスキルはとりあえず保管庫に入れておけば大丈夫かもしれない」
「なるほど、保管庫なら時間を百分の一にできるから四十八時間制限にとらわれないと」
ざっくり計算する。二十四時間分はどんなに短くてもあけておかないといけないから、その百倍で二千四百時間。つまり百日プラスアルファは残しておかないといけない。
「えっと……八十日ぐらいは余裕を持って保存しておけるからその間に考えることが出来るし、調べる事も出来る。他にスキル保持者が居るか、居るなら使い勝手についてとか」
「とりあえず帰ったら、テント干したりお風呂入ったりしたいですねー。ゆっくり考えるのはその後ですね」
「まぁ、色々考えておくし調べておくよ。何かあったらレインで連絡入れるから」
「りょーかい。それじゃそういう事で」
丁度バスが来た。バスに乗り、駅までガタガタと舗装がはがれ始めた道を揺られながら小休止という名の居眠りをする。駅が終点になっているので寝過ごす心配は無い。最悪運転手さんが起こしてくれるだろう。
そして案の定、運転手さんに「お客さん終点ですよー! 」と二人して起こしてもらった。ありがとう運転手さん、いつもお世話になってるよ。
駅で文月さんと別れる。忘れないうちにちゃんとボア肉は渡した。バスで十分疲れを取ったのか、元気に去っていった。若いっていいなぁ……
駅から自宅のある駅へ、そしてそこから自宅へはさすがに起こしてくれる人も居ないので立って起きていよう。ここで寝ると割と大変なところまで連れていかれる。遅めの通勤時間になるのか、会社がフレックスなのか、この時間から通勤する人も結構いるようだ。電車の席は全部埋まっている。空いてたらうっかり座るところだったな。危ない危ない。
無事何事も無く降車し、徒歩で家に帰る。途中のコンビニで食えるものを見繕う。今は何腹だろう。肉は昨日結構食べたからな。やはり野菜が欲しいところだ、カット野菜を買っていこう。
後は……パンはまだ在庫があるし、卵もトーストもある。適当につまめるサラダチキン、これだ。サラダチキンとサラダであっさりサラダ。タルタルソースの小袋を二つ買って大目にかけて食べよう。それとサンドイッチで十分だな。メニューを決めるとさっさと会計して家に帰る。
家に着いて玄関に入ると、ようやく帰ってきたという気分が味わえた。今回も実りのある探索だったな。自分の力の限界を知ったというか、出来る範囲が大分見極められてきたというか。
まず、ゴミの片づけからだな。保管庫に適当に放り込んでおいたゴミ袋を出し、家の自治体の基準に合わせたゴミに分けなおす。これは手作業じゃないと今のところ無理だろう。こっちでは燃えるゴミでも、焼却場が違う隣町では燃えないゴミとして分別されたりする。それを一々覚えさせる手間を考えるより、さほどの量でもないゴミを手で分けたほうが効率は良い。
次にテントとエアマットを庭で軽く水洗いして陰干しにする。とりあえず夜まで置いとけばいいだろう。後は食器・まな板・スキレットの洗浄とバーナーの燃料残量確認をする。バーナーの燃料はまだ大丈夫だな。念のため予備のガス缶を購入しておくか。いざ使う時に燃料切れでは悲しい事件にしかならないからな。
食器は綺麗に洗浄して、そのまま保管庫へ放り込んでおく。今度は三人分入れておこう。箸とナイフとフォーク。本当は包丁も一本入れておきたいところだな。いざという時には武器に転用できるし。
今回みたいに大人数で焼き物をすることはまぁそうそう無いだろうから出番は無さそうだが。後は……中途半端に残ったコーラと水を飲み干してしまおう。そして新しいのを冷蔵庫に入れて冷やしておく。
……あ、これ文月さんが飲んだ分だ。間接キスになるがまぁ本人居ないし覚えてないだろうからいいや。後は今着てるツナギを洗濯、そして風呂。これで一連の片づけは終わったかな。
風呂に入ってゆっくりとものを考えるのは習慣になりつつある。
現状、十層を突破するのはそれほど急いで達成する目標ではないという事だ。新浜さんに言われたことを思い出す。なるべく九層のドロップ品を持ち帰る事。つまり、それだけ深層に潜るだけの実力があるとギルド側が判断する材料にするということか。地図の更新もその一翼を担う事になるかもしれない。だったら十層の地図を完成させればより評価が上がることになる。
が、実際の所ステータスブーストを使ったとしても今の手数であの物量に勝負できるか? と問われればNOに近い。保管庫スキルを全力で使えばなんとかなるとは言えるが、それは果たして自分の実力と言えるのだろうか。いや、その場合他のスキルの力を使っても同じとなるか。有用すぎるスキルのおかげでここまでやってこれてはいるものの、便利すぎるスキルも困りものだな。
やはり、スキルを自力で手に入れるのが成功の可能性は高くなるんじゃないか。あの時【火魔法】を売らずにいれば、もし偶然文月さんが使っていたら……いや、そう考えるのは止めよう。あの時は金を選んだ。その結果今がある。なので今後どうするかだけ考えればいい。
数を狩るだけなら、一晩泊まってその間に一層二層を全力で駆け巡ることでドロップ確率を上げることは可能だ。スキルを手に入れられる可能性を考えればそうするほうがまだ分が良いんじゃないか。金にはならないがもっと大きなものを手に入れることは可能になるだろう。単純に九層を潜り続けるよりはこっちのほうが効率がいいと思う。一つの可能性として考慮しておこう。
……やることは二つ。Cランクになる。そしてスキルを手に入れる。潮干狩る。三つだった。この三つに絞っていこう。
風呂でサッパリした後は、冷えたコーラを飲みつつ適当にネットニュースを見る。どうやらギルドの買い取り価格値下げは探索者に不満こそ残しつつも、値下げ理由に納得せざるを得ない人は結構多いようだ。今までが買い取りが高すぎたという声はさすがに聞こえなかったが。
ただ、新規の探索者がスライムで稼ぎを上げることは難しいだろうという推測は立てられている。収入三割減という事は、俺が初めてダンジョンに潜った時の収入が二千円ちょっとになっていたという事だ。初日が二千円ではしょんぼりする人も多いだろう。
ただ、ギルドとしても苦渋の選択だったことだろうな。探索者を増やしたい、お互い利益を上げていきたいというのが本音だろう。
気軽に投げたつもりの石だったが、予想以上に大きな波紋となってしまったな。国を動かした男、という二つ名でもつきそうだ。それはそれで中々のものだが、誰かが騙りを始めて誰が本当に石を投げたのか解らなくなってしまうほうが好都合だ。そのまま黙っていよう。
さすがにちょっと眠くなってきたな。まだ昼過ぎだが仮眠しよう。そして起きた後、夕食を食べもう一回寝る。それで生活リズムを取り戻そう。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





