1306:面接
面接される側の三人がお互いを見合い、そして真中長官のほうへ向き直る。
「その鑑定スキルはいつ貸与……いや、返せるものではないんでしたね。いつ渡される予定なんですか? 」
森さんが質問をする。当然の質問だろう。まさか出現次第与える、ではいつ自分の出番が来るか待ち続けることにもなる。
「面接の結果によりますね。もしこの場で二人辞退する、というような内容になればその場で残る一人に出来るだけ早い形で渡すことになります。と言ってもスキルオーブの制限時間は四十八時間以内と決まっていますので、今日明日なのは間違いないですね」
多田野さんが冷静に応対する。保管庫に入ってるから一年ぐらい悩んで良いよ、という話にはしにくいだろうし、いつでも付与できる、となれば今度は考える時間をくださいとなるだろう。なかなか難しい所ではあるな。
「質問良いですか」
乾さんが手をあげる。何やら真面目な顔をしているので省庁間のやり取りとかそういう類の話かもしれない。俺は聞かないほうがいいのかな。
「どうぞ」
「私がこの名前のリストに入れられたのは政治的配慮……つまり、初めから弾かれる予定だったという可能性はどのぐらいありますか」
どうやら自己評価をわきまえていてその上で自分をどうするか、という話になるようだ。
「そうですね、あえて辞退せずにギリギリまで残った上で選別に漏れた、という結果を残すことは可能です。多分、そうされたほうが角が立たないと思います」
ハッキリと数合わせだと言ってしまう多田野さん。こういう言い方は真中長官は出来ないだろうな。
「なるほど、形式上ですか。解りました、精々自分の居場所のメンツをつぶさないようにしておきましょう」
乾さんは自分の役目をわきまえたようで、それ以上深く追求することはなさそうだった。
「今の仕事と並行して……というのは難しくなるのでしょうね」
森さんは今の仕事が楽しいらしいというのは伺える。同じ課長級とはいえ、仕事がガラッと変わってしまうことには戸惑いが残るようだ。
「あの、いいですか」
今度は巽君の番だ。どんな質問が出てくるんだろう。
「ドロップ品が出るたびに鑑定の仕事を行う、ということは不定休で不規則な生活を送る、ということになるんでしょうか。それとも、業務時間内でだけ鑑定作業を行い、その間に出たドロップ品については鑑定待ちということでしばらく時間を待ってもらう、ということになるんでしょうか」
実際の運用面での質問らしい。実務的な所はどうなるんだろう。普段は寝てて鑑定の時だけ起こされるみたいな感じになるんだろうか。それともきっちりお役所タイムを使って九時五時みたいな感じで営業するのだろうか。
「今のところは九時五時で今と変わらない生活を続けていただけると思います。ただ、残業が発生する可能性は否定できません。その時その場にどれだけの鑑定待ちが並んでいるか、で決まります」
きっちりした勤務時間はあり、ということらしい。探索者のメイン時間がどのくらいになるかは解らないが、鑑定待ちで待たされることを考えれば探索者のタイムスケジュールも変化することになるな。夜に潜って朝一九時に鑑定待ち、みたいな行列ができる可能性もあるってことか。トレジャーダンジョンの探索者の時間は少しずれたものになる可能性が高いな。
「なるほど……今と変わらない感じですか。解りました」
巽君は納得したようでそれ以上追求しなかった。
「さて、今度は私たちから聞きたいことが少しある。今後ダンジョンは踏破と再生を繰り返していくことになる。そのたびにダンジョンは新しいフォーマットや仕組み、仕掛けなどが施されたダンジョンに生まれ変わっていく可能性が高い。そして、ダンジョン産の資源によって産み出されるエネルギーなんかに対しても機敏にあり続けなければいけないと思う。もう完成して後は実働試験待ちの魔結晶発電炉もそうだし、食肉や新熊本第二ダンジョンで得られる食材なんかもそうだ。それらに対してどういうアプローチを仕掛けていくことがダンジョン庁の役目だと思うかな? 」
実際にこれから世界を席巻していくであろう魔結晶発電施設。確かアメリカとは早期に発電炉の仕組みについて議定書を交わしてあちらでも試験炉が作られる予定になっていたんだったかな。なんかニュースで見た覚えがある。
アメリカは日本よりも規模が大きいか、細かいのをいくつか作って街ごとに発電施設を持っていくようなスタイルのほうになっていくんだろうか。日本でも集落ごとに小型の発電炉を建設、設置するようなことにすれば送電コストを抑えられて便利に扱えるだろうな。
巽君から順番に答えていくらしい。どんな発言が出てくるか楽しみではある。
「現在の探索者は正直言って稼ぎすぎであると言えます。Bランク探索者にもなれば一日に数十万の稼ぎを得ることも難しくありません。その分を民間に広くおすそ分けをするため、ポーションや魔結晶の査定価格を安くしていくことは今後の課題になるとは思います。現状の発電効率までは知識がないので何とも言えませんが、電力と医療的コストは安ければ安いほど効果があると思われます。現在では市場価格で三十万円ほどするヒールポーションのランク3ですら、治療に時間のかかる複雑骨折や内臓疾患への効果も見込まれています。より効果の高いランクのポーションを使えばもっと幅広い病気や神経症、場合によっては寿命の延長などにも効果を発揮するかもしれません。それらを一部の探索者からしかまだ収集に向かえないのを理由に高い査定金額で引き取ってはいますが、今のB+ランクがより増えて潤沢な供給が行われるようになった段階で徐々に査定価格を下げていくような形になっていくと予測します。魔結晶についても同じで、現在の価格は発電にかかるコストを基準にしてある程度上下させてはいますが、ダンジョン庁が抱える在庫が掃けた時点で一度価格の調整をする必要があるのではないかと考えます」
俺が探索者だ、と先に名乗り出てたら言いづらい話だったかもしれないが、素直で実直な意見であることは確かだ。経済的な循環をもたらすポイントもちゃんと突いている。模範解答と言えるだろう。
「次、森さんは何かありますか」
「そうですね、魔結晶も大切ですが、現状買い取れるだけ買い取るというギルドの仕事上仕方ないのかもしれませんが、不良在庫をいかに消費していくかも大事なことでしょう。逆に足りない素材に対してのアプローチも必要です。次の価格改定でまた値段が上がるのでしょうが、ダーククロウの羽根が常に欠乏している状態にあると言えます。また、ダンジョニウムインゴットやシャドウバタフライの鱗粉等の安定供給、これらのドロップ品については対応する業界に対して常に供給する義務を負っていると考えます。それらの品物を確実に運び込むためにも、ダンジョン庁から直接命令を下せる採集専門部隊の創設も必要になってくるかと思います。もしくは、防衛省にお願いしてダンジョン探索時の物資確保の階層を指定させてもらってそこに専門で潜る部隊を編成してもらう、等があると思います」
真中長官がやろうとしてることだな。ダンジョン庁の在庫の把握と商社や卸先への折衝をやってるだけあってその自分のアピールポイントを的確に突いてきているように感じる。
「乾さんはどうですか」
「経産省としては魔結晶の価格の下落が目的でしょうなあ。安く電気を作れればそれだけでも家庭、工場、様々な場所への電力供給が安価に行えることになります。それに加えてあまり大きくない魔結晶発電炉が作れるということになれば発電炉の安全性から見ても街のど真ん中においても遜色ない施設と言えます。これは送電ロスを小さくすることだけでなく、区画ごとの発電状況の把握や停電時の緊急発電による隣のグリッドへの電力緊急供給などが行えることになりますから全体を見回しても安定した電力供給を行うことが出来、また自然に対しても配慮が限りなくゼロに近いところで行えることになりますからこれも一つ利点としてあげられるでしょう」
それぞれ自分の得意分野を語る。巽君は得意分野というわけではないだろうが、全体的に俯瞰した感じの意見だったと言える。
「では次の話へ。【鑑定】スキルを覚えたら何をしてみたいですか? 」
また順番に巽君から応答を促される。
「うーん、例えばですが、落とし物なんかを鑑定したら誰が落としたか特定できると良いですね。誰の持ち物だったとか、そういう情報が受け取れると便利だと思います」
「手元にある自称ダイヤのネックレスが本当にダイヤなのかと、産地が何処なのか、あたりを鑑定出来ればいいなと思います。宝石類は時々偽物が混じり込むので」
「交渉相手が何考えてるかわかると便利ですがそれだと鑑定というよりも察知とか感知ってスキルになるんでしょうかね。鑑定については……思いつくことがないですね」
そういえば俺も【鑑定】については深くは知らない。海外のサイトを漁って公開されてる情報について調べてから来ても良かったな。その辺の下準備が足りてなかったな、とちょっと反省する。
「一つ質問良いですか。そちらの面接官の方は一体どなたでしょうか? 」
乾さんから疑問を呈される。俺のことらしい。
「安村と言います、職業は探索者です。ランクはB+で小西ダンジョンを主戦場にしています。本日は【鑑定】を渡す係としてここに来ております」
巽君がさっき儲け過ぎ、と言ったのを思い出して少し顔から血の気が引いたように見える。しかし、押されぬようにと逆に質問をぶつけてきた。
「ぶしつけな質問で申し訳ないのですが、いま一日探索者として働かれたとして、最大どのくらいの収入を得ることが出来ますか? 」
ここは正直に答えてしまっていいだろう。いや、いつものアレを出すべきか。
「時給に直すと千二百万円ほどですかね。睡眠時や通勤時間も込みですが。実際に現地について潜った時間に換算すると……三千万円ぐらいになりますか。まあ、相当深いところまで潜り込んでいるのでそれ相応の危険手当だと思っていますよ」
「もらい過ぎ、と思ったことは? 」
「まあ、何度かは。ただ、俺の都合でもらい過ぎだからと断る理由もないですし、上のほう……つまりトップ層に居る探索者が十分儲けているからと言って他の探索者の財布に入る予定の金額までケチをつけるつもりはないですね。働き始めは一日頑張って三千円とかそのくらいから始まりましたから。ただ頑張れば頑張っただけ報酬が手に入るシステムである、ということで理解してもらえると助かりますね。後、最悪死にますし」
「そうですか。現場の意見をありがとうございます」
巽君はそれで静かになった。俺の意見はそれなりに貴重だぞ?
「最後に。【鑑定】を覚えるとなれば、ダンジョン庁に固定される、と思ってください。基本的な業務は鑑定、鑑定した品物の場所と時間、所有者についての情報をまとめて管理する役目になります。書類仕事もそれなりに出ますし、基本的には事務作業と対面形式での探索者との面接ということになります。そういう業務が苦手、という場合は再考することになりますが、そういった業務が苦手だったりはしますか? 」
「僕は大丈夫ですね、書類仕事もようやく慣れてきましたし人と話すのはそれほど苦手ではないので」
「交渉事は得意ですね。今も会社さんとの打ち合わせがメインのお仕事なので。書類のほうは量にもよります」
「どっちもそこそこはできるかな。一応これでも昔はトップ争いで派閥を率いて戦ってたぐらいの経験値はあるよ」
三者ともに苦手では無さそうだ。最後のは……まあ輝かしかった歴史ってとこだろうな。
「以上で面接を終わります。短いですがおおよそ皆さんの傾向は解りました。退席されても結構ですが、結果発表まで聞いていきますか? 」
多田野さんが面接を締めくくる。
「私は帰ります。どちらか、というのはもう答えはもらっていますので。結果は惜しくも候補にはなれなかった、と報告してきますよ」
乾さんは手早く面接の終わりを聞くと退席していった。うん、茶番に付き合ってくれてお疲れ様。ありがとう俺じゃないおじさん。
「さて、では残り二人のどちらか、ということですが……」
多田野が真中長官と俺に目配せをする。俺と真中長官は向き合って、その後多田野さんに頷いて返す。
「……では、巽さん。【鑑定】のスキルを受け取ってもらえますか」
名前を呼ばれたことでびっくりする巽君と、ダメだったか、という森さんの表情が同時に現れる。
「森さんは今の部署でモリモリと働いてもらっている方がダンジョン庁の利益になると判断したためです。そのままのあなたの働きで充分貢献してもらっていますから、そのまま引き続き仕事をお願いします」
「そういうことならわかりました。では、部署に戻ります。巽君、頑張ってね」
森さんも退室。部屋に残るのは俺を含め四人となった。さあ、ここからが授与式……と行きたいところだが、その前に色々と手続きがあるんだろうな。
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





