1268:候補地の確認
そのまま真っ直ぐ階段まで突っ切り、七十一層への階段前にいるグリフォンとサメを撃破して階段を上がる。階段を上がって警戒、モンスター敵影無し。安心して七十一層にあがると、そのまま北北東へ進路を取り、クレーターを無視して階段へ直接向かう。
やはり七十二層の密度に比べると七十一層は楽だな。一匹だけの時もあるし二匹の時もある。グリフォンは一匹で出やすいが、そもそもの数が少ないので復路でもう一本謎のポーションを手に入れる……というのは難しいだろう。
グリフォンの爪と肉を落としてくれればこっちとしては後々大助かりなのでそっちに願いをかけることにする。物欲センサーマシマシでたどっていくおかげか、フカヒレもグリフォンのドロップ品もあまり落ちてこない。今日は謎のポーションを拾ったことで運気を使い果たしたのかもな。
そのまま階段へ向かって真っ直ぐ進み、中間あたりでドローンを飛ばして位置を確認。方角はあっていて、階段こそ見えないもののクレーターの終わり部分が見え始めていたのでそれを目印に行く。慣れたら七十一層はドローンをわざわざ飛ばさなくてもいいようになるだろう。もうちょっと感覚的慣れが必要だな。
一時間ほどかけて七十一層を歩く。フカヒレは今日の分として充分な量を確保できた。グリフォンの爪と肉は……今日の収穫量はそれぞれ十個ずつってあたりか。これは中々に数を集めるには大変な作業になるだろうが、その分だけ金になってくれることを祈るばかりだな。
階段が見えてきた。階段の上にはサメが居るはずだが、まだこの距離では見えない。もうちっと近づいてやらないとだめか。芽生さんからは見えているんだろうか。というか、芽生さんはどのぐらいの距離の索敵が出来るのか。多重化しないとわからないな。やはり次の目標は【火魔法】の購入と【索敵】の入手あたりを目標にしていくか。それまでに芽生さんでも対応できないような探知範囲の広さを持つモンスターが現れないとも限らない。その場合は芽生さんに三重化してもらって更なる安全な探索、という流れのほうが自然だろう。
階段に近づいていく間にも前や横からモンスターが近寄ってくる。一発で落とせるので心配はないが、グリフォンだけは相変わらず油断せずに己の持てる力全てを撃ちこむようにスキルで対応。この階層では近接はサメだけになるが、サメも一匹だけ突っ込んでくるなら全力雷撃で事足りる。あえて雷龍で対応しているのは自分の力をより上げていくための方法の一つに過ぎない。出来れば楽をしたいが、楽をすると六重化が遠のく。なかなか難しい所だな。
階段にほぼ到着し、最後のサメを雷龍で打ち抜いて七十層への階段へ無事到着。階段を上がって車を出すと、帰り道も楽をしてリヤカーのところまで駆けつける。一応ノートを確認しておくが、重要事項やスキルオーブドロップの情報はなかった。やはりそう簡単には出てくれないらしいな。
リヤカーをエレベーターに押し込み、倍速で七層へ。その間に今日拾った魔結晶とポーションを並べていく。謎ポーションはまだサンプルとしてお出しするには本数が足りないので今回はなしだ。
「今日の収穫はどんなもんでしたかね? 」
「えーと……ポーションが七本出たからそれだけでざっと四億。それから魔結晶がざっと三百個とちょっとあるから、一個三十万としてざっと九千万。半分にして二億四千万ってところだな。一日の稼ぎとしては充分な金額だ」
「階段もみつけられましたし、上々の戦果ってところですか」
エレベーターの床に石突きをつけたまま槍をくるくると回転させながら上機嫌な芽生さん。ちゃんと働いた分給料が出るという点ではこれ以上楽な仕事はない、とでも言いだしそうだ。
「後は謎のポーションが……三つは欲しいな。潜った回数から参照すると後五回か六回潜れば確率的に出てくれるんじゃないかと推測される。それまでは七十二層に通い詰めになる。その後自分たち用のポーションも確保するなら更に同じ回数分だけ潜るから……今年いっぱいは七十二層を楽しめそうだな」
その間に俺はフカヒレでも集めて回ることにするか、それとも五十九層へ一人で乗り込んで石像たちと楽しく指輪を集める作業……というのでもいい。やることがあるってのは良いことだな。退屈しなくて済む。
そのまま月刊探索ライフをまた読み始め、コラムの欄で引き続き俺の話題が少し載っていることで盛り上がったりしている。
「随分男前みたいな感じで載せられてますね」
「ここまで来るとちょっと恥ずかしいな。やはり取材一切お断りの方針のほうがよかったか。でも、あれ以来取材の話が舞い込んでこないことを考えるとやはりどこかで区切って……そうなると会談はセッティングだけして俺は参加しないという話も出来たんだろうが、そうなると今度は今みんなが頑張ってくれている新しいダンジョンの候補地選定の話に入るためのダンジョンマスター引き抜きの話もなしになるから……考えるの止めるか。こうなった以上最後まで責任は取らないとな。ギルドに戻ったら候補地の情報が集まっているはずだからそれを見て、みんなに説明する必要がある。まだ顔合わせも済んでないダンジョンマスターもいることだし、一度話し合いの席を設ける必要がありそうだ」
「それ、今日やるんですか? だったらせっかくなので話し合いに参加したいところですが」
「そうだな。明日の予定が問題ないなら今日帰って早速会議みたいなものを開きたいところではあるが、真中長官の都合次第だろうな。あの人なら緊急でも話し合いに参加して他のダンジョンマスターがどう考えているかとか、その辺を根掘り葉掘り聞いて自分の仕事への活力へ変換してそうだ」
七層に着く。ダッシュを終わらせてそのまま一層、退ダン手続きを終えて査定カウンターへ向かう。最近は茂君ダッシュしても息切れがしなくなってきた。身体強化が十全に機能してくれているということだろう。ありがたいことだ。
査定カウンターはまだギリギリ空いていて、スムーズにそのまま査定を受けることが出来た。芽生さんを着替えにやって、その間に二分割されたレシートが出て来る。今日のお賃金、二億三千九百三十九万二千三百五十円。今日はやたら細かい数字まで出てきたな。
芽生さんが帰ってきたのでレシートを渡すと、上機嫌で支払いカウンターへ向かう。俺も振り込みついでにギルマスの所在を聞く。
「ギルマスならもう帰られました。代わりに、安村さんにこれを渡しておくように言われたのですが。中身は見てませんので何が書かれているかまではちょっと私には解らない所なんですけど」
ちゃんと言づけておいてくれたらしい。書類を受け取るとバッグの中へ仕舞い込み、いつものぬるま湯を頂く。これも季節が進めばだんだん熱湯に近いものに変わっていくんだろうな。冬の寒さにこの熱湯はかなりありがたいサービスになるはずだ。
バスの時間を待ってバス停に並ぶ。七十層よりちょっと暖かい、まだ夏の残滓が残るような暑さではなく、夏が完全に終わって冷えを感じ始めるような、風が吹いたらきっと寒いと感じるであろう程よい気温に身を任せつつ、バスはまだかと路上に視線を送る。遠目から、バスの行先表示が見え始めてきた。
バスに乗って、座った後書類を確認する。書類にはまず俺宛てのメッセージとして、例の選定委員三人がそれぞれランキングをつけた上で相談し、ここに立ててほしいという明確な場所が五ヶ所記されているという話が書き込まれていた。ちょうど五ヶ所ということは、この数この選定場所で決定事項としてほしい、ということなんだろう。他にも色々案が送られてきているという話は少し耳にしたが、最終的にここが一番儲かる、そして魔素の搬出がうまくいくという話になるらしい。
横からひょいっと覗いて書類を見ている芽生さんが、次へ次へと急かす。そんなに急かすなら……と、書類を芽生さんに見せて勝手に眺めてもらうことにした。どうやら興味津々らしい。
「やっぱり家においでよ。これは早めにリーンたちと相談が必要だ」
「そうですねえ、向こうの言葉への翻訳も必要ですし、もし真中長官がまだ職場なら話を繋いでもらって一緒に選んでもらう相手と誰が何処に行くのか、ぐらいは情報共有できるかもしれません」
「とりあえず真中長官に一報だな」
レインで真中長官に文面で伝える。とりあえず受け取ったことについては報告は送っておかないとな。
「書類受け取りました。家に帰り次第各ダンジョンマスター達と情報共有に入ります」
送信、と。これで下準備は整ったかな。
「後は……コンビニでお菓子と飲み物だな。人数も集まるんだしそのぐらいは許されるだろう。堅苦しいやり取りじゃなくて出来るだけ和やかな雰囲気で話を進めたいという意味もある」
「そのほうがリーンちゃんもよろこぶでしょうからね。後はノートとペン辺りは必要そうですが、人数分ありますか? 」
「メモ帳は大きくて一杯書けるほうがいいからな。人数分そろえておこう。後夕食も見繕っていきたい。コンビニ飯でも良いよね? 」
「たまにはいいんじゃないですか? 今から作って食べてそれから会議では時間が勿体ないですし、今文章を送った以上真中長官も待機しているかもしれませんし。手早く済ませて全部一気に終わらせてしまいましょう」
バスを降りて電車で家の最寄り駅まで移動し、途中のコンビニで物資補給。家に着くとまずゴミの片付けと洗いもの。それが終わり次第夕食を開始する。ちなみに俺の今日の夕飯はマーボー豆腐とおにぎり二個。芽生さんの夕食はカツ丼である。コンビニでしっかり温めてもらった後、家で再加熱してアツアツのままのコンビニ飯を食べる。
「せっかく家に来たのでたまには芽生ちゃんの料理でも……とは思うところですが時間は大事ですからね。また今度にしましょう」
「期待して待つことにするよ」
さっさと食べ終わるとまたゴミの片づけをして、庭のダンジョンにノートパソコンを持ち込む。椅子と机は保管庫の中にあるし、問題なく作業を開始することは出来るはずだ。
丁度いいタイミングで真中長官からレインが返ってきた。
「今からやるなら私も参加したいところだけどいいかな? 」
ふむ、ミーティングに参加できる程度には暇らしい。もしくは、俺からの連絡を受けて仕事を高速で終わらせて今連絡を入れた、というところかもしれない。どちらにせよお疲れ様です。
スマホをノートパソコンにつないで通信環境を整え、真中長官宛てに会議チャットのIDとパスをレインで送信。しばらくすると真中長官が出てきた。
「やあ安村さん、超過勤務ご苦労様」
「それはお互い様なのでは? まあ、とりあえず今からみんな呼んで話し合いを始めようというところですよ。まだ誰も呼びよせていない段階なので俺と芽生さんしか今は居ませんが」
「私から直接口を出すことはないと思うので、どちらかがチャットで話してる内容を補完してくれるとありがたいね」
「なら私が書き起こし役をやります。カメラを外向きにするので会議の様子は見られると思います。それでいいですか? 」
芽生さんが文字書きおこしをやってくれるらしい。居てくれて助かった、流石相棒、たよりになるぅ。
「カメラは……これで見えてますかね? 」
「見えてるよー。まだ誰も居ないけど机の上にお菓子やら何やらが並んでいるのが見える」
「じゃあセッティングと角度は良い感じですね。じゃあ洋一さん、みんなを呼んでもらえますか」
俺が声をかければみんなが来ると思い込んでいるらしい芽生さんが俺に全ての権限を振る。
「とりあえずリーン、来てくれるか? 」
「はいなの」
リーンがまず転移してきた。続いて、まだ呼んでも居ないのにセノとネアレスまで来た。
「事情は大体承知しておる。第三回会談の始まり、というわけじゃな」
セノが仰々しく言うが、猫の姿のままでは説得力がない。
「おぉ、セノさん。会談ではお世話になりました」
真中長官がカメラ越しに頭を下げて礼を言っている。
「気にすることはない。我らが願って叶えてもらったのじゃから礼を言うのはむしろこちらのほうだと思っておる」
芽生さんがカタカタカタっとキーボードを打って、セノの喋った内容をざっくり翻訳で書き込んでいる。文面に問題は……なさそうだな。
「ネアレスも後で呼ぼうと思ったんだが、もう来てくれたのか」
「機材を色々と持ち込みだしたので、話し合いでも始めるのかと思いまして。もしかして、あの子たちも呼んできた方がいいですか? 」
「そうしてくれると助かる。俺はまだ出会ったことがないし、顔を合わせるだけでもしておきたい」
「ちょっと人見知りな所がありますが、ダンジョンマスターとしてはそこそこやれるとは思いますし、今日まで出来る限りのことは教え込んできたので大丈夫だとは思います。呼んできますね」
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