1266:グリフォンへの対応
相談しながら月刊探索ライフの料理欄を見ている間に七十層に到着。リヤカーをその辺にぽいっと置くと、早速午前中の活動に入り始める。車を出して二人で乗り込んで七十一層側の階段まで一気に走り抜ける。
「しかし、月面を車で運転する機会が来るとは探索者を始める時は考えたこともなかったな」
「まず、車でダンジョンを走るって行為自体に色々と問題がありますからねえ。納入するにも階段を下りるにしても、道中でモンスターに絡まれるにしても。その点は保管庫に感謝ですねえ」
歩けば二十分から三十分かかる距離を数分で走り切り、車を保管庫に戻して七十一層の階段を下りて、すぐにエンカウントするサメを焼き払って空中でうまくドロップ品をキャッチ。そのまま保管庫に仕舞うと、今日の目的の内の一つであるグリフォン探しを始める。
「グリフォンに新技が効くかどうか試したいからな。今日のところは圧切じゃなくて柄を使う」
「ということは五重化してまた何か新しいことを思いついたってところですか」
「そんなところ。実際に効くかどうかは解らんが試してみないことには解らんからな。後、発動は遅いが確実に今までの雷魔法よりも威力が上がった技も作ったんでそれもご披露する」
柄を伸ばして戦闘状態にしてから雷槌に変化させるまでの時間を考えて、雷切は出しっぱなしのほうがいいだろう。一日出しっぱなしでも疲れるようなことはないぐらいまで持久力は高めているので、雷槌と雷龍がどこまで俺の魔力保有量を削ってくれるかがまだわからない所だな。
「ではそれを楽しみにしつつ、午前中グルグルと回りましょう。モンスターの多そうなところに出かけるとしますかねえ」
芽生さんの先導でモンスターの多そうな方向(芽生さん曰く)へ向かう。俺の索敵では解らない範囲なので芽生さん任せだ。そして、芽生さんの言う通りそれなりの密度で湧いているであろう方向へ向かっているのは確からしい。芽生さんは【索敵】の多重化によりモンスターの探知範囲より明らかに広い探知範囲を持っているので見つけるのも戦闘に入る心構えをするのもこっちが先に出来ている。
機先を制すというのは割と重要なことで、後ろなら後ろ、前なら前、横なら横から来ると身構えているだけで相手よりもワンテンポ先に攻撃に向けての準備ができるということになるので技の溜めやイメージングのための時間を稼ぐことができるので一手までとは言わずとも半手先を見越すことが可能になる。
それだけの時間的余裕があれば相手が戦闘距離に入るまでにこっちの発動が十分間に合うことになり、相手が二匹になろうと仮に三匹出てきたとしても、それだけちょっと余裕が生まれることに大きな意味がある。
「つぎ、十時方向二匹来ます」
「早速新技を試すか。うまくあたるかどうかは解らんが試すだけの価値はある」
雷龍をパッとイメージしてそのまま撃ち出す。雷の龍が高速でエイに向かっていき、絶賛急降下中のエイにあたり、そのままエイは龍の形に体をくりぬかれるように焼け落ちて空中で黒い粒子に還る。もう一匹は……芽生さんがいつもの混合魔法でエイを撃墜していた。どうやら四重化のおかげでスピードがさらに上がったらしい。最初に出会った時みたいにヒラヒラと避けられながらまるで当たらない、という形にはならなかった模様。
「よし、スピードあがった! これでエイとサメには苦労しませんねお互い」
「威力は充分か。後はグリフォンにどれだけ効果があるかだけチェックしないとだめだな。そういえばグリフォンにはまともに雷撃を当てた覚えがない。翼を撃ち落としたことは何度もあるが頭や爪を狙って全体にどれだけダメージがあるのか、そういうのも考えてないといけないからな」
ドロップ品を回収して次へ。グリフォンまだかなあ。楽しみなんだけどなあ。次に出てくるエイも同じようにして倒すと、続いてサメの出番。ここは雷槌の出番だな。雷切を伸ばし、先にハンマーのような突起物を取り付けるイメージを持たせる。
「それが新技ですか? 雷のハンマー」
「サメを殴りつけるにはこれぐらいのほうがちょうどいいんだ。殴った感触は雷切とそう変わらないけど……さあ来たぞ」
サメが地面スレスレを攻撃機から発射された対艦魚雷のように真っ直ぐ突っ込んでくる。タイミングを合わせてサメの鼻っ面に思いきりぶち当てる。サメはそのショックと雷槌から伝播される雷撃のショックによってその力を失い地面を転がりながら黒い粒子に還っていく。二匹目のサメも雷槌でそのまま殴りつけ、黒い粒子に還っていく。
確実に倒せる方法があることは良い事だ。手間取って時間を取られるよりはドロップ品を範囲収納で拾える位置辺りにうまく勢いを抑え込められればそれがベストということにはなる。
「ドロップ品がちょっと転がるのは難点ですね。ポーションが出て転がってる間に割れたりしたら大変な損失ですよ」
「そこはまあ……後で考えよう。出た瞬間を見計らって収納することだってできるはずだし、うまいこと調節して行けるようになるまでが練習だ」
「私としてはサメで威力確認したいところなので次に出たらこっちへ回してください……と、次も多分サメ二匹ですね。片方貰います」
次の標的がもう見えているらしい。流石索敵二重化だな。芽生さんが指さす方向を目にすると、小さく優雅に空を泳いでいるサメが見える。そしてその奥にグリフォンの姿も見えている。サメは前哨戦で本番はグリフォンだな。しっかり本番での成果を出せるように頑張ろう。
サメ二匹の片方は雷龍でさっさと撃破し、芽生さんの威力を気にかける。いざとなったら食い付かれる前に全力雷撃で焼けるように配慮しながら芽生さんとサメの対峙を見守る。芽生さんは大口を開けたサメの口の中にスプラッシュハンマーをぶち込み、内部からサメを切り刻み始めた。体の内部を切り刻まされたサメはその場でスピードを落とし、踊り狂うようにその場で苦しみながら、サメの内部から黒い粒子が漏れ出していく。少しして、黒い粒子に還っていった。
「成功ですか。大口開けてしかけてくるからダメなんですよ。そこにぶち込んでくれと言わんばかりですから」
口の内部からズタズタにするというスプラッタが見られないのは黒い粒子のおかげなんだろうが、なかなかエグイ方法でサメ相手の解決方法を見つけたらしい。こっちはサメが暴れて死ぬまでに時間が少しかかるのでその間にサメも減速し、ドロップ品が散らばることもない安心仕様である。
「さて……問題のグリフォンだが、雷龍を頭にぶつけてどこまでダメージが出てくれるか、それのチェックだな。上手くいけばスタンしてそのまま地面に落ちてくれるはずだ。そうなれば後はこっちのやり放題になる」
「五重化いいですねえ。六重化はしないんですか」
「おっと、その話はまだだったな。六重化に関してネタを教えてもらったからお昼ご飯の時にでも話そう」
グリフォンのほうへ歩いていき、グリフォンがこちらを認識する。一目散に俺に向かってきたグリフォンの頭部に雷龍一発。グリフォンはそのままバレルロールをするように回転しながらこっちの手前まで転がってきた。ぴくぴくとしている辺り、全身に雷撃が回っている様子。このまま雷槌の試しもさせてもらおう。
グリフォンの頭部に向かって雷槌を叩きこむと、そのままグリフォンは黒い粒子へ還った。こっちの使うコストは高く、最上位の近接攻撃と遠距離攻撃を叩きこむことになったが、無傷で無力化に成功することが出来た。どうやら、俺が望んでいる範囲のダメージは与えられているらしい。
「ふむ……手数とコストはかかるが何とかなったな」
「ですね。最初の雷龍だけ任せて、いつも通り私が止めを刺す、でも問題はなさそうですし、良い感じじゃないんですかね」
「この調子でどんどん狩ろう。七十二層でグリフォン二匹出てきても片方を完全無力化できるなら後はやり様はある」
◇◆◇◆◇◆◇
そのまましばらくグリフォンを探しながら午前中の探索を終了し、お昼ご飯を食べに七十層へ戻る。帰りの階段の上でもサメはきっちり階段の真上に湧き、帰ってくるのを待ってくれていた。ただいまサメ君、そしてさようなら。
階段を上がったところで昼食のカレーを食べ始める。今日も出来は……具材が細かい以外はいい出来だな。ほとんどカレールゥのおかげではあるが、おいしく食べられるということはまだ疲れ切っていないということでもある。食材たちに感謝をしつつカレーをパクつく。
「そういえば、六重化がどうのと言ってましたよね。何か解ったんですか? 」
「うん、五重化までは問題なくスキルを重ねていいらしいんだけど、この間六つ目の【雷魔法】を購入して覚えようとしたら途中でキャンセルされたんだよ」
「ということはお金の払い損ですか。ちゃんと購入したパーティーにはお金は渡ったんですよね? 」
「扱えなかったのは俺の問題だからな。途中で光るのが止まって五重化のままだったとしても、売却した彼らに責任はないからそのまま支払ったし、無事にスキルは取得された、ということにしておいた」
その後、ネアレスに聞いて六重化が出来なかった原因について説明してもらったことを伝える。
「なるほど、いわゆる熟練度ですか。じゃあ、強い攻撃手段を二つも新しく作ってそれぞれ試してたのはそういう理由だったんですねえ」
「うむ……六千万の出費はあったが、ちゃんと俺の経験値としては記録されたし、真中長官にも六重化は無理でした、とだけ伝えておいたので変に暴騰したりはしないはずだ。むしろ、上限みたいなものが出来上がったことでスキルオーブの価格インフレは抑え気味になるかもしれない、と考えている」
「それには噂を広めないといけないですね。多重化には限界があるっていう噂を」
「さすがにあのパーティーだけで噂が広がるってことはないだろうから、他人の振りしてスレッドにでも書きこんでみるか? 専用スレが確かあったはずだなっと」
スマホが使えるのでここからでもスレッドの内容を確認できる。良い環境だなここも。
「食事中ですよ。食べ終わってからゆっくり見ましょう」
「そうするか。いくら保管庫に入れてきたとはいえ冷めちゃうしな」
食事に集中することになった。謎ドレッシングは今日も活躍してくれている……と、謎ドレッシングの買い足しメモったっけな? これも食べ終えたら確認しておこう。
「謎ドレッシング、追いがけしていいですか」
「そこでちょうど切らしてるんだ。買い足しには行くけどまた今度だな。それまではごまだれかフレンチドレッシングで我慢してくれ」
「じゃあごまだれで」
ごまだれを渡すとたっぷりかけてサラダをもきゅもきゅしている芽生さん。平和でいいなあ。後はこの肌寒さがなければ最高なんだけど。その点で言えば二十一層や四十二層の環境は非常に良かった。六十三層もなんだかんだで広さがない分ほんのりした温かさすら感じられたかもしれない。ここは……空気を独占するには広すぎる。
食事を済ませたところで専用スレの様子を覗く。どうやら多重化の話は広まってないようで、ダンジョンに対してスキルオーブの出ている数が少なすぎると文句が出ている程度にはスキルオーブの価格競争と取得レースが過熱しているようだ。
他のスレッドも単語検索して多重化に関する話を見ると、清州ダンジョンスレに書き込みがあるのを見つけた。どうやらあのパーティー、律義にスキルオーブ取得が途中でキャンセルされて消えてしまうことってあるん? 初めて見たけど多重化にも限界があるってことなんだろうか、的な内容を書き込み、その後で専用スレに誘導されている。ということは専用スレにそれっぽい書き込みがあるはずだな。
確認したところ、俺に該当するような内容の書き込みを見つけることが出来た。ただ、向こうもこっちも何重化されているかが解らない上に上限までいくら重ねればいいのか判断に困る、ということでスレッド内では一応上限がある、ということで結論を出し終えていた。これならこれ以上何かしなくても安心だな。
「取引相手のパーティーが噂好きでよかったですね。これで無茶をして二つ重ねないと多重化は意味を持たないとか、そういう無理なスキルオーブ使用がオファー価格の上昇が抑えられるといいんですが」
「まあ、スキルオーブの高騰自体はそこまで悪いことじゃないんだよな。その分稼げばいいんだし。それに五重化して六重以上は無理だったよ、って実際に書き込み始める奴が増えてきたら熱は冷めていくさ……念のため書き込んでおくか。『多分その人じゃないけど俺もそう。六重化以上はどうやら効果がないらしい』っと」
「これで皆が五重化までは大丈夫なんだって思ってさらに過熱したらどうします? 」
「過熱してもスキルオーブは出る量は時間とダンジョンの数で決まってしまうからな。そんなに心配しなくてもいいんじゃないかな」
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





