1264:ダンジョン誘致調整会議 三回目
side:ダンジョン庁外務省国交省ダンジョン誘致対策会議
「……というわけで、現状で日本のダンジョンマスターとしては五名のダンジョンマスターが現在フリーとなっております。今回は最終的な五ヶ所の明確な候補地の選定が目的になりました。現在安村氏の庭のダンジョンに出向いているリーン氏とセノ氏、安村氏と接触しているネアレス氏に関しては情報がありますが、残りの二名に関しては情報が不明瞭な点が多々あります。そこについてどう判断するか、という問題は残っています。全員顔をそろえて出来るかどうかはさておき、録画状態にして安村氏とのやり取りをとっておき、それを再度この会議で披露して皆さんの意見を仰いで最終決定という形にしたいと思っています」
今日は会議に参加している多田野がメインになって司会役を務めている。今日は今までにダンジョン候補地として上げられてきた場所に関して最終調整を行うという形になっている。
「残り二名の名前については判明しているのか? 何事も顔合わせから始めないといけないからな」
久多良が現状確認のために横槍を入れる。
「一応、安村氏経由で連絡が取れるようにはなるとは思いますが、安村氏の反応を考えるに、安村氏自身もまだ顔合わせが済んでいないような感じがあります。よほどの人嫌いなのかそれとも恥ずかしがり屋なのかは解りませんが、ネアレス氏が面倒を見ている形になっている、とのことです」
「つまり、次に安村さん達と会議する際には顔出ししてくれるって認識で良いのかな」
「おそらくは。次回安村氏と打ち合わせする際に教えてくれる形になっているとは思いますが、どんなダンジョンマスターなのかという点に関してはまだ不明ということですね。ただ、わざわざこっちまで来てダンジョンマスターをしてくれるということですから、やる気はそれなりにあるものだと思ってよさそうです」
続いて小林から現状報告が始まる。主に現在まで来ているダンジョン関連の外交ルートからの苦情処理などが彼の仕事だ。
「外務省に外交ルートからダンジョンマスターの引き抜きについての苦情は今のところ来ていません。まだバレてない……というところでしょうかね。この先はどうなるかは解りませんが、来た段階で連絡を入れる予定にはなります。今のところは黙っておいていい、ということでいいんですよね? 」
「まあ、わざわざこっちからダンジョンマスターもらいましたと声を上げて挑発する理由はないからな。そっちに情報が届いてないってことは今のところ水面下での交渉という段階で進んでいるということになっているんだろう。漏れてる可能性があるなら該当地域からの苦情は飛んでくるだろうからいまのところ問題はない、ということだろう」
「そうなると思います。なので現状維持が出来てる間にとっとと進めたいところですね」
ここまで黙っていた真中が口を出し始める。
「拙速は巧遅に勝るとはいえ、せっかくお出迎えしたんだからできるだけいい条件をそろえてそこに誘致するというのはこちらからの礼儀というものだよね。最初に決めた三ヵ所はいいとして、残り二ヶ所か。どこがいいだろうね」
「一般企業から出てきた案もそろってきたからな。そっちから一つ選んでみるのもアリじゃないか? この潰れた遊園地跡なんかは交通アクセスは間違いなく良いんだし、需要の再呼び起こしとしては問題ないともいえるが」
「そこかあ。特急が止まるようになるかどうかがネックになりそうなんだよね。そこまで考えて案として浮上してきたかが問題かな。一つ手前の特急停車駅で乗り換えて普通電車で来ることになるのか、それとも何処かの駅から直通列車が運行されるとかそういうのは……それはこちらで考えることではないか。運営まで会社に任せるわけではないんだし、我々としては確実な人口流入が見込める場所であればそれを良しとする考えで行くわけだから、いざ作ってみてもダイヤが改正されずに……ではそこにこだわる理由としてはちょっと薄くなるかな」
書類をペラペラと空中で振りながら真中が話し出す。バブル期前後に建設された各地の遊園地から、採算が取れずに営業終了したものの、再開発するには場所が悪すぎるとして用地だけそのまま残り、遊園地部分が撤去され広大な空き地になっている地方の遊園地跡地についての話題が持ち上がっている。遊園地を運営していたのが鉄道会社だったため、駅を再開すれば人の集まりは確実に増えることは目に見えているが、果たしてそううまくいくかという部分こそ残るものの、広大な駐車場の確保の点では条件をクリアしている。
遊園地跡という意味ではもう一件あり、最寄りの駅からは徒歩二十分というところだが、こちらも再開発が行われていない地点であり、周辺に目立った企業の職場や住宅地などもないことと、土地の権利を遊園地を開発していた会社が不良債権として握りしめ続けていたため、これを機に土地を手放しダンジョンとして有効活用してみないか? という話である。具体的な譲渡金額やもしダンジョン庁が土地を借り受ける形で運営する場合、ギルド税からいくらかずつ土地の使用料として企業側に支払い、企業としても塩漬けの土地から塩の代金が取れるとなれば今まで抱え込んできた赤字部分の解消に役立つのではないか、ということで今回立候補したという流れだ。
「しかし、こう色々眺めて調べてみると、何処の自治体や企業も苦労の跡が見えるね。バブル期にあった遊園地の跡はほとんど再開発されて住宅や企業誘致、新しいイベントパークなんかに変貌しているところも数多いというのに」
「各地に遊園地やら団地やらニュータウン計画やらが立ち上がってた頃はイケイケどんどんだったからな。バスも列車も本数があったし、それだけの集客が見込めたんだろう。だが今となっては……という場所が結構ある。ニュータウンで半廃墟化してしまっているところも、作った当時は良かったが高齢化が進んで出かける人も少なくなってその分バスもダイヤの削減が激しくなり……という所だろう。ダンジョンのおかげでバスの本数も増えて通勤する自動車も増え、その需要を見越した店が近くに来てくれればニュータウンの人の少なさもある程度は許容できる範囲に収まるのではないか? という見方が出ている。ニュータウンだけじゃなく、団地なんかもそうだな。一区画が完全に死んでいるところにダンジョンが立てば、団地の中に職場もできることになる。これ以上なく交通アクセスに便利な職場が出来上がるとなれば、多少作りが古くても部屋をリフォームすれば耐震問題もクリアしてるし……という場所は結構ある。選びたい放題とまではいかないが、条件を絞ってこれだけまだあるんだ。ここから贅沢な奴を五つ選べってことだな」
久多良が自分の領分とばかりに長々しく説明を終えたところで、真剣に五ヶ所を決める時間に入る。
「人が充分に集まる、というのが第一条件だ。だから地方というよりは大都市圏でそこそこ交通の便がいい所、というのが選定条件としてまず当てはまる。前も言ったかもしれないが交通の便は最優先だ。その上で、周辺にある程度施設が揃っているところは好条件だと考えていい。その点ではニュータウンやショッピングモールの跡地なんかはかなり上位に入ってくることになるだろう。そこにオープンした時は人が集まっていた、という話になるからな。遊園地はどっちかというとそれを目当てに人が集まってくる、もしくは企業側の選定でここに駅を作るので駅への利用者を増やすために遊園地を作ったり……という場所がある。現在まで遊園地や観光地として運用されているのは企業努力の賜物ってところだろうな」
「やはり大阪圏、中京圏、関東圏でそれぞれ一つは確定か。関東圏には二つあってもいいな。そうなると……外国人旅行客のインバウンドで儲かっているところはまず除外だな。これ以上混みあうと余計な問題が出かねない。便利だけどちょっと現状は不便、でも改善の見込み有り、ってあたりがベターな選択と言えるのかな」
「とりあえずこことここ、この二ヶ所は確定だ。どちらもショッピングモール跡地で太い国道が走ってて駐車場もある。駅からも近い」
「企業からの申し込みも念頭に入れるべきだよね。せっかく応募してくれて来たんだし一件は通したい。多少人口密集地からは外れることになるけど、車で一時間走れば到着するって具合を考えると悪くないな」
「こっちはどうです? 新幹線駅が近くにあって、停車駅としての役割を担うためにホテルも数が揃っています。車でも通えますし店が出来るかどうかは今後に期待ってところですが」
今日の話し合いで五ヶ所の選定は決まることになるだろう。それ以外の場所については申し訳ないが今回は御縁がなかったということで、次回のダンジョン候補地として書類を溜めこむことにはなりそうではあるが、今のところ踏破予定のダンジョンはない。
「とりあえず、各自で順位を決めることにしようか。その順位にポイントをつけてポイントの多いほうから順番にダンジョン候補地として選定していくってのでどうだろう」
真中が一つ提案をする。お互いにガヤガヤ言い合いをするより効率的だろうということらしい。
「ランキング形式か、それぞれの視点で決めていいってことだよな。じゃあ俺の視点から色々と決めさせてもらおう」
久多良はその提案に乗った。国交省の意向もあることだし、上から目をかけてやって欲しい場所、という指示も受けてはいるが、その通りに全てが絡むとは限らないからどこまで踏み込めるか解りませんよ? というワンクッションは置いてきてあるので、自分の好きなランキングをつけられることのメリットは大きい。何より、そのほうが少し楽しそうである、という実感もあった。
「ランキングですか……僕の視点だと真中さんに近い目線になってしまう気がするんですがそれは良いんですかね? 上からは何も言われてないのでどうやって決めたんだ? って話になった場合に説明しやすいのは助かる所ですが」
「なあに。深く考えずにここにダンジョンが出来たら面白そうって順番をつければいいだけだ。世間的にここにダンジョンを作りたいと思うような場所を適当に選べばいい。最終的な責任を取るのは真中だからな。あくまで俺達はこっちの視点でそこがどう映るかの参考意見を出すだけの話だったのがちょっと踏み入った話が出来てる分だけ有り難いと思っておこうぜ」
「そんな軽い感じでいいんですか……じゃあ、何とかやってみます」
三十分ほどお互い独り言を言いつつ、真中は多田野と相談しながらここはこう、そこはそれ、と言った感じでランキングを作り上げていく。久多良は最初からどの順番でネタを仕込んでいくかは決めていたようで、早々と順番を決めた後は小林と真中が色々やっている様を眺めていた。
「では、発表していこうか。私のランキングの順番はこうだ」
「俺はこうだな」
「僕はこうです」
三者三様の理由を話しながら、それぞれの場所についての解説、説明、ダンジョンを作る意図、ダンジョンが出来た後の予想などを公表していく。やはり小林だけ若干自信なさげな解説だが、それでも一定の説得力を持っているだけのものはあった。
「では、その順番で決着した、ということで安村氏には伝えておきます。後は彼から、誰がどのダンジョンを担当するかを各ダンジョンマスターに説明していってもらう、という流れで良いですか? 」
「出来れば我々も同席したいところだが、集まってこの日に発表会、というかたちにはできないもんかな」
「頼めばやってくれるかもしれません。そこも含めてお伝えしたほうがいいでしょうね」
多田野は安村へのアポイントメントを取りつける準備をし始めた。ようやくこれで第二段階、ダンジョン候補地の選定が終わった、ということになる。後は各ダンジョンマスターがダンジョンを作り上げて、その場所へ赴いてもらい実際にダンジョンを作る作業に従事してもらう、ということになるだろう。
「ところで、今は何層ぐらいまで出来てるんだろうな、その新しい仕組みのダンジョンって奴は」
「どうだろうね。その辺はダンジョンマスター次第と言うところなんだろうけど、私が言った通りトレジャーダンジョンだと嬉しいね。たまに宝箱がヒュンと現れて、中身が出たら消えていくような奴がいいね」
「トラップとかはないのか? ダンジョン物ではよくあるだろうに」
「トラップを解除しないと進めないダンジョンという点ではありがちだろうけど、彼らは魔素を持ち帰ってもらうことが目的だからね。わざわざそれを難航させるような仕組みは作らないと思うよ。宝箱がミミックで、倒せばより上位のアイテムが手に入る……なんてことになるならまた別だろうけど」
「なるほどな」
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