1262:自己鍛錬 2
七十層に着いた。リヤカーを適当に設置してすぐさま六十九層に上がる。六十九層に上がったところでは奇襲される心配はないのでいい。問題はこの後だな。モンスターを目視確認してから索敵の範囲に入るような形で対峙できればできるだけ一対一の状態でモンスターの相手を出来るようにしていかないとな。
早速一匹目のサメが視界に入る。早速トールハンマーの威力を試させてもらおう。ついでに籠手のほうの防御力調査も兼ねよう。もしもトールハンマーの威力が予想ほどのダメージを与えられない場合、サメはそのまま俺に噛みつきに来るはずだ。その時籠手で噛みつきを御し得るかどうか、それでもってこの防具の性能試験と、この階層ではダメージと衣服の損傷がイコールであることがハッキリするだろう。
サメが索敵の範囲内に入り、こっちへ向かって一直線に飛んでくる。サメは非アクティブ状態では自由に空を優雅に飛んでいるが、こっちを目標に定めると地面スレスレまで高度を下げて突進をしてくる。その突進に対してどこまで耐えきることができるか。そして迎撃する雷の槌……トールハンマーは何処まで威力を担保してくれるのか。
サメとの衝突に備えて雷切を長く、そして先端部分をハンマーのように少し横長く、そして雷切自身の長さも伸ばす。出来るだけ長くして、イメージ……よし、固まった。三メートルほどの長さのハンマーが出来上がった。
サメとの距離はどんどん狭まってくる。サメは一直線に俺に食らいつこうと口を大きく開けてこちらへ迫る。気分は野球のバッターだ。サメという巨大なフォーシームを相手に、こっちは雷で出来たハンマーで殴りつけようという構図だ。
良い感じに距離が狭まってきたところで、全力でサメの側面を殴りつける。インパクトの瞬間の重さはない。やはりスウィングには腰が大事。サメはそのままトールハンマーの形に体がえぐれたまま勢いに任せて後ろへ滑り流れてていく。全身にも雷ダメージが入っているらしく、その場でぴくぴくと痙攣を始めた。追いついて頭の上からもう一度トールハンマーで殴りつける。トールハンマーで頭部を破壊されたサメはそのまま黒い粒子へ還っていく。
とりあえずダメージはそれなりに出たことは分かった。しかし、二手必要ということは出力がまだ足りないという証拠でもある。もっと威力を高めていくイメージが必要だな。もしかしたら見た目のイメージに左右され過ぎていて出力自体は雷切とそう変わってない可能性がある。雷のイメージ密度をあげればいいのか、硬さをイメージして殴ったほうがいいのか。これはちょっと何回か殴らせてもらって分析が必要だな。
とりあえず魔結晶とフカヒレを回収して次のモンスターへ。次はエイが二匹。ほぼ直上方向から襲われるため、雷切及びトールハンマー……雷槌の出番はない。ここは遠距離から雷撃で対応させてもらおう。全力雷撃の上位、手持ち現状最大火力である白雷を撃ち放つ。流石に白雷の威力にはエイの高めの耐久力も相手にならないのか、そのまま一発で黒い粒子になっていく。二発目の白雷もヒットし、二匹のエイを無事に倒すことが出来た。ドロップは忘れず回収する。
しかし、白雷はいうなれば四重化した際のイメージの最大部分である。五重化に対しての最大雷撃ではない。白雷を使い続けるだけでも、現状困るケースは対グリフォンだけ考えればいいだろう。しかし、俺が欲しいのはその先の強さだ。白雷よりも強いイメージ……昨日考えた雷の龍。アレを実践化してみるか。
イメージを作り出すのに時間が必要だな。あの時のイメージをもう一度思い出す。中身のある、頭からしっぽまで雷魔法による魔素で作られた雷龍。……よし、試し撃ちをしてみるか。
何も居ない方向へ向かって雷の龍を発射する。発動即着弾という形ではないが、かなりのスピードで腕からイメージされた龍の形をした雷が放射される。
打ち切ってしばらく余韻を保った後、さっきの発動について自己分析を始める。
見た目、ヨシ。
撃った後の気持ちよさ、ヨシ。
魔力の消費量、多分上、ヨシ。
実際の威力……解らず。
次に出会ったモンスターでもう一度試し撃ちだな。そこで火力のほどを確認してみよう。一発で落ちてくれるなら確実に白雷と同レベルかそれ以上の威力をもたらしてくれているはずだ。
早速次のモンスターを探し始めると、索敵範囲に入った瞬間向こうからやってくる二匹のサメ。サメ一匹をまずは白雷で撃ち落とし、遠いところで静かになっていてもらう。その間に雷の龍をイメージ……撃つ。
綺麗な龍がサメをくりぬくように通り抜けていき、サメはその場で黒い粒子に変わった。そしてサメの勢いそのままに魔結晶がころころと地面に滑り込んでくる。とりあえず白雷と同等以上のレベルの威力ではあるらしい。発動即着弾とまではいかないものの、充分な速度を有したそれはおそらくエイであっても回避することは難しいだろうというのが今の発射で解った。遠くでお亡くなりになったサメのドロップ品も拾うと、次の獲物を探す。
無理しない範囲で調節しながら色々と考え、悩み、そして確実に一撃で倒せるようにしていこう。まずは雷の龍……雷龍からだな。技の名前は短いに限る。そのほうが想像までの時間も短縮出来て良い。
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しばらく雷龍の試運転をしながらサメとエイとの追いかけっこをしていた所で昼の時間になる。雷龍を重点的に撃ち、威力の大小はともかく、一撃で倒せるようにはなった。これは本番で芽生さんが居るときに雷龍の試し撃ちをして、グリフォンにどこまでダメージを与えられるかのテストをしないと合格ラインまでにはたどり着けないだろうな。
七十層に戻り、椅子と机を出して食事。今日はサンドイッチにホットコーヒー。思ったほど動き回らなかったのでそれほどエネルギーを消耗しているという感覚はない。おそらく今日一日ずっとこんな感じだろう。午後からはエイに対しては雷龍、サメに対しては雷槌という形で対応していこうと思う。
うまくスウィングできるかどうかと、一発で昇天させられることができるかどうかが合否の基準だ。午後のサメの打ちっぱなしではうまく稼働してくれることを祈ろう。その為にも食事をしっかりとって、ドライフルーツも噛んでしっかりと魔力を回復しておく。昼休憩の間に午前中使った体内魔素を全回復に近い形で持っていければ、午後はあまり休憩を挟まずに戦い続けることができるだろうと睨んでいる。
サンドイッチも最近作る時は非常に手間のかからない焼き肉系が一品、サラダで一品、後は卵かツナで一品とお決まりの品数とラインナップになっている。悪いとは思わないが、たまには一風変わったサンドイッチなんかを挟み込んでみるのもいいかもしれないな。生姜焼きと一緒にキノコを挟んでみるとか、そういう小さなことから始めていくか。
ホットコーヒーで、さっきまで温まっていて食事する間にクールダウンしている身体を再び温め直す。体が冷えると色々動きに制限が出るからな。いくら動き回っているとはいえ出来るだけ万全の態勢で挑みたい階層ではある。
そういえば、籠手の防御力調査を忘れていたな。サメとエイ、どっちのほうが強そうかと言えばサメのほうなので、エイに噛みつかせる形でちょっと試してみるとしよう。それにあのサメなら腕ごと持っていかれる可能性もある。その場合は緊急事態だからヒールポーションのランク5を消費することになるだろうからできるだけやりたくない。ヒールポーション一本の値段を考えたら、まだスーツを破られる方が安上がりなぐらいだ。
そう考えるとわざわざ防御力調査をやる意味はあんまりないのではないか? よし、防御力調査の項目はなしにしておこう。こっちの服装はあくまで緊急時にボディを傷つけられないようにするための服装だ。籠手も、もしスーツがまたビリビリになったら……という場合のための緊急武装でもある。緊急時に上手く動いてくれることを祈ってそのままつけ続けていることにしよう。
さて……胃袋は満たされた。体もコーヒーで温まった。少し休んだら続きをしよう。午前中にはエイとサメを合わせて……三十五匹。ポーションも一本手に入れた。収入としてはそこそこ悪くないラインである。フカヒレも数枚手に入れたし今後の査定に備えてため込んでおくことにしよう。
全身のストレッチをして準備を念入りに行った後、再び六十九層へ足を踏み入れる。またサメからだな。最初に出会うサメをサッと見切りのような形でギリギリで回避すると、その口の中へ雷槌で一発殴りつける。口の中から焼き切られたサメはそのまま黒い粒子へ還る。今回は一発でいけたな。イメージが固まってきている証拠だろう。そのまま次のエイ二匹を雷龍で焼き切ると、午前中通った道と同じような道筋を通ってモンスターを探しに行く。
エイが一匹の時は雷槌の試しどころだ。上から急降下してくるエイの噛みつきを避け、ひらりとその場でホバリングするように舞い上がったエイの頭を雷槌で殴りつける。一発目では昏倒、二発目で撃破。二発かかるとは、まだまだ練り込みが足りないらしい。黒い粒子ではなく、光子に分解するような熱血さとイメージが大事なんだろうか。耐久力が比較的高めのエイはまだ雷槌一発で倒せたパターンがない。
これではグリフォンを一撃で倒すのはもっと難しいだろう。イメージトレーニングと実際の動きへの流れを考えながら、次の獲物を探す。
サメが一匹で襲ってきたので雷槌一閃、一発で倒すことが出来た。こっちは徐々に安定して一発で倒せるようになってきた感じだな。もっと、もっと出力をあげなければいけない。
ポーションが出てうれしいものの、今は金になるかどうかよりも自分の強さのほうが気になる。気を抜かず一つ一つこなしていこう。スキルの火力はまだ足りてないと考えるべきだな。もっと確実に一撃で何でも昏倒させられるように努力を続けよう。
◇◆◇◆◇◆◇
引き続き雷龍と雷槌を使ってサメとエイをそれぞれ倒していく。ポーションは結構落ちている。やはりここのポーションドロップ率は高いらしい。百匹倒す間に三本ぐらいは出るぐらいの確率だろう。だとしたら次の七十三階層からは新しいポーションが出る、という可能性が高い。順番からすればヒールポーションのランク6ってところか。順番通りなら一本一億七千五百万ほどになるはずだ。高額もいいところだな。
まあ次の階層が出来上がるまでどうなるかは解らないんだ、焦ってもミルコが作り出すまではどうしようもないのだ。それまでに階段を探していつ次を作ってくれても構わないぞ、という姿勢を見せておくことは大事だろう。
っと、そろそろ危ないかもしれないな。ドライフルーツを一気に三枚噛んで念のための魔力補充をしておく。いざ打つ時に魔力切れでこっちがふらついてる間にたどり着かれてダメージ、というのは避けたいからな。
これで数分は持つはずだ。回復力がどの程度上がっているかは解らないが、何となく魔力の総量みたいなものは見え始めたし、体内総魔力がどのぐらい減ってきたか、というのも体感できるようになってきた。眩暈が来たら残り二割ってところだろう。今は四割弱ぐらいの魔力残量と言える。これなら自然回復に任せつつ無理に回ろうとしなければ充分六十九層を回っていられるだけの魔力量を保持できている。
おっと、次のサメが現れた。ちょっと試し切りで雷切の最大出力をお見舞いしてやることにしよう。サメの動きは素早いが単調だ。こっちへ全力で噛みついてくるので、噛みつくであろうポイントを予知してそこを避ける。そしてすれ違いざまに長く太く硬くした俺の雷切でズズズ……と切り刻んでいく。
どうやら雷切のほうの火力を上げることにも成功しているようだ。そのままサメは切れていき、切断面を残しながらもサメはかろうじてまだ生きている。全力雷撃で止めを刺し、ドロップを拾う。雷切の出力は確かに上がっている気がする。これが四重化で出来ていたのか五重化の効果なのかはまだわからないが、重ねた分の効果は確実に出ていると考えていいだろう。
さて、近距離のダメージレートについてはもう一声欲しい所だな。一日二日で達成できるとは思ってはいないが、今日はそれなりに収穫のある戦いが出来ている。今後に活かしていけるように更なる鍛錬が必要だな。
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