126:苦戦、再び
三分に一回ぐらいのペースでワイルドボアかジャイアントアントとこんにちは、死ね! する。
前にキュアポーション落としたときは何時間ぐらいかかったかな。ジャイアントアントの魔結晶はなんだかんだで三十個ほど溜まっているのでそろそろじゃないかなと当たりをつける。できれば二人分欲しいなぁ。ワイルドボアの革と肉も溜まってきた。
ここまでの戦果をザクッと計算して一人頭五万円ってところか。朝からの時給にすると少ないが、実際に戦ってる時間が一時間ぐらいなのでもう二時間もここに留まれば最高記録を更新できそうではあるな。
「肉祭りが出来そうなぐらいドロップが出てるな」
「ボア肉祭りですか。中華屋持ってって満漢全席ですか」
「まぁ、この一時間でその量だからな。もう二時間ほど頑張って狩りに勤しむか」
「おー」
まだサクサク進む。サクサク進みながらアリとイノシシもサクサク狩る。二人とも狩りなれた体でもって少数同士の戦いなら後れを取らないようになった。一対二になっても酸を出してこない限りは戦える。
さて、時間的にそろそろ階段が見えてきてもいい頃合いだが。
「あれじゃないですか? 十層への階段」
地図に描いてある階段の位置と見比べる。……歩いた距離から見て確かにこの辺だな。
「かな。しかし若干わかりにくいな」
「地図は間違ってなかったということで」
「写し間違えてなくてよかったな」
九層を後にして、十層の様子を見に行く事にする。十層はどんな風になっているかな。十層も九層と同じ森マップのはずだから大きく違いはしないだろう。十層の地図には十一層への階段は描かれているが、ここも同じく森を大きく迂回しての移動ルートが描かれていて、森の中央には何があるかよく解っていない。
十層へ降り立つと、やはり目の前に鬱蒼とした森が広がる。ここも断崖絶壁に囲まれたマップのようだ。さて、九層との違いはどこに出てくるだろう。
聴覚をステータスブーストさせてみる。すると……あ、これやばい量だ。解るだけでも五十匹以上の大群が聞こえる範囲に居る。
「ちょっと十層はやばいかもしれん」
「何? 」
「聴覚ブーストしてみ」
「ちょっと待ってね……何これ」
どうやら多数の足音を聞き取ったらしい文月さんが若干引き気味になる。
「多分全部モンスター」
「うじゃうじゃいるんだけど」
「十層どうする? さすがに二人で回るには多すぎる量だぞ」
「六層のカラスとどっちが多いですかね」
確かにそうだが攻撃手段も十層のほうが上だ。単純に数で比較するものではない。
「とりあえず少し動いて、襲ってくる量を確かめよう。それからでも遅くはないと思う」
聴覚はさっきより出力を抑えて、こっちから攻撃できる範囲にとどめる。すると明らかにキャパオーバーを予想される数の足音がこちらに近づいてくるのが解った。
「来たぞ、十匹以上! 」
「ヤバくないですか! 」
「全力ださないとここでゲームオーバーだな。全力でかかるぞ」
ひとまず前からくる五匹全部に合わせてゴブリンソードを射出し、一撃で葬り去っていく。先頭から五匹は一発で倒せた。学びを得た。これは強い。消えたその場にドロップと共にゴブリンソードがカランと音を立てて落ちる。
続いて出てくる六匹にパチンコ玉を打ち込む。眉間に当たった三匹は速度を落とし、目に当たった三匹は軌道を逸らす。手負いの残り三匹のうち二匹は文月さんに任せよう、目に当たった三匹を確実に処理していかねば。手前の一匹に近づき頭をカチ割り、黒い粒子に還す。
と、更に後ろのジャイアントアントから酸が飛んできた。勢いよく空中へジャンプしつつ縦方向に回転しながら何とか躱す。しかし、その空中の俺を目掛けて別のジャイアントアントが酸を飛ばしてきた。
全身に受けるのは避けたい。回転速度を調節し右手で酸を受ける。熱い、痛い。手袋したままだが手袋の内側に酸が入り込んだらしい。しかし、今ポーションをかけて治している暇がない。この痛さはしばらくお預けだ。痛みを我慢しながら手前の一匹を処理する。
無傷の二匹との戦闘が終わった文月さんも残敵処理を手伝ってくれて、ものの二分ほどの戦闘だったが、密度の高い戦闘だった。
「こんななの十層」
「当初見込みより数が多いな……まだ来るぞ」
しかし後から何匹かまだ来るらしい。これはステータスフル稼働だな。やはり十層はまだ早かったか。お代わりの五匹が来ていた。そのまま継続して戦闘対応する。ゴブリンソードの在庫はもう無い。五匹に中玉を狙いをつけて速度を更に上昇させて当てる。
真っ直ぐ飛んで行った中玉は音速を超え、シュゥンという音を立てながらジャイアントアントに向かう。頭を貫通して後頭部側で止まったようだ。ジャイアントアントはそのまま黒い粒子に返還されていった。
更にお代わりで来た四匹中二匹は中玉だけで処理し、残りの二匹を近接戦で倒す。これだけでも結構楽が出来るが出費が痛いな。今後はできるだけ有効に使っていこう。
「ふー、思った以上に一気に来たな」
「右手大丈夫ですか」
「ヒールポーションで治ってくれるかな……と」
保管庫からヒールポーションをかけると、ただれた皮膚にかけていく。ついでにちょっと口からも飲む。こんな味だったのかヒールポーション。すると、見る見るうちに熱さが引いていき、お肌もきれいになっていく。
他人が使っているところを見たことはあるが、自分で使ってみてわかるこの凄さ。これは鬼ころしで一万五千円で売られてても文句言えないわ。そして間もなく空腹感が俺を襲い始める。
カロリーバーを齧ると、手袋と手首に水をかけて酸を洗い流す。手袋をはめなおして……うん、もう残ってないようだな。痛くない。
「大丈夫だったらしい。すげーなヒールポーション。味も効果も」
「ならよかった。これで右手が使えないとかだったらどうしようかと」
「お、心配してくれてるの? 」
「だってここから上まで一人で脱出する自信ないもん」
自分の脱出が第一か。この状況だとそれでも仕方ないか。
「別に右手が使えなくても戦闘できなくなるわけじゃないから……」
「でも、パチンコ玉で同時接触数を減らしていくのは必要な戦法ですね」
「今後これで多少楽していくか。在庫はあるわけだし」
あらかじめ大量に買い込んでおいたおかげで、私のカバンの中身には若干の射出の余裕があるのだ。
「あと、倉庫の肥やしになってたゴブリンソードも出番が出来て良かったですね」
「でも十層でこいつを使うのはさすがにもったいなかったかな。確殺できるのは良いが、拾いに行くのが大変だ」
「パチンコ玉なら問題ないんですか? 」
「パチンコ玉はつぶれたパチンコ店から大量に売り出されたりして市場に結構流れてるから安いんだけどな。ちなみにゴブリンソードは原価はタダで壊れるまで何回でも使える。中玉はお値段が高い」
「回収できるジャイアントアントの命の価値は? 」
「だいたい八百円。中玉の半額以下だ、割に合わん」
ドロップ品と共にゴブリンソードと中玉を拾う。お前らはきちんと回収していくからな。労多くして功少なしでは困る。使った資金以上に儲けを出さなければ。
「最近ちょっと浮ついてたかもしれないですね。こんなに一杯来ると苦戦します」
「緊張感が足りなかったかもしれないな。ダンジョンに気軽に深入りしすぎたと感じてるよ」
「ギリギリの戦闘をしたのは久しぶりな気がする」
思えば、九層でも苦戦らしい苦戦はしなかった。一対一での戦力値を考えると、こちらのほうが大分上回っていると考えていい。ただ数でそれを補われるとどうしようもないという事だな。
「保管庫スキルが無かったら多分どこかのタイミングで噛みつかれて全身バラバラになって死んでたな。生きててよかった」
「九層に戻るか、今無理して後の苦労を先取りするか、さぁどっちにしましょうか」
「九層に戻るほうに一票」
「じゃぁ二票で」
考えることは同じようだ。
「今すぐ無理に突破して十一層に行くわけでもないですし。九層で経験を積んで、なんなら森の中に一歩踏み込んで体を慣らしてから行くのでも遅くないと思います」
「同感だ。稼ぎとしては悪くないが、スキルに使われてる感があってどうも気に入らない。中玉ぶっ放してりゃ確かに楽に勝てる相手だが」
「それだと、スキルと安村さんどっちが主か解りませんもんね」
確かに。あくまで主は俺でありたい。
「そういう事。このスキルはあくまで行動を便利にする物であってスキルに頼って狩るのは趣味じゃない」
「じゃ、九層に戻って汗かいて働きますか」
「そうしよう。いずれ勝てるようになるさ。ソードゴブリンだってそうだった。今回だってきっと同じだ」
九層でもっと経験を積もう。一対三、一対四。徐々に体を慣らしていくのが一番だ。地道に行こう。そういえば、さっきのはダンジョンへ来て初めての怪我だったような気がする。今まで良く被弾無しで来れたな。
◇◆◇◆◇◆◇
九層に戻ると、今度はさっきと違う道を行く。つまり、九層を一周するような感じで八層に帰還することになる。今までと同じ方向に意識を向けていればいいので、戦い方もさっきの延長上だ。
三匹セットでどんどんジャイアントアントのお代わりがくるようになった。どうやらダンジョンが気をきかせてくれているらしい。一対二でお互いに戦い方を学んでいく。ネックは二匹目にあたるジャイアントアントが酸を吐いてきた場合どう対処するか、という点だ。おそらくここさえ何とかしてしまえば十層攻略の見込みがぐっと増えるんだが。
「しかし、あれですね。さっきの量が常に襲ってくるような環境で一時間戦った場合どのくらいの収入になったんでしょうかね」
「分速六匹ってとこか。体力が持つかどうかわからんが、時給三十万以上じゃないか?」
ざっと頭の中で計算してみる。戦闘範囲内の敵に完全に対応できるならここは最高に美味しい狩場だ。
「CランクやBランクの人はそのぐらい儲けられるって事なんですかね」
「でも結局ダンジョン上下する時間がかかるからな。そこを見込むと専属ポーターが必要になってくるだろうし、七層と十四層両方にキャンプを張る必要が出てくるだろ?その維持費用なんかも考えなきゃいけなくなってくるな」
「ですね、確かに実際に戦う探索者以外にも必要になってきますね」
この場合、ポーターは俺が兼ねてるから問題ないな。
「更に潜り続けるなら頻繁に換金できないから財務を担当する人も必要になってくる。消耗品補充なんかもそうだな」
「会社興して経営って感じになってくるんでしょうか」
「おそらく、そのほうが効率的に出来ると思う」
「そこまでやる気、あります? 」
「今のところ先行きは不透明であります」
正直、ダンジョンを潜るために会社を興して経営しようなんてことまでは考えていない。何れはそうなるかもしれないし、会社に入ることだってもしかすると考えられる。そうなったら俺は完全なポーター扱いになるだろうな。これ以上に便利なポーターなんて思い浮かばないし。
「まぁ、そんな先の話をすると鬼が笑いそうだな。大学卒業したらダンジョン関連の会社に就職のつもりでもあるのか? 」
「それも手ですね。今が株式会社「私」みたいなもんですから練習と思えばちょうどいいかもしれません」
「会社興すならその時は雇ってもらおうかな」
役職について他人に指示をする……という意識は自分の中にはない。あくまで一兵卒として仕事をこなしたいと思っている。
「鬼が笑いますよ? 」
「今のうちに笑わせておけばいいんだよ、いずれ鬼殺しに行くんだし」
「まだ鬼が笑ってそう」
一対二での戦いに集中しよう。酸はダメージがでかい。これはステータスでは耐えられそうにない。別にステータスという膜を被っているわけではないので、ステータスの力で酸を跳ね返すことは出来ない。これは食らわないのが一番だな。うっかり目にでも入ったらヒールポーションでは治らないかもしれない。
文月さんから声が上がる。
「ねえ、この紫色の液体の入った物体は」
「多分キュアポーションだな、おめでとう二万円」
「やった、山分けしても一万円」
「八層側の階段付近まで戻ってもう一本出るのを願うか」
「そうしましょー」
元気が出てきたようだ。落ち込んでるよりはマシだ、前向きに行こう。九層を八層へ向かって歩き始めた。また左方向に警戒しながら道を進む。道中ワイルドボアやジャイアントアントがパラパラと出てくる。
ワイルドボアは距離が近すぎるせいでせっかくの突進が威力を無くしており、一方的にボコられる展開になっている。ここでは完全に美味しい敵だな。モリモリとボア肉とボア魔結晶が荷物として増えてくる。
通路化している山際を一周している格好になるので、他に巡っているパーティーが居なければモンスターはそこまで少なくないはずだ。風景があまり変わらないので同じところをグルグル回り続けているような感覚に陥るが、ちゃんと進んでいる。現に後ろには自分たちの踏み抜いた草の跡がついている。
清州の九層でもそうだったが、人が歩いた跡みたいなものがあちこちで見受けられる。多分小寺さんたちも、それ以外の人たちも同じ道を通ったのだろう。人がすでに踏み入って探索が進んでいる証拠というのはこういう部分からでも見つけることが出来た。
一度は他人が通った道ということでなんとなく安心感を得られる。九層に居られる時間はざっくり計算して後一時間半ぐらいか。しっかりと戦い方を学んでいこう。
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