120:カウンセリングと目標再確認
六層をどんどん進んでいく。ステータスのおかげで周りの速度も上がり、前は四十五分ほどかかっていた工程を三十分で進み切ってしまった。相変わらずダーククロウだけはスルーしたが。
何日かぶりの清州ダンジョン七層に着いた。相変わらず屋台が軒を連ね、屋台の中には営業中の店もあれば仕入れ中の店もある。仕入れ中の店のテントが無事であるのは治安の良さと自治からくるものだろう。お互い飯のタネをつぶし合わないという協調路線なんだろう。
自治とは名ばかりの義理と人情を欠く奴はボコるという警察即呼び案件だが、警察もこの七層に常駐している。その警察がある程度見て見ぬふりをするという事は、そういう事なんだろう。
新浜さんたちはテントを立てっぱなしのまま地上に戻っていたらしく、テントの前には離席中の張り出しが出してあった。平和だ。
持ってきた荷物を早速整理し始める新浜パーティー。手慣れたもので、食品とそれ以外の物をさっと分けると休憩のためのコーヒーを沸かし始めた。
宿泊をする準備も居場所も無く尻の落ち着けどころがない俺はとりあえずその辺に腰を下ろし、さっき気になったことを考え始める。
パーティーの中でステータスを扱える人と扱えない人の間で亀裂が入ってしまったら。それは俺のせいになるのか?
ステータスは俺が開発したものではない。これはドロップ確定と同じで、すでにあった物を可視化させた結果物だ。なので、俺が可視化させなくても誰かがすでに可視化させたであろうし、もしかしたら一部では意図的に使っているのが当たり前なのかもしれないし、気づかずに偶然使っているのかもしれない。
「どうしたんですか安村さん」
「いや、人に教えてみて気づいたんですが、ステータスとうまく付き合っていける人と付き合っていけない人、いつかそこに溝が出来るんじゃないか。それは俺のせいになるのかなって」
「それは、安村さん以外に誰も答えを出せない命題だと思います。なので安村さんの中で折り合いの良いところを探せばいいんですよ」
断言されてしまった。
「はっきりと言いますね。根拠はありますか? 」
「ステータスは言ってみれば自然現象、でしょう? たとえば雷が苦手な人が雷を苦手じゃなくなるかどうかは個人次第です。周りの人がどうにか説得したり仕組みを解明したところで、苦手な人は苦手のまま克服できないんです。そこはもう個人の能力とか性格とか、他人ではどうにもできない部分なんです。ステータスもそれと同じだと考えれば、安村さんの不安は解消されますか? 」
「ちょっと楽になった気がします」
「で、その安村さんの不安自身も、自然現象と同じで我々では本来どうにもできない部分なんです」
俺にどうにもできない領分か。それは確かにどうしようもないな。スライムのドロップ確定と同じで自然現象みたいなもの……か。
「じゃぁ、俺が気にしない! と心から思えればそれは解消される。ただそれだけだ、と」
「断言するのは避けますが、そういう事だと思っておけば楽になると思いますよ」
そうか、これは俺自身が勝手に抱えている俺の不安なのか。たとえこの件で傷つく人が出るとしても、いつか他の誰かが同じ考えを持って公開しなかった可能性もあるのか。それがたまたま俺の番だった、と。
「……よし、納得できた」
「どのように、納得したんです? 」
「なるようになれ」
「それでいいと思いますよ」
新浜さんはにっこり笑って答える。この人のリーダーとしての資質はこういう所にもあるんだな。
「新浜さんがリーダーをやってる理由、一つ解りましたよ」
「急に何ですか、照れるじゃないですか」
「たったこれだけの会話で、私の不安を解消してくれました。ありがとうございます」
「お役に立ったなら何よりです。ステータスを教えてくれたお礼の一つぐらいにはなりましたかね。とりあえずコーヒーをどうぞ」
「いただきます」
コーヒーを飲んで落ち着く。これ以上不安がってもしょうがない。どうしようもない。賽は投げられた。ルビコン川はもう渡った後だ。後はなるようになれ。良い言葉だ、俺の心の詩集に加えておこう。
「この話、どうやって広めましょうかねぇ」
「スレに書き込んで反応を見るのじゃ、多分誰も信じないでしょうね」
「まぁ、スピリチュアル満載ですからね。ダンジョンを神の恩寵として崇める新興宗教と思われるのが関の山でしょうね」
「ここはこの私に任せてください。横のつながりはソコソコありますし、ダンジョン攻略に行き詰ってるパーティーをいくつか知ってます。まずはそこから攻めて、徐々に彼らの活躍から広めていってもらうんです」
「そういう手段が取れるんじゃないかと思って打ち明けたところもあったりはします」
下心のありようを素直に吐露する。
「中々の目の付け所の良さですね。さすが安村さんだ……ところで」
「なんです? 」
「例のバニラバーの騒ぎ、安村さんが一枚噛んでたりはしませんよね? 」
「そう誤解されるんですよ。潮干狩りの機会が減って私も被害者の側ですよ」
「潮干狩り好きですねぇ」
「こう、心が落ち着くんですよ。スライムと己と向き合っていられるというか」
心が落ち着くのは嘘じゃない。四層でもそうなりつつあるけど。
コーヒーを飲みながら官用テントを見る。何処から見てもわかるその大きさは、小西ダンジョンに足りない物の一つだ。
「そういえば、小西の七層に目印を立てようと考えてます。個人的に、です。あそこは余りに何もなさすぎて地図をわざわざ見ないと階段すら見つけられないようなところですから」
「その内行ってみようかなとは思っていますが、今何があるんです? 」
「個人用のテントが数個、置いてあるだけですね。公共施設も屋台も何もかもありません」
「それは荒野に新しく村を作ろうとしているようなものですね」
村とまでは行かないが、キャンプ跡地みたいなものは存在してほしい。
「まぁ、荒野そのものであることは否定できないんですが」
「じゃぁ、ポールとか大き目のテントとか立てるんですか」
「まずは大きめのテントみたいなものを建てて、そこと階段の中間にポールを立てられたらいいな、と思ってます。一回潜って全部持っていくのは物理的に難しいですからね。何日かに分けて運ぼうと思います」
「盗まれたりしませんか」
「まず、盗む人を探すところからですね」
俺はバッグから地図を取り出す。小西ダンジョンと清州ダンジョンの地図はバッグにそのまま入れてあるので保管庫を使う必要もない。
「これが、小西ダンジョンの六、七、八、九層の地図です」
「これは……地図? 」
俺も同じ感想だ。これは地図と呼べる代物じゃない。落書きだ落書き。宝探しでももう少しマシなものを用意するだろう。
「地図らしいですよ、ギルド曰く」
「この地図でよく七層まで行けましたね」
「まぁ、要点だけは押さえてあるので……」
「これを埋めるのは……楽しそうですね」
「えぇ、それも楽しみの一つです」
「まずは何処の地図から行きますか」
新浜さんがいたずらっぽい笑みを浮かべながら俺に尋ねてくる。答えは七層からだ。
「七層の地図にテントとポールを書き足すところからでしょうね」
「九層以降はどうなさるんですか」
「九層から十層までの道ぐらいは作れるといいなと思ってます。距離を測れるともっといいのですが」
「そこまで本格的にやるにはギルドの手助けを要求するべきでしょうね」
「それが出来るほど小西ダンジョンは儲かってないですからねえ。戦闘しつつ徒歩何分とか、そんな感じで自分の地図を完成させていきたいなと思います」
自分だけの地図、それはそれで面白そうだ。
「楽しそうでいいですねえ。私も小西に少しだけ興味が湧いてきましたよ」
「人が居ない事を除けば、ほどほどに人が居なくていい感じですよ。四層以降は狩り放題です」
「六層はやっぱりワイルドボアとダーククロウ多いんですか」
「多いですね。理由は解りませんが」
何で六層はあんなにモンスターが多いのか。セーフエリアの手前には関門でも用意されてるのか。そもそもなんでセーフエリアがあるのかという疑問はこの際置いておく。
「もしかして十三層でも同じような事態になっているんでしょうかね。今のところ十層までしか攻略許可が下りていないので、地図を作っても十層までなんですが」
「そういえばDランクでしたね。噂ですが、Cランクになるには一定額以上ダンジョン税を取られる事だと聞いたことがあります」
「じゃあ、張り切ってモンスター狩りしないといけませんね」
「一日いくら稼いだことがあります? 」
唐突に懐事情を聞かれた。それもランクアップに関係あるんだろうか。
「十万円前後ですね。前にご一緒した時のドロップの時がたしかそのぐらいでした」
「そうですね……九層のドロップをメインで査定にかけるようにしてみてください。それと、地図を更新させること。そして、できるだけ多い金額の査定を受けてください。この三点を押さえておけば、早めにCランクへ上がることが出来ると思います」
「それは経験上の法則ですか、それとも内部情報ですか」
「ネタ元は明かせませんがそういう昇級基準があるという噂です」
「噂ですか……信じて励んでみますか」
「それが良いと思います」
目標を一つ再確認出来た。Cランクを目指す。そしてオーク肉を持ち帰って喰う。そのために作業とも言える行為を繰り返す。同じ行為をひたすらに続けるのは嫌いじゃない。
九層、十層の地図はそのついでに作っていくことにするか。もし方向感覚を失わないなら、森の中心に何があるのかを探すのも面白そうじゃないか。
「方針は決まったかな。後はやるだけか」
「やる気が出てきたようで何よりです」
「そうと決まったら帰ります。やりたいことの準備しなきゃ」
「道中お気をつけて。と言っても、あんなもの見せられた後では安心しかないですが」
「ありがとうございます。じゃ、また」
現在時刻は午後二時。カロリーバーを頬張ると水で流し込み、胃袋の調子を整える。帰り道は一人だから四時間ぐらいかかるだろうか。落ち着いて対処して、走る所は走れば時間短縮できるな。
六階層を速足で駆け抜ける。ダーククロウはこの際無視だ。向かってくるワイルドボアだけ相手することにする。八匹ぐらいがリンクしたが、順番に黒い粒子に変えていく。そろそろグラディウス曲がったりしないよな。もし曲がってるなら買い替えも視野にいれるか。早めに上がってもう一回鬼ころしへ行くか。武器のメンテナンスも必要だろう。
四十分ほどで五層側の階段にたどり着いた。ワイルドボアの襲撃は二回で済んだ。ここは数が多すぎる。通り抜けられるときはさっさと通り抜けるに限る。やはり、モンスターに見つけられてこちらが待ち構えるより、こっちから探しに出かけるほうが圧倒的に楽だ。とっとと四層に戻ろう。
五層では三回ほどワイルドボアに絡まれた。ダーククロウは周りを見回して、人が居ないときだけバードショット弾で撃ち落とすスタイルにした。おかげで少量の羽根と魔結晶を手に入れた。ただ通り抜けるだけで済むよりは実入りがあるだけ嬉しい。
三十分ほど戦闘をこなしながら歩く。戦闘の面倒くささよりも、今後何をしていくか明確にできただけ気分は明るい。鼻歌交じりでワイルドボアを切り刻んでいく。切り刻まれるほうは堪ったものではないだろうが、俺の前に出てきたほうが悪い。さぁ美味しいお肉になってもらいましょうね~。
軽快に五層を抜けると四層に上がった。さて、残り時間は四時間といったところか。一時間また四層で狩りをして、その後戻って帰るか。思ったより早い帰還になりそうだな。
そういえば今日は休みだった。休みを満喫できているかと言えば、できているんだろう。悩みも解決したし、考えていた手段も講じることが出来た。後はなんとでもなれ、だな。その後、四層を高速で周りゴブリンの大虐殺が繰り広げられたことは省略する。
四層は俺ともう二パーティーぐらいしかいなかったらしく、清州としては珍しく空いていたと言えるだろう。つまり狩り放題だった。広い分死角が多くリポップも早いのだろう、下手に小西ダンジョンに潜るよりも多くのドロップが確保できた。
一時間ほど四層で過ごし、そこから真っ直ぐ出入り口を目指した。やはり三層までは混んでいるらしく、道すがらに出会うモンスターはほとんど居なかった。各階層を三十分ほどで駆け足で移動し、出入り口にまでたどり着く。俺も体力ついたもんだな。
退ダン手続きをし、ギルドの建物のほうへ移動する。今日もドロップはぎっしりだ。しかもダーククロウをほとんど狩らなかったため、バッグの嵩の低い狩りを行うことが出来た。幾らになるか楽しみだな。
ちょっと早めに帰還したからか、前に比べて査定の列は短いように感じられる。ものの五分ぐらいで査定の順番が来た。査定カウンターにドロップ品を出すが例によってボア肉は一つだけ確保しておく。
五分ほど待つだけで査定が終わった。十一万五千円ほどの収入だ。二時間四層でひたすら狩りに勤しんだ成果だな。毎日このペースで狩りが出来れば万々歳なんだが。
車に戻ると、もう一度鬼ころしへ行く。グラディウスの調子を見てもらうためだ。店に着くなり武器カウンターへ直行する。買い足すものは今のところないはずだ。
「すいません、ちょっと武器の調子を見てもらいたいのですが」
「解りました。まずは出してもらっていいですか?」
グラディウスをそのまま見せる。
「曲がってたり芯に無理が来てないかどうか確かめて頂きたくて」
「う~ん、ちょっとお待ちくださいね」
担当している店員はグルグルと回してみたり、刃の筋を見たり、反りが付いていないかどうかを確認している。
「少し曲がりつつありますが、問題ないと思います。念のため刃先を研いでおきますか? 五千円ほどかかりますけど」
「それでお願いします。使い物にならない状態でダンジョンに取り残されるのはごめんですから」
「解りました。十分少々お待ちください」
その十分の間に二階を見て回る。なんと、偶然バニラバーが入荷しているようだ。探索者達が殺到している。一人一箱までの限定販売だが、みんな限界まで買っていくようで、あっという間になくなってしまった。鬼ころしでバニラバーが入荷されるのは予想外だ。三勢食品が一番需要のある所に新規開拓した結果なのだろうか。頑張っているようで何よりだ。
商品を見て回っていると、オーク肉の角煮が売られていた。一パック三千円もする。これは美味しそうではあるが、俺はオーク肉は自分で取りに行くまで口にしないと硬く心に決めた。なのでオアズケだ。どんな味なんだろうと心が躍るが、ここは我慢だ。
時間を潰し終わったので武器カウンターへグラディウスを取りに行く。五千円を払うと、俺の手元に相棒が戻ってきた。確かに、綺麗に研いでくれている。見た感じ刃先から根元にかけて湾曲している様子はない。丁寧な仕事だ。
「ありがとうございました」
「いえ、また不安があったらぜひお越しください。いつでも調整を行いますので」
結局グラディウスの研ぎ代支出を含めて今日の収入は約十一万円という事になった。戦っていた時間にしては高額な収入を得られたと思う。今日の収入は七層に立てるポールとテントの代金に消えるだろう。だが、楽しみのためにはそのぐらいの出費は想定の内だ。
車を飛ばして自宅に帰る。名古屋サーキットの運転にも慣れてきた。サッサと抜けて家に帰ろう。っと、その前に夕食の準備だな。今日は何を食おうか。家に帰る前になじみのスーパーによると、鶏の唐揚げと総菜と餃子の出来合いを買い、パックの調理済みサラダを購入、それとトマトジュースを箱で買う。栄養バランスはこれで取れてるだろう、多分。
家に着くと夕食を取り、ニュースを眺める。どうやらギルドは、これからスライム魔結晶とスライムゼリーの査定方法を重さで計算するように決めたらしい。全国一律の反映だそうなので、他所の地方からは怨嗟の声と紛糾が上がっていただろう。良く納得させたな、と感心する。ギルドはギルドでやるべきことをちゃんとやったようだ。これでスライム狩りも一区切りついてくれればいいんだが。
徐々に眠気が体を支配してきた。考える事も一杯あったし、無心で体を動かしていたからか、体が睡眠を欲している。こういう時は早めに寝るに限る。食器の洗い物とツナギの洗濯、それから保管庫の中身の細々としたものの整理をすると寝る事にする。お休み、良い夢を。
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