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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二章:出来ればおじさんは目立ちたくない

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119:訓練続行とステータスのデメリット

 

 新浜パーティーについていく事になった。


 時間はまだまだあるし、急ぎ足で帰ることも出来る。うっかり朝まで入り浸らないように時間だけはチェックしておこう。


 新しい技? を身に付けた新浜パーティーはその使い心地を試しながらの戦闘を行っている。最初に慣れたらしい平田さんと新浜さんはブーストをかけながらゴブリンとの対話をしているようで、ちょっと目を離したすきに一匹二匹とかなりの速さで屠っていく。


「背中の荷物が軽く感じます。これもステータスブーストの効果ですかね」

「そうかもしれません。ダンジョン出ると効果が切れてしまうようなので一気に重さを感じるんですけどね」

「ダンジョン内限定なんですかこれ。ダンジョン外でも効果があればいいのに」

「まだよく解ってないんですよ。もしかしたらダンジョン外でも使えるのかもしれませんが」


 ダンジョン外で使えるとなったら、探索者はみんなアスリートになってしまうかもしれないな。俺の速さでも百メートル十秒台を走り切ってしまえるぐらいだ。より体を慣らすことが出来る人たちならば世界記録すら上回れるだろう。


「脳のスイッチを入れるって感覚がまだつかないけど、切り替えは出来るようになってきたかな」

「火事場の馬鹿力を垂れ流してるイメージでやればいいんだろうと思いますよ」

「なるほど……」

「ゴブリン相手に武器を持つ必要性が無くなってきたな」

「さすがにソードゴブリン相手にする時は無いと不安じゃないですかね」

「武器や防具にもこれって適用されたりします? 」


 多分適用されてないと思う。実際に使っている装備にはちょっとずつだがガタがき始めている。


「体感した範囲では無理みたいです」

「なるほど、そうすると皮膚の上に直接強化外骨格をまとってるようなものか」

「これは歩いてモンスターを探す時間を短縮するのにも効果ありますな」

「速足か駆け足で移動してもあまり疲れないみたいですね」

「ただ、お腹が空くってのは解る気がします。こう、胃のあたりが寂しくなってくるというか」


 段々慣れてきたのか、思い思いの方法をゴブリンにぶつけては四散させていく。ステータスブーストの実験場と化した四層を見事な速さでグルグル回る六人の集団。もし同じ階層で戦ってる人が居たら早くどっか他所へ行ってくれないかなとか思ってそうである。


 ヒールポーション確保のために四層を回っていたはずだが、ヒールポーションは既に四本ドロップしている。これは新しいおもちゃをもらって細かい事を忘れた子供みたいになってるな。


「七層行くの忘れてません? 」

「あ」

「やっぱり忘れてましたね。気持ちは解りますが」

「よし、ポーションも確保したことだし五層へ向かおう」


 新浜さんの一言で全体が我に返る。全員忘れていたらしい。俺が付いてきていてよかった。


「時間取った分ちょっと駆け足でいくか。一番慣れてない人のペースに合わせよう」


 どうやら横田さんが一番慣れていないらしく、上手く体を動かしきれていない。それでも普通に駆け足で行くよりも幾分か早いスピードで五層側の階段へ向かう。


「このペースなら六層までは四時間かからずに来れそうな感じですわ」

「その分七層以降で狩りをする時間が増える。良いことだらけだな」

「でも、カロリーを使ってるんでしょ? 持ち込む食事が増えそうですね」

「持ち込む食事が多少増えても中で調達する分を考えたらそこまでの量にはならないと思うよ」

「その辺安村さんはどうやって工面してるんですか? 」

「私はほら、歳も歳ですから、それなりにため込んだ分があるのでそれで補填してます」


 と、腹の肉を少し摘まんで見せる。そういえば摘める量も減った気がするな。ダンジョンダイエットがちょっとずつ上手くいっている証拠だ。


「カーボローディングという方法もあるか。入る前日にあらかじめ多めに食べておくという」

「後はちょくちょく休憩を入れてカロリーバー齧るぐらいでなんとか持ちますよ」

「カロリーバーと言えば、鬼ころしで件のバニラ風味が入荷するという話があるらしいですわ」

「新規開拓する余裕はあるんだなぁ三勢食品」


 この状況下で新規開拓するのは簡単だろうが、製品を卸せるかどうかは別問題だ。中々の挑戦だなぁ。


「今大変なことになっとるらしいですわ。機械止めずに生産しっぱなしでそれでも間に合わんとか」

「おかげで三層まで探索者で大渋滞か。一番儲けているのは誰なんだろうね」

「三層まで余計な時間取られずに真っ直ぐ抜けて四層か六層でモンスター狩りが出来る人かな」

「つまり、我々もおいしく稼げるのでは? 」


 道中のゴブリンとソードゴブリンを軽くいなしつつ素早く移動する一団。お互いが一対一で対応できるため、一戦闘にかかる時間が三十秒ほどで済んでいる。これは早い。数は力だな。


「耐久力試すならやっぱりワイルドボアがいいかな」

「突進に耐えきれるかどうかですか? ちょっと怖いな」

「まぁヒールポーションあるしある程度は行けるんじゃないかな」

「って事はアレですか、前に六層来た時にワイルドボアの突進受け止めてたのは」


 平田さんが思い出したようにつぶやく。


「えぇ、耐えれる事が確認済みだったので」

「ズルいなぁ。もっと早く教えてくれれば良かったのに」

「あの時は何にも考えてなかったんですよ。あれから少し思う事があって」


 五層の階段に着き、休憩をはさんで五層へ降りる。やっぱりそれなりに清州には人が居るな。六層へ向かう人がちらほら見える。


「この力の使い方を教えてくれた理由、聞いてみていいですか」

「この力を隠匿したとして、何か得はあるのかなって。私の探索者ライフを組み立てたとして、誰より先へ向かうっての、そういうのを求めてないんですよ」

「あまり目立ちたくないと」

「自分のペースで自分のやりたいようにやるってのが私の基本方針でして。その場合自分より先に行ってくれる人が必要だなって、しかも大量に」


 ならばいっその事開示してしまって、自分と同じぐらいのペースで探索してる人に遥か先へ進んでもらったほうがマイペースで探索できて都合がいい。


「あ~、先行探索者って立場になっちゃうと、ゆっくりキャンプしたりスライム狩ったりする暇があったら周りに先に行けって言われそうですもんね」

「ええ、そうなんですよ。でも、私基本ソロか二人組ですし、探索者になりたてな事も有って知り合いってそんなに多くないんですよ。それこそ新浜さんたちぐらいしか」

「なるほど、我々に毒見役をしろという事ですね」


 新浜さんが聡くて助かる。頭の後ろをポリポリとかきながら、頭の中でどうするか考えているらしかった。


「悪い言い方をすればそうなります。でも、この毒は用法用量を守ればただの薬でしょう? 」

「我々に探索者の階級を上げていって、有名になってほしいと」


 さすがにそこまでは言わないが、より探索が進んでくれると俺の振る舞い様が変わってくる。


「そこまでは言いませんしそれを強制するつもりもありませんよ」

「でも、より高みを目指すには有用な力ですね」

「もしかしたら、先行探索者と呼ばれる人たちはみんな使っているんじゃないかと思います。ダンジョンが出来て三年も経つんですし、気づく人は気づいているだろうし使ってる人は使ってると思います。なぜ今まで表に出てこなかったのか不思議なぐらいです」


 実際、もっとステータスはあるんだ! という声が大きくてもおかしくはない。ピンチに陥ることはあるだろうし、その際に火事場の馬鹿力として発揮する事も有るだろう。それを気づきとして発展させるぐらいの応用力が無ければダンジョンでは通用しないのではないか。


 と、ワイルドボアが三匹現れた。平田さんが三匹に立ちはだかる。


「さて、防御力がどのくらい上がるのか試してみますわ」


 不動の姿勢を取ると平田さんは真正面からワイルドボアとぶつかり合う。プロレスで言う手四つに近い。ワイルドボアの牙をがっしり掴むとそのまま上に持ち上げる。


「できましたわ。体も問題ないです」


 そのまま地面に強く叩きつけると、ワイルドボアに拳をお見舞いする。ワイルドボアはその拳の威力で力尽きた。どうやら頭蓋骨を叩き割られたらしかった。


「お見事」

「へへ、どうも」


 残り二匹も平田さんが順番に処理していく。拳一つで立ちはだかるのはやはり迫力があるな。男としてちょっとかっこいい。


「ダーククロウはどう対処してるんです? 皆さん」

「降りてきたところを殴るぐらいしかないですね。後はフン落とされないように警戒する。ダーククロウには警戒範囲というか縄張り意識があるようなのでその範囲を刺激しない、というところでしょうか」


 大体俺の考察したのと同じか。と、ダーククロウがこっちへ急降下してくる。位置を予測してそこにグラディウスを置いておくと、自分から斬られに行った。羽根がパラパラと落ちる。拾っておこう。


「大体そんな感じですね」

「どうも」


 しかし、頭の上に居座られるのはどうも気に入らない。撃ち落としてしまいたいが、こっちは本気で隠したいスキルのほうなのでグッと我慢だ。


「これなら三十分もあれば六層へ行けそうですが……安村さんはどうします? 」

「七層をもう一度見てみたいところですね」

「じゃぁ七層まで、ずずずいっとどうぞ」

「ではずずずいっとついていく事にします」


 道中のモンスターはみんなが自分の能力を確かめる実験台として称させて進んで戦闘に参加していくため、正直見てるだけで終わってしまう。俺のやる事と言えば、フン警戒と降ってきたダーククロウの処理ぐらいだった。


 三十分ほどで六層の階段へたどり着く。ペースは速い。ワイルドボアとの戦闘時間が短縮されている分だけ早く着いたのもあるが、皆の歩くペースも加速している。


「四層からここ、休みなしですけど皆さん大丈夫なんですか? 」

「安村さんこそ大丈夫ですか、ずっとソロで狩りをしてたんでしょう」

「私はまぁ、疲労してる感じは無いですね。どちらかというと、慣れない力使ってる分そちらのほうが心配なのですが」

「じゃぁ、念のため小休止しますか」


 五分ほど、階段前で休んだ。その間にワイルドボアが一匹来たが、俺が処理しておく。グラディウスで突き刺し衝撃を受け止める姿をみんなにじっと見られながらだったので少し恥ずかしい。


「防御力を上げるとそのぐらいはへっちゃらって事ですか」

「まぁ、そうなりますね」

「次の階層で大いに役立ちそうですわ」

「食糧の余裕確保のためにもいっちょやりますか」

「よし、いこうか」


 階段を降り六層へ向かう。目標物である木と、その間にはワイルドボアの姿がちらちら見え隠れしている。ざっと数えて二十匹ぐらいはいるだろうか。全部がまとめてくることは無いだろうが、全部を相手にしないと前に進めないのは確かだろう。


 気を入れなおして前に進む。すると、パラパラとワイルドボアがこちらに向かって走りこんでくる。新浜パーティーはさすが統制が取れているのか、各々のターゲットを見定めると一匹ずつ確実に処理していく。相変わらず平田さんだけはぶん殴り返して黒い粒子に変換していっているが、攻撃に関しては物にしたんだろう。


 新浜さんは素早い動きのほうに重点を置いているようで、避けるときの緩急がすごい事になっている。ワイルドボアが視線を追いかける前に後ろに回って確実に止めをさしに行っている。この辺の動きは文月さんより上だと言える。さすがに歴戦なだけはある。どれだけ探索者生活してるかは知らないけれど。


 俺も負けていられないと、空きのある一匹に向けて突進し、そのまま突き刺し黒い粒子に還らせるとその奥に居るもう一匹にも連続で突進し頭から骨ごと断ち、ワイルドボアはお肉に変化した。


 さらに奥に見えるワイルドボアがリンクしてきたが遠すぎる。深追いせず一旦手前に引き寄せるために後ろへ下がる事にする。ドロップ拾いは後にしよう。


 周りを見るとワイルドボアの突進を受けきれなかったようだ。よこたくんふっとばされた! だが、上手く空中で態勢を整え、綺麗なバク中を決めながら着地する。ダメージはほぼないようだ。


「う~ん、うまくいかないな。なんかコツ有ります? 」

「地面の一部になるイメージで受け止めてみればどうです? 俺は岩! みたいな」

「なるほど……俺は岩! 」


 よこたくんふっとばされた! 今度は頭から落ちる。が、腕を使って跳ね上がると着地をうまく決めたらしく落下ダメージは無いようだ。念のためいつでもカバーできる位置に入る。


「大丈夫ですか」

「まだまだ! 」


 横田さんは諦めないらしい。怪我してるようじゃないなら良いか。改めて先ほどリンクしてきたワイルドボアに向き合う。突進に合わせて目の前まで加速し、当たる直前で横っ飛びして相手の側面に刃を滑らせる。前から後ろまで斬り目の入った後、更に追従加速してワイルドボアの背中にもう一度刃を突き立てる。力尽きたのか、黒い粒子に変わっていくワイルドボア。またお肉になった。


 お肉を拾いつつ、横田さんが吹っ飛ばされている様を見る。どうやら吹っ飛ばされるのに慣れたらしく、ボールのようにぽんぽん弾かれながらも、徐々にイメージの仕方を身に付けているらしかった。


 向き不向きがあるんだろうか、それとも妄想力の差なのか。人によってステータスブーストの習得の速さに差があることも解った。これは探索者をさらに選り分けてしまう力かもしれないな。うまくステータスと付き合える人と、付き合えない人。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに、漫画、アニメ、ラノベ文化に慣れ親しんだ日本人ならステータスの秘密に気付いてそうだし自らの先行利益の為に秘匿してる人間が一定数いそう。
[良い点] テンポ良い作品で、楽しく読ませてもらってます [一言] カ○リーメイトのバニラ味、現実に売ってることに気がつきました
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