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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二章:出来ればおじさんは目立ちたくない

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113/1325

113:精算と地図と飯と今後と。

 

 ギルドの建物に入る。人がいる。二十人ぐらいいるだろうか、今日も大盛況だったようだな。職員にはきつい仕事が割り振られているに違いない。


 早速査定カウンターに並ぶ。並ぶのは二回目ぐらいだ。これは早めに帰ってきてよかったのかもしれない。時間ギリギリに帰ってきて査定に時間がかかってバスに乗り遅れるよりははるかにマシだ。


 三十分ぐらいは覚悟しておかなきゃいけないな……ボーっとしていると俺の順番が来た。


「何層行かれました? 」

「四層と六層ですかね。七層見物に行ってきました」

「そうですか。じゃぁドロップ品のほうお願いします」


 じゃらじゃらと魔結晶を出し、バサバサとダーククロウの羽根を取り出す。ヒールポーションをそっと置き、ボア肉を取り出す。査定嬢は数が少なくてほっとしている。


「その様子だとまたスライム素材が多く納品されましたか」

「えぇ、いつになったら終わるんでしょうこの騒ぎ」

「さぁ……なんとも」

「急いで査定しますんで少々お待ちください」


 奥を覗くと二人がかりで数えている。まぁ、一人で何百個も査定するのは無理だと判断したんだろう。いつまで続くのかなこの状態。まぁ、今回は量り売りの査定品が多い。重さを量って値段を出して、と淡々と進み、五分ほどで終わったらしい。早かったな。よっぽどここ数日で鍛えられたんだろう。


「パーティー二人分割であってますか? 」

「えぇ、それでお願いします」


 一人あたり八万八千七百円になった。うん、中々の儲けだ。今日は新しい経験も得られたし、金も得られた。地図が未完成だったことも解った。そして、それは小西ダンジョンで七層以降に潜るときは地図を作りながら歩くことになるんじゃないかという事も解った。過疎ダンジョンってきついなぁ。


 文月さんに分け前のレシートを渡すと、支払いカウンターで念のため聞いておく。


「今最新の六層以降の地図ってありますか? 」

「今朝お買い上げになった地図と変わりませんよ? 」

「じゃぁ、八層と九層の地図があったらください」

「あるにはあるんですが……あまり参考にはならないと思います」


 苦い顔をして地図を持ってきてくれた。現在の小西ダンジョンの地図は五層までが全走破済み。六層は目印になる岩と木のみ記されている。そして七層は階段の位置関係のみ記されていた。


 八層の地図は木と岩と線。これは六層とあまり変わらないじゃないか。九層に至っては十層へ行く階段すら解ってないらしい。ほぼ白地図である。思わず言葉を失い立ち尽くす。


「……」

「どうしたんで……」


 横から覗きに来た文月さんも言葉を失う。


「私たち、よく七層から帰ってきましたね」

「そうだな、さすがにこれは厳しすぎると思う」


 これで一地図五百円は高い方だと正直思う。果たしてこれを埋める日は来るのだろうか。


「しばらく四層で活動するか」

「それが良さそうですね」


 うん、どうにかするのは無理そう。二人の心が一つに重なった。探索とは無謀に挑戦することではない。出来る範囲で出来ることをするのが探索だ。


「飯行くか。来る? 」

「いつもの中華屋ですか? 行きましょう」


 考えないことにした。迷わずに小西ダンジョンの七層に到着することが出来た。今はこの目標達成を喜ぶべきではないか。物事はプラスに考えていくべきだ、でないともったいないではないか。


「とりあえず七層を見れた祝いって事で」

「課題が山積みの中で祝いもどうかと思いますが、まぁいいです。とりあえずお腹を満たしましょう」


 ダンジョンを出て徒歩十五分、来るのは四回目か五回目か。なんだかんだで結構通ってるな。ダンジョン最寄りの中華屋へやってきた。表の看板を見ると「ワイルドボア肉在庫在ります」という半分殴り書きみたいな文字で書いてある。


 これは、仕込みが出来ているという事だろうか。その場でいきなり調理したものではなく、しっかり付け込んだチャーシューが出てきたりするのだろうか。だったら嬉しいが。


 とりあえず暖簾をくぐる。いつもの爺さんが顔を見せながら話しかけてくる。


「よう兄ちゃん。買い取りはあるか? 」


 第一声がこれである。もう肉の仕入れ業者か何かだと思われてるんだろうか。


「そりゃまぁ、有りますけど。とりあえずウルフ肉が一パックとボア肉が一パック」

「お、買い取るぞ。ボア肉は千二百円でいいか」

「じゃぁそれで。合計千五百円ですね。飯代から引くほうでお願いします」

「んじゃ、注文決まったら教えてくれ」

「あぁ、そういえば表に書いてあったボア肉ありますってあれはどういう意味です? 」

「昨日ボア肉が手に入ったんで、下味付けて寝かせた奴があるんだよ。良ければ出すがどうだ? 」

「とりあえずそれをお任せで一つ。後は決まったら言います」

「あいよ」


 いつも通り勝手に水を用意し二人分入れると席を勝手に決めて座る。手慣れたもんだ。さぁなに食おうかな。まずは米だ。チャーハンと天津飯は食べた覚えがあるな。となると米以外でも麺でもいいな。五目あんかけそば。これだ。これにしよう。深く悩むより思いついたものを注文する。悩んでる時間でゴブリンを六匹は倒せたはずだ。


 文月さんはメニューと格闘している。しばらく待とう。その間に考え事をする。


 小西ダンジョンの地図を埋めることは一人では、たとえ文月さんがつきあってくれたとしても難しいだろう。というか、六層で地図を埋めることにそれほど急いでやる意味があるかと言えば無い。七層にたどり着けるだけの地図はもう完成しているんだ。地図を埋めないと死んでしまう病気にかかっているわけではない。


 なら次は何をするか? 五層で肉集めの作業をして精肉業者として活動するのも良い。カラスの羽根を集めて布団屋になるのもいい。四層でゴブリンソードを集めつつ、ヒールポーションをかき集めておくのも大事だ。本数があって困るものでもないからな。


 いっその事八層から九層へ降りて、キュアポーションを集めに行くのもアリだ。アリだけに。ジャイアントアントは適切な数が出て来てくれれば魔結晶がたくさん落ちやすいのでこれも稼ぎ先として中々に美味しい。


 小西ダンジョンなら人の目を気にする必要はあんまりない。常にステータスブーストをかけて戦い続けられるなら、八層や九層で多少の数に囲まれても問題なく活動できるだろう。なら、九層の地図を十層までの分作り上げながら進む、という手段が取れる。これなら、小西の九層で活動する理由として十分だろう。


 やはり人数がネックか。もう一人二人、人手が欲しい。ダンジョンの地図を埋める作業は一パーティーで考える作業では無さそうだ。ギルドに依頼をかけてもらって、集まった人で測量をする。そのほうが安全かつ確実だろう。


 パーティーに思い当たるのは小寺さんたちぐらいだ。連絡をつけられなくは無いだろうが、果たして頷いてくれるかどうかは疑問だ。彼らなら九層のもうちょっとマシな地図を作ってたりするのだろうか。


「よし決めた、私天津飯と餃子」


 どうやらメニューとの格闘が終わったらしい。


「五目あんかけそばと天津飯と餃子で! 」

「あいよ! 」


 注文が通った。考え事を一時中断する。


「で、今後どうします。あの地図で深く潜るのは不安しか無いですよ」

「そうだなぁ。自分たちで地図を作るって話はとりあえず横に置いとくとして」

「六層の地図完成させたら報奨金出たりしませんかね」

「出たとして、労力のわりに報酬は少なそうだ」


「「だって赤字ダンジョンだし」」


 声がハモる。


「う~ん……こんな形で先行き不透明になるとは思わなかったな」

「清州はどうだったんですか? 」

「とりあえず十層までの地図は持ってる。多分その先も言えば買えると思う」

「なら深く潜るときは清州、小遣い稼ぎは小西と使い分ければいいんじゃない? 」


そういう考え方も有るな。ただし清州では保管庫が使えないという欠点もあるが。


「ただ、清州だとダーククロウに囲まれたときに有効な戦法が使えない」

「あ~……清州じゃ人の目がありますからね」

「まずは七層の地図を完成させることを目標にしても良いんじゃないかと思う。あそこなら何も出ないし、何泊か出来る装備もある」

「そういえばキャンプ装備、結局使いませんでしたね」


 荷物をさしながら文月さんが言う。


「まぁ、ソロキャン分しかないからな。一緒に一泊過ごしていくならもう一人分の装備が無いと」

「交互に仮眠取るってのでどうです? 治安も心配しなくて済みそうですし」

「俺はそれでもいいが、そっちはそれでいいの? 」

「襲わないでしょ? 」

「ゴブリンみたいに首の骨折られたくないしな」

「なら安全は確保されてるのと同じですよ。時間があれば快適キャンプ生活ってのも悪くないはずです」


快適……とまではいわないが不自由の出来るだけ少ないキャンプは可能だと思う。


「七層に目印……そうか、七層なら目印を持ってきて勝手に設置するという手段が使えるな。あのバス停みたいに」

「何か設置するような、それでいて目立つようなものですか」


 目立つもの……ね。どういうものがあるかな。


「何かないか、自立式でほっといても大丈夫なもの」

「ポールでも立ててそこに旗でもなびかせ……あそこ風ありませんでしたね」

「それならいっその事、階段と階段の中間に大きめのテントでも立てておいて、自由に使ってもらえるようなの置くか」

「それもありですね。お値段にもよりますが」


 早速文月さんはスマホで大きいテントを検索し始める。


「これなんかどうです?高さ三メートルで十六平方メートル二万五千円」

「こういうのでいいな。これを一つ勝手に立ててしまおう。目印が一つあるだけでもマシだ」

「階段と階段の間ぐらいにこのテント建てましょう。後は伸縮ポールで長い奴を二つぐらい、目印としてテントから見える範囲に立ててしまえば」

「この範囲でなら見える、という感じになる。見果てぬ荒野が一気に狭いキャンプ場みたくなるかも」

「三脚式ならアンテナ設置用の長いのがありますね。後は目印を何か付ければそれで」

「地図作りが少しだけ現実的になったな」

「現地までは保管庫で運んでしまえば重さは気にしなくていいですし、出してるところを見られない限りは問題なしと」


 七層の地図まとも化計画は進んでいく。六層は正直今はどうでもいい。八層はまだ行ったことも無いので、本当に地図があっているかどうかも疑わしい。九層は……なんかどうでもいいや。どうせ自分で地図を作らないといけないだろう。


 相談し合っているところに、料理が届いた。ぷるっぷるのチャーシューのお目見えだ。


「まずこれがボア肉のチャーシューだ。そのまま行けるから是非味わってみてくれ。続きは今作ってる」


 ほぉ……という感想がまず出る。しっかりとたれに付け込んでから焼いて更にたれをしみこませたのか、芯まで黒く味付けられてはいるものの脂は完全に溶けだしていない。まずは一口。


 味がしっかり染みている……そして柔らかい。口の中でホロホロと溶けだし、噛む必要が無いぐらいに柔らかいその肉質を楽しむ。これなら歯が無くても舌と上あごだけでかみ砕いてしまえるようだ。少し生姜のきいたタレと醤油の風味、それに肉の味わいがそれぞれいい感じに主張し合っている。飲み込んでしまうのをためらい、しっかりと口の中でその味を楽しむ。奥歯の奥に存在すると言われている脂身を感じるという第六の味覚も幸せの味をかみしめている。もう一枚食べる。今度は奥歯だけで味わう。幸せ回路がフル回転を始め、頭がボーっとしてくる。いい、最高だ……


 正面を見ると昇天しそうな文月さんが見える。パイプオルガンの音でも流したら本当にあっちへ行ってしまいそうなぐらい美味しそうにほおばっている。


 はっ、気づかないうちにもう無くなりそうだ。全部取られないうちに二枚だけチャーシューを確保しておく。あんかけそばと一緒に食す用に残しておくのだ。残りは全部文月さんに取られても構わない。


 ワイルドボア肉でこの美味さだ、更に美味とされているオーク肉だったらどんな味わいになるんだろう。俺はダンジョンのこの先に期待せずにはいられなかった。が、そもそもオークって何階層に出るんだ? 根本的なことを知らないことに気づく。



「オークって何階層に出るんだっけな」

「……十一階層以降じゃなかったですっけね」

「清州に行けば戦えるかな……ってまだ十一層潜れないじゃん。Cランクにならなきゃ」

「ちなみにオーク肉って討伐難易度もありますけど美味しさからして一パック五千円で買い取りするらしいですよ」


一パック五千円ということは、末端価格は倍を超えるだろうな。買えなくはないが……


「食べるだけなら専門店行けば食べれると思いますが」

「それだと味気なくてな。自分で取った肉だからこそ食してみたいという欲望がある」

「なんとなく解ります。汗かいた分、より美味しく感じられますからね」

「あいよ、五目あんかけそばと天津飯、餃子おまち」


 メインディッシュが届いた。大き目の丼にとろとろの玉子がまだ生き残っている。仕上げに入れたんだろうな。具材はしいたけ・うずら・きくらげ・白菜・キャベツ・人参・ネギ・肉・刻み生姜あたりか。

 肉のとろけ方から見て、おそらくこれもボア肉だろう。


 早速麺をいただく……熱い。そういえば猫舌なんだった。しっかりフーフーしてから口に入れる。あんかけの熱さがそれでもまだ舌を刺激するが、味を邪魔するほどじゃない。醤油ベースのスープに具材の旨味がしっかり溶け込んでいる感じだ。


 麺にしっかり絡みついているので一気に口の中へ様々な具材が入る。そして口の中で一つになる。ここではエビではなくイカを使っているらしい。確かな食感が口の中に残っている。キクラゲのコリコリ感も良い。餡にもきちんとコクがあり、最後まで口の中を駆け巡り楽しませてくれる。


 気が付けばあっという間に平らげてしまっていた。水を一口飲み、一息つく。


「餃子一個頂戴」

「あいよ」


 文月さんから餃子をつまみ食いする。ハフハフ言いながら美味そうに食す。これも中の豚肉はボア肉のようだ。肉汁がとても多い。前も食ったなこれ。相変わらず美味しい。


 文月さんがモグモグ食べるのを眺めながら、今後の予定を考える。しばらくは四層に籠って金銭的体力をつけつつ、潜れるようなら七層に潜って七層の整備。小西ダンジョンで出来ることはそのぐらいか。なんかちょっと行き詰った感はあるな。行けるところまで行ってしまった感がある。この先どうダンジョンとお付き合いを進展させていくものだろうか。


「とりあえず、スライム騒ぎが一段落するまで待つか……」


 一人呟く。


「自分たちで出来る範囲でやれることはもう大体思いつきましたかねー」

「いつまで続くと思う? 」

「さぁ。降って湧いた話はほとぼりが冷めるまで放っておくのが一番かと」

「だよなぁ。三勢食品の体力が勝つか、探索者が飽きるのが先か、ギルド側が対策を講じるのが早いか」

「対策って何です? 」


 以前ギルマスに話をしに行ったことを打ち明ける。


「重さで査定するとか。一応小西のギルマスに提案しといた」

「じゃあ、最良そのパターンじゃないんですかねぇ」

「どうなるかはまだ解らんか」

「ですね。とりあえず私明日から二日間講義でダンジョン潜らないので、先に伝えときます」

「りょーかい。俺も休みにするか。その間に色々考えとくわ」

「いいんですかー、働かなくて」

「最近休日でもダンジョンの事ばかり考えてる気がするからな。息抜きは必要だろ」


 そう、ワーカーホリック癖が治らないのだ。何しててもダンジョンの事を考えている。ここは一旦ダンジョンから離れる時間が必要だ。ただ寝てるだけの日とか、ただスレを見るだけの日があってもいい。


「そうですね。情勢見守るにしてもここらで一休みしておくのがいいかもしれません」

「後はそうだな、休んでる事で俺とスライムドロップ確定の線を限りなく薄くしておくって事で」

「何で休んでると犯人の線が薄くなるんです? 」

「この騒ぎの中でバニラバー買いだめに走ったりスライム狩ってないなら犯人の線は薄くなるじゃん」


なるべく騒ぎの外側に居たい。その為にはバニラバーの購入合戦から身を引くのも一つの戦法だ。


「でも事前に買いだめしてませんでした? 」

「スレ見てから買い占めに走ったかどうかの時間差まで細かく見られたりはしないだろ」

「そこまで検証出来てたらお店の中の人が特定班ってことになりますね」

「なので、よほど俺の身近な人じゃないと気づかないと思う」


 お客さんが何買ったか全部把握してるような店員逆に怖いぞ。


「ご家族とか」

「今は俺が末代だ」

「すいません」

「気にしなくていい。なのでほぼバレる心配は無い」

「じゃぁ、安村さんは二日間欠勤と」

「欠勤してもお手当てが減るわけじゃないからへっちゃらだ」


 どちらから先にという訳でもなく、それでいて合わせてというわけでもなく、無言でほぼ同時に席を立った。


「爺さんおあいそ。いくら? 」

「えーと……千円だな。 チャーシュー美味かっただろう? 」


 爺さんは自信ありげだ。無言で二人頷く。


「あれならいくらでも入りそうだった」

「わっはっは。ボア肉定期的に持ってきてくれるんならいつでも出せるようにしとくぜ」

「考えておく」

「んじゃ、またな兄ちゃん。嬢ちゃんも」

「はい、また来ます」


 中華屋を出て、バスに乗り、そして駅で文月さんと別れる。さて、明日と明後日どうするか。そういえばポールとテント、早いうちに注文だけしてしまうか。何はなくとも七層に目印を立てるという目的は達成したいところだ。


 早いうちに注文すれば早く届く。運が良ければ休みの間に届くだろう。それを願うことにする。


 さて、帰るまえにいつも通り朝食のおかずを買って、それから装備のチェックをして、保管庫の整理もして、それからゆっくりしよう。時間はある。


作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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