111:過剰使用
六層の階段へ戻った。一番近くにある木にはダーククロウが数羽リポップしているみたいだ。正直このぐらいの量ならバードショット弾で全部落としてしまえる。
「この階層、私の出番あんまりないですね」
「ワイルドボア対策要員としてぜひ頑張ってもらいたい」
「微力を尽くしますです」
数羽のダーククロウをバードショット弾ですべて撃ち落としてしまう。前も思ったが、ドロップ品をひろいにいくのが面倒だな。保管庫の射程伸びないかな。
ドロップは魔結晶が三つ、羽根が百五十グラムというところだろうか。羽根が思ったより落ちたな。
「そういえば、カラスの羽根はギルドから他所の業者に千五百円で納品されてるらしい」
「ぼったくりも良いところですね。もうちょい価格改定してくれてもいいような」
「伝手があるなら布団屋に直接卸したりできるのかな」
「伝手ないでしょう? その分の労力を支払っていると思えば」
「ま、そうだな」
三本目の木……七層側から言えば一本目の木は無事に通り過ぎた。問題は二本目の木だ。相変わらずわさわさ屯って居るのがここから目視できる。
「五十羽はさすがに多いな」
「手間取りそうですか」
「動き始める前に撃ち落とせればベストなんだけど、多分俺、二十羽ぐらいまでしか同時に相手できないんだよね」
「それでも十分すぎる気がしますが」
たしかに、二十羽三十羽に囲まれることはスライム以外では現状ここだけだろう。
「ま誰も見てないうちにコッソリと大虐殺しますか」
「うち漏らしは任せてください。どうやら、相手のくちばし攻撃が来る場所に刃物を置いておくだけで勝手に切れて行ってしまうようですから後れは多分取らないと思います」
「任せた」
「任された」
外さないようにちょっとずつ二本目の木に近づく。ある距離まで達すると、さっきまでギャーギャー騒いでいたダーククロウの鳴き声がピタッと止まる。ここが警戒範囲らしい。
距離にして五十メートルという所か。バードショット弾で狙うには十分な範囲だな。早速マルチロックオンすると、保管庫から大量のバードショット弾が打ち出される。
数匹には躱されたが、狙ったうち九割ほどは無事に体力を削り切ったらしい。
「さぁ来るぞ、フン塗れになる覚悟はできてるか? 」
「できてません。ですが怒り狂ってくちばしで攻撃してくるならなんとかなりそう」
引き続きバードショット弾でけん制する。こちらは近寄ってくる前に更に十匹ほどを葬り去った。残りは半分ぐらいになったが、それでも二十羽少々のダーククロウがこちらをターゲットに突撃してくる。
俺はステータスブーストをかけると相手より早くグラディウスを相手の進行方向に置いておく。綺麗に予想位置に突っ込んできたダーククロウはそのまま真っ二つになって消滅する。
槍で戦う文月さんは相手の距離感がまだうまくつかめないのか、攻撃を時々外しては回避に専念している。できるだけこっちで処理したいところだが、こっちも若干手いっぱいだ。
やがてコツをつかみ始めたのか、くちばしで攻撃してくる奴については何とかなってくれているらしい。二人でどんどん数を減らしていく。
最後の一匹を処理したところで、散らばった羽根を二人で回収する。魔結晶はまだ見つけやすく拾うのに問題は無いが、あちこちに散らばった羽根を集める作業が非常に手間だ。
それに、回収作業中でもワイルドボアはこっちに向かってくるため、面倒な戦いが続いている。
「拾い終わるのを待っててくれたら楽なのにっと」
「こっちの都合で動いてくれれば苦労はしませんね」
「ほんとそう」
一旦回収する手を止めてワイルドボアに向き合う。ワイルドボアは六匹と少なめの編成だが、突進の威力は原付並みだ。ステータスブーストしてなければ最悪気絶してそのまま死に至る。それが六体も突き進んでくるのだ、暴走族かなにかか。
「そろそろ武器が曲がってきそうな気がしないでもない」
「その時は新しいのを見繕いましょう」
「もうちょい重くても良い感じだな。その分長いか分厚いかで」
「最初はバランス崩れるでしょうけどそのうち慣れますよ」
暴走族集団「倭威瑠怒暴亞」を無事殲滅すると再びドロップアイテムの回収に走る。ダーククロウの羽根は保管庫に入れておけばおおよそグラム表示で教えてくれるので便利だ。今九百グラムある。魔結晶のほうは手持ちで二十八個。
これで簡易電卓でもついていてくれれば自動的に今日の儲けを算出してくれるので楽なんだが、そんなスキルが欲しいかと言えば自力計算でなんとかなるので要らない。もうちょい使い勝手のいい奴がいい。気配探知とか危険察知とかそういう系の奴なんかないかね。
一本目の木のほうへ間違えずに戻ってきた。岩も見える。山場はここまでで終了だ。あとはひたすら帰り道。本当に小休止しかしてないので、階段上がったら一服しようと思う。
一本目の木にはダーククロウが増えている。最初に通った時より繁っている。これは最後の一儲けチャンスかな。残弾はまだ二千発以上ある。……やってみるか。
「ちょっと試したいことがあるんだけど、後ろ下がっててくれる? 」
「嫌な予感しかしないんですが」
「多分その予感は当たってる」
「まぁ、人が居ないなら良いんじゃないですかね」
周りを見渡す。敵影たくさん、味方影一、中立影無し。つまり誰も見てないな、よし。
まずイメージする。バードショット玉を横に十センチ置きに一発ずつ並べる。縦にも十センチ置きで並べる。横幅三メートル、縦幅一メートル。合計約三百発を標的を考えず、直線状に発射する。スピードは音速を超えない範囲で。イメージを固めた。
後は自分の視点を木に向ける。視線を感じたのか、ダーククロウの鳴き声が止まる。
「行け」
シュッという小さな音とが重なり合い、そこそこ大きい空気音となってはじける。
イメージ通りに発射されたのが八割ぐらいだろうか。うまく伝わらなかったバードショット弾がその場に落ちる。それでも約二百五十発のバードショット弾が高速でダーククロウに迫り、パタパタと落ちていくのが見える。半分成功半分失敗ぐらいだろうか。
「どう? 」
「もう安村さん一人でいいんじゃないかな。で、その足元に落ちた弾と飛んでった弾は放置ですか」
「足元のは拾おうかなって」
「はいはい、じゃぁわたしは素材集めのほう行ってますね」
ロックオンしなければかなりの数真っ直ぐ飛ばすことは出来ることが分かった。
と、歩き出そうとした途端視界が揺らぎフラフラする、多分急に眩暈が始まった。これはあれかな、スキルの使い過ぎって奴かな。
確かにここまで大量のものを一気に飛ばす実験はやったことが無かった。どうやら、スキルを使うには精神力、つまりMPみたいなものが必要らしい。大きさに関係するのか数に関係するのかそれともエネルギー量に関係するのかは解らないが、保管庫スキルを使って眩暈がしたのは初めてだ。
地面に膝と手をつく。深呼吸しよう、一回、二回、三回。よし、少し落ち着いた。ふと、足元にバードショット弾がパラパラと落ちている。スキルを使わない範囲で手で拾っておこう。残りはまぁいいや、多分どこからともなくスライムが現れて消化してくれるだろう。
木のほうへ近寄る。文月さんがドロップ回収をしていたが、俺の顔を見てびっくりする。
「顔真っ青だけど大丈夫? 」
「顔色に出てるのか、ちょっとスキルの使い過ぎ状態になってるらしい。しばらくしたら落ち着くと思うよ」
「無茶なスキルの使い方するから……あぁ、でも周りが危険な時にぶっつけ本番でやられるよりマシだわ」
「すまん、ちょっと調子に乗りすぎた」
「全くだよ。以後気を付けるように」
「はーい先生」
とりあえずドロップと拾った弾はバッグにそのまま入れておく。今うかつに保管庫スキルを使ってまたふらついても困るからだ。暫くの間スキルの恩恵は無しって事だな。
もうちょい休憩すれば元に戻らないかな。とりあえず六層から早めに退避したほうが良さそうだ。歩きながらでもちょっとずつ調子が戻る様に、バッグの中に出しっぱなしだったカロリーバーを胃に詰める。カロリーさえあればなんとかなるだろう。
「早速食べ物を入れて体力を回復していらっしゃる」
「何すればまた回復するか解らないからな。とりあえず出来ることをまずやってみる」
「ゲームで言えば、スキルを使った時はMPポーションってのが相場ですが」
「MPポーションなんて聞いたことが無いぞ。ヒールポーションはどっちかというとHPって感じだし」
MPなんて概念がまだ普及? してない以上それを回復するポーションなんて存在しようがないだろう。
「じゃぁキュアポーションで回復するとか」
「値段と効果が一致しないな。一応持っては居るけど」
「あるんだキュアポーション。それ清州のお土産? 」
「記念品ってとこだな。厄介な風邪でも引いたときに飲んで効果を感じてみるとするよ」
キュアポーションランク1なら、風邪ぐらいなら半日で治るらしいからな。何処まで効くか解らないが、すくなくとも軽めの症状や流行病なら治ってしまうんだろう。過信してはいけないとは思うが、頼りにしてるぜ。
「下層に潜ってるとポーションがぶ飲みしながら戦ってたりするのかなぁ」
「そもそもここに居ると外界と途絶されてるような気がしてならない」
「マイナーダンジョンならではの閉鎖性って奴ですかね」
「割と開放的だと思うんだけどなぁ」
「確かにこのエリアはえらく開放的ですけど」
マップの広さに対して置いてあるものがこう……少ない。手抜きと言ってしまってもいい。
「もうちょっとこう、オブジェクトを設置することに労力を割いてくれてもいいよね」
「オブジェクトもそうですけど、まず地図じゃないですか? 」
「そうだな、地図を作るってのも探索者らしい行動でいいな」
「そもそも地図ってどう作るんでしょう? 」
「まずそこからかな。田中君に聞いておけばよかった」
一歩歩くごとに一メートルとして、何歩歩いたらオブジェクトにたどり着けるか。いや、そんな事しなくても測量機器借りてきて測量すればいいのか。そのほうが早く安く着きそうだ。
こういうことはダンジョン庁の仕事だと思うんだが、何故かワクワクしている。もしかしたらより効率のいいポジションが見つかるかもしれない。第一層にあるスライム溜まりみたいな、そんな場所があるかもしれない。心踊る。
五層への階段へ急ぎながらも会話は続く。
「なんかよくないこと考えてません? 」
「いや、測量しながら地図を埋めるのも楽しそうだなって」
「数泊して地図埋めですか? あまり利益になりそうにないですが」
「たとえば未発見のオブジェクトとか、ダンジョンにまつわる秘密の場所があったりとか、そういうの楽しそうじゃん」
ダンジョン探索と言えば宝箱探しというのも王道だ。どうやらこの世界のダンジョンには今のところ発見したという話を聞かないでいるが。
「隠し宝箱があってそこには未知のスキルが、みたいな? 」
「そういうの、有るか無いか確かめるの、探索って感じじゃない? 」
「まぁ、そう言われるとそうですね」
「小西ダンジョンは六層ですら地図が埋まってない未知のほうが多い場所なんだし、無いなら無いことを証明しなければいけないし、有るなら有るで報告ないし内緒にしておかなければならない」
「内緒にはするんですね」
内緒にしたほうが美味しい情報は内緒でも良いんじゃないかと思う。食い扶持を取られないための策だ。
「内容による。手に余るような話ならダンジョン庁に丸投げして、ちょっとおいしい攻略情報なんかは頂いておく」
「ほうほう」
「そんな展開があったらいいなーと」
「全部妄想ですか」
「全部妄想。でもそのぐらいの妄想が入り込む余地はあってもいいかなって」
「最終目標は小西ダンジョン制覇ですか」
小西ダンジョン制覇か……何層まで潜れば終わるんだ? このダンジョンは。
「それは求め過ぎかなー。でも清州ダンジョンや高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンみたいに最前線張ってるダンジョンで最前線を目指すよりはこっちでゆっくり探索していくのもいいかなと」
「結局いつも通りって事ですか」
「いつも通りって事です」
「じゃ、いつも通り帰りますか。あと五層分上らないとお家には帰れませんからね」
会話している間に少し気分が落ち着いてきた。そろそろ保管庫を使えそうだ。
五層への階段を上る。上った先にモンスターは居なかった。安心して休憩できそうだな。
「ちょい休憩。ついでに荷物整理もしたい。そろそろスキル使えそうだから集めたドロップまとめよう」
文月さんが持ちっぱなしだったドロップ品をまとめる。ついでに保管庫から冷えた飲み物とカロリーバーを取り出す。
「ちょっと食べ過ぎじゃないですか? 」
「体動かしてるからへーきへーき。それにスキルも一杯使ったし」
「四十才超えるとちょっと気を抜くと太りますよ」
「まだ大丈夫、これでも前職は肉体労働だったからな。それに、ダンジョン上り下りするだけで七時間近く歩いてる事になるんだから、その分カロリーは多く消費してるはずだしな」
たしかに、昔に比べて肉は付きやすくなった。でも探索者を始めてむしろ筋肉がついて脂肪が減ったような気がするぐらいだ。
「なるほど。つまり私も食べても大丈夫ということ! 」
「食べる? 」
「いただきます」
食欲に素直なのはよろしい。
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