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ダンジョンをつくろう

 自分がダンジョンであると自覚した後、俺はダンジョンの近くにやってきた三人の冒険者を観察していた。


 ダンジョンの外観は高さ20メートルほどの山だ。ビルで言えば6,7階ほどだろうか。高さがそれほどなので外周も一周に約30分はかかる。そんなダンジョンの周りを彼らはぐるぐると回りながら調べていた。


 ほどなくするとエルフがダンジョンに向かって緑色の魔法か何かを放った。しかし、当然ノーダメージ。ダンジョンを傷つけることは何人たりともできない。このあたりの知識は俺の中に当然としてある。多分ダンジョンの生存本能みたいなものなのだろう。


 しかし、同様の知識をエルフたちも持っていたようで、ダンジョンが欠けもしなかったことを確認すると、ため息を一つついて「報告に戻ろう」と森の中に姿を消していった。



 彼らがいなくなった後、俺はすぐにダンジョン制作に取り掛かった。

 今のダンジョンは生まれてまだ一日もたっていないが10日もたつと自然と入り口ができる。人間を呼び寄せ、魔力を集めるためだ。


 それまでにある程度ダンジョンとしての形を整えなくてはいけない。俺はこのダンジョンの核となっているので俺が殺されればそれまでだ。ダンジョンは崩れ去り、使命は果たせなくなってしまう。いや、絶対に果たさなきゃいけないとかはないと思うんだけど。


 先ほどの三人からいただけた魔力によって最初のダンジョンとしては結構広い作りにすることができそうだ。やはり、エルフがいたのが大きいのだろう。あのエルフとは末永くよろしくしたいものだ。



 光が降り注ぐ部屋で俺は一つ伸びをする。

 さぁ、初めてのダンジョン制作に取り掛かろうか。



 ・

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 ――――――――――――






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 ・


「なるほど、ダンジョンが発見されたと。しかし、まだこちらには何の報告も…」


 ゴミ一つない美しい教会で、身なりのよさそうな神父がエルフの女から話を聞いている。

 教会内には人影が見えず、誰も礼拝には来ていないようだ。それともこの神父が人払いをしたのだろうか、エルフの方も先ほど連れていた仲間を教会内に入れていないようだった。


「入り口がなかったわ。確か昔もそんなことがあったでしょ、発見はされてるのに神託が下りなかったダンジョン。ダンジョンが開いたら神託が来たんじゃなくて?」


 エルフの女が淡々と言うと、神父の方もそうだったと言わんばかりに蓄えたひげを撫でつける。


 ダンジョンを発見するのはほとんど教会だ。なぜならダンジョンの所在地が神託として下るからである。神託の場所に赴くときちんとダンジョンがあるため、ある種、神の存在証明にもなっている。しかし、その信託が人間を害なす敵が現れたことを知らしているのか、人間に富をもたらす獲物が現れたことを知らしているのかは神に祈りをささげる神父にすらわからない。



「して、どうされるのですか?フィナ殿はそちらのダンジョンに向かわれるので?」


「いえ、神託があるまではこちらも動かないつもり。試してみたけれど無理やり開けることはできなかったし。神託があったら伝えてくれるかしら?これ、とっといて。」



 エルフのフィナは神父の質問にそう返すと腰のポーチから少々の金の入った小袋を取り出し神父に渡した。神父はそれをい恭しく受け取ると「孤児院の寄付に使わせていただきます」と深く腰を折った。



「御弟子の方々は一緒に連れていかれるので?」



 神父は教会の外を見るかのようにそう尋ねる。

 ダンジョンを発見した三人のうち人間の二人はフィナの弟子であった。剣士のアルフに弓使いのリーラ。ともにまだまだ青い未熟者であり、神父はそのことを知っていた。未知数のダンジョンに若い可能性の塊が先陣を切って進んで行くことに気が引けたのだろう。

 しかし、フィナは弟子を甘やかすつもりはなかった。



「連れていくわ。別のダンジョンに連れて行ったこともある、多少の危険を顧みずぬくぬくとやっていても意味はないわ。」


「左様ですか。では、どうぞお気をつけて。私もこの教会より祈っております。」



 すこし心配そうな顔をした神父がそう言って膝をつくとエルフはやれやれと言った感じで。



「それは神託が来てからお願いするわ。」



 と、言い残し教会を後にした。





 現在、フィナたちがいるのはセルラトン王国の大きくも小さくもない平凡な街アックル。王都から街が三つとこれまた遠いのか近いのかわからない微妙な距離に位置する街だ。

 そんな街を拠点とするフィナ一行はダンジョンを後にしてすでに4日経過していた。街に戻ってきてすぐに報告に来たためダンジョンとの距離も同じく4日だ。最寄りの街が拠点としていたアックルだったためあのダンジョンは人里に近いというわけではないらしい、そのあたりは安心だろうか。



「あ、師匠!」


「ぐぅ……ぐぅ……」



 フィナが教会から出ると、それを見つけた弓使いの少女リーラが手を振って、ここです、とアピールしていた。その横でうずくまって寝息を立てているのは剣士のアルフ。今日の晩に見張りを務めていたからか師匠を待っている間仮眠をとっていたらしい。


 そんな弟子たちを一瞥しなんだかなぁと微笑を浮かべながらフィナは弟子たちの方へ歩いていく。



「リーラ、アルフを起こして、すぐに宿屋に向かうわ、ダンジョンについて色々おさらいよ。アルフ!まだ寝るには早いわよ!」



 師匠の言葉で幼馴染の少年を起こそうと彼の肩に手を掛けていた少女は続く言葉を聞いて目を丸くして振り返った。



「え、ダンジョンに私たちも行くんですか!?ちょ、っちょっと待ってください師匠!ほら!アルフ起きて!今寝てるとほんとにとんでもないことになっちゃうよ!!」


「んぁ…え?なに?」


「もぉ!しっかりしてよ!!!」



 少年の頭をぽかりと殴り、早くしろとせかす少女と状況を把握したのか飛び起きて荷物を抱えんだ少年。

 慌てて追いかけてくる弟子たちを目の端で確認し、フィナは笑みを深める。自分よりも遅く生まれ早く死んでいくそんなはかない命を育てて何の意味があるのか。自分自身にもまだわからないが、まぁ、今はそれでいいじゃないかと鼻歌交じりに宿へ向かう。


 どこか抜けた剣士の弟子と、その世話係の弓使いの弟子。彼らの将来を思い師匠はまた少し笑みを深めるのだった。

名前付きのキャラは基本死にません。

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