2度目。ーー招待状という名の腹黒からの召喚状。・6
「尤も其方は手を打ちましたので、後は任せて頂きたいのですが」
「セイスルート辺境伯に任せよ、と?」
そう。私はクルスに任せました。任せた以上は口を出す気は無いので、不敬であろうとイルヴィル殿下にも口出しをして欲しくないのです。
「どのみち辺境の領地で何かあるならば我が父が出るのは当然か、と」
「確かにな。だが詳細は聞いておきたい」
「先程も告げたように私は事実のみが記載された手紙を見ただけですので……。ただ」
「ただ?」
段々と1度目のケイトリンの人生を思い出します。いくら記憶が有ると言っても全部何から何まで覚えているわけではないので……。強烈な記憶程残りやすいですし、そういった意味では、やはり私がヴィジェスト殿下を庇って死んだ時の事が一番記憶にあります。
ーー死ぬ事の恐怖と、ドミトラル様に何も言えなかった後悔と共に。
続きを待つイルヴィル殿下の目を見ながら、手元の紅茶を一口。それから前回でも良く食べたジャム入りクッキーを一口齧ってから記憶を思い出しきりました。
「すみません。イルヴィル様。全ての記憶が鮮明ではないので、思い出すのに時間がかかってしまいましたが。あの件で思い出した事がございます。小競り合いは確かに死者無しでセイスルート家が勝利しました。但し、捕らえた敗将を裁いたのは……国王陛下ではなく、イルヴィル様……王太子殿下であらせられました」
「私、が?」
「はい」
前回と同じく昨年、イルヴィル様は正式に立太子の儀を執り行い、王太子となられました。婚約者であるシュレン様も婚姻こそしていないものの王太子妃と同じ扱いをされています。立太子の儀の後、王太子として国内外に正式に発表される暁にはシュレン様が婚約者である事も国内外に発表されました。
ここまでする事によって、婚約破棄ないし解消を回避する狙いがあるからです。つまりほぼシュレン様は王太子妃で未来の王妃だと知らしめました。そうして地位を不動の物としたイルヴィル様。国王陛下は更なる足固めの意味合いを含めて、元々朝議や公務に出席していらしたイルヴィル様の発言権を強固にするために、罪人の科を裁く権限をお与えになりました。
それが、この騒動でした。
タータント国ではきちんとした裁判を行うに辺り、前世で言うところの盗みや傷害ならば各領主に任せるのが基本です。王都の場合は国王陛下に任じられた所謂裁判官が行います。
ですが、前世で言うところの放火や殺人に違法ドラッグの売買等は領主権限ではなく、王都の裁判官若しくは王都に要請をして裁判官の到着を待って裁判官の手によって裁かれます。これはそこまで重い罪だから、の一言に尽きます。
そしてそれ以上に大変な罪の場合、国王陛下或いは陛下代理の者が裁くのです。例えば国外の人が関わる罪がそれです。何しろ一歩間違えば相手国を侮辱しているようなもので、国際問題に関わりますから。そして前回の人生における小競り合いは、隣国が関わっている。
故にその責を問う相手は他国の者なので国王陛下がお出ましになられる案件。けれども国王陛下ではなくイルヴィル様にお任せしたのは、イルヴィル様の能力を測ると共に足固めの意味合いがありました。
「つまり足固め、か」
私が説明せずとも理解したイルヴィル様は、はぁと溜息をつかれて悟られたのでしょう。
「分かった。その件はもう尋ねない。ところで本日の茶会の用件を忘れていた」
……用件、あったんですか。
うっかりそんな失礼な事を言わなくて良かった、と自分を褒めつつ私はイルヴィル様を見据えました。




