閑話・1度目。ーー恋情と友情の狭間で。・2
本日2度目の更新です。
ノクシオ視点です。
最初に会って以降手紙のやり取りは頻繁に。会うのは年に1度あるかないか。それでも会う度にケイトリンは淑女の仮面を被りつつも、私とドナンテルの前で変わらない態度を取ってくれた。“王子”に対する“令嬢”の仮面を被っても、直ぐに取り払って“ケイトリン”として私達に接する彼女の側は居心地が良かった。
『友人』の称号を早めに公式に授けておいて良かった。
そう思ったのは、様々な事情から我が国に留学してきたケイトリンを見て、だっただろうか。彼女が我が国に留学してきた理由の一つに自惚れで無ければ……私とドナンテルが軟禁状態である事を心配してくれた、というのがあるはずだ。
彼女の性格は私とは正反対で。
裏表が無い。見返りなど求めず手を差し出す。お人好しでおバカで聡明な娘。
バカなのに聡明というのはおかしな表現だな、と自分でも思うが、それが彼女なのだから仕方ない。無償で手を差し出すのはバカとしか言いようがない悪手だ。そんなお人好しな事をしていれば足元が掬われる。
特に、私を含めた王族や貴族達に。
彼女はそれを理解している。それが聡明な理由。足の引っ張り合いも理解しているし、人の気持ちにも良く気がつく。だから人の行動のウラを読むのも上手い。上手い癖にやっぱりお人好しだから悪手としか言いようのない言動も取ろうとする。
その最たるものが私とドナンテルの境遇を知って、何とか出来ないか、と乗り込んでくるという行動だろう。私とドナンテルが軟禁状態な事を理解していて、それを何とかしようと乗り込んでくる辺り無謀でおバカでお人好し。それでも。
普通の令嬢だったら私とドナンテルが現状をどう打破するのか、親と共に見定めて事態を傍観していたはずだ。……いや、実際、我が国の令嬢達は傍観していた。か弱いから、親の言う事を聞かなくてはいけないから。そう自分達に免罪符を与えてどちらの王子が“王太子”の位に向いているか、機が熟すのを待っていた。
私とドナンテルが軟禁状態である事を少なくとも伯爵位以上の当主は気付いていたはず。令嬢達も全員とは言わないが“王太子妃”ゆくゆくは“王妃”になりたい、という野心を抱いていた者は親から聞かされていただろう。だが誰も現状を打破する者は出て来なかった。
否。
ケイトリンだけが現状を知って乗り込んできた。
留学制度を利用して向こうで試験を受けた、というのは知っていた。だが、私とドナンテルの現状を知っても来るなんて思っていなかった。誰だって我が身が可愛い。それを非難する気はない。だから期待などしていなかった。向こうで受けた試験に合格したと知っても、そこで入学辞退だろう、と思い込んでいた。
だから入学の式典で彼女が留学生として紹介されて現れた時。
ーー不覚にも胸が震えた。
ケイトリンの気持ちなど無視をして、勝手に不要だと言われていた『友人』の称号を公的に押し付けたのに。その称号を受け取ったのだから、とでも言わんばかりに変わらぬ笑みを浮かべていた。
そして何より、美しくなっていた。
この時だと思う。
彼女に、ケイトリン・セイスルートに恋情を抱いたのは。
あれほど恋など愚かだと思っていたのに。
その愚かなモノを私は手にしてしまった。
この娘が欲しい。
強烈に湧き上がる。所有欲。独占欲。劣情。
それとは別に、聡明さも周囲を見定める冷静さも強きものに対峙する強さも。全てが“王妃”になるために必要不可欠。反対などされる事もないだろう。
その後、私の必死のアプローチを物ともしないケイトリンに唖然とするのは、もう少し先のことだ。
お読み頂きましてありがとうございました。明日の更新も引き続き別視点です。




