2度目。ーー今の話、聞かなかった事にして良いですか?・2
「確かにそうですが……。私を巻き込む必要なんて何処にもないですよね」
婚約者が決まった時点で、婚約者込みで王太子になれるかどうか評価されるのだから、まぁもう少しだけ相手を決めたくない殿下方の気持ちは分からなくもない。
だが、私を巻き込む必要はない。というか、この話、聞かなかった事にしたい。忘れたい。否定したい。
「他の令嬢は王子妃若しくは王太子妃になりたいってギラギラしているから嫌なんだよな」
ドナンテル殿下が私を巻き込む理由を挙げるが、ノクシオ殿下はそれだけではないでしょう?
「ドナンテル殿下の理由は納得しませんが、理解しました。で? ノクシオ殿下の理由はなんです?」
「嫌だなぁ。ケイトリン。私だって兄上と同じ理由だよ」
「ノクシオ殿下は、その他に! 理由が有りますでしょう?」
私の問いかけにニコリ笑って交わすので、きっちり理由を話して下さい、と問い詰める。
「やっぱりケイトリンは頭が良いよね。私を逃そうとしない」
「ノクシオ殿下が最初から話してくれていれば問い詰める必要もないですが?」
柔らかな笑顔を浮かべて話そうとしないノクシオ殿下に、私は溜息をついた。
「ケイトリンを筆頭婚約者候補者の座に置いておけば色々と都合が良いからね」
ああ、そういうことか。
「成る程? コッネリ公爵のように直接私を牽制してくる者。コッネリ公爵を隠れ蓑にして行動を起こす者。……コッネリ公爵一派を纏めて粛正するのに、私は都合が良い、と」
「さすが。加えて言うならばコッネリを焚き付けて失脚に追い込み、その後釜に座ろうとする者も炙り出せるかなぁってね」
私を巻き込む事で、どれだけコッネリ公爵一派を粛正出来るのかって話ですね? とノクシオ殿下に突っ込めば、ノクシオ殿下は更に狙いを話して来ました。……後釜達まで狙っているんですか、アナタ。それこの国の政略図が一変しますよね? バランス悪くなりません?
「……さすがノクシオ殿下。腹黒ですわねぇ。でも確かに其処まで狙っているのなら、私くらいしか殿下方の駒にはなりませんわねぇ。……頭の宜しくない(つまり自分の役割を理解せずに勝手に動く)ご令嬢達では、殿下方の駒の役割は果たせそうにないですわね」
大きく溜息をついて、私はこの件を了承しました。駒として役割を果たしましょう。
「ケイトリンはやっぱり呑み込みが早くて助かる」
ノクシオ殿下に褒められても嬉しくないのは、駒扱いされているせいですかね。こういう所はイルヴィル殿下もノクシオ殿下も同じだなぁとは思いますわ。
「駒として動くのは了承します。ですが。駒でも思考能力は有りますし、意思も有りましてよ? 全て殿下方の思い通りに動く駒になるとは思わないで下さいませね」
駒として動いてあげるから多少は好きにさせて欲しい、と釘を刺せば「もちろんだよ」なんてノクシオ殿下は思ってもいない事を微笑んで了承する。駒は駒として動け、って笑顔で脅してくる辺り、やっぱりノクシオ殿下の方が国王向きね。
「言質は取りましたから好きにさせて頂きますわ」
もちろん、そんな笑顔など黙殺して私は駒として動く事は了承しつつも、好きにさせてもらいます、と通告した。
「……君はやっぱり面白いね」
それってノクシオ殿下の思い通りにならないジャジャ馬だという認識でよろしいのかしら? 私はにっこり笑ってこれも黙殺させて頂きました。
「やっぱりノクシオとケイトリンの会話に俺はついていけないな」
ドナンテル殿下がボヤきます。ああ出会った時にも同じ事を仰っていましたね。
「ドナンテル殿下はノクシオ殿下程腹黒くないですからね。だいぶ直って来たとはいえ、多少ドナンテル殿下は感情が表に出ますが、ノクシオ殿下は綺麗に隠してしまいますからね。そういう所の差は持って生まれた性質でしょうから」
私の指摘にドナンテル殿下が目を丸くする。
「性質? 性格ではなく?」
「性格は環境で決まるそうですわ。教える者。家族構成。友人。など人で変わるそうです。我が家の書庫にあった本に書かれていました。ですが、性質は持って生まれたもの。これはどうにもならないようです。優しい性質だけど、腹黒く生きて行かなければならない環境なら腹黒くなる。でも予期せぬ事態には性格より性質が優先する事もある。らしいですわ」
私もこんな考え方の本がこの世界にある事に驚きましたよ。性格が環境で作られるというのは、日本で聞いた事は有りましたけど、こちらの世界ではそんな考え方なんて浸透していないと思っていましたからね!




