2度目。ーー平穏な日々に終わりが訪れました。・4
すみません。遅れました。
「き、貴様っ」
「そこまでにしてもらいましょうか、コッネリ公爵。彼女は私と兄上の友人だ。彼女が言った通り彼女を貶める事は我等兄弟を貶めるのと同義。非公式の場とはいえ、筆頭の公爵家当主の発言とは思えぬ。またそんなあなたの態度を見るに、あなたの娘二人も同様の態度を取られるのでは……と見受けられる。あなたの娘二人、我等兄弟の筆頭婚約者候補者の座から下りてもらう事を宣言しよう。兄上もそう思われますよね?」
怒り心頭で真っ赤な顔色が黒くなりかけているコッネリ公爵が、私を口汚く罵ろうとしていただろう寸前。ノクシオ殿下が静かに口を開いた。その発言を聞くに、おそらくコッネリ公爵の失態を待っていたのだろう。
「ああ。ノクシオの言う通りだ。我等兄弟が友人だと公的にも認めたケイトリンを貶めるような発言は、我等を侮っているのと同じ。そんな父親に育てられた娘など我等の婚約者候補者である事も見直す必要がありそうだな。陛下及び重鎮達にこの件は既に連絡済みだ」
ノクシオ殿下の発言を受けて、さっきまでコッネリ公爵に怯えていたようなドナンテル殿下が王子然として話す。これにはコッネリ公爵も驚いたように怒りを解いた。
……成る程? つまり怯えは演技だった、と? それもコッネリ公爵が信じてしまうくらい? それは同時に私も信じ込ませる程のもの、でしたわねぇ。騙していたのか、アンタ達! これ私が連れて来られる所から全て殿下方の企みかっ!
「コッネリ公爵。追って沙汰を出す。それまでおとなしく謹慎していろ」
ノクシオ殿下の言葉と共に背後の護衛がコッネリ公爵を追い立てた。……護衛も殿下方の味方か。ということは、当然残った侍女さんも、ね。
「ドナンテル殿下。ノクシオ殿下。私を使いましたね?」
「お前なら別に構わないと思ってな」
私が呆れて指摘すればドナンテル殿下があっさりと肯定し、ノクシオ殿下も笑いながら酷い事をサラリと言う。
「ケイトリンなら私達にも不敬な態度を平気で取るからコッネリ公爵に対しても、思いっきりやらかしてくれるかなぁって。思った通りだったよね!」
「私はあなた達のおもちゃじゃ有りませんが」
溜め息をついて遊ばれた事に一応抗議しておいた。だが二人共ニヤニヤしているだけ。私の反応が相当お気に入りらしい。……全く。
「昼食にしましょうか」
私は疲れから話題を変更する。直ぐさまずっとこの場にいた侍女が昼食の準備を始めた。この侍女は何度も会っているけれど、こちらから礼を述べても向こうから声がかかる事はなかった。ーー今日までは。
「おそれながら」
私がいつものように昼食の準備をしてもらった事に礼を述べたら、初めて彼女が私を見て発言の許可を求めてきた。私が許可を出せば感謝してからその胸の裡を語る。
「私は第一王子殿下及び第二王子殿下、どちらにもお仕えした事があります現在は第二王子殿下筆頭侍女を務める者にございます」
「まぁ。殿下方にお仕えしているのですか」
普通、二人共に仕える事って無いよね。第一王子派と第二王子派と分かれているって聞くし。でもまぁそこは敢えて突っ込まずに先を促しましょう。
「陛下から直々にお二方にお仕えするよう言いつかりまして。お二方はセイスルート嬢にお会いして以降、とても仲良くなられました。それは有り難い事だったのですが、これまで私はあなた様を敵意を持って観察しておりました」
「はい」
それは知ってた。殿下方に近づく女狐的な存在に思われたんだろうって放って置いたけれど。
「殿下方にチヤホヤされることを望んでいるとばかり……。ですが、先程の護衛に対しての冷静な発言といい、我が国筆頭の公爵に真っ向から対峙する姿といい、私の目が曇っていたのだ、と理解しました。今までのご無礼をお許しください」
「それは、あなたの立場では当然の事でしょう? 何もおかしくないのだから謝罪は要らないわ」
私は誤解が解けたならそれで構わない。と笑った。気にしてないし、第一お腹空いたんだもの。そんな些細な事を気にしていられなかった。




