2度目。ーー秘密を打ち明ける相手は選びたい。・1
「本当、ですか……」
私の頷きにボレノー様がまだ信じられないように首を振りながら呟く。まぁ普通の反応だろう。
「ヴィジェスト殿下は、1度目の人生でご自分の婚約者は私だった、と仰いませんでしたか?」
ヴィジェスト殿下の1度目の人生について、私には具体的に説明しなかったボレノー様が驚いたように目を見開いて私を唖然と眺めた。……この人、本当にこれで魑魅魍魎とも言える社交界……つまりは貴族達と渡り合えるようになるのかしら?
「ボレノー様、表情に出過ぎですわ。それでは社交界で生き抜く事も難しくなります。ましてや殿下の側近なんていつ足元を掬われるか分からない立場なのですわよ」
私の指摘に、ボレノー様はハッとされて慌てて貴族令息の仮面を被り直しました。
「失礼しました、セイスルート嬢。本当に2度目なのですね……」
「ええ。でも私、これ以上は話しません。ボレノー様が何を探っていらっしゃるのか不明な事もございますが、学園に入学出来る年齢で有りながらあまりにも稚拙なボレノー様では、これ以上の秘密を打ち明ける気は有りませんもの」
「私が稚拙……⁉︎」
スッパリと切ってしまった私はまだまだ未熟ですが、その私の発言に動揺するボレノー様はやはり稚拙でしょう。ご自分でも動揺されたことに気付いたらしく、肩を落としました。
「ご自分でお気づきになられたようで何よりですわ。私はイルヴィル王太子殿下に負けたのであって、貴方の策略に踊らされたつもりは有りませんの。あの方は1度目の人生でも良く私の内心を当てて来られたので勝てません。あの方に勝てるのは1度目の人生の時からシュレン様だけですわ。シュレン様はいつだってニコニコと微笑みながらイルヴィル様を軽くいなしていらっしゃいましたのよ?」
ふふっと笑い声をつい上げてしまいました。あのお2人の関係を見ているととても微笑ましかったのを思い出します。
「……セイスルート嬢は、ヴィジェスト殿下よりも王太子殿下と婚約者様との方が気安かったのですね」
婚約者であったはずのヴィジェスト殿下との仲よりイルヴィル王太子殿下とシュレン様との仲の方が良かったと言っているようなものの所為か、ボレノー様が不快そうな表情を浮かべました。
「あら。私ヴィジェスト殿下に嫌われていましたもの。愛する方が居るから婚約破棄を申し出られましたのよ? 初対面で」
ですから私はヴィジェスト殿下と距離を縮められなかった原因をサラリと教えて差し上げます。ボレノー様は、また表情を驚愕に変えられました。
ですから。そのように表情に出されては、相手に足元を掬われますわよ。私は溜め息を呑み込んで、困ったように首を傾げました。……それとももしかしてわざと表情に出して此方の出方を窺っていらっしゃるのかしら。それならばかなりの策士ですわね。私もだいぶ口を滑らせた気がしますから。
「これ以上は話しませんわ。だいぶ口を滑らせましたもの。それでは失礼します」
でも本当にこれ以上を話すつもりは有りません。だってこの方を信用出来る程関係性を築いていませんから。ヴィジェスト殿下とイルヴィル王太子殿下が信じている分だけを話しただけ。口を滑らせた事はそう思い込む事にしました。……結構な失態ですわよ、口を滑らせるなんて。
でも反省はしても後悔している暇は有りません。やる事が山積みなのは変わらないのですから。デボラを伴い寮に戻る道すがら、デボラから渡された手紙(というよりメモ書きに近いものですわね)を流し読みしました。




