2度目。ーーカマを掛けられているのか、知っているのか。
前話で
【ひとけのない】という文章がありますが、【人気の無い】だと【にんきのない】に読めてしまうので、敢えて平仮名で書いています。今話も平仮名で書いていますので、ご了承下さい。
「前回とは違う、とは?」
デボラを声が聞こえない範囲で留めておいて正解でした。ひとけのない所まで連れて来られたからには、聞かれたくないのだろうとは思いましたが……。よりによってその話、ですか。
私は一呼吸だけ間を空けて問い質しました。
ヴィジェスト殿下に言わされているだろうボレノー様。カマを掛けられているのか、それとも確信されているのか。私はボレノー様の背後に居るヴィジェスト殿下を見据えるようにボレノー様を真っ直ぐ見ました。
「王太子殿下の仰った反応通り、ですか」
……えっ。ヴィジェスト殿下じゃなくてイルヴィル王太子殿下なの⁉︎ どういうこと? あの方相手だとどういう反応が正しいのか、さっぱり分からないんですけど⁉︎
「王太子殿下の仰った反応通り、とは」
今度はつい深呼吸をしてから掠れた声で鸚鵡返しになってしまいました。あの方相手では、勝てません。
「……私がどのような立場の者かご存知ですね?」
「ヴィジェスト第二王子殿下のご側近ではないのですか?」
「左様にございます。……少々話が長くなりますが宜しいでしょうか」
私は観念して頷いた。
そこからボレノー様は、8歳でヴィジェスト殿下に初めてお会いした事。側近候補に選ばれた事。言葉の端々にヴィジェスト殿下が何かと比べているように話す癖がある事を話しました。
「それでも問う事はしなかったのですが、この国でロズベルという娘が問題を起こしている、と噂になった時にヴィジェスト殿下が異常に反応されまして」
訝しく思ったボレノー様はもう1人の側近(候補から側近に昇格したのは最近らしい)である、ライル・カッタート様と共にヴィジェスト殿下に問いかけたらしい。ヴィジェスト殿下は、イルヴィル王太子殿下になら話す、ということでイルヴィル王太子殿下を交えて秘密を告白した、とのこと。
「それが……ヴィジェスト殿下曰く『2度目のヴィジェスト人生だ』とのことで」
「……そう、ですか」
「イルヴィル王太子殿下を含め、私もライルも信じられなかったのですが、ヴィジェスト殿下があなたも1度目の記憶があるはずだ、と仰せられたので。イルヴィル王太子殿下が、私に接触せよ、と」
それで先程の質問をしてみろ、と仰せられました。
ーー結果、私は見事に引っかかった、と。
「イルヴィル王太子殿下が仰るには、もしあなたにヴィジェスト殿下が仰る1度目の記憶があるというのなら、冷静に意味を問い返して来るだろう、と。その記憶が無いのであれば、何を言い出すのだ、とばかりに微笑んで受け流すだろう、と」
ああ、そういうことですか。ヴィジェスト殿下から1度目の私は、王子妃教育を受けている事を聞いたイルヴィル王太子殿下は、本当に王子妃教育を受けていたならば予想出来る反応をボレノー様に伝えた、と。
確かに王子妃教育の一環で真実を悟られないための訓練は受けましたものね。全てにおいて微笑みで受け流す癖をつけるように言われていたのに、全く予期しない質問だったからついうっかり、冷静になる事を重視して質問に質問で返してしまいましたわ。
イルヴィル王太子殿下は、そんな私の反応すら読んでいた、と。相変わらず恐ろしいお方ですわね。敵に回したくないタイプです。
「それにしても……こんな質問をしておいてなんですが、本当に2度目の人生を……?」
ボレノー様は半信半疑なのでしょう。探るような目で私を見ていました。否定したいのは山々ですが、これほど分かりやすく反応しておいて今更「そんなわけありませんわ」などと言えるはずもない。
嘘をついたら、今後何かあってもこの方の協力も得られないことでしょう。
そう考えれば、渋々ながらも頷くしかありませんわね。
お読みいただきありがとうございました。




