2度目。ーーとうとう入学を果たしました。隣国だけど。・3
前世で言う所のホームルームを終わらせて私は殿下方や皆さんに挨拶をする。やる事は山積み。優先順位を付けねばアレもコレもと手を出して、結局何も終わらなかった……という状況に成りかねない。
先ずは殿下方の現状把握が最優先で、それは済んだ。次は表向き私は顔を知らない事になっているロズベル様(仮)を探す事だったけれど、それより先にクルスを問い詰めねばならなくなりました。
軟禁生活を送っていた殿下方が学園には出てくる。
この情報を上げて来なかっただけ。
たかが情報一つと言うならば、クルスもガリアもアレジも要らない。
寮の部屋で言い訳くらいは聞いてやりましょうか。
そう思っていたのですが。
帰り支度をしていた私にそっとデボラから手紙が差し出されました。上位貴族には侍従若しくは侍女を1人だけ連れて来る事が許されていましたので、当然私の専属侍女であるデボラをこちらに連れて来ました。デボラの意思も確認した上で、ですが。
渡された手紙をこの場で読むわけにはいかないから、ひとけのない所で読むしかありません。寮の部屋で読もう、と思ったところで声をかけられました。
「セイスルート嬢」
ボレノー様でした。
「何か?」
「少々話があるのだが時間をもらえないだろうか」
「今、でございますか?」
「ああ」
帰り支度を済ませて寮へ戻ろうとしていたこのタイミングで、ですか。
チラリとボレノー様を見れば表情は何も浮かんでいませんが、目が冷めていたものから懇願に変わっています。演技だとしても了承したくなる訴えぶりです。乗ってみるべきでしょうね。
ちなみにドナンテル殿下もノクシオ殿下も迎えの護衛が来るまでクラスから動けないそうです。なので今も私とボレノー様のやり取りをニヤニヤと笑って見ていました。
ーー特にドナンテル殿下が。
楽しそうですわねぇ。まぁいいですが。
「どこでお話を?」
私が尋ねれば安堵したような溜め息を微かに溢されました。あらあら。貴族として相手に感情が読まれない訓練を積み重ねているはずなのに、そのあからさまな態度は良くないですわ。何かある、と白状しているようなものでしてよ?
もちろんそれを指摘するつもりはさらさら無い私ですけど。
デボラに視線を向ければ心得たように頷いてくれる。きちんと共に来てくれるようだ。ボレノー様が私を促すので黙って後をついていきますと、それなりに人目がある学園内の庭園に来ました。人目はあれど聞かれたくない話をするには打って付けですわね。
誰かが近づいてくれば直ぐに分かりますもの。……それで? 此処に連れて来ておいて未だに話そうか話すまいか悩んでいるボレノー様? 話す気がないなら帰って宜しいですか?
「ボレノー様?」
全く切り出さない相手に焦れた私は、名前を呼びかけました。ハッとされたボレノー様は私をジッと見据えます。一体何を言い出すのかしらね。
「セイスルート嬢。君は……『前回とは違うね』」
ボレノー様はご自分の口から発したのに、とても違和感有る言葉のように首を捻っています。つまり、言わされた、ということでしょう。当然それは、ヴィジェスト殿下に他なりませんわね。




