2度目。ーー留学候補の学園と姉の本質を見極める。・6
影達に調べてもらうに辺り私は3人を集めて先ず尋ねました。
「3人の中で実力があるのは誰か」と。クルス・ガリア・アレジの3人を等分に見て返事を待てばガリアとアレジが「クルス」だと答えました。その答えを受けて私は3人を信頼する事にしました。
これが3人がそれぞれ「自分」だとか言い出したら私は信頼せずに別の影をお父様に貸してもらったでしょう。たとえ子どもと言えど嘘をつかないか知りたかったのです。調査の間は私を主人だと思ってもらわなくてはいけないのですから。
お父様から先にクルスが1番腕が立つ事を聞いていましたから嘘をつかずにいてくれてホッとしました。
「3人が嘘をつかず安堵しました。ではクルスにお願いがあります」
「はっ」
「あはたには隣国の学園を調査するのと同時に、あなたに危険が及ばぬ範囲でドナンテル第一王子殿下及びノクシオ第二王子殿下を調べて欲しいのです」
クルスは頭を下げ膝をついて私の命を聞いていますが、殿下方を調べよ、と言えば動揺したのでしょう。僅かに肩が動きました。ほんの僅かですが前回の記憶があるからか私には分かりました。
「恐れながら何故、とお伺い致しましても?」
「お前は仮とは言え現主人に許可なく発言するのか」
クルスが恐れながらと言いつつ何の許可も出さずに問いかけて来たので態と冷たく言い放ちます。途端に3人が改めて姿勢を正しました。空気が変わりましたから分かります。
「失礼いたしました」
「冗談です。話そうと思っていましたから気にせずに。ガリアとアレジも心して聞きなさい」
先のやり取りで私を“主人の娘”という価値から仮とはいえ“現主人”という価値へと意識が傾いたかどうかは分かりかねますが、まぁ私をただの“主人の娘”というだけの存在ではない、と思ってもらえれば良しとしましょう。
先ずは普通の令嬢だと思われていては、これから調べてもらう事がおざなりになってしまうのはこちらとしては不本意なのですから。
「「「はっ」」」
あら良い返事。一応認識は改めたかしら。
「知っての通り、私は不本意ながら殿下方の友人の座を頂いていますが、元は私とお姉様が殿下方の婚約者候補だった事は知っていますね?」
「「「は」」」
「ですが。私が殿下方の婚約者候補を辞退したというのに、不思議な事に全くと言って良い程殿下方の婚約者探しの情報を耳にしません。……仮にも私は恐れ多くも殿下方の友人です。友人とはいえ話さない内容もあるでしょうが、元々の私の立場もありますから、我が国のヴィジェスト第二王子殿下のようにお茶会を開催している、くらいの話は手紙でも書いてくると思うのですが、皆無です」
一旦そこで言葉を切れば3人が内容を咀嚼している雰囲気を感じ取れます。
「分かりますか? 不自然な程殿下方の婚約者に関する話がないのです」
「宜しいでしょうか」
「良い」
「もしやケイトリン様は隣国に不穏有りだ、とお考えか?」
クルスの問いかけに私は頷く。
「あまりにも婚約者に関する話が聞こえてこない。私にすら一言もない。私が辞退している以上、誠意として見合いはしている、くらいの一言があってもおかしくない。それが一切無いという事は王家そのものか、その周囲に何やら情報を漏らさないよう考えている者がいる、と見るべきでしょう。
それは隣国に影を放っているウチと我が国の王家も知らないのではないか、と考えています」
「何故でしょうか」
「殿下方の婚約者探しが重要案件ならばお父様に報告しているでしょうし、それならばお父様が私に一言もないのはおかしいでしょう。お父様は家族思いの方。私が気にしている事は解っているのに何も話してこない。ということは?」
「情報が何もない」
私の話にクルスが少しだけ声音に、まさか・信じられないとでも言うような響きを含ませました。
「不自然だと思いませんか」
「はい。ケイトリン様に指摘を受けるまで全く考えてもいませんでした。おそらく主人の命を受けた同胞達も気付いていないでしょう」
「まぁ殿下方の婚約者探しなんて重要ではないですからね。寧ろお茶会すら開催されていないとすれば余計でしょう。見合いくらいしているならば相手の家を調べるでしょうが、見合いもしていないなら常に王家の動向を探る影達は放置する案件でしょうからね。
ーーそれを踏まえた上で問います。クルス、隣国の調査に向かってくれますか」
それに対してクルスは“否”とは言わなかったので学園の調査と同時並行で頼んでおきました。その結果が今日わかるのです。
杞憂なら良いのですが。




