2度目。ーー留学候補の学園と姉の本質を見極める。・3
お兄様とお姉様が帰って参りました。お兄様は去年入学して長期休暇で帰って来た時以上に大人っぽくなっていました。元々お父様に似た顔のお兄様は年齢より老けて……いえ年上に見られがちなのですが、学園生活で弟妹がいる長男の言動を発揮しているのか益々落ち着いているようでした。それが今年は実際にお姉様が入学されたことで妹の様子を見守る事が多くなり余計に精神年齢が実年齢を上回っているように思えます。
……お兄様には苦労をおかけしますわ。
でも私は知っています。そんなお兄様ですが婚約者であるミレイの前だとお顔が弛むことを。……お兄様の婚約者・ミレイはお母様の弟の娘。つまり母方の従姉妹にあたります。叔父様はお母様がお父様と結婚されるより先にご結婚されたのでミレイは、お兄様の1歳上です。現在学園で殆ど毎日会っていらっしゃるようで(お兄様やミレイから来る手紙でお昼は毎日一緒のようです)惚気の手紙が時々届きます。まぁお兄様とミレイが仲良しなのは良いことです。
ちなみにお互い一目惚れですので、お兄様とミレイの婚約はその日のうちに決まったそうです。そして未だにお互いを慈しんで想い合っている。こんなに素晴らしい事は有りませんわね。私がそんな事を思いながらお兄様を見ていれば、お兄様は私の視線に気付かれたのでしょう。少しだけ口元を緩められた後、お姉様に視線を向けた途端に眉間の皺が増えました。……半年ではお姉様の様子は変わらないということでしょうか。
取り敢えず玄関先で再会の喜びはここまでにしてお兄様とお姉様には一旦部屋で休むようにお父様は告げるとお姉様付きの侍女を呼ばれました。報告を聞くためでしょう。うーん。それにしてもお兄様の様子を見るにお姉様は変わっておられない様ですが……いえ、勝手な憶測は良くないですわね。お父様が報告を聞いていらっしゃるはずです。お父様の判断をお待ちしましょう。
やがてお父様がお母様と私を呼ばれました。
「シュシュ。ケイト」
お父様の眉間の皺が増えていらっしゃるようでお母様が心配されています。お父様はそんなお母様に苦笑して(苦笑なんですけど怖さが増してしまうのはお父様のお顔の所為でしょうか)溜め息をつかれた後で結論から仰いました。
「半年間の学園生活は残念ながらキャスベルを変える事は不可能だったようだ」
……まぁ甘やかされて育ったのですから半年で変わるわけないですわよね。
「旦那様……」
「ケイト」
更に心配そうなお母様の手を軽く握るとお父様は私に視線を向けました。
「はい」
「シュシュにお前の選択を話す」
「つまり、お姉様は私のことを疎んでいるということで宜しいでしょうか」
お母様は私とお父様を交互に見て何かを悟ったようです。
「そうだ。自分はシュシュに任せきりでキャスの教育に関わらなかった。それが自分の罪だな。キャスはどうやらケイトがシュシュに逆らい自分を味方に付けた。だから学園などに入学させられた。……そう考えたようだ。更にはキャスは病弱であることを学園生活で事あるごとに話して周囲に我儘を発揮しているようだ」
「……具体的には」
まぁお姉様が私を疎むだろう事は予想していましたが、我儘を発揮って……。
「病弱で勉強が出来なかったからこのような勉強は出来ない。だから課題を一緒にやろうと周囲を巻き込んで答えの丸写し、とか」
……それって試験中のカンニングと同じですわね。一応入学試験があったはずで学力が足りなかったら入学出来ないのですからお姉様は本来勉強が出来ないわけではないはずなのですが。
「キャスがそんなことを……」
お母様が顔色を青ざめさせています。
「同時に少しずつケイトという妹が病弱な自分をこんな目に遭わせたと言っているらしい。お前が入学する2年後にはそれなりに浸透しそうだ」
……やはり他国に留学する方が良さそうですわね。針の筵の学園生活は遠慮したいですわ。
「キャスがそんな事を……。私が育て方を間違えたのですね」
「まだ育てている最中だ。終わっていない。これから変わってもらえるよう自分も積極的に関わる。だが今のキャスはそんな状態だ。ケイトからキャスが変わらない場合、他国に留学したいとキャスが入学する前に打診があった。期間は1年だったが半年経った今の状況は悪化していると見るべきだろう。ケイトを他国へ留学させる。一応王家に報告し許可を貰わねばならない。直ぐに動く」
「お父様、ですがまだあと半年ございます」
「ケイトを貶め始めているのに残り半年で改善する、と見られない。まぁキャスが言うケイトの悪評はルベイオが抑えているが、それもいつまで持つか。ルベイオはケイトに騙されて味方していると言い出しているらしいからな」
私は呆れました。まさかお兄様に対してお兄様の能力を疑うような発言をするとは……。これではお兄様が偏った物の見方をする愚か者と言っているようなものです。どうしてそこに気付いて下さらないのでしょう。




